なんで先生が死んでるんですか……?   作:ねをんゆう

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08.砂漠を捌く

 アビドス砂漠は非常に広大であり、それなりに大きな施設と言えど探すには相応の労力が必要になる。そもそも既に誰も入ろうとしない土地であり、そこにはレアアースも資源も何もないと分かっているのだから、元よりそんな場所に施設など作る筈もないのだが。そんな作る筈もないものが有ると言われてしまってはどうしようもない。

 

 

『とは言え、流石にこのルートは危険なのでは。高所に登りたいと言うのは分かりますが、それは同様に見つかる可能性が高くなるということで……』

 

「そうですね。まあ今回の目的は潜入ではありませんので、遠くからでも施設の外観が分かれば構いません」

 

「……?それなら別にドローンを飛ばしていればいいんじゃないの?」

 

「本来ならばそうなのですが、1つ確認をしておきたいことがありますので」

 

「確認〜?」

 

「とにかく、それは後ほど」

 

 

 今日の同行者はドローン越しのハナコと、便利屋68の面々。ただし今回はカヨコだけは銀行強盗の手伝いのために、ここを離れている。

 目的は敵施設の偵察と情報収集、今はそれだけ。それ以上を求めようとするには戦力も足りなければ、前提も足りていない。叩き潰せば勝てる訳ではないのだから。勝つためには相応の積み重ねというものが必要だ。

 

 

『……おや、400mほど前方に見張りが3人いますね。どうされます?』

 

「え〜?爆発しちゃう?しちゃう?」

 

「ぶ、ぶっ飛ばしますか!?」

 

「だ、だめよ。そんなことしたら目立っちゃうじゃない」

 

「……とは言え、ここには狙撃銃は3つもありませんので。なるべくこちらの目撃情報さえも相手には与えたくないのですが」

 

『う〜ん、地形的にも接近するのは難しそうですねぇ。もう少し起伏があるといいのですが……』

 

 

 こちらの武装はショットガンが2丁、スナイパーライフルが1丁、マシンガンが1丁。爆発物もあるしドローンもあるが、しかしこれだけの装備で平地の相手を通信させることなく無力化させるのは難しいだろう。

 ハナコの言う通り起伏があれば近付いて殴り付けるという方法も取れるのだが、やはり簡単にはいかない。

 

 

「仕方ありません、迂回しましょう」

 

『いいんですか?恐らく見張りは他に数箇所あるでしょうし、あまり意味がないのでは』

 

「周辺地域と見張りの位置の把握も今回の目的の1つです。多少時間はかかってしまいますが、今回はあくまで下見ですので」

 

「はあ、長丁場になりそうね……」

 

「ムツキちゃんは別にいいけどー?遠足みたいで面白いし〜♪」

 

「ええ、ご存知の通り昼食も用意していますので。適度に休息を取りつつ進みましょう」

 

「やった〜♪」

 

「わ、わ、私もいいんですか!?」

 

「もちろんです、栄養補給は重要ですから」

 

「……」

 

 

 今日ここに来る途中で大量に色々と買い込んでいたのは見たが、どうやらそれは昼食のためだったらしい。いつの間にかムツキとも打ち解けつつ、ハルカの扱いも理解しているようで、アルとしては不思議な気持ちであった。

 背負っている巨大な鞄から2人にそれぞれ飴を渡すと、アルの方にも水を手渡して来て、そこにはやはり一切の警戒心がない。……仮にも昨日、正面からぶつかり合って、爆発物で怪我までさせた(らしい)というのに。

 

 

『……不思議な方ですよね、彼女』

 

「っ……ま、まあそうね。不思議って言うか、よく分からないわ。気絶させられてたから覚えてはいないのだけど、昨日のあの身体中の火傷、私たちのせいなんでしょ?」

 

『まあ、投げつけられた爆弾に対して、防御行動を一切取らなかったミアさんの自業自得でもあるのですが……』

 

「えぇ……」

 

『とは言え、本人はそれほど気にしていないようです。見ての通り、一晩で大半が治ってしまっていますし』

 

「ヒナみたいな回復力ね……アビドスの三年生もそうだったけど」

 

『それでも、彼女達ほど無敵ではありません』

 

「……」

 

『昨日の戦闘の様子を見ても、彼女の戦闘力はアルさん抜きの便利屋68に劣ります。遠距離戦闘を苦手とし、近距離戦闘であってもミネさんと同等以下程度……』

 

 

 実際、昨日もあのまま戦闘を続けていれば攻略されていたのは彼女の方だったろう。確かに強くはあるけれど、そこまで楽観出来るほどのものではなく、過信出来るものでもない。そしてそれを、きっと彼女自身が誰よりも分かっている。だからこそ、便利屋68への協力を急いだのではないだろうか。ハナコはそう考える。

 

 

『色々と不思議には思いはするでしょうけれど、どうか彼女のことを助けてあげてください。私はこうして支援程度しか出来ませんので』

 

「……まあ、貰った報酬程度の働きはするわ。それが便利屋としての責務だもの」

 

『ふふ、それはなによりです。私も安心して水着を脱げるというものですね♡』

 

「そ、そうね。安心して水着を……………水着?」

 

『さてミアさ〜ん?一先ず敵の位置の確認のために探索ルートを作ってみたんですけど、見てもらえますか〜?』

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!水着ってなに!?っていうか今『脱ぐ』って言ってなかった!?アンタどんな格好で支援してるのよ!?ねえ!?」

 

 

 校内で水着を着るのがダメならば、家の中で着れば良いじゃない。なんなら家の中ならどんな格好をしていても非難される謂れはないじゃない。

 それが新たに用意したミアに対するハナコの言い訳……否、イタズラの一つである。

 

 

 

 

 

 

 なお、それから3時間後。

 

 目的のものは見つかりました。

 

 

「おおー!でっかいねー!なんかヤバそうだねー!」

 

「こ、これはまた……」

 

「……ハナコさん」

 

『ええ、分かっていますよ。『カイザーPMC』、名前の通りカイザー・コーポレーションの傘下にある民間軍事会社です。アルさんからの情報は間違っていなかったようですね。まさかこんなところに拠点を持っていたなんて……』

 

「……ねえ、これを相手にするの?本当に?戦車とか兵士とか、凄い数なんだけど」

 

『恐らく各地から卒業できなかったり退学させられた生徒達も集めているのでしょう。……とは言え、だとしても、このアビドスにここまで戦力を集める意図が分からないのですが。他に良さそうな場所くらい、カイザーの力を使えば幾らでも用意出来そうなものなのに』

 

 

 砂漠の真ん中に、最早隠れようともしていないのか、PMCというロゴを貼り付けて堂々と建てられた巨大な施設。多くの戦車とヘリが存在し、こうして見るだけでも顔が引き攣りそうになるほど多く居る兵士達。

 カイザーPMC、カイザーの運営する民間軍事会社。言ってしまえばカイザー・コーポレーションの私兵。元よりアルから依頼主のことを聞いていたので、その関連施設があるとは考えていたが……まさかこんな、本拠地とも言えるほど巨大な施設があるとは思いもしていなかった。というか想像出来る筈もない。

 

 

「ハナコさん、必要なデータは集まりましたか?」

 

『外観から得られそうな情報は、一先ず。可能であれば内部情報へのアクセスも試みたいですが、それは流石に欲張りですね。周辺の地形データも取れましたので、十分でしょう』

 

「わかりました、では帰りましょう」

 

「……えぇ!?もう帰るの!?」

 

「ええ、目的は果たしました」

 

「え〜、ムツキちゃんもっと暴れた〜い。ちょっとだけイタズラしていこうよ〜」

 

「イ、イタズラはさておきだけど……でも、もう少し無茶をしてもいいんじゃない?何もそこまで警戒しなくても……」

 

『……』

 

 

 確かにアルの言う通り、ここまで戦闘は一度もなかった。淡々とハナコの指示通りに砂漠の中を歩き続け、地形の情報を収集し、無茶という無茶もしていない。得られた情報もこれだけで、このままではなんとも消化不良というか、物足りない。

 最後に少しくらい無茶をして、捕虜の1人でも持ち帰ってはどうかと言いたくもなる。なんならこのまま帰ってしまったら、アビドスの連中に文句を言われてしまうのではないかと思ってしまうくらいだ。慎重さは重要だが、慎重過ぎては何も得られない訳で……

 

 

「……まあ仰る通り、少し物足りない収穫ではあるのですが。ここを強行出来ない理由が1つありまして」

 

『理由、ですか……?』

 

「ムツキさんは気付かれているようでしたが、言わない方が良い理由などありますか?」

 

「え?」

 

「……あはっ、やっぱり気付いてたんだ。視線が同じ方向に向いてたもんねー」

 

「???」

 

「な、何の話よ。視線?」

 

 

 

「恐らくですが、アビドスへの帰り道。ゲヘナの『風紀委員会』から襲撃を受けることになるかと思います」

 

 

 

「「『!?!?』」」」

 

 

 

「アルちゃん気付かなかった〜?砂漠歩いてる時にキラッとしたから見てみたら、見覚えのある黒帽被った子がこっち覗いてたんだよね〜。スコープ越しに」

 

 

「う、嘘……全然気付かなった……」

 

 

 イタズラに笑うムツキ、反面こうして無表情のまま淡々と事実を告げるミア。流石にめざといというか、視点の違いとでも言うのだろうか。

 ただそれを知っていて更に無茶をさせようとしていたムツキのことを思い返すと、さしものアルも苦笑いさえも出来ないのだが。

 

 

「うちの諜報部なら良かったんだけどね〜。あれは間違いなく風紀委員会だったし、風紀委員からしてもカイザーの動向は気になるんじゃないかなぁ。ほら、カイザー系列のお店ってゲヘナにも結構あるから」

 

「な、なるほど……確かにうちの風紀なら、カイザーの軍事基地があると聞いたら黙ってないかも……」

 

『ですが、それは無断で自治区を跨いで来たということですよね?それはそれで問題では……』

 

「うーん、その辺りはカヨコに聞いた方が良さそうね……それなりの理由がない限りヒナがルール違反をするイメージはあんまりないんだけど」

 

「まあ、どちらにせよこちらの動向も知られているでしょう。流石にこの付近で事を起こすことはないと思いますが、仮にもゲヘナの指名手配犯とトリニティの生徒が共に行動しているのです。そんなものを見つけてしまえば、彼等も黙ってはいないでしょう」

 

『素直に話を聞いて貰えると良いのですが……』

 

「あはは、それは無理じゃない?諦めてドンパチやろーよー♪」

 

「はぁ……ヒナが居ませんように、ヒナが居ませんように……!!」

 

「ア、アルさま!その時は私がぶっ飛ばして……!」

 

「やらなくていいから!逃げる一択だから!!」

 

 

 そう言いつつ、戦闘の用意をし始めるアル達は、やはり経験のある便利屋である。風紀委員会とぶつかり合ったことだって何度もある。悲しいことに。辛いことに。

 もちろんその風紀委員長とやりあって、ボコボコにされたことだって……

 

 

 

 

『それで……本当に戦うんですか?』

 

「はい?」

 

 

 便利屋から少し離れた位置で、ハナコはそれとなく確認のために声をかける。つまりはまあ、彼等には聞かせられないような話をするために。悪巧み、とも言うべきだろう。

 

 

『ゲヘナの風紀委員会とです。エデン条約はナギサさんが立て直しをしているところです。ゲヘナ側でそれを主導しているのが風紀委員長"空崎ヒナ"さんとも言われています。この接触、僅かながらでもそちらに影響が出て来る可能性があります』

 

「むしろ風紀委員長が出て来るのであれば、その方が好ましいです」

 

『へ?』

 

「彼女は話せば分かる人間だと聞いていますので。反面、行政官は癇癪持ちで便利屋68に妙な執着を持っているのだとか。この場合、対面して厄介なのは後者が率いている場合です。そしてそうなると、強行突破すべきとも考えています」

 

『…………あの、いつも思うのですが、ミアさんのその妙な知識は一体どこから?』

 

「全て友人から聞いたものです。裏付けはありません」

 

『はあ……』

 

 

 とは言え、まあ一部はハナコもそれとなく聞いたことのある話と一致している部分もある。そう考えるとそれなりに信憑性はあるのかもしれないが、やはりあまり過信すべきではないのだろう。

 

 

『……アビドス高等学校に予備としてあったドローンをアヤネさんにお願いして起動させて貰いました。ミアさんとムツキさんが見たのが斥候だった場合、本隊を自治区外から呼び寄せている可能性が高いので。周辺を飛行させて隊を見つけます』

 

「感謝します」

 

『いえ、情けないことに私には気付けませんでしたので。申し訳ないです』

 

「互いに支えあってこそでしょう。今はとにかく戦闘に適した地形と、それに合う戦術をお願いします。敵に気取られることのないように、私が誘導しますので」

 

『分かりました。アルさんには上手く言っておいて下さい。彼女は余計な情報を与えると態度に出てしまうかもしれませんので』

 

「仮にも便利屋の社長がそのようなことはないと思いたいのですが……分かりました。忠告ありがたく頂戴します」

 

『……!』

 

 

 映像越し。

 

 

 けれど目と目が合う。

 

 

 初めて見る、柔らかな笑み。

 

 

『……ふふ。私達、良いペアになれてきましたね?』

 

「良いペア……なるほど、それは確かに好ましい言葉です。私にはよく分かりませんが、そうなれているのなら嬉しく思います」

 

『相変わらず硬いですねぇ』

 

「精進します」

 

 

 言葉を交わし、自分を預ける。

 短くも長い時間を共にして、心を開き始めたのは……相手の方なのか、はたまた自分の方なのか。

 

 どちらにせよ重要なのは最初に彼女の言った通りに『時間』であったのだろうし、命を預け、命を預かるという『経験』だったに違いない。そしてその積み重ねこそが絆を紡いでいくものなのではないかと、"きっと彼女ならそう言うだろう"。

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