士道くんが淫行教師と謗られながら精霊をデレさせる話   作:kish

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日が変わった頃にこんばんは。

最近デジモンやってるので時間が取れません。
なのでいつもよりちょっと短いです。


焦天焦土

 

 

 

 無辺の闇の中――影の中の世界に、浮かび上がるように人の姿が二つ。

 片方は地面に這いつくばって(影の中に地面とはおかしな話だが、とにかく足場のようなものはあるようだ)、もう片方はそれを冷ややかに見下ろしていた。

 息も絶え絶えに地面に両手をつく男は穂村士道……公的な立場は高校の教師であり、裏の立場は秘密組織である〈ラタトスク機関〉のエージェントである。

 秘密組織とか言うと途端に響きが胡乱になるのだが、事実なので仕方がない。

 その任務内容も「精霊とデートしてデレさせる」という、言葉にすると何とも言えない響きなのだが、今この場にいるもう一人こそがその対象なのだ。

 士道を冷ややかに見下ろすのは時崎狂三……影のように黒い髪を左右で長さの違うアシンメトリーなツインテールにし、真珠のように白い肌に赤と黒の霊装を纏う、最悪や悪夢(ナイトメア)などと呼ばれる精霊の少女である。

 そもそも精霊の正式名称は特殊災害指定生命体といい、早い話が天災と同一視されている存在であり、中でも狂三はその不吉な呼び名通りとりわけ危険視されている個体だ。

 精霊は見た目の上では人間と大きく変わらないのだが、明確に違う点を上げるとするなら、彼女の場合はその双眸だろう。

 赤と金の虹彩異色症(ヘテロクロミア)――特に左の金の瞳の中で動く時計は、少なくとも人間ではありえない。

 

「それで、気は済みましたかね…………?」

「ええ、聖書の一節分程度には」

 

 お伺いを立てるように、士道は地面に伏したまま尋ねた。

 先程はちょっとしたアクシデントがあり、ちょっとした命の危機があったのだ。

 ちなみに聖書とは、旧約と新約合わせて二〇〇〇ページを越えたりもする。

 章立てで言えば一〇〇〇以上あり、節とは章を構成する一部分である。

 果たして一節とは、聖書全体の何%に当たるのか。

 ぶっちゃけるとあまり気は済んでなさそうだが、追求してまた撃たれては堪らない。

 何故聖書を引き合いに出したのかはともかく、士道は口をつぐむことにした。

 狂三は霊装の消えた左腕部分に目を細め、軽くため息を吐いた。

 

「まあ、士道さんの愚かさに対しては憐れみを覚えるところでしたし? それで情を抱いていると判断されたのかもしれませんわね」

「…………」

「なにか?」

「何も言ってませんよねぇっ!?」

 

 発砲音に先んじて、士道は闇の中を転がりながら叫んだ。

 その後を追うようにバスバスと銃弾が突き刺さる。

 銃撃が止んだのは、都合十回ほど回転した後だった。

 最悪の精霊が武器として使用する短銃は古式のものであり、回転式(リボルバー)自動装填式(オートマチック)と違って連射は効かないはずだ。

 それがこうも連発してくるあたり、やはり精霊に人間の常識は通用しないのだろう。

 最早発砲されることに半ば慣れを覚えてきた士道だが、今回は何も言っていなければ目を合わせてすらいない。

 なので目は口ほどに物を言うという諺も適応されず……それとも、何か言いたげな雰囲気が漏れていたとでもいうのか。

 とはいえ相手が本気で殺しに来てはいないのも、これまでの経験からなんとなくわかる。

 しかし早口でまくし立てるような狂三に対して抱いた、ツンデレっぽいなんて素直な感想を口に出していたら、今頃どうなっていたのかは考えたくもない。

 口は災いの元とは、全く以てその通りなのだ。

 

「……それでその、もしよろしければ外に出していただきたいのですが」

「あらあら、いやですわ士道さんったら。わたくしたちの間柄で敬語だなんて」

 

 それは散々銃で脅してきた者が言って良い台詞ではない。

 そう思いつつも口には出さず、グッと飲み込む。

 今も外は大変なことになっているはずなのだ。

 余計なことを言って時間を取られるわけにはいかない。

 ついさっきまで、余計なことで時間を取られていたのには気にしないことにした。

 人生に後悔や反省はつきものだが、振り返ってもどうしようもないこともあるのだ。

 むしろ振り返ったら、相手の息遣いや香り、唇の感触なども蘇ってしまう。

 その時は銃口を向けられたりであまり気にする余裕はなかったのだが、一度でも気にしだしたら雑念に囚われかねない。

 そしてそれが相手に察知されようものなら、また銃弾と踊る羽目になってしまう。

 

「先程も言いましたけれど、命の保証はありませんのよ?」

 

 この影の中の空間から外に出たいという士道に対して、狂三はまるで心配するかのような言葉を発した。

 とはいえ彼女の目的を考えれば、それが「勝手に死なれては困る」という意味なのはわかる。

 士道には「キスをした精霊の霊力を封印する」という、何だか訳の分からない能力がある。

 能力の由来や理由はともかく、これまでに十香や七罪と唇を重ね、結果として己の身に二人分の霊力を蓄えてきた。

 狂三は元々、その霊力を狙ってこの街にやって来たのだ。

 士道が命を散らして、それが失われるという事態を認めるわけにはいかないのだろう。

 それは本人も実際に言っていたことだ。

 しかしながら、狂三の霊力の一部は今、恐らく士道の中に封印されている。

 何故そうなったのかと問われると、悪ふざけが過ぎたとしか言いようがないのだが、それはまた別の事実を示している。

 士道の能力は、単純にキスをするだけでは発動しない。

 そこには相手からの好感度という条件が存在し、それが一定以上になると封印が発動するのだ。

 だからこそ、士道自身が精霊とデートしてデレさせる必要がある。

 ところが、今日新たに二人の精霊と唇を重ねてわかったのは、どうも完全封印という形以外でも能力は発動する、ということだ。

 とはいえ全く好感度がない状態でそうなるとは思えないので、封印可能域までのグレーゾーンでキスをするとそうなるのだろう。

 先程の狂三とのキスは事故でしかないが、一部とはいえ封印が発動したのは事実。

 つまり、ほんの欠片かもしれないが、そこには士道に対する好感があるのは間違いない。

 となると、「もしかすると純粋に心配してくれているのでは?」という邪推が成り立つのだ。

 勿論、本人は断固として否定するだろうが……そんなことを考えていたら、最悪の精霊がますますツンデレっぽく見えてきてしまう。

 それでなくとも今日一日接する中で、士道は度々彼女の優しさを垣間見ている。

 何となく生暖かい気分になって頬を緩めるが、顔をかすめた銃弾に表情筋をすぐに引き締める。

 

「長生きのコツは、余計なことは見ざる、聞かざる、言わざる、思わざる……ですのよ?」

 

 ニッコリと笑ったまま、狂三は三猿に新たなメンバーを加入させていた。

 ちなみに中国などでは「せざる」を加えた四猿となるらしいが、日本ではあくまで三匹である。

 それにしても、それぞれ目、耳、口を塞ぐ三猿に対して、「思わざる」とは一体どんなポーズを取っているのだろうか。

 もしかしたら最近の士道のように、悩ましげに頭を抱えているのかもしれない。

 そう考えると親近感が湧かなくもないが、頭の中のことにまで口を出されては堪らない。

 思想の自由というのは、日本国憲法でもきちんと保証されているのだ。

 しかし異を唱えようにも銃を突き付けられては黙るしかない。

 泣く子と地頭には勝てないと言うが、士道の場合は姉と姪っ子にも勝てず、当然の如く丸腰のままでは銃にも勝てないのだ。

 一応、顕現装置という手段もあるが、そもそもここは彼女の支配する影の中だ。

 その気になれば先程のように、あっさりと身動きを封じられてそれでおしまいである。

 特に拘束されていない今の状況は、いつでもそう出来るという余裕の表れなのかもしれない。

 狂三は士道と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 やはりと言うべきか、距離は若干遠い。

 先程の事故を気にしているのだろう。

 

「それともやはり、今この場で士道さんを頂いてしまいましょうか」

「だからさ、お前はそんなことしないだろ?」

「根拠をお聞きしても?」

「さっきも言った通り、それで済むならさっさとそうしてるはずだ」

「状況や気分が変わった、という可能性もありますのよ?」

「まあ、そういうのもあるかもな。けど、俺はお前を信じることにした。それだけだよ」

 

 確かに時崎狂三は最悪と呼ばれるに足るだけの非道を重ねてきた。

 それは純然たる事実だし、本人も否定しないだろう。

 それでも、士道はその心の奥底に見え隠れする優しさを信じたいと思った。

 いや、信じたいのではなく、信じるのだ。

 

「だってさ、自分を信じてくれないやつに、心を開きたくなんかないだろ?」

「…………また、あなたという人は」

「また今度、次は俺と()()でデートしようぜ」

「ええ、やはり士道さんは淫行教師ですのね」

「ぐふっ」

 

 精神的ダメージに、士道はその場に崩れ落ちた。

 涙は流れない……しかし、心の汗が目の端に滲む。

 視界が滲んでいるせいか、そっぽを向いた最悪の精霊の横顔に差し込んだ、薄赤い色には気づかなかった。

 

「どうしても外に出たいと、そうおっしゃいますのね?」

「外では琴里が戦っているはずだ。放っておくことは出来ない」

「それでしたら士道さんに一つ、現実というものをレクチャーして差し上げますわ」

 

 立ち上がった狂三が踵を軽く打ち付けると、士道の右脚に闇から形をとった影が絡みつく。

 言う事を聞かないのなら、もう拘束した方が手っ取り早いと判断されてしまったのだろうか。

 たかが人間の力では振りほどくことは出来ず、やがて右脚は影に覆いつくされてしまった。

 

「く、狂三さん? これは一体」

「レクチャーと申し上げた通りですわ。じっとしていてくださいまし――――かなり痛いですわよ?」

 

 次の瞬間、士道の右脚はぐしゃり、とぺしゃんこになった。

 

「ぎっ――――あああああああああっ!!」

 

 予想外の激痛に、堪らず叫ぶ。

 汗が噴き出し、視界は明滅として、あまりの痛みに意識が飛んでしまいそうだった。

 比喩でもなんでもなく、士道の右脚は物理的に潰されたのだ。

 影の隙間から流れる血液で、闇の中に赤い水溜まりが出来上がる。

 その中で藻掻きながら、士道は狂三に対して視線を向けた。

 そこに含まれるものは様々だったが、一番大きいのは「何故」という疑問と、「どうして」という困惑だろう。

 それに応じるように、狂三は口を開いた。

 

「先程は随分と無茶をされたようですけれど、今の士道さんにはこの通り、炎の精霊の加護はありませんわ。理解できまして?」

「――っ」

 

 指摘されてようやくそんな当たり前に思い至り、士道は愕然とした。

 何故という疑問は置いておいて、士道の中に炎の精霊の力があったのは事実だ。

 そしてその力がもたらした再生能力によって、白い精霊――〈デイドリーム〉との対峙を辛くも切り抜けたのだ。

 いや、これまでも……例えば十香や七罪との一件でも、ずっとその力に助けられてきたのかもしれない。

 しかし、今はこれだけの怪我を負ったというのに、先程のように炎が噴き出す気配もない。

 それは炎の精霊の力を、外で琴里が振るっているためか。

 つまり、今の士道は普通に死んでしまうのだ。

 レクチャーとは、それを身を以て教えるという意味だったのだろう。

 それにしても、と士道は眩む視界の中で荒い息を吐く。

 

「――ちょっとこれ、授業料高すぎ、じゃないか…………?」

「それならばご安心を……〈刻々帝(ザフキエル)〉――【四の弾(ダレット)】」

 

 途切れ途切れの抗議に返されたのは、影の弾丸だった。

 しかしそれは体を傷つけるものではなく、むしろその逆だった。

 無残にも潰されて平たくなった右脚が膨らみ、辺りに広がった血液さえもその中へ戻っていく。

 その光景はさながら、映像の巻き戻しを見ているようだった。

 元通りになった自分の右脚に目を白黒とさせる士道に対して、狂三は再びしゃがみこんで視線を合わせる。

 その赤と金の双眸に侮蔑や嘲笑うような色はなく、ただ静かに士道を見据えていた。

 

「もう一度お尋ねしますわ。これでもまだ、士道さんは無謀にも外へ出るとおっしゃいますの?」

「…………出るさ。だって琴里は大切な家族なんだ」

 

 当たり前だが死ぬのは怖い。

 たった今刻まれた、痛みに対する恐怖もある。

 というかもっと穏便な伝え方はなかったのだろうか。

 何かにつけて銃をぶっ放してくることといい、この精霊は少々物騒すぎる。

 それでも、と拳を握り締める。

 琴里が生まれた日、病院の一室でその小さな手に小指を握られた時、決してこの手を放すまいと心の中で誓ったのだ。

 そもそも、今まで幾度となく危地に赴いてきたことに、再生能力の有無は関係ない。

 これまでと何も変わらず、士道は自分の我を通しに行くだけなのだ。

 立ち上がり、今度は逆に狂三を見下ろす。

 なにせ傲慢で図々しいのだから、これぐらい傲然と振るまっても許されるだろう。

 その様に狂三はさもありなんと笑った――それが少し寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。

 そして立ち上がると、また短銃を士道に向ける。

 

「ならばこれを。たった一度だけ、〈刻々帝(ザフキエル)〉の権能を行使することを許可いたします」

 

 しかしその向きは逆――差し出されたのは、銃口ではなくグリップである。

 共に向けられた言葉が示す意味に、士道は少なからず動揺した。

 天使……精霊が誇る、絶対の矛。

 その力を、たった一度きりとはいえ人間に託すと、彼女はそう言ったのだ。

 呆然と受け取った手に、短銃の確かな重みが伝わる。

 銃の撃ち方は心得ているが、引き金を引けるかどうかはまた別だ。

 ブランクは相当長いし、それにこれは何かを傷つけるための武器なのだ。

 今の士道には少々荷が重い代物だ。

 

「心配せずとも、その()が誰かを傷つけることはありませんわ。腑抜けたことを仰る士道さんにはピッタリでしょう?」

「……そりゃどーも」

「さあ、お行きなさいな」

 

 不意に、闇の中に光が差し込む。

 きっとこれが出口なのだろう。

 本来なら一も二もなく飛び込むところだが、その前に言うべきことが残っている。

 

「色々と助かった。ありがとな」

「せいぜいその命を落とさぬよう、小狡く立ち回ることですわ」

「ああ、またな」

 

 皮肉に対して笑顔を返すと、士道は光の中へ飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「そも、あの短銃は()()に託されたもの。ならばその遺志に沿うように使うのが道理ですわね」

 

 光の消えた闇の中で、狂三は独り言ちた。

 ()()以外の誰かとこの空間で過ごすのは実に珍しい。

 この僅かながらの寂寥は、きっとそのせいなのだ。

 そう自分に言い聞かせて、皮肉に対して返された笑顔を頭の中から振り払う。

 

「それで、真那さんがどうしたと?」

 

 次いで放った言葉は独り言ではなく、ここにいるはずの誰かに向けたものである。

 すると闇の中に浮かび上がるように、狂三と全く同じ格好と容姿をした少女が姿を現した。

 二人が並ぶと少なくとも見た目の上では判別が出来ず、瓜二つどころか全くの同一なのだ。

 彼女は分身体……狂三が〈刻々帝(ザフキエル)〉の権能で生み出した、自分の過去を再現した存在である。

 

「あらあら、士道さんとは十分にいちゃつきましたの? 先程のようにまたキスを――――」

「そ・れ・で! 真那さんがどうしたと?」

 

 なにやら言い募ろうとするところを遮って、狂三は報告を促した。

 先程のアクシデントは一先ず水に流すが、そちらから言及してくるようなら容赦はしない。

 言外にはそんな物騒なニュアンスが含まれていた。

 本体からの険しい視線に、分身体はやれやれとでも言うように肩を竦めた。

 

「真那さんがこちらに向かっていますわ。恐らく、先程の空間震で勘付かれましたわね」

「想定よりも早い――いえ、こちらが手間取ったせいですわね」

 

 凡百の魔術師ならば歯牙にもかけないが、崇宮真那という少女は少々厄介だ。

 それでもまず狂三の敗北はありえないが、今回は士道や()()のことなど、不確定要素が多い。

 なので分身体を使って陽動、及び足止めをしていたのだ。

 

「それにしても、あなたを含めた百人ほどを、真那さんに対して送り込んだはずなのですけれど」

「もう無双状態でしたわ。千切っては投げられましたわ」

「そ、そうですの……」

 

 自分と同じ姿をした集団が紙のように吹き飛ばされる光景を思い浮かべて、狂三は頬に一筋汗を流した。

 ともあれ、その状況の大体の想像はつく。

 徐々に回復してきているが、霊結晶(セフィラ)の半分を奪われた影響は少なくない。

 それが分身体にも伝播し、真那はその隙を逃さなかったのだろう。

 

「では、本日はここまでといたしましょう」

 

 十全とは言えない状態で、複数の不確定要素を相手取るのは避けたいところだ。

 博打を打つにしても、事前に勝ち筋を用意して然るべきなのだ。

 本来の目的は果たすことができず、それどころか霊結晶(セフィラ)の半分を彼女に奪われ、挙句の果てにほんの一部分とはいえ力の封印を許してしまった。

 結果を見れば敗走もいいところだが、不思議と狂三の心中は穏やかだった。

 それはやはり、あの愚か者に当てられたせいなのか。

 

(……傲慢で図々しい、ヒーロー)

 

 きっと彼はこれからもその(エゴ)を振りかざして、誰かを救っていくのだろう。

 狂三もかつて、幼稚で傲慢な正義感に身を浸していたことがある。

 この力で、もっとより多くの人たちを救えると信じていた時期があったのだ。

 しかし現実――いや、真実を知り絶望し、復讐と悲願を胸に抱き、その果てに最悪とまで呼ばれるようになった。

 願わくば、彼には……そこまで考えて、頭を振る。

 最終的に喰らう相手の行く末を案じて、一体何になるというのか。

 むしろその顔を思い浮かべると、段々と腹が立ってきてしまう。

 そもそも、彼はどうもこちらを舐めている節がある。

 初めて出会った時も識別名にさん付けなどという、何ともふざけた呼び方をしてきたし、ああもこちらに対する失言が飛び出すのは、デリカシーがないどころの騒ぎではない。

 次に会った時は、もう少し念入りに銃を突き付けておくべきだろうか。

 知らずの内に口元は綻び、それを見た分身体はニマニマと頬を緩めた。

 

「成程、これが恋ですのね」

「……はい?」

「皆まで言わずともわかりますわ。わたくしも『わたくし』ですもの」

「勘違いしてもらっては困りますわ。誰が士道さんなんかに――――」

「あらあら、わたくしは一言も『士道さんに』だなんて言っておりませんのよ? ふっ……語るに落ちましたわね、『わたくし』!」

「なっ……!」

 

 得意げに人差し指を突き付けてくる分身体に、狂三は狼狽を露わにしてしまった。

 ここは冷静にいなすべきだったのだが、こうなれば後の祭りである。

 調子づいた分身体は両頬に手を当て、身をよじらせながら何とも姦しく騒ぎ出した。

 

「まぁ! ついに『わたくし』にも春が訪れましたのね! ラブレターを頂いて思い悩んでいた頃からしたら、とても大きな進歩ですわ!」

「…………」

 

 我が事のように喜ぶ分身体に、狂三は思わず頭を抱えた。

 分身体からしたら本体は未来の自分なので、我が事というのは実際その通りなのかもしれない。

 それよりも問題はこの浮かれポンチっぷりである。

 かつての自分という点を鑑みて、未熟さはある程度目をつぶるとしても、こうも頭がお花畑なのは一体どういうことなのか。

 確かに恋愛に夢を見ていた頃もあったが、それにしたってこうも浮かれたりはしない……はず。

 ともかく、この分身体の存在は『時崎狂三』の品位を落としかねない。

 頭痛を堪えるように頭に手を置いたまま、狂三は無言で踵を打ち鳴らした。

 

「あーれー」

 

 影に絡め取られ、分身体は闇に溶けるように消えていった。

 しばらく身動きを封じて、彼女にはじっくりと反省してもらおう。

 あまりにも聞き分けがないようだと処断するしかないのだが、理由がこれでは流石に馬鹿馬鹿しすぎる。

 それにしてもと、狂三は分身体の発したとある単語を思い返す。

 

「ラブレター…………そんなこともありましたわね」

 

 思い出と共に、郷愁が呼び起こされる。

 夕暮れの教室、受け取った便箋を手に思い悩む自分を揶揄って笑う()()

 失った日々の面影に、燃え盛る体を持つ怪物の姿が重なる。

 そして、地面に横たわった物言わぬ彼女の――――その果てにあるのが、他ならぬ時崎狂三の反転体としての、白く染まったあの姿だ。

 彼女……いや、()()()()は自分を恨んでいるのだろうか、憎んでいるのだろうか。

 それは当然の感情だし、それに足るだけの仕打ちを自分は行った。

 それが、世界に刻まれた純然たる事実――容易には拭えない、過日の罪業である。

 だけど、だからこそ狂三は立ち止まるわけにはいかない。

 そのふざけた事実をひっくり返すことこそが、胸に抱いた悲願なのだから。

 

「…………崇宮、澪」

 

 そして胸に抱いたもう一つ、復讐へ思いを馳せる。

 全ての元凶たる()()()()()

 ()()()()()、彼女を殺したとしても何も変わりはしない。

 しかし、再び目の前に現れたのなら――――

 

「きひ、きひひ、きひひひひひひひひひひひひッ」

 

 あふれ出す感情を歪んだ笑みに変え、闇の中に笑い声を響かせる。

 そうでもしないと、あまりの激情に自分の体を傷つけかねないからだ。

 

「そういえば、彼女は一切笑いませんでしたわね」

 

 一頻り笑った後に思い浮かんだのは、とある少女の人形のような無表情である。

 一応はクラスメイトだが、狂三が来禅高校に籍を置いたのはつい昨日の事だ。

 よって関わる機会も多くはなかったが、彼女の瞳の中にある復讐の炎を狂三は見逃していなかった。

 果たしてあの少女――鳶一折紙は、その炎を誰に向けているのか。

 

 

 

 

 

 闇から脱した士道を出迎えたのは、異常な程の熱気だった。

 見渡す一帯は焦土と化し、最早燃えるものが尽きたのか、この熱気に関わらず炎は見えない。

 尋常ではない光景に、肌がちりついて慄立つ。

 汗の一つでも流れるかと思ったが、空気に触れた瞬間に蒸発してしまった。

 まるで炉の中に放り込まれたかのような……これは明らかに人間が生存できる環境ではない。

 すぐさま随意領域を展開し、自分の周囲の気温のパラメーターを操作する。

 あのまま普通に呼吸をしていては、呼吸器系を火傷しかねない。

 脳をかき回すような痛みを堪えつつ、姪っ子の姿を探す。

 五河琴里――彼女は炎の精霊として、あの白い精霊と対峙しているはずなのだ。

 周囲を満たすのは異常な熱だが、それだけではない。

 そこに微かに残留するものを士道は感じ取っていた。

 そして、恐らくこれが霊力と呼ばれるものなのだと直感する。

 一体いつからそんなものを感知できるようになったのか。

 その答えはともかくとして、精霊を追う上で有用であるのは確かだろう。

 霊力の痕跡が濃い方に二人の姿があるはずだ。

 辺りを見回し――――不意に熱波が襲い来る。

 それは随意領域を突き抜けて士道の体を炙った。

 堪らず顔の前にかざした両腕の隙間から見えたものに、呆然と呟く。

 

「何だあれ……炎の、柱?」

 

 空を穿つように立ち上ったのは、凄まじい炎熱の奔流だ。

 その強烈な光が周囲を照らし、夕暮れ時のように天を焦がして真っ赤に染める。

 それはまさに火山の噴火を凝縮したかのような……恐るべきことに、その余波だけで士道は焦がされそうになっていた。

 あの根元に、恐らく琴里がいる。

 ならばと熱波に逆らうように士道は足を踏み出し、しかし突然の重みに盛大につんのめった。

 倒れそうになるところを両手をつき、何とか四つん這いで踏みとどまる。

 地面も非常に熱くなっていたが、随意領域で何とかして火傷は防いだ。

 しかしこれは非常に既視感を覚える状況である。

 恐る恐る振り返った士道の視界には、やはり彼女の姿があった。

 また『扉』をくぐってやって来たのだ。

 

「ふぅ、危なかったぁ…………あ、さっきぶりですね」

 

 背中の上に突如として現れて笑顔を向けてくるのは、白昼夢(デイドリーム)と呼ばれる精霊の少女である。

 最悪の精霊と共に二つの都市を滅ぼしたとされる、もう一人の最悪。

 その呼び名通りというべきか、精霊の力を発揮する際の彼女は、狂三と全く同じ顔をしている。

 しかしその色合いは正反対――白い髪に、白い霊装(ドレス)

 真っ白に染まった全体の所々を黒く焦がしながら、白い精霊は士道の上に腰を下ろしたまま、その赤と青の双眸を不満げに細める。

 何を言われるのかと身構えた士道に対して、彼女は苦情を申し立てた。

 

「お兄さん、あの子ちょっと狂暴すぎません? 一体どんな育て方してるんですか?」

「いや、狂暴って……君がそれを言うのか」

 

 一見すると穏やかな雰囲気を漂わせている彼女だが、狂三同様に士道の命……より正確に言うのなら、霊力を狙う手合いである。

 そっくりなのは顔だけにして欲しいというのが士道の意見なのだが、この精霊の場合は明確にこの街を滅ぼすとも口にしているので、警戒の度合いは更に高い。

 先程も散々な目にあわされ、普通に考えればこんな風に会話を交わせるような相手ではない。

 

『私はお兄さんの名前を知りませんし、お兄さんも私の名前を知りません。つまり赤の他人です』

 

 しかし彼女の赤の他人としての顔を思い出すと、どうにも敵愾心の類が霧散してしまう。

 それはそもそも、士道が誰かに敵意を向けることに慣れていないのもあるだろうが、どこぞの精霊同様に猫と戯れる姿が頭を過ぎるのも事実。

 士道はこの精霊を、ギリギリのところで敵として見ることが出来ない。

 だからこのように語り掛けられたら、緊張を含ませつつも応じてしまうのだ。

 ともあれ、姪っ子に対する抗議は保護者として受け止めなければならない。

 しかし日常生活において、琴里はしっかりとしている良く出来た子である。

 確かに狂暴な一面もあるのかもしれないが、一先ず士道は弁護から入った。

 

「あれでも普段は可愛くていい子なんだよ。ちょっと最近は反抗期気味で罵倒してくるし、隠し事も多くなって呼び捨てにしてくるようになったけど…………」

 

 何だか涙が込み上げてきて、それ以上言葉を続けることが出来なかった。

 勿論、上辺の態度や言動が変わっても、琴里が琴里であることに変わりはない。

 ただ、無邪気に自分の胸に飛び込んできた頃を思うと、どうしても切なくなってしまうのだ。

 

「えっと、ハンカチいります?」

「それよりも下りてほしいんだけど」

 

 気遣わしげな言葉はありがたいが、いつまでも背中に座られては困る。

 先程は悪くない座り心地と評されたが、ひょっとして気に入ってしまったのだろうか。

 士道が下りるよう頼むと、白い精霊は渋々従った。

 こちらに剣と銃を向けていた時とのギャップが凄まじいが、そもそも彼女は好意を口にしながら殺意を向けてきたりと、そういうところがある。

 

「とりあえずいい加減、人の背中をどこでもドア代わりに使うのはやめようか」

「いつでも会いに行けるって素敵じゃないですか?」

「その度に背中を踏まれるのはどうかと思うんだよ。というか、これはずっとこのままなのか?」

「急造のものだし、明日には消えると思いますよ?」

 

 士道の背中には、いつの間にやら仕掛けられた『扉』があるらしい。

 そこを出入りして、彼女は背中を踏みつけてくるのだ。

 特定の性癖を持つ者……例えばどこぞの副司令にとってはご褒美かもしれないが、士道に足蹴にされたり椅子にされて悦ぶような趣味はない。

 なので時間経過で『扉』が消えると聞いて、胸を撫で下ろした。

 自分の命を狙う存在がいつでも自由に背後に現れるなど、悪夢以外の何者でもない。

 しかし、彼女が本当のことを言っているかどうかは微妙なところなので、後で〈フラクシナス〉で調べてもらった方が良いだろう。

 

「さて――――じゃあ、そろそろですね」

 

 柔和な笑顔のまま、白い精霊――紗和は軍刀と短銃を構えた。

 戦闘態勢……今までどこか緊張感の抜けた会話を続けていたが、この状況は明確にピンチだ。

 今の士道に再生能力はないし、この至近距離では随意領域を彼女に乗っ取られてしまう。

 狂三に言われた通り、これではのこのこと死にに出てきたようなものだ。

 彼女がその気になっただけで、あっさりと士道の命は散らされる。

 極度の緊張に喉が張り付き、心臓はどうにかしろとでも言うように拍動する。

 しかし紗和は軍刀を振るうでも弾丸を放つでもなく、士道の胸に飛び込んできた。

 あまりにも予想外の動きに反応が遅れてしまう。

 その間にも事態はしっかりと進行していた。

 背後から迫る熱が、否応なしにそれを知らせる。

 

「――来ます。しっかり防いでくださいね?」

 

 次の瞬間、士道の視界は真っ赤に染まった。

 

「ぐっ――――おおおおおおおっ!!」

 

 随意領域を展開し、範囲を狭めてひたすら密度を上げて強固にする。

 そうでもしないとこれは防げない。

 恐らくこれは、かつて十香が見せた【最後の剣(ハルヴァンヘレヴ)】に匹敵する、炎の精霊が誇る超抜の一撃だ。

 触れたものの一切を灰燼に帰する灼熱の砲撃。

 先程は空に向けられたそれが、今この身に降りかかっているのだ。

 防壁を展開することで直撃を避けているが、その膨大な熱量はそれでもなお、士道の身を焦がしにかかった。

 脳を苛む激痛――赤く染められた視界は、この炎熱の奔流だけのせいではない。

 受け止めたのはいいが、最早活動限界が迫りつつある。

 士道は随意領域の守りに関しては非凡だが、精霊の本気の一撃は人間の非凡程度でどうにかできる代物ではないのだ。

 

「ほら、私も手伝うから頑張ってください。あ、これ初の共同作業ですね?」

 

 顕現装置を握る士道の手に、滑らかな布越しの柔らかい手の感触。

 生成された魔力で満たされた随意領域に、それ以外の何か――霊力が加わる。

 そしてその制御は士道に委ねられていた。

 逡巡の暇はなく、使えるものを総動員して防壁を維持する。

 やがて血液すら沸騰しそうな熱気から解放されると、士道は目と鼻から血を流しつつ、血混じりの息を吐いた。

 今回はギリギリ防いだが、もし次があったら跡形も残らず消し飛ばされて終了だ。

 視線を落とすと、紗和は士道の胸の中で悪戯っぽく舌を出して笑った。

 どうやら確信犯的に盾として使ってくれたようだ。

 それは良いか悪いかで言えば確実に良くはない、というかもうほぼ死に体である。

 一言抗議してやろうかと思ったが、背後からの焦土を踏む音に、出かかった文句を引っ込める。

 

「しーくんどいて。そいつ殺せない」

「こ、琴里……?」

 

 いつも通り可愛らしい声なのだが、不自然に平坦で、しかし隠しきれない怒気が漏れ出ている。

 振り返らずとも、どうやらブチ切れているらしいというのはよくわかった。

 こちらの目的は精霊の保護のはずだが、それに真っ向から反抗する言葉を放っている。

 一体この白い精霊は、琴里に対して何をしたのだろうか。

 

「いつまで隠れているのかしら? 跡形もなく灼き尽くしてあげるから、さっさと出てきなさい」

「酷いなぁ、自分の家族に向けてそんなものを向けるだなんて。ね、お兄さん?」

「……とりあえず俺を盾にしたのは誰だったか、思い出してみようか」

 

 自分の所業を棚に上げる紗和に対して士道は突っ込んだ。

 しかしその実、背後からの熱気に気が気でなく、冷や汗が止まらなくなっていた。

 挑発めいた言葉でさらに怒気が増したのか、放たれる熱量がとんでもないことになって……具体的に言うと、冷や汗が流れるそばから蒸発している。

 ギリギリながらも随意領域で環境の操作をしてこれなのだから、その怒りの程が窺える。

 まるで臨界寸前の炉心がそこにあるかのようだ。

 今の琴里を直視するのは恐ろしいが、向き合わなければ始まらない。

 意を決して振り返ろうとして――――しかし体の向きを変えることが出来ない。

 答えは単純で、紗和が士道の体をホールドしているのだ。

 精霊は総じて災害じみた力を誇るが、単純な身体能力の上でも人間を遥かに上回る。

 ましてや活動限界の寸前では、その膂力に勝てる道理はない。

 身動きを封じられた士道はそのまま腕を捻り上げられ、喉元には軍刀の刃が押し当てられた。

 その際に視界が前後に反転し、琴里の姿が目に入る。

 和服のような霊装、炎を羽衣のように纏い、頭部には一対の角。

 その目は怒りのためか爛々と、紅く禍々しい光を放つ。

 そして右腕の肘から先を覆うように装着されているのは、天使が変化したと思しき大砲だ。

 

「少し格好悪いけれど、人質です。その物騒な大砲を引っ込めてもらえませんか?」

「…………」

 

 脅迫に対し、琴里は無言で大砲に包まれた右手を掲げた。

 すると大砲が右腕から分離し、元の戦斧の形へと戻っていく。

 その先端が地面に突き立てられ、焦土に亀裂……どころか陥没を起こし、凄まじい揺れと轟音が鳴り響く。

 まるで苛立ちを地面にぶつけたかのような有様だが、放たれる熱気は全く衰えていない。

 幾分冷静になったようにも見えるが、恐らく内心ではまだ怒りが渦巻いている。

 

「で、次は武器を捨てて手を上げろとか、そんなテンプレートでも聞かせてくれるのかしら?」

「じゃあその次は身代金の要求ですね。それとも逃げるための車を用意しろ、かな?」

「そろそろ、そのふざけた事しか言わない口を縫い付けてもらえる?」

「力尽くで黙らせてみたらどうですか? 出来たら、ですけど」

「――――」

 

 押し当てられた軍刀の刃が、皮膚を浅く切り裂いて血が流れる。

 それに琴里は黙ったまま眼光を鋭くした。

 一先ずこちらの身は案じてくれているらしい。

 しかし確かに武器は置いたが、その身に纏う熱気と剣呑な雰囲気は余計に増している。

 普段より、というよりも司令官をやっている時より、冷静さを明らかに欠いている。

 精霊の力が原因なのか、それとも彼女の挑発的な言動が原因か。

 もしくは、士道のあまりの情けなさに憤慨しているのかもしれない。

 お姫様属性を付けてどうすると注意されてから、まだほとんど時間が経っていない。

 それなのにこの体たらくでは、怒りたくなっても仕方がない。

 人質にされた当人も、自分の不甲斐なさには気まずい顔で閉口気味である。

 しかしながら、ここで人質を取るというのは悪手だ。

 士道は琴里の目をまっすぐ見据えて呼びかける。

 

「琴里、我慢してないでやっちまえ。俺がどうにかしてやるから」

「――――ぶった斬れ、〈灼爛殲鬼(カマエル)〉!」

「ちっ――――」

 

 逡巡は欠片もなく、戦斧は振り抜かれた。

 溜め込んだ苛立ちのせいか口調もどこか荒々しい。

 迫る炎の刃に、紗和は飛び上がりつつ士道を攻撃の届かぬ位置まで蹴飛ばした。

 士道は口元を歪めて呻きを上げる。

 一応手加減はしたのだろうが、この分では恐らく肋骨が数本折れている。

 しかし口元を歪めたのは痛みのせいだけではなく、目論見が上手くいったのを悟ったからだ。

 とは言っても何かを策していたわけではなく、これは主に相手の事情によるものだ。

 そう、士道の中にある霊力を狙っている彼女は、それが奪えない状況で死なれては困るのだ。

 だから人質というのもブラフでしかなく、士道はそこを見抜いていた。

 それはここ最近、何度も殺されかけたという悲しい体験のおかげでもある。

 

「はぁああああ……っ!!」

 

 琴里は戦斧を振り抜いた勢いをそのままに、回転して刃を焦土に叩きつけた。

 先程とは比べ物にならない範囲で地面が陥没し、地鳴りと共に炎が噴き出す。

 噴火のような勢いで噴出した炎は、宙に退避した白い精霊を飲み込んだ。

 

「あ、あああ…………熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱いっ――――〈狂々帝(ルキフグゥゥゥゥス)〉っ!!」

 

 狂乱するような叫びと共に、炎の中から巨大な天文時計が姿を現し、そのインダイアルに刻まれた星座記号の一つが輝く。

 ぞわりと、士道の背筋を悪寒が駆け抜ける。

 あれはマズい――根拠も何もないが、脳内で警鐘が鳴り響く。

 如何に炎の精霊といえど、あれを受けては()()()()()()()

 しかし随意領域の展開も言葉も間に合わない。

 

「――――【射手の剣(ケシェット)】ぉぉおおおっ!!」

 

 番えられた一矢は、音速を超える速度で放たれた。

 しかし、その直前――――

 

「――【二の弾(ベート)】」

 

 どこかから飛来した影の弾丸が、白い精霊を撃ち抜いた。

 超抜の一撃を放とうとするその動きが、途端に鈍化する。

 そして、その隙はあまりにも致命的だった。

 

「ぶちかませ――〈灼爛殲鬼(カマエル)〉……!」

 

 炎の刃が、白い精霊を切り裂いた。

 

 

 




というわけで終了。

狂三四天王を出そうかどうか迷ったけど、あまりにもシリアスブレイカーなので見送りました。
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