Blue Mirror Archive ~ぶるぅみらーあぁかいぶ~   作:10級フィクサー

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今日は静かな日

(ダンテ視点)

 

 

「可能性の世界...人格...。そんな技術初めて聞いたよ。イサン先生ってすごいんだね~。」

「...いや、ただ見つくるが人よりも疾かりしばかりなり。私があらずとも、他の誰かこそ見つけけめ。」

「そんなものなの?」

「うむ。技術とはときじくさるもの(いつの時代でもそういうもの)なれば。」

「うへ~。」

 

ホシノは肯定とも否定とも取れないような、曖昧な返事をした。

イサンは続けて、

 

「さりとて、私が始めに見つけられしためしこそ嬉しけれ。」

「この技術の麗しさを...楽しさを、朋とばかり、俱にせられしためしが。」

 

私は、イサンは自身が生み出した技術に対して無頓着であると思っていた。

それはある意味では正しい。けれど正しくもない。

技術の美しさ。楽しさ。そういったものを語るたびに、イサンの声色が弾んでいく。

きっと都市では理解されないような思想。

 

「先生にも友達っていたんだね~。」

「うむ。私とは違ひて...めでたき朋なりしぞ。」

 

あるいは、イサンの言う友とは、その思想を共にする者たちの少ない集まりだったのかもしれない。

これまでそこそこイサンと一緒にいたけど、身の上話を聞くのは私にも初めての事だった。

イサン自身も不思議に思っているようだけど、どうやら悪くは思っていないようだ。

 

「うん。おじさんの後輩もね、おじさんにはもったいないくらい良い子たちなんだ~。」

「そなたがさいはば、さだめていと良き人ならむ。」

「...うへ、照れちゃうな~。」

 

そうやって彼らが歩いていると、だんだんと、大きな建物が姿を現す。

 

「お、見えてきたよ~。」

「ふむ。あれが...。」

「そう、あれがおじさんたちの学校、アビドス高等学校だよ。」

 

 

―――――――――――

 

 

アビドス高校の前にたどり着いたイサンは、扉に手を掛ける。

 

「鍵かかれり。」

「そりゃね~。鍵はおじさんが持ってるよ。」

 

ホシノは鍵を開け、扉を開く。

 

「他の子たちが来るまでには時間があるから、おじさんが校内を案内してあげるよ~。」

「かたじけなし。」

 

 

「ここがシャワー室だよ~。イサン先生砂まみれだし、シャワー浴びちゃったら?」

「...言の葉に甘えて。」

 

 

...私は端末をそっと伏せた。

 

あれ、ダンテさん。見るのやめちゃうんですね~?

そりゃね...。

 

 

 

(イサンの精神力が20回復した。)

 

 

 

「ここが対策委員会の教室だよ。」

「対策委員会?」

「うん。...イサン先生も見たでしょ、アビドスの町並み。」

「うむ。」

「砂まみれでひどいありさまだったでしょ?数十年前から砂嵐が頻発してさ、その影響で生徒も教師も他の学校に移っちゃったんだ。」

「対策といふは、すなはち、」

 

イサンは重い表情で質問をするが、ホシノはなんともないように口を開く。

 

「...正式名称はアビドス廃校対策委員会。最近はアビドスが背負う借金の返済を主にやってるかな。他にも問題は山積みなんだけどね~。」

「...額は?」

「9億6235万円だよ~。」

「きゅっ...!」

 

9億。都市とは通貨の価値が違うだろうから、詳しい額は分からないけど...。

途方もない金額だってことは分かる。

 

う~ん、僕のお小遣いでも足りないかもですね~。あっ、実家に行けばもらえるかもですけど。

...ええ...。

 

 

 

「この辺はホームルーム教室がたくさんあるけど、もうほぼ使ってないね~。」

 

理由は聞かずともわかるようで、イサンは黙って教室を眺める。

砂に塗れた教室は悲し気な印象を抱かせる。

かつてはここも、多くの生徒が青春を過ごした場所であったはずなのに、今では見る影もない。

 

「授業は受けたらぬ? 」

「うん。時間もあんまりないしね~。」

「...ふぅむ。」

 

イサンは少しの間沈黙する。

考え事をしているのだろう、ホシノも黙ってそれを見ていた。

 

「ホシノ嬢。後輩の来るまでに、いかばかりのほどあり?」

「一時間くらいかな~。それがどうかしたの?」

「...ホシノ嬢。少しばかり、授業を受くる気はあらず?」

「うへ、授業...?....でも、おじさん、高校に入ってからあんまり勉強してないから...。」

「ホシノ嬢。何か好きなることはあり?」

「うへ?...う~ん、海とお魚、とかかな~。」

 

「なれば海につきての授業せむ。」

 

「...!」

 

ホシノは少し悩んでいるようだけど...私にはなんとなく分かる。

こうなったイサンはきっとテコでも動かないだろうって。

 

「...じゃあ、お願いしてもいい?」

「うむ。」

 

 

 

―――――――――――――

 

 

「おじさん、鯨のことを教えてほしいな~。」

「ふぅむ...。鯨がいかで寝たるや、知れり? 」

「...そういえば、鯨って哺乳類だよね?寝たら溺れちゃうのに、どうやって寝てるの?」

「鯨は熟睡すと溺れぬれば、右脳と左脳を交互に休ませたるなり。これを半球睡眠といふ。」

「うへ~!」

 

 

「へぇ~、鯨の赤ちゃんは海の中で産まれるんだ~。」

「生まれしばかりの鯨は泳ぎが苦手なれば、母親に手伝はせつつ泳ぐ。」

「どうやって手伝うの?」

「スゥリィップゥストゥリィム。」

「うへ?なんて?」

「スゥリィップゥストゥリィム。」

 

「...先生、発音~...。」

「う、うぅむ...。」

 

 

ホシノが質問する。イサンが答える。

会話は弾む。落ち着いた雰囲気で、二人だけの静かな授業は進む。

そうして一時間ほど経った頃。

 

「あ、もうそろそろ終わっちゃうね...。」

「うぅむ。」

 

ホシノは少し名残惜しそうに話す。

イサンはそれを見て、懐に手を伸ばし、取り出したものをホシノに手渡す。

 

「これって...手鏡?」

「うむ。スゥウィッチを。」

「スイッチ?これのこと?」

 

 

そこには、海があった。

私の空っぽの頭でも、きっとそれが海なんだって分かる。

それは可能性だった。

幾億の可能性の世界の中で、きっと、最も美しい海。

鏡のように透き通った水面を、数多の魚たちが揺らす。

夕焼けが海を焼く。星空が少しずつ広がっていく。

もはや空と海の区別もつかなくなったその世界を、

ホシノはただ、眺めていた。

 

 

「うへ...。これが、海、なの?」

「うむ。」

「...これも、鏡技術?」

「うむ。」

 

そうして少しの間、ホシノは口を閉じる。

照れたように、彼女は笑う。

 

「こんな光景、初めて見たよ。海がこんな場所だなんて知らなかった。」

「だからさ、先生。」

 

「...うへ、ありがとうね。」

 

「......うぅむ。」

 

イサンはただ、噛みしめるようにうなずいた。

その笑みを隠すように。

 

きっと、イサンが鏡技術を作った理由はここにあるんだろう。

都市ではきっと見ることのなかった光景。

イサンが求めていた世界が、そこにはあった。

 

 

 




以上。

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