理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~ 作:夕叢白
男はアニメ、Re:ゼロから始める異世界生活が大好きだった。エミリアは言わずもがな、レムやラムといった主要キャラのフィギュアを全員分全シリーズ揃えるほどの作品愛────しかして男は少々特殊だった。彼は主人公、ナツキ・スバルを一番に推しているのだ。つまり男にとって、リゼロ最大の推しは主人公である。主人公単体でのフィギュア販売が少ないのは何故なんだ!世の中狂っている!とSNSで怒りを露にしたり、公式ページでお気持ち表明の問い合わせをするくらいには同担拒否の推し狂い過激派であった。
そんなありふれた(?)推し活の日々の中、男は仕事帰りに包丁を所持する通り魔強盗から女性を助け、残念ながら死亡した。死因は出血性ショックであり、刺された箇所が悪かったとしか言えない結末。首から下の感覚を失い、視界の端から闇が侵食してくる光景を最期に男は命を落とした。が、男は蘇った。何を言ってるのか分からないかもしれないが、本当に男は蘇ってしまった。推しの世界で、陰ながら自分が設定を練っていた理想の美少女キャラクターとして。
「は...?え...?嘘だろ...。こ、これって......マジでマジの推し活再開ってことォォォォ!!?」
この物語は理想の姿でTS転生した男が推しの世界で好き勝手推し活しまくる、かもしれないお話である。
顔を触れば、滑らかで柔らかい感触が指に伝わる。髪を掬えば、銀糸のような光沢が美しく煌めいた。非常に手入れが行き届いた髪質だ。全く痛みが見当たらない。そして何より、男の心を最も高鳴らせたのは現在の自分自身、以前から設定を練りに練っていた理想のオリジナルキャラクターそのもの。
「俺...本当に...
ルグニカ王国内の恐らく建物の屋上、アニメの方で最初にスバルとエミリアが休憩していた場所に立ち、そう感慨深い一声を口にする彼女。想歌、男が考案した理想のオリジナル美少女キャラクター。切れ長のクールな目元に艶やかな長い黒髪は姫カットでより魅力的となり、スタイルはエミリアと同等かそれ以上のボンキュッボン。それでありながら、無駄な肉が一切削ぎ落とされた身体は動きやすさを重視した構造となっている。
「服装に...武器まで......。」
無論、男が考案したのは容姿だけではない。キャラクターとしての格を上げる為、中身の設定も一年間に亘って書き上げていた。ファンタジー系の世界出身、架空の隠れ里で育った想歌は神人と人間のハーフであり、卓越した剣術の才能を持つ孤高の少女。年齢は18で性格は時々クールで基本は穏やか系。服装は和をモチーフにした黒色の神官上着に丈の短いスカート。
「俺の内に秘めた厨二センス全開の設定がこんな形で現実になるとは...。」
武器は
「でも、こいつ喋らないな?設定全部が反映されてるわけじゃないのか...。」
転生特典の不親切さに若干の落胆を覚えるも、今はそれすら些事に思えるほど、男は興奮していた。震える手で頬を押さえ、先を夢想する。自分がこの推しのいる世界でどのように立ち回り、如何に推しを至近距離で拝むか、目の前に広がる可能性に胸を膨らませずにはいられない。
「あれ、待てよ...スバルが死んだら俺どうなるの?」
今更な疑問である。ナツキ・スバルの死に戻りが自身に適応されるのか否か。適応されなければ、推しのいない世界線で強制的に二度目の死を迎える事となってしまう。それは男にとって受け入れ難い終わり方だ。
「まぁ...何とかなるか。」
現代社会のゆとり教育に慣れ、推し活に魂を捧げていた男の楽観的思考。アニメの世界に理想の形で転生した故の油断と慢心。想歌と同化した男は浮かれすぎていた。晴れやかな気分も束の間、現実は想像通りに進まないものである。
「君、何者だい...?」
瞬間、想歌の身体に凄絶な悪寒が走った。真後ろに聞き覚えのある声と共に降り立った存在感のある赤髪。
「え...?」
全身が警鐘を鳴らしている。今すぐ逃げろ、勝てない、負ける、殺される。男は何もしなかった。相手の威圧で動けなかったからだ。
「もう一度聞く、君は何者だ。」
男は失念していた。推しの生きるこの世界はベリーハードしか選べない地獄、楽観と油断は悲惨な運命を引き寄せる事を。男の行動は常に致命的である。
思いつきなので次回投稿日は未定です(重要)。