理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~   作:夕叢白

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第十話「自分の事に気が回りませんでした」

突如、スバルの胸元に衝撃が走る。いつの間にか腕の中には想歌によって押し退けられ、衝撃波で飛ばされた偽サテラが収まっていた。華奢な身体を慌てて抱き留め、気合いで踏み止まるものの、状況を理解する余裕はない。ただ一つ分かっているのは、隣にいた想歌が一瞬の内に消えたという事実だった。

 

「何が、起きて......。」

 

視線を向けた先には、既にエルザと対峙する想歌。エルザとの距離は十メートル以上あったはずだ。それを知覚する間もなく詰めた────?人の行いは思えない。一体彼女はこの異世界基準でどの程度の強さを持っているのかと考え、スバルの背筋がぞくりと粟立つ。

 

「ソーカ......?」

 

無論、返事はなかった。夕暮れの光を吸い込んだような深い紫に輝く眼差しは目の前の襲撃者ただ一人を射抜いている。斬撃は大太刀の柄で受け止められ、その上をエルザの刃が滑り、二人は鍔迫り合いへ縺れ込んだ。黒耀の刀装具とククリナイフの刃が擦れ、細かな火花が散る。互いの顔が、息の届く距離まで近付く。拮抗の末に想歌は後方へ飛び退き、並行して力強く大太刀を振るった。衝撃と共に床板が弾け飛び、視えない斬撃がエルザに向かって一直線に奔る。

 

『大振りが過ぎる、感情を乗せるでない!』

 

積み重ねた実戦経験と想歌の空振りにより、不可視の一撃を紙一重で回避したエルザは身体を捻った姿勢から一気に相手の懐に入る腹積もりだった。想歌の攻撃は確かに脅威的だが、肝心の使い手が本調子ではないなら話は別である。一連の動作から相手の状態を見抜いたエルザは妖しく唇を吊り上げた。

 

「素敵、こんなところで殺めてしまうのが勿体ないくらい。」

 

「......もう勝ったつもりでいるの?」

 

「いいえ?ただ思ったの。力は申し分ないのだけれど、技術が追いついていない。まるで...そう...借り物の力を振り回してる子どもみたいって。」

 

肩を竦めたエルザが得物をくるりと手の内で回す。その挑発は元男の逆鱗に触れた。痛いくらい知っている、感じている。技術が追いついておらず、想歌の身体能力に頼りきりなことは。それでも、想歌が信じる『創造主』として恥ずかしくないように、『俺が君を創った』と胸を張れるように、今はこの力を信じて振るう。

 

床を蹴る音が遅れて響く。地を這うような前傾姿勢となったエルザが、標的の内臓を抉り出すための最短軌道に乗る。しかし、刃先が届く寸前、想歌の姿が揺らいだ。否、掻き消えた。空を切る一撃、次の予備動作に移る暇もなくエルザは横へ弾き飛ばされ、盗品蔵の棚を砕きながら、壁へ叩きつけられる。

 

その場には、大太刀の峰を振り抜いた構えのまま静止する想歌だけが残り、全員が彼女を呆然と眺めていることしかできなかった。たった数分、ほんの瞬きほどの出来事である。卓越した戦闘技術を持つエルザに対して、純粋な膂力と速度で一撃を叩き込んだナツキ・スバルの護衛、想歌と呼ばれる女の異質さを誰もが理解した瞬間だった。

 

「めちゃくちゃじゃねーか......あの姉ちゃん。」

 

フェルトが呟く。強がるような口調だったが、声は明らかに引き攣っていた。先刻までの反抗的な態度は鳴りを潜め、代わりに本能的な恐怖が面持ちを染めている。依頼人が問答無用で牙を剥いた現実も、重くのしかかっていた。想歌がいなければ、間違いなく関係者は皆殺しにされていただろうから。

 

「何が何やらだけど、ボクの出る幕はなさそうだね。でも、リアを突き飛ばした事は減点対象かな。」

 

「ううん、あの人を責めないであげて、パック。突き飛ばされなかったらもっと痛い目に遭ってたのは私の方だし、それにこの子が受け止めてくれたから怪我もないわ。」

 

「ラッキースケベならぬラッキーハプニング、もしかして吊り橋効果発動中ってことなのか...?パック。」

 

「うん、意味がわからないね。とりあえずその子から離れようかリア。」

 

蚊帳の外に置かれたロム爺はばつが悪そうに小さく溜息をつきながら、戦闘で荒れた室内を一瞥し、気落ちした様子のフェルトの肩に手を置く。自分を責める必要はないと表情が物語っていた。全員が襲撃者の敗北を確信しており、想歌の勝利を信じて疑わなかった。峰打ちとはいえ、あの膂力の直撃を受ければ全身の骨が粉々になっている。しかし、それは相手が普通の人間だった場合である。一向に臨戦態勢を解く気配のない想歌にスバルが疑問を抱き始めた頃、彼の脳裏に二周目の記憶が過る。初めて目にした想歌が盗品蔵でエルザを圧倒、エルザの胸に大太刀を突き刺し、こちら側に歩み寄ってくる頼り甲斐のある姿。問題は次だ、気付いた時には息の根を止めたはずのエルザが彼女の背後に立っており、ククリナイフを。

 

「っ...ソーカ!まだあいつは生きてやがる!!」

 

『ようやっと察しおったか。鈍いのやら鋭いのやら、分からぬ小僧よのォ......のう創造主よ。創造主?おい......小童ッ!』

 

元男は自らの異常を悟れなかった。想歌の模倣を繰り返す度、己の魂が悲鳴を上げていた事に気付けなかった。黒耀は時間的猶予があると思い込み、その可能性を意識から除外していた。本物の想歌は創造主の魂を守るため、眠り続けていた。()()を防ぐ解決策が見つかると、信じていたからだ。

 

「......クロ、神様の魂が消えてなくなりそう。」

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