理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~   作:夕叢白

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第二話「気付いたら死に戻っていました」

「答えられないのか...?」

 

想歌──つい数十分前までは現代日本で生きる仕事漬けの成人男性だった彼女は現在進行形で窮地に陥っていた。震えそうになる脚に力を入れ、何とか振り返った先には悠然と、それでいながら付け入る隙なく立つ赤髪の美青年。彼の鋭い眼光は全身に突き刺さるような圧を伴い、周囲の空気さえ巻き込んで重圧を感じる。言葉にならない恐怖に喉が機能せず、彼女は答えを返すことができないでいた。

 

「君のその魔力(マナ)、それに尋常ではない気配を放つ刀......少なくとも、常人には見えない。」

 

赤髪の男、ラインハルト・ヴァン・アストレア。リゼロの世界で『剣聖』の名を冠する作中最強の存在。そんな規格外の圧は想歌と同化したばかりの一般人の精神で耐えられるほど、甘くはなかった。空想上のアニメとして観た時とは比べ物にならない、比較する事すら失礼な威圧は死を悟るくらいに生々しい。

 

「ぉ...れ......わ、わた...しっ...は......!」

 

必死に声を絞り出すも、言葉は喉の奥で詰まり、それ以上続かない。どうすればいい?この場をどう切り抜ければいい?彼女の頭は生存本能でフル回転していたが、冷静な判断力を取り戻せる余裕はなかった。暫く膠着状態が続くと、ラインハルトの左手がゆっくりと腰に携えた剣の柄へ伸ばされる。その動作は決して急いているわけではない。想歌を自身への脅威と認識していない証拠だ。このままでは斬られる、此処で死にたくない。彼女が咄嗟に両手を広げ、慌てて叫ぼうとした刹那、右手に持つ黒耀の鞘が独りでに抜かれた。そこから先の記憶が彼女にはない。

 

 

 

 

 

 

 

『実に摩訶不思議よのォ、なァ、想歌よ。』

 

大太刀の黒耀が虚空で鞭のように踊る。魔力を放出しながらこちら側に迫る赤髪の青年、ラインハルトの持つ白銀の剣から放たれる高速の斬撃を刀で受け流す想歌は冷静に戦況を見極めようとしていた。

 

「クロ、黙ってて。この人、本当に強い。」

 

空中でステップを踏み、ラインハルトから遠ざかる想歌の瞳は菫色に開眼していた。所謂、強化状態である。しかし、彼女の奥の手とも言える権能を活用してもなお、『剣聖』との距離は開いていない。想歌にはラインハルトが未だ本気を出していないように感じられた。

 

『創造主の知識を覗いたれば、奴は最強の剣聖とやららしいのォ。さてはて、鞍替えの時やもしれんなァ?』

 

「冗談は色だけにして。」

 

想歌は軽口を叩く黒耀を制しつつ、再び目前に迫るラインハルトを見据えた。結局、二時間を空の逃走劇に費やして得た収穫は想歌と同化している創造主とやらが持つ知識の正確性とラインハルト・ヴァン・アストレアの底知れない実力の一端のみ。冷たい汗が背中を伝う。ならばと想歌は黒耀を構え、告げた。

 

「第二眼、解放。」

 

『ようやっと第二解放と相成ったか!待ち侘びたぞよォ。』

 

菫色の瞳が深紫へと変貌を遂げ、大太刀黒耀の気配が更に膨大なものと化す。その力は既に人一人が制御できる限界を超えており、想歌の魔力は只人が到達し得る領域を軽く超えていた。ラインハルトはこの日初めて驚愕に目を見開き、彼女を明確な国に対する脅威と看做した。

 

「これは......!」

 

彼の宮廷筆頭魔術師以上の圧倒的な魔力(マナ)、剣術に於いてはヴォラキアの青き雷光に匹敵、又は凌駕するかもしれない才、現時点の身体能力に至っては加護を保有するラインハルトに対抗するほどである。今この時、龍剣レイドが想歌の本質を捉え、ラインハルトは躊躇いなく伝説を抜いた。

 

『ッ...!想歌よ!!第三...いや、疾く最後まで解放致せ!』

 

「最終解放ッ...真視の刻(シンシノトキ)!」

 

深紫だった想歌の瞳に不規則な白銀と黄金が螺旋状に入り混じり、彼女の全身が神性を帯びる。悪性であればその姿を直視するだけで精神が崩壊するであろう神威を受けて、ラインハルトの加護は遂に想歌の正体を看破した。

 

「馬鹿な...君は一体...。」

 

権能によって神性を解放した想歌は迫り来るラインハルトの極意、龍剣レイドの光芒に彼女自身が保有する未来視、因果律干渉、空間支配の全てをもって臨み、自律型となった黒耀はその刀身を盾に最大の能力、虚無領域を発動した。

 

 

 

『......っていろ、俺が、必ず───。』

 

 

 

そして、ナツキ・スバルの死に戻りが同時に発動した。

 

 

 

 

 

 

 

「え...?は...?」

 

理解が追いつく間もなく、想歌として転生した男は建物の屋上で膝を突く。大好きなアニメの世界に理想の姿で転生できた?推し活を再開する?我ながら、現状を把握すらしていなかった自分自身に腹が立つ。ラインハルトの威圧は現代日本で温々と育った男にとって初めて向けられる敵意だった。それにすら対処出来ず、如何して推しを間近で拝む事ができようか。

 

『呆けておる場合かのォ...想歌の創造主とやら。この場に留まらば、先の展開と同じ轍を踏むのみぞ?』

 

「お前......話せた、のか...?それにあれは...想歌は、俺の中にいるのか...?」

 

『正確に申せば、想歌の中に魂が二つ宿っておる状態よのォ。ほれ、後で詳らかに説いてやる故、今は疾く動け。スバルとやらに会いたいのであろう─────?』

 

黒耀の言葉で我に返った元男の彼は震える手で大太刀の柄を握り締め、屋上の階段を駆け下りる。目指す先はこの世界の主人公、ナツキ・スバルがいると思われる街の大通り。ラインハルトへの対処方法は最初からそれ一つしかない。疑問は多々あるが、今は生き延びる事こそ最優先事項だ。




想歌の能力は下記の通りです。

・第一眼解放

権能の解放により、想歌の身体能力、黒耀の武器性能が飛躍的に向上。反射神経がより研ぎ澄まされ、高速の攻撃さえ視認してから回避可能となる。尚、気力(リゼロ世界ではマナ)を消費する事によって空中を移動する事が可能。

・第二眼解放

権能の解放により、想歌は人の域を超えた力を発揮する。身体能力や武器性能が更に向上し、音速を超えた斬撃を飛ばす等の異次元技を使用可能。気力を消費する事によって空中移動は勿論、見抜きの力といった相手の弱点を看破する能力を発動させる。

・第三眼解放

権能を解放する事により、想歌は未来視と空間支配の能力を一時的に得る。制約として気力や精神力に大きな負担がかかり、長時間の使用は命を削る。

・最終解放 真視の刻

権能を解放する事により、想歌は神性を帯び、常時神威を発揮する。未来視や空間支配、それに加えて因果律干渉を一時的に獲得。因果律干渉は相手の攻撃をなかった事にしてしまう規格外の技ではあるものの、代償は寿命である為、容易に使用できるものではない。黒耀は真視の刻解放中に限り、自律型となって虚無領域と呼ばれる対象の周囲を虚無に変える最大の防御能力を使用可能。つまり、どんな攻撃さえも飲み込んでしまうブラックホールである。
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