理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~   作:夕叢白

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第三話「最悪の場に居合わせました」

想歌の姿で大太刀の黒耀を片手に街中を疾走する元男は周囲からの注目を一身に浴びていた。ルグニカ王国において、黒髪黒目の容姿は極めて稀だ。それに加え、何処か浮世離れした美しさを醸し出す外見と細身の女性でありながら大太刀を軽々と手に持ち走る様子は通行人の視線を釘付けにするには十分だった。だが、そんな周囲の反応を気にする余裕など今の男は持ち合わせていない。

 

「くそっ、どこだ!どこに向かえばスバルに会える!?」

 

元男の必死に叫ぶ声が迷路のように入り組んだ路地裏に虚しく響き渡る。リゼロの舞台であるルグニカ王国についての知識は潤沢なはずだった。しかし、現実の光景はアニメや原作で観ていた空想とは異なり、今や迷子になる一歩寸前。最初に立っていた屋上のある建物にすら戻る事は不可能だろう。

 

「俺...何度もアニメも原作も見返したよな!?それなのに、どうして...。」

 

焦燥感に駆られた言葉は半ば自分自身への苛立ちに近かった。ラインハルトに感知されているかもしれないという状況が、彼の思考を余計に鈍らせている。

 

『やれやれ、もっと冷静にならぬか、創造主よ。お主の知識によらば、この路地付近にスバルとやらがいる可能性が高いのであろう?ならば焦るな。此処でないのなら、他に向かうべき場所はただ一つ、盗品蔵であろうよ。』

 

「盗品蔵......そうか、盗品蔵だ!」

 

黒耀の意見を受けて我に返った男は小さく拳を握る。記憶の糸を手繰り寄せ、ようやく確信を持てた。一度目の死に戻りの後、スバルはまだ己の異常に気付いていなかった。そこでエミリアの無事を確認するため、盗品蔵へ向かったはず。

 

「ありがとう、黒耀!お前頼りになるなぁ!」

 

『今更気付くとはなァ?何とも鈍い創造主よのォ。』

 

やや皮肉めいた返答ではあったが、今の男には軽口を叩いてくれる相手──人語を解する武器がいるだけ好都合だった。もし本物の想歌がいると判明しなければ、仮に黒耀が話せなかったら、男の精神はラインハルトとの戦闘でいとも容易く崩壊していた事だろう。盗品蔵を目指して、再び足を速める。

 

『想歌、お主の創造主は...想像以上に手間のかかる小童だのォ...。』

 

ぽつりと囁かれた黒耀の言葉は風に乗って消える。道中、大通り付近の路地裏で気絶していた見覚えのある三人のチンピラにスバルの行方を尋ね、男は確かに近付く最推しの気配に、より期待感を募らせていった。

 

 

 

 

 

 

 

石畳を踏みしめ、想歌のスペックを存分に発揮した全速力で盗品蔵を目指した男は遂に目的の建物に到着した。貧民街へ入った直後には日が沈んでおり、そこから盗品蔵を発見するまでにかなりの時間を要してしまった。薄闇に包まれた貧民街の一角で粗末な木製の扉が異様に大きく感じられる。男は荒い息を整える間もなく、黒耀を握る手が緊張で震える感覚を覚えた。

 

「ここだ...間違いない。盗品蔵...スバルは、ここにいる。」

 

だが、到着の安堵より先に背筋を這うような不気味な気配が想歌の全身を硬直させた。扉の向こうから漏れる微かな音────若い男の苦しそうな息遣い、誰かを憐れむような優しい声音で話す女性。恐らく盗品蔵の主であるロム爺は手遅れ、フェルトはたった今死んだ。扉一枚挟んだ向こう側で命を散らした。考えるまでもない。エルザの仕業だ。想歌の顔は酷く蒼褪めている。動揺は黒耀にも伝わっていた。

 

『何をしておる、想歌の顔で情けない面を晒すでないわ。早う入ってスバルとやらと顔を合わせればよかろうが?』

 

想歌になってしまった元男の足はまるで地面に縫い止められたかのように動かない。

 

「無理、だ...俺には、むりだ....。」

 

彼女の声は震え、弱々しい囁きのようだった。

 

『何を言っておる。』

 

「無理、なんだよ...中には...エルザが、イカれた殺人鬼がいるんだ...。」

 

名前を口にした瞬間、男の脳裏に蘇ったのはアニメや原作で垣間見たエルザ・グランヒルテの恐ろしさ。生きた人間を自身の欲求を満たす為に惨殺し、その美貌に似つかわしくない冷酷な笑みを浮かべる存在。どの媒体でも、彼女の圧倒的な狂気を目にしてきた。そして今、現実でエルザに立ち向かわなければならない。ほんの少し前まで一般人だった男が、だ。推し(スバル)の咆哮が聞こえた。推し(スバル)が吹き飛ばされ、呻く声が聞こえた。

 

『小童、お主は仮にも想歌の創造主であろう。されば、何を恐れる必要があろうか?己が弱さに苦悩するのであれば、眼を逸らさず、とくと見ていよ。お主が生んだ想歌の勇姿をな。』

 

「黒耀...?」

 

『交代と致すぞ、想歌。』

 

黒耀の合図と共に想歌の身体は動き出した。鞘から黒耀を引き抜き、盗品蔵の扉を大太刀の一突きで粉砕する。轟音が鳴り響き、今まさにエルザの一撃を回避しようとしていたスバルの目に想歌の姿が飛び込んでくる。それは下手人のエルザも同様であり、スバルへの攻撃の手を止め、姿勢を正しながら想歌と視線が交差した。

 

「あら、()()()()姿を現す気になったのね?」

 

「......問答は必要ない、あなたを殺す。」

 

「あなた...いいわ...とても捌き甲斐がありそう。」

 

『腸狩り』エルザ・グランヒルテと『黒耀の担い手』想歌の死闘が始まった。事態はナツキ・スバルを置き去りにして、混沌へと進む。

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