理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~   作:夕叢白

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第四話「初めて推しと出会えました」

ナツキ・スバルは戦慄していた。眼前にて火蓋が切られた謎の美少女とエルザによる刀とククリナイフの鍔迫り合い。片や無表情で攻撃の手を緩めず、片や恍惚とした面持ちで無数の斬撃を掻い潜り、ククリナイフで刀を受ける。もはや別次元の殺し合い。目の前で命を奪われたロム爺やフェルトとは違い、彼女らの戦闘は互角。喉の奥から込み上げる熱い胃酸を堪えながら、スバルはその場を動けない。両者による攻撃の余波で盗品蔵の床や天井、物品の破片がスバルへ飛散し、頬に一筋の紅が刻まれても、彼は想歌から目を離せなかった。

 

「あぁ...素敵、あなたは今までで一番愉しめそう!」

 

「私は楽しく、ない。」

 

腰から引き抜かれた二本目のククリナイフを構え、エルザの猛攻が強まった。想歌は黒耀を器用に扱い変則的な二振りの攻撃を捌いているが、やや不機嫌そうに眉根を寄せる。狭い空間での大太刀は不利にしかならない。そんな必然を自身の技術でカバーする想歌の剣術はやはり規格外であった。一方のエルザは純粋に死闘を愉しみつつも、想歌の実力を強かに見定めている最中だった。彼女の見積もりでは、想歌の実力はヴォラキア帝国の『九神将』クラスで確定。技量は筆頭のセシルスと同等かそれ以上────。

 

「本当に予想外だわ...こんな場所であの時の焼き直しをできるなんて!」

 

『ぬゥ......この娘、何やら剣速が上がりおったのォ。想歌よ、第一眼の解放時ではなかろうか...?』

 

「大丈夫。」

 

焼き直し、セシルス・セグムントに敗北したあの時とは過程も状況も全く異なるが、エルザは今、命を顧みない程度には死闘を満喫していた。肌で感じる異質な大太刀の気配、実力差から悟れる濃密な死の香り。彼女の中の本望が、想歌と死合える事に最大の悦びを感受していた。

 

二本のククリナイフが予測不可能な軌道を描き、蛇が獲物を絡め取るような狡猾さで想歌の綻びを狙い続けている。対する想歌は未だに寸分の狂いもなく、蹴りを含めた全ての攻撃を受け流している。その剣術は洗練されており、無駄が一切ない。全体的な動きが少なく、飽くまで人を殺める事に特化した効率重視の技量。完全に防御を無視したエルザの連続技が、又もや虚しく空を切った。狭い空間で大太刀が不利になるという常識を、想歌は完壁なまでに覆している。

 

エルザは恍惚とした微笑を更に深くし、想歌との間合いを一気に縮めた。懐に入りさえすれば、そこから先はエルザのフィールド。想歌の剣速は脅威的だが、エルザとて自身の得意分野で負ける気は毛頭ない。想歌も殺気を強め、その気でエルザを迎え入れている。

 

「素敵...!」

 

二本の刃を想歌の胸元に向かって交差させる。しかし、彼女は動きを見切っていたのか、短く後退。そして、大太刀の長さを最大限に活かした横薙ぎで追撃を牽制、エルザの攻勢に一瞬の間が生まれ、続けざまに踏み込んだ想歌の鋭い一撃をエルザは間一髪で体を捻り回避する。直撃を避ける事には成功したものの、大太刀の風圧がエルザの頬を掠め、その白肌に赤い線を残した。彼女は滴る血を軽く指でなぞると、再び想歌と視線を合わせる。

 

「愉しい...でも、本気は魅せてくれないのね...?」

 

「私は...あなたとは違うから...。戦いを楽しむつもりは最初からない。殺すべき相手を、ただ殺すだけ。」

 

「ふふ...やっぱり、歪んでいるのね。」

 

想歌はエルザとの会話が終わるや否や、今までにない速さでエルザへ急接近した。一連の動きはエルザの動体視力を以てしても、知覚するだけが精一杯だった。それは盗品蔵の扉を粉砕した際に見せた突きの構え、大太刀がエルザの心臓を狙い、光速で放たれる。黒耀の刃がエルザの胸部を貫いた。

 

「あぁ......素敵な......相手が......ここに......。」

 

想歌は大太刀をゆっくりと引き抜き、刀身の鮮血を振り払うと、黒耀を納刀する。エルザは嗜虐的な笑みを浮かべたまま、膝をつき、地面に倒れる。突き刺される直前、垣間見た深紫色に輝く想歌の瞳へ思いを馳せながら、腸狩りは意識を手放した。

 

「......眠い。後は...頑張って...神様。」

 

『誠に見事であった、想歌よ。今はゆるりと眠るがよい。』

 

 

 

 

 

 

 

想歌を創造した男にとって、彼女は理想を詰め込んだ大切なキャラクターだった。暗い過去を持ち、世の中に諦観気味だった彼女の心に光を齎したのは黒耀の担い手という使命、伝説の武器に天賦の才を見出され、彼女の世界は目まぐるしく変化した事だろう。人々に裏切られ続け、それでも善行を成し続け、最終的には『孤高の英雄』と呼ばれるに至った。たった一人の、孤独な男の欲求を満たす為だけに創造された想歌は義憤に駆られるわけでもなく、男を『神様』と言った。情けなく、頼りない、推しを助ける勇気すらなく、想歌の実力を一度でも疑った男の事を想歌は認めた。

 

「黒耀、俺は......想歌の創造主失格だ。」

 

『存じておる。』

 

「でも、頑張ってみるよ...。神様って言われるの、悪い気分じゃないんだ。」

 

『ふん、精々奮闘する事だのォ。───して、あそこで呆けておるスバルとやらに話しかけぬのか?』

 

黒耀の言葉を受け、想歌と交代した男は緊張を和らげるように一度溜息を吐くと、戦闘の余波でへたり込むナツキ・スバルへ静かな足取りで近寄り、前屈みの姿勢で声をかけた。

 

「えっと......大丈夫?」

 

ナツキ・スバルはこの時の光景を永遠に忘れない。何故なら、彼にとって想歌との出会いはエミリアの次に運命的であったのだから。




尚、この戦いで想歌(本物)は一つ大きな間違いを犯しています。想歌(元男)も気が緩みすぎて気付いていない。
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