理想になってゼロから推しを推したい!それって悪い事じゃねぇよなぁ?~同担拒否の推し狂い過激派TS人間が参ります異世界生活~   作:夕叢白

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第九話「腸狩りが現れました」

その後、原作通りの交渉を推しに丸投げした想歌────元い男はロム爺とフェルトに得意げな顔でミーティアを披露するスバルを尻目に壁へ背を預けながら、盗品蔵の外に意識を割いていた。

 

『おるのォ......嫌でも感じ取れる。』

 

()には証人になってもらわないとだから、文句言わない。」

 

今のところ、男が即席で考えた計画は順調に進んでいる。第一段階のラインハルトとの密談、第二段階の『俺がヒロイン候補になるんだよォ!作戦』、最終段階はもう間もなく、否が応でも始まる。想歌のスペックならば、中身がド素人でも強引に押し切れるはず。エルザを撤退させる事ができれば、こちらの勝利だ。トン・チン・カンを吹っ飛ばした時のあの感覚で、大太刀を叩きつける。

 

「......やってやる。」

 

エルザの不死性、身体能力、ククリナイフの本数は全て記憶している。原作の戦闘描写も、アニメでの戦闘シーンだって、知っている。想歌は眠っているが、伝説の刀の黒耀がいる。負ける要素が見当たらない。

 

「怖くなんかない。」

 

『創造主?』

 

「大丈夫、何でもない。」

 

交渉が始まって数十分、スバルがフェルトに向かって頭を下げる姿が目に入った。精一杯の誠意が込められた行動にフェルトは只々困惑し、ロム爺は中立的立場を崩さない。

 

「アタシは騙されない。」

 

頑なな態度を貫くフェルトに対して、不思議と怒りは湧かなかった。彼女の生い立ちをある程度知っているからなのか、今の想歌には仕方がないとすら思えてしまう。そして交渉が決裂したということは即ち、事態が動き出す。盗品蔵入口の気配を察知したロム爺が棍棒を持ち、扉へ向かった。今頃は外の彼も視認しているだろう、来訪者の姿を。だからこそ、迂闊な真似は許されない。

 

「開けるなぁ!ソーカ、ロム爺が殺されちまう!!」

 

「落ち着いて、スバル。」

 

真の危機はこの後に訪れると優しく教えてあげたいが、自分と似て非なる同担拒否の魔女の気に障らないとも限らない。スバルより先に自分が死んだ場合、死に戻りが適応されるかは不確定なのだ。心臓を握り潰されたり、魔女本人が降臨する事態は絶対に避けなければ。

 

「殺すとか、そんなおっかないこと、いきなりしないわよ。」

 

夕暮れの光に照らされ、幻想的に輝く銀髪。世界に嫌われ、身の丈に合わない重荷を背負うハーフエルフの少女。嗚呼、この世界で想歌になってから初めて見る顔だ。小説の挿絵や映像では何度も観ていたのに、実物はそれらより遥かに綺麗なのか。推しが惚れるのも当然のご尊顔だ。本来は存在しないぽっと出の自分がヒロイン候補を名乗ることなど、烏滸がましいにも程があった。

 

『あの娘っ子が耳長族のエミリアとやらか。ふむ、我が想歌に負けず劣らずの別嬪さんだのォ。』

 

黒耀がその容姿を高く評価する。エミリアの名前を把握している理由は恐らく、男の魂に刻まれた原作知識を勝手に閲読したのだろう。フェルトがエミリアと言い争いをしている間にも、部屋全体の温度が低下し続けており、硝子が砕けるような音と同時に虚空に大量の氷柱が発生していた。

 

『カッカッカッ、逃げ道を塞ぎながら会話で相手の気を逸らし、攻撃手段を展開するとは......中々に器用な事をする娘っ子よ。』

 

「兄ちゃん、まんまとアタシをハメたな?交渉はエルフの姉ちゃんが到着するまでの時間稼ぎってとこか、護衛なんか連れてる時点で怪しいとは思ってたんだ。結局グルだったじゃねーかっ。」

 

「どういうこと?あなたたち、仲間なんじゃないの?」

 

宙に浮かぶ氷柱を更に大きくしてこの場の全員を牽制しつつ、敵の数を見極めようとするエミリア。今一番警戒すべき人物は無言を貫く想歌である事は認識しており、彼女の頭上と背後には、より多くの氷柱が展開されていた。その時、エミリアの肩口辺りの空間が淡く輝きを放ち、光の粒子が手のひらほどの白い獣を形成していく。元男にとっては馴染み深く、有り得ない光景であった。

 

「パック......?」

 

「精霊じゃと!?」

 

「やぁリア、ちょっと予定より早いけど、出てきちゃった。」

 

精霊、パックは普段のようにのんびりとした様子ではなかった。警戒の色を濃く宿した瞳は細くなり、視線は真っ直ぐ大太刀を持つ想歌へ注がれている。

 

『ほォ、予定調和を外れて面白いのが出てきおったなァ。』

 

パックとは正反対すぎる黒耀の呑気な呟きには反応せず、想歌は表情を変えないまま静かに息を整える。自分というイレギュラーが介入している以上、何もかもが原作通りに進むとは思っていない。

 

「リア、もし戦いになったら、最初に攻撃した方がいいのはあの子だ。あれは、危険だよ。」

 

『どうやら先方はお主を危険人物と見倣したようだのォ。して、スバルが声を上げるか不明瞭となったが.....あの女にどう対処する?』

 

「そんなの、決まってる。」

 

この手で、護れる範囲を護る。想歌に相応しい創造主として、この体で理想を体現する。推しを、今度こそ必ず救う。例えそこに自分()の居場所がなくとも、今はただ頑張る。盗品蔵の外、夕暮れの風が軋む扉を揺らした刹那、黒い影がエミリアの背後から凶刃を振るった。スバルからパックへの指示はなく、予定調和は完全に崩壊した。しかし、崩れたならば新しい駒で流れを推し戻せばいいだけのこと。それを成すための力はもう、此処にあるのだから。

 

「あらあら、驚きだわ。あの距離から間に合うだなんて......あなた、とっても捌き甲斐がありそう。」

 

深紫に変貌した想歌の瞳────第二眼を解放した彼女は音を置き去りにしてエルザとの距離を詰め、大太刀の柄でククリナイフの一振りを受け止めた。

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