Blue Archive -数多の未来の追求者-[ブルアカ×LobotomyCorporation]   作:シータさん

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前回のあらすじ:いよいよ下層に到達した先生たち。そこにある二つの部門は、どちらもロボトミーのルーツ、もとい神秘に迫る重要な部門だった。記録チームではサイナからE.G.Oの存在について、抽出チームではハカリやアカリからE.G.Oの作用について有意義な説明を受け、この学園の生徒たちについての知見を深めたのだった。

今日から部活巡り編です。いろんな生徒を登場させてワイワイするためのフェーズなので、まだほんわかしてます。比較的。
とはいえ、やっぱり皆様が見たいのはこの生徒たちの戦闘シーンや曇らせシーンでしょう。部活巡り編が終わったらようやく本腰を入れるので、それまでもうしばらくお待ちを。

Q.普段はやっぱり銃を使ってるの?
A.もちろんブルアカ世界なので、基本武装は銃です。元からEGO武器が銃のアブノマがモチーフの生徒は、ほぼそのまま持って(例:魔弾の射手→ハンティングライフル)きます。元のEGO武器が銃以外の場合は、能力や見た目などからある程度妄想して作る形にします(例:ポーキャバス→遠距離無効=近距離戦が得意、攻撃で快楽物質を増やすナニカを投与→銃弾にバリエーションが多く近距離向きなピストル)。


彼女らの生きる意思

「"…なんだか、久しぶりに来た感覚がするなぁ。一回去ってから1時間くらいしか経ってないのに。"」

 

エレベーターのドアが開くと、見覚えのある金の装飾で飾られた景色が広がる。

ここは中央本部チーム。ロボトミーの中心だ。

なぜここに来たのか、その理由は一言で言えば"交流"だ。

というのも、一度各部門に訪問しはしたが、挨拶したのが各部門のリーダー格くらいで肝心の生徒との交流があまりできていないのだ。

先生という役職にとって、生徒との交流不足は死活問題。できるだけ早急に解決したい。

というわけでミゼから提案されたのが、「部活動を一通り見てみる」というものだった。

そして私はミゼの提案に賛同して、結果今に至る。

 

「全部の部活動を見るとなるとそこそこ時間がかかりますが…お時間の方は大丈夫ですか?」

「"大丈夫だよ。シャーレと他の学園の方には"視察で数日空ける"って伝えてあるし、ホテルは取ってあるから問題なし。この数日はとにかく生徒たちと仲を深めるために使うよ。"」

「なるほど……もしかして、先生って暇なんですか?」

「"全く暇じゃないよ。"」

「あっ…はい…」

 

どうやら私の顔を見て察したらしい。それはそれで疲れ切った大人の顔って言われてるようで少し悲しいな…

 

「"…そうだ、ロボトミーのマップとかってあるの?"」

「はい、ありますよ。ちょっと待ってくださいね…」

 

_ピロン

モモトークを通じて、ミゼからデータが送られる。

開いてみると、どうやらこれは3Dマップらしい。全ての部屋の位置が立体的に把握できる。部屋の部分をタップするとその部屋の概要や使用している部活なんかも分かっていい感じ。

2Dに切り替えもできるし、すごく便利だ。

 

「そちらがロボトミー追求学園内のマップです。ご活用くださいね。」

「"うん、助かるよ。それじゃあ…1番近いのは、"天体観測部"か。行こう。"」

 

とりあえず、順番などは気にせず近い順に巡ることにした。

現在地から1番近いのは"学習室Ⅳ"、天体観測部が使っている部屋だ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

_コンコン。

ノックを2回。

すると、ドタバタと物音がしたのちにドアが開く。

 

「おかえりなさいませ、コウ様!お待ちし、て……」

「"…ごめん、コウじゃなくて。"」

「……どなたですか?どのようなご用件で、ここへ?」

 

ドアを開いたのは、目隠しをつけた生徒。身体のあちこちに蒼いハートがあしらわれたアクセサリーをつけている。

 

「"私はシャーレの先生。視察に来たついでに、いろんな部活動を見てみようかと思って。"」

「そうですか……はぁ…面白いものはありませんけど、ぜひ見てってください。」

 

露骨に態度がダルそうだ。

部屋に入ると、大量の生徒が明らかに私のことを敵対視している目で見る。そして、みんな蒼いハートのアクセサリーをつけている。

そういえば、コウは大量の生徒をファンにしているとか聞いたな。つまりこれは…

 

「……先生、言い忘れてたんですけど…天体観測部は、現在ではほとんどコウさんのファンクラブみたいな存在になってまして……すみません…」

「"うん…幸先悪いけど、仕方ない…"」

 

ミゼがいるだけ幸いだった。1人で突入してたら最悪殺されてたかもしれない。

 

「あー…ここは天体観測部。名前の通り、星を見るための部活です。…それ以外になんか言うことある?ぶっちゃけなくね?」

「うん、無いわ。」

「あっ、ひとつ言っていーい!?そのお星様っていうのはぁ、我らがコウ様のことでもあるんだよね!」

「あー、確かに!いい事言うじゃん!先生、分かったぁ!?ここはコウ様のためにある場所だってこと。分かったならさっさと出てってくれるかなぁ?」

「そーそー!ウチらさっきまでコウ様の何が良いか縛りでしりとりしてたとこだったんだから〜!377回まで続いてたんだよぉ!?」

「あれ、最後の言葉なんだっけ?」

「"か"だよ、"か"。次アンタの番でしょ?今のうちに考えときなよ。」

「そっか、アタシの番かぁ!えーっと、"か"…"可憐な薬指"!」

「「「「「「確かに〜〜!!!!」」」」」」

 

「"……………"」

「………………」

 

ノリについていけない。なんかもう私抜きで盛り上がっちゃってるし。

どうしたものか…早めにどっか行っちゃおうかな…

そう思ってると、部屋の隅っこで1人体育座りをしている子を見つけた。

放ってはおけない。話しかけてみよう。

 

「"…えっと、失礼?"」

「………なんですか。」

 

その子は、まるで星空のように綺麗な髪をした子だった。だが、その目には大粒の涙が浮かんでいる。

 

「"君は、星は好き?"」

「……!」

「"君だけあのグループに入ってないから、もしかしたらと思って。"」

「…は、はい!僕、星が大好きなんです!」

 

当たりだ。この子は本当に"星のために"この部活に入っている。

きっと、入ってから周りのノリについていけずに孤立してしまったんだろう。可哀想な子だ。

だが、それでもこの部室に来ている。それはつまり、どれだけ辛い思いをしようとそれを超えるほどの星に対する情熱を持っているということだ。

 

「僕…小さな頃から星が好きで、いつかあの星を手に取ってみたいなぁ、とか夢に見てて…それで、ロボトミーに天体観測部があるのを知って、入ったんです。けど…実態は、こんな感じで……確かに、コウ先輩は僕なんかにも話しかけてくれるすごく優しい人なんですけど…うぅ、僕は星が好きなだけなのに…」

「"……お名前、教えてくれる?"」

「…『星河 ナガレ(ホシカワ ナガレ)』、です。」

「"ナガレちゃんか。覚えておくよ。"」

「…!先生…ありがとうございます!」

 

孤独で出来た涙が、初めて感動の涙にすり替わった。

この子にはちゃんと寄り添ってあげなければならない。夢を持つ子が折れてしまうようなことは…夢が終わるようなことは、あってはならないから。

 

「"そういえば、コウってどんな子なの?実は会ったことがなくて。"」

「コウ先輩は…すごく優しい人です。さっきも言いましたけど、1人の僕をずっと気にかけてくれて、『一緒に星を見よう』とか『いつか一緒にあの星にいけるといいね』とか話しかけてくれるんです。…多分、この部活でちゃんと部活らしいことをしてるのは、コウ先輩と僕と…カケちゃんくらいです。」

「"カケちゃん?"」

「えっと、今は多分外に出てると思うんですけど…『星夢 カケラ(ホシユメ カケラ)』って言って、僕の同期です。その…ちょっと、電波系?ですけど…でも、いい子なんです。僕の数少ない友達でもあります。」

「"そっか。ちゃんと同期にも友達がいてよかったよ。先輩が友達だと、もしその先輩がいなくなっちゃったら孤独に戻っちゃうからね。"」

「そうですね…カケちゃんは、かけがえのない友達です。えへへ…」

 

なんやかんやでいい感じの雰囲気になってると、突然後ろがざわつき始める。

 

「!ノックが2回!コウ様だ!!!」

「早く開けろ!アンタ行ってきて!」

「えっアタシでいいの!?!?やった〜〜っ!!!待っててください、今開けます!!!」

 

どうやら、コウが帰ってきたらしい。

バタバタと慌ただしく"信者"たちが動き、まるでお偉いさんでも迎えるかのように道を作る。

その道の先は私たちなのだが、そんなことは気にしてないらしい。もはや視界にすら入ってないのかも。

そして、その信者の1人が丁寧にドアを開ける。

 

「コウ様!!!おかえりなさいませ!!!お待ちしておりました、お身体大丈夫ですか!?」

「うん、大丈夫だよ。みんな、今日もありがとう。」

 

ドアを開いた先にいたのは、灰色のショートウルフに蒼く澄み渡った目をした、まさに王子様と言うべき生徒だった。

ただ、やはり普通の生徒とは違う。威圧感や畏敬、あるいはそれに似た何かが心の内側で渦巻くのを感じるのだ。

ナキの時も味わったが…これが、ALEPHか。

 

「…おや、お客人かな?あなたは…」

「"…あ、どうも。シャーレから来た、先生で、す…"」

「私は、その先生の案内役のミゼです。どうも、コウさん。」

「あぁ、先生か!カーラちゃんから話は聞いてたよ。挨拶が遅れて申し訳ない、もてなすための物は特に無いけど、ゆっくりしていってくれ。」

「"うん、ありがとね。"」

 

なんとか平静を保つも、既に脳は交感神経のスイッチを100%オンにしてしまっている。

少しでも気を抜いたら一気に引き込まれそうだ。

 

「コウ様〜!カッコいい〜!」

「コウ様!投げキッスして〜!」

「あぁコウ様…!今日も尊いです…!」

「あはは、やっぱり君たちは僕に首っ丈だね?あとで構ってあげるから、今は大人しくしててくれるかな?大事なお客様の前だからね。」

「「「「「「はい〜〜〜!!!!!」」」」」」

 

信者たちで形成されたレッドカーペットを下りながら、そんなキザな言葉を言う。素なのか策略なのか分からない。

 

「いやぁ、すまないね。もし貴方が部活を回るってことを早めに知っていれば、もっと早くにここに来ていたのだけれど。」

「"いいや、むしろこっちが急に来たんだから私が謝るべきだよ。ごめんね。"」

「あはは、やっぱり大人らしい対応だね。尊敬するよ。とりあえず、椅子だけでも用意しないと…」

「はい、コウ様!こちらです!」

「あぁ、ありがとう。でも、お客様を優先するのが礼儀というものじゃないかい?僕は遅れてきたんだし、椅子に座るのは最後でいい。先生とミゼさん、ナガレちゃんと僕。4脚用意してくれるかな?」

「あ、し、失礼しました!!!どうかお許しをっ…」

「…まぁ、確かに無礼な猫ちゃんには躾が必要だね…ほら、おいで。」

「えっ…!は、はいっ…!」

 

そうしてパイプ椅子を持った信者の1人を手の届くところへ呼び寄せる。

そして、お互いが止まり周りが静寂に包まれ、コウの処断の瞬間を待つ。

手が、首に向かう。

そして、指先が顎に添えられ…

クイ、と自分の目線と正面から向き合わせたかと思うと、耳元に口を近づけ、囁く。

 

「君は悪い子だ…ちゃんと、お勉強するんだぞ。ふーっ…」

「はわっ、はわわわっ……!!!!♡」

 

その囁かれた言葉と、トドメの一息が、その子の精神を全て持っていってしまったらしい。

顔を隅まで真っ赤にして、パタンと後ろに倒れてしまった。

 

「おや、お仕置きがキツすぎたかな…?ふふふっ…手加減をいい加減覚えないとなぁ…」

 

周りの信者は、そのあまりにも無惨すぎる(言い換えるならば、あまりにも魅力的すぎる)状況に絶句している。もちろん私たちも。

 

「"……………なにこれ"」

「…………………わたしもわかりません」

 

…わたしたちのは、どっちかっていうと呆れだったけれども。

 

「…おっと、またお客様の前で無礼を働いてしまったね…失礼。この子達はたまーに悪い子になっちゃうから、こうやって躾けなくちゃいけなくて…」

「"……そ、そっかぁ…"」

「あぁ、この子はどこか休めるところで休ませてあげて。それと、この子の代わりに椅子を4脚。今度こそ、お願いね?」

「「「「「「…は、はいぃ!!!♡」」」」」」

 

コウの一言で、信者たちが一斉に動く。私たちの元には即座に椅子が広げられ、気絶した子は丁寧に抱き上げられてどっかに連れてかれる。多分保健室だろう。

こういう時の連携力は、ある意味強みかも…?

 

「…さて、お待たせしてすまなかったね、先生にミゼさん。ナガレちゃんも、寂しい思いをしただろう。ごめんな〜…」

「んぇっ…他人の前でそれしないでくださいよぉ…」

 

まるで愛犬にするかのように、ナガレの頭をわしゃわしゃと撫でる。

どうやら、この子はコウに特別気に入られてるらしい。

 

「ナガレちゃんは、私の唯一の理解者…お互い、星を見るのが何よりも好きなんだ。この部活を作ったのも僕。他に星が好きな人が集まらないかと思って作ったけど…来てくれたのは、僕のための子だけ。別に1人でも星は見れるけど、本当の僕を見てくれる人がいないのは寂しかった。けど、そこにこの子が来てくれた…この子は、僕のためじゃなく星のために来てくれたんだ。それが、たまらなく嬉しくて…僕は、この子を守り切ると決めた。まあ、それでもこの子に寂しい思いはさせてしまってるが…やっぱり僕も、まだまだだね。ははは…」

「"やっぱり、君も優しいんだね。さすが、強い生徒なだけはある。"」

「…僕が強いだって?またまた。お世辞はやめておくれ。ナキっちに比べればまだまだだよ。私は近接戦闘ができない、遠距離の精神汚染担当だからね。1人じゃ何も出来ないさ。」

「"でも、君には仲間を作れるカリスマがあるでしょ?仲間がいるなら、文字通りの百人力だよ。"」

「…ふふっ。」

 

コウが小悪魔みたいな笑みを浮かべる。

一挙手一投足がいちいちあざとい子だ。そりゃあ信者だって増える。

 

「先生…貴方は僕と似ている。そうやって…意識的だか無意識的だかは分からないが.人の心にズカズカと入り込んで、勝手に闇を取っ払ってしまうような事ばかりをする。優しいのはいいが…優しすぎると、僕みたいになってしまうよ?」

「"生徒に優しく接するのが、先生の役目だよ。"」

「…役目、かぁ。君は、きっと役目のためなら命だって投げ捨てるような人なのだろうね。尊敬するよ。本当に、ね…」

 

_かたっ。

そう言って立ち上がると、ゆっくり私の方へと近づく。

そして、目の前で止まったかと思うと突然顎に手を添えられる。

 

「"わっ、ちょっ…!?"」

「…先生。」

 

そして、顔同士が少しずつ近づき…

 

__ふっ。

 

口に、細い息がかけられる。

唇のほんの一部すらも触れてないにも関わらず、胸にドキリと大きな鼓動が響く。

 

「"…えっ、えっ…???"」

「…ファンの子の前だから、これだけで済ませてあげる。他人の心にズカズカと入り込んだその罪、しっかりと償ってもらうからね。」

「"なっ、あ、あ……"」

 

突然すぎるアプローチに、頭が混乱する。

罪?償い??意味がわからない、なんでコウは私にこんなことをしたんだ???

 

「…意味がわからないって顔だね。本当に、無責任だ…あまり、僕を怒らせないでくれよ。やろうと思えば、いつでも君を僕のモノにできるんだから…♡」

「"っ……ごめん!もう次行くね!"」

「えっ、先生っ!?…あっ、えっと…わ、私もこれでっ!」

 

思わず、急いで逃げ出してしまう。

怖くなったのが1番の要因だが、それ以外に…なんだか、変な感情もあったような気がする。

とにかくこのまま接しているとまずい。そう思ってしまったのだ。

 

「…ははは、もう帰っちゃうんだね。じゃ、またね、先生?」

「あ、えっと…ありがとうございました!先生!」

「"うん!ごめんねっ!"」

 

即座に扉の外に出て、できるだけ遠くへ走る。

もしかしたら追ってくるかもしれないから。もしかしたら狙撃されるかもしれないから。

走って、走って、とにかく走る。あれは私が相手していい生徒じゃない。

 

「ちょっと、先生!急にどうしたんですかっ!?!?」

「"はぁっ、はぁっ!逃げなきゃっ…逃げなきゃっ…!"」

「くっ…!誰か!精神回復弾を!」

 

やめてくれ、私は正常だ。

弾丸なんて撃ち込まれたら死んでしまうだろう。

やめてくれ、やめてくれ、やめろ、やめるんだ。

 

「っ…!誰かっっ!!!!」

 

ミゼが叫ぶ。

彼女が叫ぶのを見るのは初めてだ。意外だな。

私はただ逃げてるだけなのに、何をそんなに…

 

_バシュッ!!!

 

「"ぁがっっ!?!?"」

 

刹那、頭に何か質量のあるものが高速でぶつかる。

痛い。だが、貫かれたわけではない…?

 

_ばたっ。

 

突然の衝撃に、前に思いっきり倒れ込む。

そこそこ痛いが、何か傷を負っているわけではないらしい。

 

「はぁっ、はぁっ……先生っ、大丈夫ですかっ!?」

「"はぁ…はぁ………えっと……私、何を…?"」

「パニックになってたんですよ。あれは逃走性パニック…おそらく、コウさんとの交流で混乱した結果、なし崩し的にパニックまで陥ってしまったのでしょう。すみません、私がしっかりと先生のことを観察してれば…」

「"……もしかして、迷惑かけちゃったかな…"」

「……まぁ、正直迷惑でしたよ。でも、仕方のない迷惑なので許します。やはり、ALEPHと接するのは危険…会った2人がどっちも精神系の生徒だったせいかもしれませんが、どっちにしろALEPHの生徒と接するのは控えた方がいいです。」

「"…うん。気をつけるよ…ごめんね。"」

 

頭のズキズキした痛みを抑えながら、なんとか立ち上がる。

さっきまでの焦燥がウソだったかのように精神が鮮明だ。

やはり、さっき撃ち込まれたのはやはり精神回復弾というものなのだろうか。つくづく便利な世界だ。

 

「"…それにしても、誰が助けてくれたんだろう?"」

「さぁ…でも、狂乱状態で走っている人間の頭に正確に当てるのは只者ではありませんね。もしかしたら…」

「…先生、大丈夫でしたか?」

「"う、うん…なんとか…どうか、した…?"」

 

すると、目の前にピンクの軍人服を着た生徒がやってくる。

 

「大丈夫ですか!?胴体に当てるつもりだったんですけどつい!」

「"…えっ…?"」

「…あなたは…」

「…あぁ、すみません!自己紹介が遅れました…私は2年1組、クレー射撃部所属の『桃形 アミ(モモガタ アミ)』であります!敬礼!」

 

そう言うと、ビシッ、そんな音が聞こえるほどのキレで敬礼をする。

アミ…どこかで聞いたことがある気がする…どこだっけ?

 

「"…えっ、と…その、もしかして…私のパニックを治してくれたのかな?"」

「はい!軽度のパニック状態でしたので、MP-04弾を1発撃ち込ませていただきました!目視した限りでは精神値は正常のようですが…何か異常はございませんでしょうか?」

「"いや、大丈夫…めっちゃ痛かったけど…"」

「あっ…も、申し訳ありません…」

 

アミの左手には、本人と同じくピンク色の迷彩で包まれた近未来的なスナイパーライフル。

よく見ると、マガジンのあたりに青いラベルが貼ってあるのが分かる。もしかしたらあれが精神回復弾なのかもしれない。

 

「…とにかく!ご無事でよかったです!この学園は精神汚染に曝される可能性の高い場所でもありますから…汚染深度によっては、一生の傷になってしまう可能性もあります。念の為に、精神保護用のグッズなんかも買っておくといいですよ。」

「"うん、ありがとね…ふぅ。よし、気を取り直して!視察を続けようか、ミゼちゃん?"」

「…身体の方、本当に大丈夫なんですか?疲れてたりとかは…」

「"大丈夫かな。3徹で書類仕事してた時よりは元気だよ。"」

「それと比較したら大体大丈夫になりますよ…」

 

すると、ミゼは呆れたかのような表情で懐から何かを取り出す。

銀色にところどころ青のデザインが施されたパックの、ゼリー飲料のようなものだ。

 

「これ、どうぞ。保健室でついでに貰ってきました。精神回復と疲労回復を両立した、福祉チーム謹製の携帯ゼリー飲料です。お土産ついでに渡そうと思ってたのですが…どうしようもないので、今一つ渡しておきます。」

「"あ、ありがとう…そんなものまであるんだ…"」

 

パックにはスタイリッシュなフォントで"SPEED FRESH - M+B"、その下には"ブルーベリー味"と書かれている。見た目は本当にどこのコンビニにも置いてあるゼリー飲料みたいだ。

これがこの学園でしか売られてないというのが残念だ…いろんなところと交渉して、各地に置いてほしい。あとシャーレにも数十本は常備したい。

早速フタを開けて、ノズルを加えて中身を流し込んでみる。

 

「"…!美味しい!普通に飲料としても美味しいよコレ!"」

「そりゃあ福祉チームが開発した"最高傑作"と称されるほどのものですからねぇ。開発から時間が経った今でも、時々在庫切れが起こるほどです。」

「"これ…他の学園にも置いてほしいなぁ…疲れもみるみる取れていくし、なんだか視界もスッキリした気分だ…"」

 

福祉チーム謹製と言われるだけあって、その回復力も見張るものがある。

微に感じていた疲れや頭のモヤモヤが晴れて、マインドがクリアになったような、そんな効果がゼリーを飲み込んでからすぐに表れた。

やはりこの学園の技術力はすごい…是非ともシャーレや他の学園と関係を築いてほしい、そう思った。

 

「"…ぷはっ、ご馳走様。これ本当にいいね…後で、福祉チームにお礼ついでに商談しに行こうかな。"」

「お口にあったようで何よりです。」

「"うん、気にかけてくれてありがとうね。それじゃ、次の部活は…"」

 

閑話休題、改めて視察を続けよう。ということで、またマップを見ようとスマホに手をかける。

と、いうところでアミが興味深そうに口を開いた。

 

「あ、もしかして先生、今部活巡りをされてるんですか…?」

「"ん?あぁ、そうだよ。いろんな部活を見て、交流を深めようかなって。"」

「でしたら…私の部活、クレー射撃部にお越しになりませんか!?」

 

ここがチャンスだ、というように体を前に乗り出して勧誘してくる。

いつかは行くつもりではあったが…せっかく誘ってくれたし、助けてくれた恩返しも含めて行ってみるのも悪くない。

 

「"じゃあ、せっかくだし行こうか。案内よろしくね。"」

「はい!私、先生の護衛として職務を真っ当させていただきます!」

 

自己紹介の時のように、またビシッと敬礼をする。

そのあまりにも真っ直ぐな仕草に、思わず自分も敬礼をしてしまうのであった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

 

"射撃訓練室"と書かれた扉の前に立つ。

中では部活動真っ只中のようで、くぐもっているものの破裂するかのような銃声が何回も鳴っているのが聞こえる。

 

「ここがクレー射撃部の部室です!普段は生徒たちの射撃訓練用として存在するのですが、放課後ではクレー射撃部が利用しております!では、どうぞ中へ…」

 

アミが扉を開くと、音漏れしていた銃声がより鮮明になっていく。この世界に来てしばらく立つが、やはり慣れない。

中は、教室よりもはるかに広い。外から見ても明らかに寸法とは合っていないので、何かまた別の私の知らない技術でも使っているのだろう。

それに、普通想像される室内の射撃訓練場とは違ってここでは空も自然も見える。区画によってその風景もさまざまで、他にもアビドスのような砂漠であったり、地上のようなビル群であったりと多種多様。どうやら、撃つ人の好みで風景を変えられるらしい。

 

「"すごいね、なんで空が見えるんだろう…"」

「それは、この部屋の壁一面にホログラムモニターが設置されているからなんです。今のような自然の風景はもちろん、市街地に砂漠、宇宙空間みたいにすることだってできるんです。空間が広いのも、構造物を圧縮・拡張することができる技術を利用しているんですよ。また、いろんな技術を組み合わせることで地形を臨機応変に変化させることだってできます。遮蔽がある状態でのシューティングや、ゲリラ戦のシミュレーションなどもできますね!」

 

前では何人かの生徒が銃を構え、真剣に前を見据えている。その後ろでは順番待ちか、あるいは休憩中の生徒たちが銃を整備したり飲み物を飲んだり、あるいは友達と談笑したりしている。

一目見ただけでも生徒が多く、雰囲気も賑やかでいい感じだ。おそらく人気な部活なのだろう。

 

「クレー射撃部…と名乗ってはいますが、実は射撃種目であればなんでもできるんですよ。ターゲット射撃はもちろん、長距離射撃や市街地戦シミュレーション、別の部室に行けばサバイバルゲームだってできちゃいます!私は狙撃兵なので、長距離射撃を専門にしてますね〜。」

「"いろんなことができるんだね。道理で生徒が多いわけだ。"」

 

時々挨拶をしたり、射撃中の生徒を遠くから見守ったりしながら軽く部屋を歩き回る。

すると、休憩中の生徒の中に見覚えのある顔を見つけた。

 

「"あれ?君は…ヨルじゃん!ここにいたんだ!"」

「…げっ、お前はっ…」

 

露骨に嫌そうな顔をする。

 

「なんでお前がここに…チッ、ストレス解消のために来たのにまたストレス溜まるハメになるじゃないか…」

「"もしかして、私のこと嫌い?"」

「きらっ…!そ、そういうわけじゃないが…お前がいると調子が狂うんだよ!」

「"あ、嫌いじゃないんだね。じゃあよかった…"」

「ぐっ…!ぐぬぬぬぬっ…!!」

 

澄ました顔がすぐに真っ赤になる。相変わらずからかいがいのある子だ。

ネルとかイオリとか、そういう子と同じ感じがする。

 

「…っはぁ…それで、なんだ来たんだ?まさか私に会いに来たわけでもあるまいに。」

「"別に特別な意味はないよ。ただ、部活を巡ってるってだけ。ヨルに出会えたのも偶然だよ。"」

「そうか…嫌な偶然があるものだな。お前が連れてきたのか?アミ。」

「はい!パニック状態の先生を私が治療した後に、私が案内したんです!」

「…お前はいつも余計なことを…まぁいい。せっかく"視察"として来たのだから、少しはもてなしてやろう。こい、先生。」

 

そういうと、ヨルが横に置いていたライフルを手に持ち、ちょうど空いた一つの区画へ足を運ぶ。

どうやら見せたいものがあるようで、同時に手で「来い」という風にジェスチャーもしてくる。

 

「今から見せるのは、私の生み出した作品…"魔法の弾丸"だ。どんな相手だろうと、どんな場所にいようと、確実に頭を撃ち抜ける…それが、射手の望みであれば。今回は、その力の一端をお見せしよう。」

 

そう言うと、横にある操作パネルを片手で軽々しく弄る。

 

『市街戦シミュレーター・定点狙撃・難易度高・標的6体 オーダーはこれでお間違いないでしょうか?』

「了承。」

『オーダーを確認しました。シミュレーション風景を投影します。』

 

機械的な音声がそう告げると共に、ガチャガチャという機械音と共にヨルのいる区画がビルなどが何本も建った市街地に変わる。

本物のビルが目の前にあるかのように実体を持ってそこにある。これが、アミが言っていた地形変化なのだろうか。

ヨルは立ったまま、ストックを肩につけ、指をトリガーにかけ、銃口を前に向け、スコープも何もついていないサイト越しにその風景を眺める。

その瞬間、ヨルの周りに青い、それでいて黒い炎のようなオーラが漂い始めた。

思わず息を呑む。

 

『シミュレーションを開始します。了承後、5カウントで開始になります。了承をしてください。』

「…了承。」

『了承を確認。5・・・4・・・』

 

一層、炎が濃くなる。

それと同時に、ライフルの先…マズルのあたりに、蒼く光る魔法陣が浮き上がる。

 

『3・・・』

 

銃声が消える。

あまりの緊張感に、気づけば周りで射撃をしていた生徒たちすら手を止めてしまったらしい。

 

『2・・・』

 

後ろから見ているだけでも、ヨルの殺気とも言える緊張が伝わってくる。

 

『1・・・』

 

始まる。

 

『開始。』

「…!」

 

_ズダァァァンッッ!!!

 

始まった瞬間に、トリガーが引かれる。

だが、その銃口の先には標的らしきものはなく、ただ道路が続くのみ。

あんなのが当たるわけない、そう思ったが…

 

_ピッ

 

標的の数を表しているであろう、横のモニターにあるマーク。そのうちの一つが緑に光った。

 

eins(1発)。」

 

よく見てみると、ヨルから見て左側、前から2番目のビルのすぐ側に人が倒れていた。

そして、その頭にはまさにど真ん中に風穴が空いていた。穴の周りは、ヨルの纏うオーラと同じ青色に光っている。

場にいる全員が驚愕したが、肝心の本人は全く気にしない、当然の結果だとでもいうように落ち着いてレバーを引く。

 

_カチャッ

 

コッキング。空の薬莢が床に転がる。

 

_ズドンッッ!!

 

そして再び射撃。

再びモニターに緑のマークが光る。

 

zwei(2発)。」

 

よく見ると、撃った先に銃口と同じ魔法陣があり、そこを皮切りに弾丸の青い軌跡が途切れている。

魔法陣から弾丸を転送して、当てるべき相手の前に再び弾丸を出現させているということだろうか。

 

_カチャッ

 

落ち着いた様子でまたコッキング。

 

_ズバンッッ!!

 

息を吐く間もなく射出。緑のマークが3つに増える。

 

drei(3発)。」

 

淡々と、ただただ淡々と撃ち抜いていく。

その照準の先は、誰にも合っていないにも関わらず。

弾丸は、必ず頭を貫く。

 

_ズダァンッ!!

 

vier(4発)。」

 

_ズドォンッッ!!

 

fünf(5発)。」

 

_ズギャンッッ!!

 

sechs(6発)。」

 

そうして、6発全てがあっという間に消えていった。

もちろん、全弾的中。その全てがヘッドショットだった。

 

『…シミュレーション完遂、命中率100%、鎮圧時間は00:00'34"71。新記録更新です。おめでとうございます。』

「…ふぅ…」

 

_カチャンッッ

 

小気味いい金属音と共にコッキングすると、最後の薬莢が床に落ちる。

よく見ると、薬莢もヨルと同じ青い炎を纏っている。

 

「…これが、"魔法の弾丸"だ。どこに撃とうと、最終的に目標の頭を貫く。いかがだったかな?」

「"……す、すごい…すごいよ、ヨル…!!!"」

 

_パチパチパチパチパチッ!!!

 

思わず立って、拍手をしてしまう。それと同時に周りも続々と立ち上がって、拍手をしたり感嘆の声を上げたりする。

先ほどまで静かだった部屋が、また騒がしくなった。

 

「すげぇ!!」「さすがヨルさん!!!」「カッコいい…!!」「アタシも欲しい!!!」

「…は、ハハッ…私が…ふっ、と、当然だ!なんせ、私は情報のリーダーだからな!」

 

さっきまでは殺気と共にトリガーを引き続けていたヨルだったが、今では顔を真っ赤にしながら口元に手を当てている。きっとにやけを隠しているのだろう。

 

「"さすがだね、ヨル!やっぱり君はカッコいいよ!最高!"」

「う、うっ…ま、まぁな!しっかりもてなしができたようで私も喜ばしい限りだよ!」

「"うんうん!見れてよかったよ…!ヨルちゃん万歳!"」

「ば、万歳っ!?お、お、お前っ…あまり持ち上げすぎても調子がっ…」

 

「…ヨルさん万歳!」「ヨル先輩万歳!」「ヨルちゃんバンザーイ!」

 

「…っ…!?えっ、あ、私が…!?」

 

なんとなくで言った言葉だったのだが、どうやらみんなも気に入ってくれたらしい。

喝采がだんだん一体感を増してきて、みんながヨルの元に集まる。

 

「万歳!万歳!バンザーイ!」

「わ、わわっ…!?お、お前らぁっ…!流石にそこまでっ…!」

「ヨル先輩最高!ヨル先輩最高!」

 

後輩も同世代も、みんなが集まってヨルを胴上げする。

自分たちは流石に遠巻きから眺めてはいたが、それでも彼女たちの熱気や尊敬の念は伝わってきた。

 

「ヨル先輩最高!ヨルさん最高!Foo〜!!!」

「うわあぁぁぁ!!!高い!!!天井ぶつかる!!!ぶつかるってぇっ!!!」

 

「は、はぁ…はぁ…お、お前らなぁ…」

 

しばらくして、ようやくヨルが解放される。

疲れてはいるものの、どこか嬉しそうな表情のままだ。

 

「"君は、尊敬されているんだね。ヨル。"」

「…別に、勝手についてきてるだけだ。私は、別にただやるべきことを…」

「"勝手に人がついてくることなんて、そうそうないんだよ。誰かが君についていくのは、君が尊敬するに足りうる…例えば人柄であったり、優秀さであったり、カリスマであったり…そういったもののおかげなんだ。"」

「…」

「"だから…もう少し、自信を持ってもいいんじゃない?君は、十分にカッコいいんだ。"」

「……はっ、なんだっていい話にしようとするんだな、お前は。ま、先生だから当たり前か…」

「"うん、生徒には未来を見てほしいから。"」

「…未来……」

 

どこか、ハッとしたような顔をする。

なんだか憑き物が晴れたような感じだ。

 

「…なんやかんやで、先生に出会えて良かったよ。少し考え方が変わった。ありがとう、感謝する。」

「"はは、ようやく素直になってくれたね。"」

「……うるさい。お前がそう茶化すから素直になれなかっただけだろうに…」

 

こうした接してみると、外面はクールで冷徹な感じでも内側には何かアツい心を秘めている子のように感じる。

きっと、昔はその情熱が理解されないことが多かったのだろう。だから、理解されないならいっそと表にその情熱を出さずに1人で解消するようになってしまった。だが、ここには理解してくれる生徒たちがたくさんいる。

そのことをしっかりと分かって、その情熱を共有してくれれば、きっとみんなも…そして、ヨルも、幸せになれるはずだ。

 

「"それじゃあ、そろそろ別のところにも行くね。ありがとう、ヨル。それとアミも、案内ありがとうね。今度は君の射撃も見てみたいな。"」

「…あぁ、また来てくれるなら歓迎しよう。タイミングが合えば、新しい弾丸も見せてやる。」

「ありがとうございました!次も是非いらしてくださいね!」

 

手を振り、みんなに別れを告げる。みんな挨拶してくれて、すごく柔らかい雰囲気の部活だった。




描写から分かるように、私はコウちゃんみたいなボーイッシュな女の子が大好きです。カンナちゃんとかサオリとか。
せっかくいろんな生徒を登場させるので、暇があったら1人の生徒との絆ストーリー的なのを短めに書いてみたいですね。今はストーリーをとにかく消化しなきゃいけない時期なので書けませんが。

いよいよ明日から共通テストです。受験生の方はこんなもの読まずにさっさと寝て明日に備えてください。それ以外の方は応援してください。

追記:突然デカグラマトンの新PV出ましたね。なんかマジで核心迫りそうで怖い。
実はオリジナルで出したいデカグラマトンがいるんですが…先に名前使われたらどうしようもないな〜。

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