お兄ちゃんは知らなくていいことが多い。けれども、知らなければならないことも多い。
カルデアの医務室に、俺こと明楽ユウキはいた。
ダ・ヴィンチ氏に呼び出されたのだ。一体なんだろうか?
「………単刀直入に言うね?君の中に、"聖杯"がある。」
──何それ?
「簡単に言えば、我々の業界で言う"万能の願望器"さ。どうやら、君がいたあの森にある筈の聖杯が、君の中にある。」
──どゆこと?
「……ここからは、我々が。」
そう言いダ・ヴィンチ氏の隣にいた赤い服の人……カルデアの婦長こと、ナイチンゲールさんである。
「あなたの中には、聖杯と呼ばれるものがあります。それは、貴方があの特異点……あなたの証言でいえば、あの森にいた事であなたの中にできた"癌"のようなものです。」
──うへぇ……じゃあ、取り除かないと行けないってことだよな?
「ええ。ですが、それは不可能だと結論付けられました。」
──なんでだ?ナイチンゲールさん。
ナイチンゲールさんは、ひと呼吸置いたあと、俺の目をしっかり見て
「その聖杯は、貴方そのものを"聖杯"として機能するもの……つまりは、取り除けば貴方は死ぬことになります。」
──え。
うーん、マジかぁ……。でもなんで?
──……まぁ、聖杯が俺を使って動くのは置いておいて、取り除いたらなんで俺が死ぬんだ?
その疑問に答えたのは、ダ・ヴィンチ氏だった。
「それはね、あの世界は君を特異点の楔……あの場所に留まらせる為の杭にしようとしていたようなんだよ。君の中に聖杯があるのは、その影響……聖杯自体、君の中にある以上何があるかは分からない。」
──つまり、帰れる可能性が低くなった?
「………済まないね。その可能性は現状ない。君の中にある聖杯をどうにかして君から切り離すか、君の中で消化する以外はね。」
──え、消化できるの?
「理論的にいえば、可能だよ。君は聖杯そのものになり掛けていた。しかし、君があの森にいるエネミー達を処理し続けたせいで、聖杯が育たなかった。」
──なんだその、腹ん中にいる赤ちゃんみたいなの……。
「いい例えだ、その通りなのさ!君の中にいた聖杯という赤子に、エネルギーが送られなかった!」
「聖杯という赤子に、栄養素が送られることがなく育たなかった。我々カルデアはそう結論付けたのです。」
──へぇ…。エネミーねぇ……?あ、あの猪とか野生動物たち?
「そう!特異点が極端に小さかったのも、君が聖杯にならなかったのも、君がエネミー達を狩って食したからさ!あの特異点はエネミー達が居ないと成立しない世界……君は、そこの聖杯として彼処に縛られ続ける事になる予定だったんだろうね〜。」
──……うへぇ……結構危なかったんだなぁ……。
「そうだね。最悪の場合、君と藤丸くん達が戦わなければならなかっただろうね。」
──良かった〜そうならなくて。……んじゃ、俺はまだしばらくここにいる必要がある……って事だな?
「そうなります。今後は、経過観察も兼ねて定期的に診察を行います。良いですね?」
──はい…。
その後、俺は医務室を後にし、ダ・ヴィンチ氏と別れたあと暇になった。
──………仕事を手伝いたいが、今のところなんもやらせて貰えないんだよなぁ……まぁ、余所者だしな。
部屋に帰ってゆっくりしようかな?でも、かなり暇なんだよなぁ……
そう思いつつ廊下を歩く。廊下には職員も入れば、奇抜な格好をした人も居る。……リツカ曰く、英雄の影……だそうだ。
正直よくわからん。ただ、アイツらの味方なら何でも良いやって感じ。
「おい、そこのお前。」
──はい?
廊下を歩いてそのまま部屋に帰ろうと思っています俺に、後ろから声が掛けられた。
振り向くと、職員と同じ服装はしているが、雰囲気が違った。
「お前、時計塔では見たことないな。どこの所属だ?」
──………すみません。俺は諸事情でここにいる一般人です。その時計塔?とか、よく分かんないです。
「………そうか。済まなかったな。」
話しかけてきた人はそのまま何処かに行ってしまった。なんだったんだろ?あと、なんかアイツらの血の匂いが……え、血の匂い??
怖、通報しよ。
「(………あれが、人類最後のマスター達の兄……魔術すら使えぬ一般人だったか。これでは、触媒にしても意味は無い。)」
魔術師はそう考えながら、廊下を歩く。彼は時計塔からやってきた者の一人であり、人類最後のマスター達である藤丸兄妹の遺伝子を、隙を見て触媒にしようと企んでいる者だ。
「(数多の英霊と縁を持つ人間の細胞……触媒にすれば様々な英霊達を我が手にできる……そうすれば聖杯戦争にも勝てるはずだ……!!)」
しかし、ここはカルデア。人理継続保障機関の名を持つ組織だ。ここでそのようなことをすれば感知されるのは必然。
そもそも、時計塔の魔術師達はとある縛りをカルデア側から設けられていた。
それは、【カルデア内のあらゆる情報の持ち出し禁止】である。
"人類最後のマスター達の遺伝子"など、最たる例だろう。それを触媒に加工したとして、情報を持ち出していないなどと言う屁理屈は通用しない。
「(さて、マスター達の遺伝子は既に我が手の中。後はこれを加工して……)」
そう考えていた矢先、ドアが開かれる。そこから複数人のカルデアスタッフ達が入ってきた。
「!?」
「そこまでだ、魔術師。我らがマスター達の遺伝子を持ち出そうとしたその罪。万死に値する。」
「なっ!?」
そこには、キャスターやアサシンクラスのサーヴァント達も居た。唯一の出入口は既に包囲されており、逃げ場はなかった。
「な、何故バレた!?痕跡は一切…残してなかったはずだ……!!」
「我らはサーヴァント。あなた達のような者が居るだろうと、一部の者たちは霊体化して潜んでいたのです。」
「それと、先程通報もあったので。」
「つ、通報だと!?」
魔術師は狼狽えた。自分が違反を犯していると通報したものが居たのだ。しかも、手に入れてからかなり時間が立っていながら。誰かに見られている可能性はあったが、それならばあの時既に通報されててもおかしくはない。が、されたのはつい先程……つまり。
「(あ、あの男か!!!人類最後のマスター達の兄!!貴様かァ!!)」
「ふむ、なるほど……血を、固形の触媒に加工しようとしていたのですか…。それもかなりの量を作り出そうとしていた。」
「へぇ…?俺たちが居るってのに、そんな事しようとしてたのか。舐められたもんだな?」
「ちなみにだが、我々サーヴァントではないぞ?証拠を抑えるために貴様を尾行していたがな。……彼奴が一番初めに気が付くのは、必然だったろうな。」
「く、くそ!!」
その後、魔術師は反抗しようとしたが、魔術師一人がサーヴァントに勝てるわけがなかった。そのまま処されたその魔術師は、記憶を消した上でカルデアを追放されたのであった。
一方その頃、リツカとユウキは部屋でぐ〜たらしていた。
──リツカ〜、お前最近血を取られたか?
「え?血?献血の事?前に健康診断の為に一回したよー?」
──……そん中に、カルデア以外の職員は居たんか?
「ううん。居なかったよ。どうかしたの?」
──そっか〜……ならいいや。(気のせいだったんかな?……でもなぁ、めっちゃ薄かったけど、確かにリツカ達の血の匂いだったしなぁ……あの森で血の匂いに敏感になったのは、ちとデメリットだったかぁ?)
そんな事も考えつつ、適当に時間を過ごすのであった。
後日、ユウキはあの魔術師が追放されたと聞き驚いたが、まぁ違反を犯したのなら仕方ないね。って感じで流した。その後はフォウ君をモフりながら一日を過ごした。
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