もしもイーサンがクイーン・ゼノビアに乗っていたら 作:秋塚翔
オリジナル作品がこれでもかと伸びないので、友人のハーメルン作者さんからの提案でバイオ二次に手を出してみました。既プレイはリベレのみで、他タイトルは動画視聴のにわかですが、なんとかやっていきたい所存です。
割とありえなくない、けれどありえざる深淵の戦いをどうぞお楽しみください。
「くそッ、一体どうなってるんだ……!?」
イーサン・ウィンターズは訳も分からぬまま船内を逃げ惑っていた。
仕事で知り合ったハサンという男に親睦の一環として誘われた豪華客船体験ツアーとやらに断ることもできず、ついつい流されてついてきたのまではまだ良かった。そこで普段なら味わえないサービスや料理を堪能できたのも束の間、俄かに乗員が忙しく動き回っているのを見て「何かあったのか?」と呑気に考えていたら、突如混乱の極みに達した他の乗客たちに巻き込まれ、気付けばイーサンは一人船内を彷徨う羽目になってしまう。
本当に訳が分からない――とにかく安全のため一緒に逃げたのはいいが、事態を把握できてない現状だ。ハサンとも、その友人だという男とも逸れてしまった。危険が目の前にない今、まずはその二人と合流か、或いは詳細を知る乗員を捕まえて聞き出すしかないだろう。
そう考えていた矢先、イーサンの前に『それ』が現れた。
「――ヴァアァァァッ」
「! マジかよ……!?」
突然通気口が弾け飛び、そこから人型の何かが這いずり出てくる。
酷く白い、ぶよぶよとした表皮をした――怪物。死んだ人間を長く水に浸からせたようなおぞましい体躯のそれが立ち上がり、目はないながらにイーサンへと向き直ってきた。
見るからに友好的ではない。状況を鑑みるに、これがこの騒ぎの元凶と思われる。
「このチクショウが! なんだってんだ!」
だから、イーサンの判断は早かった。
一目瞭然で話しが通じる相手ではないと、即座に近場の手頃な花瓶を手に取って、勢いよく投げつける。
常人であれば二重に卒倒する、高価そうな花瓶の割れる音と衝撃を真っ向から受ける怪物。しかし怪物は痛痒の素振りを見せず、代わりにガバァッっと口を開き、そこから異常な発達をしたらしき舌を垂らして襲い来た。
「っくそ!」
こちらの攻撃にダメージがないと見て、イーサンは一転して逃避を選ぶ。
相変わらず訳が分からないが、あれは生身では危険だ。迂闊に殴り掛かっていったら、あの舌でまるでヒルのように噛み付いてくる感じだろう。素手は不利と判断し、即座に来た道を戻っていくイーサン。
やがて大きめの通路に出る。依然としてひと気はない……いや、そこには一人、スーツを着た男が仰向けに倒れていた。ただし目を見開き、首元が赤く染められた姿で。検めなくとも死んでいる様子。あの怪物と同じようなヤツに抵抗してやられたのだろうか。
その死した男の手に願ったりな『武器』を見付けた。拳銃だ。
「ちょっと借りるぞ……!」
返せそうにないがな、と心中で付け加えながら、手早く残弾を確かめる。オートマチック拳銃。引き抜いて覗いたマガジンにとりあえず数発あるのを確認し、足りることを祈って未だ追ってくる怪物に銃口を向けた。
「しつこいバケモノはお断りだクソったれ!」
吐き捨てるように罵り、引き金を引く。前に見たゾンビ映画に倣い、頭部を狙った。豪華な通路に轟音が響き、ぎこちない足取りで迫ってきた怪物の頭に銃弾が炸裂する。
それでも怪物は怯むことなく襲い掛かってきた。抱き着くようにして来るのをイーサンは慌ててかわし、更に数発撃ち込む。二、三発は外れて肝を冷やすものの、狙いが当たり頭を弾かれた怪物がようやっと倒れて動かなくなる。
「っ……本当にどうなってるんだ、これ」
ドロドロ溶けていく怪物の死骸を見下ろしつつ、イーサンは依然として困惑。豪華客船がさっきまでの見た目のまま、雰囲気はすっかりモンスターパニック映画の最中だ。
手にある銃を再確認する。残り一発だった。元の持ち主の許に向かい、今一度弁解して身体を探る。予備の弾があったので拝借し、リロードして一息つく。
すると、その時。こちらにやって来る確かな足音がした。
「――だ、誰か、誰か助けてくれ……!」
「! おい! 大丈夫か!?」
これまた上等なスーツを着た初老の男だ。見るからに乗客の一人。しかし怪我をしたようで、血の滲む肩を押さえながら危うい足取りであった。
イーサンは男に駆け寄り、介抱するようにして尋ねかける。
「一体何があったんだ? さっきもバケモノみたいなのがいたが……」
「うぅ、くそ……ハメられた、ハメられたんだ。豪華客船体験ツアーなんてでたらめだっ、『奴ら』は最初から私たちが狙いでこんなことを仕掛けたんだ……!」
「奴ら? 奴らって?」
うわ言のように語る男が、怒りに語気を強めた。
「『ヴェルトロ』だよッ! あのくたばり損ないのテロリスト共っ……私のような財力のある人間や、技術のある人間をこの客船に偽装したアジトに誘い込んで、活動のための人質や資金源、即戦力にしようとしたんだッ! テラグリジアの一件で協力を拒んだ私に今度は一般人として接触してきて、このツアーに招待して……! お陰でこのザマだ! ふざけるなッ!」
「ヴェルトロ……!?」
イーサンはその名に驚愕する。確か一年ほど前までニュースでも話題に上がっていた、過激的なテロ組織だったはず。テラグリジアの一件――テラグリジア・パニック以降に壊滅したとされていて、それすらテレビの向こう側の話のように思っていた存在の活動に自分が巻き込まれるなんて。実感が湧かない。
だが、真偽はともかく。この事態は現実であることに変わりなかった。
「おい、他の乗客は? 乗組員は何処に行ったんだ?」
「知るかそんなことッ! それよりも、私を早く助けろ! 私を誰だと思ってる!? ここで死んだりしたらお前なんぞの人生は軽く吹き飛ばしてや――ぅぐ、うぐうううううッ!?」
怒号を飛ばす男だが、急に苦しみ始める。
見れば、その顔面は蒼白となり、乾き切った呼吸をしだした。
医療知識などないイーサンが手をこまねいている内に、男は急変を遂げる。
「ァああ、水、ミズをぉ……ノドが、渇いて、呑みたい、ノませて、スワセロぉベボアヴァアアア……!」
「マジかよ……!」
苦しむ男が膨れ上がるように変貌し、瞬く間に水死体のような――先ほどのと同じ怪物になり果てた。
「ヴォアァァァッ!」
「ああクソっ! どうなってる!」
もう幾度叫んだか分からない疑問の言葉を吐き出し、イーサンは銃を構える。
やり方はさっきと同じだ。問題は、あの怪物が人間の成れの果てであると知ったこと。それでもイーサンはもはやさっきまでの男ではない怪物に向け、怒りをぶつけるようにして銃弾を叩き込んだ。
「ウゥァ――」
先の怪物と同様、力尽きた怪物が倒れ、その身を溶解する。
イーサンは銃を下ろし、倒したことに安堵しながらもやりきれない気持ちを抱く。
怪物になる前の男が言う復活したヴェルトロとやらの企みなんて本当かどうかは分からないが、こんなことが自然的に起こるとは考えられない。少なくとも、人間を怪物に変えるきっかけを生んだ者はいる。こうして目の前で生きてる人間が怪物に変わった様に、自分もこうなるのではという焦燥を覚えた。
「……冗談キツいぞ、まったく」
まさか自分がパニック映画みたいな状況に置かれるとは。身近すぎる死の実感がイーサンを襲う。
イーサン・ウィンターズ。システムエンジニア。21歳――まだまだ社会に出てようやくその厳しさに慣れてきた程度の青年だ。それがこうして怪物に襲われ、銃を握っている。現実から縁遠すぎる事態の最中に、これは夢かと思いたくなった。
きっと、この船内にはあんな怪物がうようよしていることだろう。今すぐにでも、自分は囲まれて殺されて、怪物共の仲間入りをさせられるかもしれない。
――そんなのは嫌だ。俺はまだ生きたい。仕事はともかく、彼女もほしいし、いずれは家庭を持って妻や子供と幸せな日々を過ごしたいなんて、青臭い将来の夢を抱いていたりもする。それがこんなところで、訳も分からない企みの内で死んでいくのは御免だった。そんな最期はくそっくらえだ。
「……とにかく、この船を調べよう」
何かきな臭い豪華客船。探せば何か分かるはずだ。あとは散り散りになった同じ境遇の乗客と合流して、乗員にも情報を聞き出して、脱出する手段を見付けよう。それが生きるための道だ。
銃を強く握りしめる。自分を守る手段。何の技術も知識もないが、ただひたすら前に進むしかない――怪物だらけの、この海に閉ざされた船の中を。
覚悟が決まる。社会に揉まれて鍛えた自らの精神を、イーサンは最大の武器とした。
「絶対に生きて帰ってやるからな、バケモノ共……!」
意気込むようにそう吐き捨て、イーサンは豪華客船『クイーン・ゼノビア』の中をひた進んでいく――
リベレの物語が始まった2005年にはイーサンの実年齢が21歳と、実におあつらえ向きすぎる件。そして原作でもその頃からこのくらいできてしまえそうな納得感がある。これで本当に過去は何も凄い経歴ない一般人だからおかしいよイーサン……
ヴェルトロに関しては、恐らく原作だとテラグリジア・パニックで全滅し、以降ゼノビアは一年間地中海漂流してたのを〇〇〇〇〇〇が奪取、ジルとパーカーがずっと放置されていた船内を探る――が史実なんでしょうが、本文通りちょっと自己解釈要素入れてます。あの船内状況で一年放置は何か引っかかったんで。そそのかされた残党が集って活動開始、だけど制御しきれず騒動勃発、という流れですね。そも、原作ママの解釈だとまずイーサンどころかガチ一般人すらいるはずないし……?
という訳で、なんとかゼノビアに乗り合わせてしまったイーサンの戦いがここから始まる予定となります。
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