もしもイーサンがクイーン・ゼノビアに乗っていたら 作:秋塚翔
二話目にして早速オリキャラ登場。あと例の人気キャラも。
「――ここも鍵が必要か……」
イーサンが最初にいたのは客室エリアだった。
そこから落ちていたマップを頼りに、まず操舵室へと向かった。――それまでにもうじゃうじゃとあの怪物が出てきて、イーサンはなんとかそれらもハンドガンで捌いていく。ところどころにハンドガンの弾が落ちているのは、やはりここがヴェルトロが偽装した客船だからだろうか?
無事に辿り着いた操舵室。船としての重要な場所だからと生存者を期待したが、照明も落ちて誰一人いなかった。通信機器らしきものはあったが、素人のイーサンに操作や座標指定など専門のことは分からない。ましてこの嵐天ではすぐ救助も来ないので、ここは諦めて後にすることとする。
その次に向かったのはホールだ。この船に体験ツアーとして乗り込んだ際にも来たオペラハウス調の場所。その際は多くの乗客やガイドと一緒で賑やかだったが、今やイーサン一人で少しの音が反響する寂れたところになっている。――ここでもやはり人はいない。逆に広い空間で、何処から何が来るか分からないという心理からか。
そして、今。イーサンはそのホール2Fの非常用通信室にて、またも足止めを喰らう。
ここまでの道でも幾つかあったように、そこでも厳重な扉に浮輪らしき装飾が施され閉ざされている。
「ん?」
ふと、その脇にある張り紙が目に留まった。
注意書きと殴り書き。要約すれば、恐らくこの非常用通信室を担当する通信兵長から、鍵を持つ自分がプロムナードにいることと、同じように怪物から避難していることが記載されている。
「……プロムナードか」
ようやく生存者、それも船内関係者の所在が分かった。合流できれば情報を聞き出すなり、通信を頼んでひとまずの救助要請をできるかもしれない。これは収穫だ。
イーサンは早速ホール1Fにある目的地を目指す。
操舵を意識した取っ手の扉二つを通り、一転して薄暗い通路に入った。
正規ルートではないらしい業務的なそこを慎重に歩いていくと、乗客に向けた装飾のテーブルや観葉植物が置かれたところに出る。
そして、テラス席のようになったそこで見下ろす形なのが、目的の場所だ。
「――静かだな、くそっ」
プロムナード。その名称から他の生存者も期待したが、見るからに暗く静寂な雰囲気であった。
店が立ち並んだ中は誰もおらず、使われた形跡も見られない。そもそもつい先ほど騒動が起きたのを考えれば、まだ息を潜めて隠れ通しとはいかないだろう。となれば、ここに先の張り紙を書いた人物以外は立ち入ってないと思うのが自然だ。
期待が裏切られたイーサンは、つい毒づく。それでも階段を降りてプロムナード内を渡り歩いていく。
「誰かっ、いないのか!?」
銃を構えて警戒しながら、呼び声を上げるイーサン。物音一つない空間では、当然その声は響き渡る。
けれど反応はない。虚しく木霊が消えていく。まだこの騒ぎの中で、無事な人間とは出会えていないイーサンは焦燥が募る。――まさか自分しか生き残っていないのか、そんな動揺。
また階段を上がって、渡り廊下を通る。そこから何となしに進んでいくと、不意に声が掛かった。
『――そこにいるのは何処のどいつだ?』
「っ!」
くぐもった声。そこには、厳重に封鎖された鉄扉があった。
「アンタ、あの張り紙の通信兵長か?」
『ああ、お前あれ見て来たのか……悪いな、生憎とここを出てく気も入れてやる気もないから、他当たってくれ』
先回りするように気だるげな声を扉越しに投げてくる、通信兵長という男。姿は当然分からないが、声色は疲労だけでない若干の衰弱が窺える。
「負傷してるのか?」
『あ? ああ、ここまで来る時にちょっとな……見せてやりたかったぜ、この状態でも襲ってきたバケモノ共を百発百中で仕留めた俺様の超絶テクニックをよぉ』
おどけて言う通信兵長の言葉に、イーサンはふっと笑う。シャレとしては面白くはないが、状況が状況だ。軽口を飛ばしてくる人間味はいっそありがたい。さっきの焦燥が和らいだ。
『とにかく、俺はやっとここに逃げ込めたんだ。それをわざわざ、あのバケモノ共の前に出ていくなんてゴメンなんだよ。だから放っておいてくれ。どうせ嵐で誰も助けには来れねえんだ』
「そんなこと言わないで、協力してくれ。連絡さえできればいいんだ。後は時間を待って――」
『くどいぜ。とにかく俺は――ああ? 分かってる、分かってるってば。そう急かすなよ』
と、徐に通信兵長は誰かへと話しかける。
「他に誰かいるのか?」
『まぁな。ジョークもいける同居人さ。ちょっと生意気だがな』
声は聞こえないが、こちらも負傷しているのか。いまいち扉越しでは状態が掴めない。とはいえ、他にも生存者がいるという確証が増えるのはこれまたありがたい。
「……分かった、それなら俺は他にも生存者を探してくる。それで頭数がいれば、アンタを守りながら連れて行けるだろ? そうしたら救難信号を頼めるか」
『あ? ……まあ、そういうことなら。俺だっていつまでもこうして閉じこもっていたくないしな』
話は決まった。すぐにではないし絶対でないのは残念だが、方向性が決まる。
「じゃあ、行ってくる……お節介だろうけど、せっかく生き残った者同士なんだ、バケモノがうようよしてる中で生きてる人間がケンカしたら元も子もないだろ。戻るまで仲良くしててくれよ」
『はッ、お前は俺の何なんだよ?』
つまらないジョークと受け取ったか、軽く流してくる通信兵長。確かに、顔を知らない同士とはいえ、気安すぎたか。イーサンは居心地悪げにして、その場を後にすることにした――
「――仲良く、ね。お前もそう思うか? ……へへ、気が合うなあ俺たち」
プロムナードを出る時、イーサンはついでに幾らか携行食をいただいておいた。このまま放っておけば腐るか、怪物に食われるかだ。生存者に分け与えて交渉するのにも使えるだろう。
「この先は……プールか」
再びホールに出てマップを確認し、まず近場を探っていくことに。目指すは3Fのプール。大きなエリアならば避難した生存者がいるかもしれない。
プロムナードと同じく操舵を模した扉を通ってプールエリアに向かう。
――着いたそこは、辛うじて辺りが見える薄暗い場所だった。豪華客船のプールというだけあって、メインであるプールはとても広大だ。けれど、当然誰も利用しておらず、水面も波立っていない
バシャバシャ! と、その水面が一点だけ波立った。
「っ!?」
一瞬警戒して目線をやったイーサンだが、瞬時に目を疑う。
それは、人間が立てた水飛沫だった――更にそれへと迫る怪物らしき姿があった。
「おい!? ……くそったれッ!」
叫ぶイーサンは、しかし無意味と悟り行動に移る。愛用のジャケットを脱ぎ捨て、迷わずに澄んだ水面を揺らすプールの中へと飛び込んだ。
向かうはプールのほぼ中心。急いで泳ぎ、そちらに距離を詰めた。
「おいッ! 大丈夫か!?」
「く、は――ッ!」
なんとか着いたが、生存者らしいその人物は水面での呼吸に必死な様子。イーサンは舌打ちし、同時に迫ってくる怪物に目をくれる。
上半身が異常に発達した怪物は、存外遅い泳ぎで追ってきていた。
「クソっ!」
それでも動きの制限される水中からの接近に、イーサンは銃を向ける。水に濡れた拳銃は正常に発砲してくれるが、水面での安定しない狙いに弾が当たらない。
だが、馬鹿正直にも真っすぐ迫ってくる怪物に見事命中。数発食らった途端、怪物は一瞬水底に沈んだかと思いきや、突然炸裂した。
「ぐあッ……!?」
ザアァッ! と高い波が上がり、イーサンたちを襲う。けれど、幸い謎の炸裂にはダメージがなく、後には危険が去ったプールとなる。
イーサンは抱きかかえた生存者を連れ、プールサイドまで泳ぎ切った。
「ッはあ……! 何してるんだ! こんな時に水の中にっ!」
「カハ、はッ、けほ……!」
上陸したそこで、イーサンは思わず怒気を露わにする。一方で生存者――女性はまず水を吞んでしまったため、咳き込んで呼吸を整えようとしていた。
――何処にでもいそうな、若い女だ。全身水に濡れ、掛けていたメガネはズレているが、一見すると豪華客船と縁遠い普通の少女だった。服装もドレスなどではなく、イーサンと同じく私服のよう。
息を安定させた女は、申し訳なさげにイーサンへと顔を向ける。
「っは――た、助かりました。……つい、足を滑らせてしまって……っ」
「そ、そうか……とにかく無事で良かった」
イーサンも落ち着きを取り戻し、まず女性の無事に安堵を示す。
「俺はイーサン。イーサン・ウィンターズだ。この船のツアーに誘われて騒ぎに巻き込まれたんだ。……アンタも?」
「ええ、はい……私は、シンシアです。シンシア・コールマン。大学生です」
互いに名を明かしたイーサンと女性――シンシア。メガネを掛け直し、肩までの髪を掻き上げた彼女は、この場に少し場違いなおっとりした笑みを浮かべて見せた。
今作オリジナルキャラ、シンシアと合流。まだジルも誰も原作女性キャラはいませんしね。因みに当初の名前は『シンディ』としていましたが、履修してなかったアウトブレイクのキャラとまさかの被りしてたから変更した裏話あったりして。
プールで襲ってきた怪物は、UE版であそこに配置されてるウォールブリスターです。
そして、通信兵長こと後のメーデーさん登場。まだまともでしたが、やはりどうしようもなくなってます。そしてイーサンの何気ない助言に何やら心境の変化が……?
あと見て違和感あったかと思いますが、かなり展開を『巻き』でお送りしています。流石にイーサンを何日も船で彷徨わせられないので。なので彼も初日に爆速で展開の犠牲になってもらいました。これは紛れもないガバ。
生存者と合流し、次にイーサンが向かうのは…?
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