ゲーム魔女の現代観光   作:龍翠

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25 外の神様(外国の人)

 

 

 ウンエイ様との約束の日、つまり偉い神様に会うまで、一週間。もしかしたら大人しくしておいた方がいいのかも、と思うけど。やっぱり好奇心が抑えられなくて、わたしは今日も散歩をしてる。

 散歩を、していたんだけど。

 

『あー……。私の言葉は分かりますか?』

 

「…………。えっと……」

 

 見慣れない人に話しかけた結果、わたしはちょっと困っていた。

 金髪碧眼の妙齢の女性。地図を持っていて、何かを聞かれたことは分かるんだけど……。どうしよう。何を言っているのか、全然分からない。

 そもそも、この人も神様、なのかな? サキ様と随分と違うけど。

 年齢の違いじゃない。髪の色とか、顔の輪郭とか、全体的に少し違う雰囲気だ。とてもじゃないけど同じ神様に見えない。

 でも、神様を騙っているわけでもない、かな? もしそうなら他の神様が怒りそうだけど、誰も気にも留めていないから。

 

『その……。すみません、急すぎましたね……』

 

 あ、さっきのはちょっと聞き覚えがある。そーりー……。確か、謝罪の言葉。

 そうだ。テレビで学んだことだ。神域にはたくさん神様がいるけど、その神様も地域ごとに勢力というか、そういうのがあるみたい。

 神様同士で争うこともあるみたいで……。それを聞いた時は、驚いたというより怖かった。

 神様の戦争。ラグナロク、だっけ。わたしの世界でも言い伝えとしてあったものだ。それが今でも起きているなんて、信じられなかった。

 この人も、そんな別の場所の神様、ということだと思う。

 

 でも、この地域、日本の神様と敵対しているわけじゃないみたい。周りの神様はやっぱり警戒してないから。こちらをちらちらと見て気にはしてるみたいだけど、それだけ。

 そしてこの人の言葉。謝罪の、ソーリー……。英語、という言語だったはず。

 そこまでは分かるけど、それ以上は分からない。そういう言語がある、というのをテレビで見ただけだったから。

 覚えた方がいいのかな、とは思ったこともあるけど、サキ様が言うにはそこまで必要にならないとのことだったから……。その時の疑問の解決を優先してしまった。

 まさか、こんなに早く英語を話す神様と会うことになるなんて……。どうしよう。

 

「あ、あの……。わたしは英語を話せなくて……。あのぅ……」

 

 助けを求めて周りを見る。神様に助けを求めるなんてだめだと思うけど……。分からないまま対応したら、目の前の神様に失礼だから。

 幸い、ここは駅前。たくさんの人通りがある。だからきっと誰かが助けてくれるはず……。

 みんなこちらを一瞥して、足早に通り過ぎていく。わたしと目が合った神様もいるけど、関わりたくないとばかりに歩き去ってしまう。

 誰も……助けてくれない……!

 ああ、そうだ。きっとこれは、神様の試練! これぐらいはわたし一人でどうにかしろと、神様たちは言いたいんだ! わたしがこの世界に滞在する上での試練だね!

 よし……。よし!

 わたしには! 言葉がダメでも体がある! 身振り手振りでどうにかなるはず!

 

「わたしは、あなたの、ことばが、わかりません」

 

 自分を指差して、失礼だとは思うけど神様の口を指差して、腕でバツを作って首を振る。これで通じる、かな?

 果たして、目の前の神様には通じたみたいだった。

 

『英語はだめ、と……。違う世界から来たというわりにこの世界で会話しているから、翻訳の何かがあると思ったんだけど……。英語は未対応ということかしら』

 

 ひ、独り言、だよね? 小声でぶつぶつ言ってるだけだから……。わたしに言ったわけではないと思う。きっと。多分。

 

『それじゃあ……。この言葉は?』

「あ、あれ……?」

 

 また何か言語の雰囲気が変わった気がする……! 英語とも全然違う! なにこれ!

 

『なるほど……。これとか、これとか、これとか……』

 

 えっと……。明らかに違う言語を三つ出してきたと思うけど、やっぱりどれも分からない。分かる言語が何一つとしてない。

 そもそも。わたしは、この地域の神様に作られた世界から来てる。日本の神様の言葉以外は、わたしには分かるはずもない。

 

「えっと……。あいむそーりー? あー……。日本語、おんりー。じゃ、じゃぱにーず、だっけ? どうしよう分からない……」

 

 ちょっとだけある英語の知識で伝えようとしてみたけど、自分でも謎の言語になってしまった実感がある。神様の言語、多すぎるよ……。不敬とは分かっているけど、みんな同じ言語ならいいのに。

 ちなみにサキ様にこれを言ったら苦笑いされてしまった。それぞれの言語に歴史がある、だって。その通りだと思う。うん。やっぱり考えるだけで不敬だ。口には出さないでおこう。

 

「日本語だけですか」

 

 目の前の神様がそう言った。日本語で。

 

「え……」

「ふうむ……。やはりあれらの動画はトリックとか、そういうものですか?」

「あ、その……。ど、動画?」

 

 ちょっと片言のような話し方だけど、確かに日本語。ちょっとだけ安心するけど、また次の問題。動画って、何のこと?

 サキ様やハナ様がよくスマホで見ているものが動画だと思うけど……。それらのことについて聞かれても、わたしには何のことか全く分からない。

 そもそも動画それぞれで全然違うのに、この神様は何を聞きたいんだろう。

 ああ、もう……。不敬だ。不敬だっていうのは分かってる。でも、正直思ってしまう。

 すごく面倒な神様に話しかけちゃったなあ……!

 だって! だって困っているように見えたから! 地図らしきものを広げて首を傾げていたから、道に迷ったのかなって……!

 ここ最近の散歩でこの近辺には詳しくなってきたから、力になれるなら案内したいと思ったけど……。余計なことをしてしまったと後悔してしまう。不敬だけど! 不敬だと分かってるけど!

 

「あなたが空を飛び回ったり、火を消したり、荷物を浮かせている動画です。これとか」

 

 神様がスマホを取り出してわたしに画面を見せてくる。動画だ。えっと……。

 サキ様と一緒にデパートに買い物に行った時の、火事の時の動画だった。わあ。

 

「火事の中に入り、人を連れて飛び出して、宙に浮き、さらには一瞬で火事を消してしまう……。いえ、さすがにおかしいとは思っていました。ただのトリックだと」

「…………」

「注目を集めてみたいとか、そういった動機でしょうか。感心はしませんが、見抜けなかった私の落ち度ですね。編集のあとがないと言われましたが、技術が優れているだけでしょう」

「あー……」

 

 なんとなく。なんとなくだけど。関わり合いにならない方がいい。そう思った。

 

「ご、ごめんなさい。何のことか分かりません」

「そうですね。失礼しました。忘れてください」

 

 神様は私に軽く頭を下げて、踵を返した。うん。これでいい、よね?

 それじゃあ、いつも通りに散歩を……。

 

「わあああん!」

 

 わたしも散歩に戻ろうとしたところで、そんな泣き声が聞こえてきた。

 

「び、びっくりした……」

 

 周囲を見回している。少し探して、すぐに見つけた。

 駅の出入り口で女の子が泣いてる。ハナ様よりも幼い女の子。隣のお母さんが宥めてるけど、女の子の泣き声が大きくなるばかり。

 

「またもらってあげるから……! ほら、電車に乗らないと帰れないからね……?」

「わあああん!」

「ああ、どうしよう……」

 

 お母さんは自宅に帰るために電車に乗りたいけど、女の子がすごく泣いているから中に入れない、ということかな。

 女の子が泣いている原因は……。女の子の視線の先にあるもの。風船だ。

 赤くて丸い風船がふわふわと飛んでいってる。少しずつ高く、もう普通では手が届かない。女の子もそれは分かってるはずだけど……。大事なものだったのかな。泣き止む気配はない。

 仕方ない、かな。

 さっと服装を魔法で変える。いつもの黒いローブ。

 

「え」

 

 魔法で服装を変えた瞬間を、さっきの神様に見られてしまったけど……。どうでもいい。今はあの風船だから。

 空を飛んで、さっと風船をキャッチ。まだ駅の屋根にも届いていない程度の高さだったからすぐに掴むことができた。

 

「ああ!」

「魔女だ! 魔女ちゃんだ!」

「生で見れた!」

 

 うーん……。なんだろう。最近はわたしを見つけるのが流行っているとか、そういうのがあるのかな。みんな笑顔でわたしを写真に撮ってる。怒られないのはありがたいけど、ちょっと恥ずかしい。

 でも、神様たちに認められてると思うと、それはそれで誇らしいものがあるね。

 それにしても、この風船。すごい。なんでも、空気より軽い気体を入れることで、ふわふわ飛ぶ風船を作っているのだとか。空気より軽い、なんて考えたこともなかった。神様の叡智だね。

 地上に戻って、女の子に風船を渡す。お母さんは固まってしまっていたけど、ちゃんと風船を受け取ってくれた。

 

「ありがとう! 魔女のおねえちゃん!」

「いえいえ。もう手を放しちゃだめですよ?」

「はーい!」

 

 にっこり笑顔の幼い神様を撫でる。不敬だと思う。でも、女の子は喜んでくれる。それで十分だと思う。

 お母さんと女の子を見送って。

 

「お話、いいかしら」

 

 そう、妙齢の神様に話しかけられてしまった。

 

「…………」

「…………」

「に、日本語おんりー。じゃぱにーず? おんりー」

「ええ、日本語で話しましょう」

「…………。はい……」

 

 逃げ道はありませんでした……。逃げて、怒られるだけならまだしも……。もしも逆鱗に触れて殺されたりとかしたら嫌なので、従おうと思う。

 ああ……。失敗したなあ……。

 




壁|w・)注目しているのは日本人だけじゃない、というやつです。
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