ゲーム魔女の現代観光   作:龍翠

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29 追跡魔法

 

「おねえちゃん、おそいねー……」

「ですね……」

 

 ハナ様と二人、リビングでお茶を飲みながらのんびり待つ。今までサキ様がこんなに遅かったことはなかったから不安だけど……。サキ様なら、きっと大丈夫だ。

 でもやっぱり不安……。追跡魔法、作ろうかな。この家にはサキ様の私物も結構あるから、それを使えば追跡魔法は作れると思う。

 でも勝手に作ったら……。さすがに怒られそう。サキ様の私物も使うことになるから。

 

「まじょのおねえちゃん」

「はい!」

「ぎゅー」

「え? あ、はい。ぎゅー」

 

 ハナ様がこっちに歩いてきて両手を広げてきたので、とりあえず抱きしめてみる。サキ様みたいにだっこができればよかったんだけど、わたしはそこまで大きくないから……。

 

「ハナ様。どうかしました?」

「んーん」

「……?」

 

 どうしたんだろう。ハナ様は、少し震えてる。わたしに抱きついて、体を震わせて……。何かに、怯えてる?

 

「あのね」

「はい」

「忘れられないことがあるの」

「はい?」

 

 ハナ様はわたしに抱きついたまま、たどたどしくも続きを話してくれた。

 

「二年前もね。おねえちゃんと二人で、おかあさんの帰りをずっと待ってたの」

「ハナ様のお母さん。きっと優しい方なんでしょうね」

「うん……。でもね……。ずっと待ってたら、お電話がかかってきて……。おねえちゃんと二人で、病院に行って……」

 

 病院、というのはサキ様から教わった。人が怪我や病気をした時に向かう場所で、魔法ではないけど治療をしてもらえるのだとか。

 そんな場所にサキ様とハナ様のお母さんがいて、電話がかかってきた、ということは……。

 

「あの日から、お母さん、いなくなっちゃった」

「それは……」

「おねえちゃん、絶対におそく帰ってこないの。約束、してくれて。必ず早くに帰ってきてくれるって。でも、帰ってきてなくて……。こわくて、こわくて……」

 

 ハナ様も不安なんだ。サキ様が帰ってこなくて、以前の、悲しい記憶を思い出して。

 ああ、それなら。それなら、わたしがやらないといけない。ハナ様が泣きそうになってる。それなら、わたしが怒られればいいだけだ。

 

「わかりました」

 

 ハナ様をゆっくりと撫でて、言った。

 

「わたしが、サキ様を探します」

 

 ハナ様をもう一度撫でてから立ち上がる。大切な人がいなくなることに怯えるのは、神様も同じらしい。それならわたしの出番、というやつだ。

 まずはサキ様の私物を借り受けよう。お二人の私室に入って、えっと……。これでいいか。これを起点にして追跡魔法を作る。何度か作ったことのある魔法だから、さくっといこう。

 追跡魔法を使うと、魔法陣が宙に浮くことになる。そこにサキ様の私物を置いて、魔法を起動。するとすぐに、サキ様の居場所、そして今の状態が頭に浮かんだ。

 

「これは……」

 

 暗い部屋にサキ様がいる。両手を体の後ろで縛られて、足も縛られて床に倒れてる。口にはガムテープ。意識はあるみたいで、涙目で震えていて……。

 探偵のアニメで見た。監禁だ。なるほど。……なるほど。

 

「ま、まじょのおねえちゃん……?」

「はい?」

「おかお、こわいよ……?」

「失礼しました」

 

 いけない。冷静になろう。サキ様はまだ大丈夫。だから、冷静に。

 ゆっくりと深呼吸。息を吸って、吐いて。それを三回繰り返して。

 

「ハナ様。ウンエイ様に連絡は取れますか?」

「えっと、おとうさん、だよね? いますぐ?」

「はい。緊急、というやつです」

「だいじょうぶ」

 

 ハナ様がスマホを取り出して何かを操作する。するとすぐに、ハナ様のスマホに電話がかかってきた。

 

「もしもし。おとうさん? …………。うん。まじょのおねえちゃんがね、電話したいって。かわるね?」

 

 ハナ様からスマホを受け取って、耳に近づけた。いつも思うけど、こんな小さな道具で離れた人と会話できるのはどんな仕組みなんだろう。

 

「もしもし。ティルエルかな。どうかしたのかな?」

「サキ様が攫われました」

「…………。なんだって?」

 

 一瞬の絶句。信じられない言葉を聞いた、というような様子。けれど、さすがウンエイ様と言うべきか、すぐに落ち着いてくれたみたい。

 

「君が落ち着いているということは……まだ無事、なんだね?」

「はい。ウンエイ様のお力で助け出していただこうと……」

「ティルエル」

 

 ウンエイ様が、落ち着いたような、けれど少し焦りを感じる声で言った。

 

「僕では、どうにもできない。警察に連絡はできるけど、間に合うとは思えない」

「は……? で、でも、ウンエイ様の魔法なら……!」

「ティルエル。落ち着いて、聞いてほしい」

 

 ウンエイ様は、一度言葉を止めてから、言った。

 

「僕たちは、魔法なんてものは使えない。制限とかそういうものでもない。生まれてから一度も、魔法なんてものは使ったことがないんだ」

「は……?」

 

 いや、でも。いや、たしかに、神様たちは魔法を一度も使ってなかったけど。でも、世界が作られていて、サキ様もあの世界に来ていて……。

 

「ティルエル。お願いだ。サキを助けてくれ」

 

 ウンエイ様のその声はとても切実なもので、わたしの思考を吹き飛ばすのには十分だった。だって、考えていたら、サキ様がいなくなってしまうと察してしまったから。

 

「わかりました」

 

 それなら、わたしがやるべきことは単純だ。サキ様を助ける。ただ、それだけ。

 

「サキ様は……わたしが助けます」

 

 サキ様はわたしにとっても大切な人だから。例え神様相手だろうと、許すつもりはない。

 電話を切って、スマホをハナ様に返す。不安そうに見上げてくるハナ様に、わたしは笑顔で言った。

 

「サキ様を迎えに行ってきます。一時間ほどで帰りますから、アニメでも見て待っていてください」

 

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