片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
俺の名前は
「──え、えと…。
…その日、俺たちのクラスに新しくやって来たのは、気の弱そうな男の子だった。
伸びた青色の前髪の向こう。丸メガネの更に奥では、不安そうに、そいつ……イクタの瞳が揺れ動いてた。
「今日から新しくこのクラスの一員となる駆道だ。席はあそこになる。──それじゃあ、プリントとか取ってくるから、みんなは1限目の準備をしておくようにー」
赤ジャージと逆立った茶色の短髪が特徴な、俺たちのクラスの先生が教室を出るのと、ほぼ同時。まるで爆発したみたいに、俺たちはイクタの席に集まる。
自分の名前を手短に済ませてから、どこから来たのだとか、好きな食べ物はだとか。そんなことを矢継ぎ早に、四方八方からされまくるイクタは、目を丸くして、しどろもどろになりながら……それでも精一杯、1つずつ捌いていった。
そんなイクタだったけど、とある質問をされた時、ピタリと体を硬直させてしまう。
「ねーねー! イクタくんって、どんなデッキつかうのー?」
その質問自体は、なんでもないありふれたものだったし、それを言ったヤツも、決して悪意を持ってた訳ではないのは確かだ。
だけど、その言葉を聞いた瞬間、イクタは確かに言葉を詰まらせた──強張った、んだと思う。
「あ、あの…ぅ。えと、僕。デッキ…持って、なくて……」
弱々しいその言葉を聞いた時、確かに一瞬、教室の時間が止まったみたいになった。
実際、そうだったんだろう。今の時代、人によっては保育園に通う前から構築済みのデッキを持っていても、なんら不思議じゃないからだ。
けどそれは、絶対って訳でもない。
家庭的だとか、経済的だとか。様々な理由を、色んな人が持っているんだ。だから、イクタがデッキを持っていないことも、よく考えれば分かること。
だけど──やっぱりそう言うのは、少し時間を置いて考えないといけない。俺は兎も角、イクタの言葉を聞いた周りのヤツらは思わず反射的に、「えー!?」だとか「嘘ー!」とか──そういったことを言おうとしたんだろうな。
だから俺はそれよりも早く。
「マジかよ、羨ましいぜイクタ! お前はこれから、初めてデッキを手にするあの感動を味わえるんだからよ!」
俺は意識して声を大きめに出しながら、イクタに声をかけた。
父ちゃんと母ちゃん2人に手を引かれながら、初めてカードショップに行ったあの日。手にしたデッキの重さ、その後に行ったファイトの楽しさ──。
まるで昨日の様に思い出せるってのは、こういうことを言うんだろうな。
これをイクタにも知ってもらいたい俺は、羨ましい、素晴らしいと……半分気を遣って、もう半分は本心から。イクタに声をかけ続ける。
「よっしゃ! 早速俺とファイトしようぜ、イクタ! 授業で使う練習用のデッキがいくつかあるから、それを使ってよ!」
ファイトの邪魔にならない様に、周りの机をどかしていく。
そんな俺に、待ったをかける人物が現れた。クラスのガキ大将・
いわゆる、
「おっと待ちな! ファイトをやるんだったら、リューガよりもおれ様の方が適任だぜ!」
そのとーりでヤンス! と、子分の
「えぇー、ショウタに教えられんのかあ? この前の理科の点数、お前40点だったじゃん」
「算数で20点だったやつに言われたかねぇーんだよ!!」
それは言わない約束だろ!? …と俺が返せば、クラスが笑いに包まれる。少しだけぎこちないものの、イクタもその中に混じっていて。
もう誰も、イクタがデッキを持っていない件について言及したりしようとはしないだろう。
「(──んじゃ次は、転校生が使うデッキだな。ユニットも並べられて呪文も使いやすいってなると、地属性か?)」
「(いや、地属性だと呪文が豊富な分、事故も起こりやすいからな。ここはルールよりもまず、ファイトの楽しさを覚えてもらおうぜ)」
「(そうなると、光属性とかどうでヤンスか? 固有能力も
机を動かしながら俺たちは、初心者なイクタでも扱いやすいデッキがどれかを話し合う。
ショウタたちは、決して悪いやつではない。俺と同じく、イクタを気遣ったんだろうな。
まぁ多分、本人に聞いたらはぐらかされるんだろうけど。
…へへっ。素直じゃないヤツ。
「初めてで色々、不安だろーけど……まずはやってみよーぜ、イクタ! ファイトはとっても楽しいからよ!」
「えと、あの──…う、うん!」
意を決した様子で。
雰囲気に流されてではなく自分の意思で、俺が差し出した構築済みデッキを手に取ったイクタ。その様子を嬉しく思いながら、俺は作ったスペースの向こう側へと移動した。
◆◀︎▲▶︎▼
「そんじゃ、行くとするか! アウェイク!」
「えっと……あ、アウェイクっ!」
少しだけ気恥ずかしそうにしながらイクタが俺に続いて
バトルゾーンやチャージゾーンが形成される様子を、驚きながら眺めるイクタ。自動的にデッキから配られた初期手札5枚を恐る恐る受け取ったのを見てから、俺は自分の手札を確認した。
……まずまずってところかな? 可もなく不可もなく、ってやつだ。
さてと。先攻は…おっ。俺からか。
「先攻・後攻は最初のルーレットでランダムに決定されるぜ。今回は俺からだな。ドローするぜ!」
習うよりも慣れろ、って言葉があるけど。やっぱり最初は誰だって不安なもんだ。そう考えると、先攻が俺になったのは、ぎょう…こう? ってやつだぜ!
「ターンが始まったら、まずは、①ドローフェイズ。デッキから1枚ドローだ。その次に、②チャージフェイズ。チャージゾーンにカードを置いて、コストを発生させるぜ!」
説明しながら、俺は手順を済ませていく。言葉で説明されると分かりにくいことも、実際に目の前でやってみると覚えやすい。
「チャージゾーンに置けるカードはユニットカードだけだから注意な。…──俺はグレード3のカードを置いて、コストを3点発生させる!」
「グレード……えっと、カードに大きく書かれてる数字…のこと?」
「おう! これがそのまま、チャージした時に発生するコストになってるんだ。──チャージフェイズが終わったら、次は③フリーフェイズ。発生したコストを使ってユニットを召喚したり、呪文を唱えたりって、自分の好きなように色々やれる時間だぜ!」
俺はコスト3点を使い、グレード2と1のユニットを召喚する。
本当なら、このまま呪文を発動して手札の補充をしたいんだけど……それは次のターンからだな。
「ターンエンド。さ、次はイクタの番だ」
「う、うんっ。えと──どっ、ドロー…で、良いんだよね?」
「おう!」
例え正解だとしても、どうしても拭えないのが不安だ。だから俺は笑顔を意識しながら、イクタのプレーの1つ1つに言葉を添えていく。
恐る恐るチャージを終わらせて、次に、コストを消費してユニットを──取り敢えず1体だけ──召喚したイクタは、そこで不思議そうに首を傾げた。
「あ、あれ? ターンが終わらない……」
「さっきは無かったけど、後攻1ターン目からはフリーフェイズの次に、④アタックフェイズってのがあるんだ! このフェイズでは、ユニットを使って相手を攻撃出来るんだ。実際に、召喚したユニットを使って攻撃──アタックをしてみようぜ、イクタ!」
「え、えぇ? そ、それじゃあ…──えと、アタック…!」
ユニットを使ったアタック。先攻1ターン目である俺が行えなかったので、戸惑った様子を見せたイクタだったが、思い切ったみたいで、俺のコアエネルギーにアタックを仕掛けてみせた。
バギン! と音を立て、アタックを受けた俺のコアエネルギーが減少する。予想外の大きさの音に、イクタは驚いた様子で目を見開いていた。
ユニットの攻撃、呪文の効果。それらの演出は、どれもド派手で目を見張るものが殆どだ。イクタは初心者だから、その驚きは相当だったんだろうな。
けど、あくまで演出だから、その見た目や音に反して、ファイターが直接的なダメージを受けることは無い。
安心していいと俺が言えば、イクタは息を吐いて安堵する。
「こうやって、ユニットを使ったりして、10ある相手のコアエネルギーをゼロにするのが勝利条件だ。…俺のターン。ドローだ!」
ユニットの召喚のやり方を覚えた。なら次は、呪文の使い方だ。
「チャージをして、と。……今度は、呪文カードの説明だぜ。呪文は、召喚した後はその場に残り続けるユニットと違って、使い切りのカードなんだ。発動し終えたら、自動で墓地に送られる」
一呼吸挟む。
「そんでもって、呪文カードは大きく分けて2種類ある! 『コストを払う必要がある呪文』と『条件を揃える必要がある呪文』だ!」
「コストを払う……呪文カードを使うのにも、チャージが必要なんだね」
「イクタ、惜しい! 呪文に必要なコストってのは、チャージして発生するコストとは別なんだ。まあ、見てもらった方が早いし、分かりやすいかな。……俺は手札から呪文〈希望の一手〉を発動!」
発動したのは、自分のユニットを1体選んで破壊し、そのグレード数値分、デッキからドロー出来る呪文だ。
選択したのはグレード2のユニット。俺は2枚ドローする。
「な、なるほど。ユニットをコストに…!」
「他にも自分の手札をコストにしたりだとか、色々ある。この辺は、実際に試した方が覚えやすいと思うぜ」
手札補充を終えた俺は、ユニットを1体召喚してから、次のフェイズに移る。
「召喚、呪文の発動。と来れば、次はユニット同士のバトルだな。イクタ、算数をする準備は出来てるか!?」
「うぇえ!? ど、どうしてファイトに…さ、算数が……??」
「それは今からすることに必要になるからだ。パパッと計算出来ないようじゃあ、この先ついてこれねーぜ!?」
「……
「で、ヤンスね」
うるさい外野は放っておいて。
「何かしらの行動をしたユニットは、『疲弊状態』っていう状態になるんだ。逆に、場に出たばかりでこれから行動出来るユニットは『臨戦状態』って呼ばれてる」
「疲弊状態……」
イクタは視線を落として、さっき自分がアタックを指示したユニットを見た。
カードは右に90度傾いた状態──疲弊状態になっている。
「簡単に説明すると、隙を晒した無防備な状態のことなんだ! この状態になったユニットは、相手から好きな様にアタックされちゃうぜ!」
ユニット同士の力比べ、即ちバトル。
それをする為に、俺は自陣のユニットを、イクタのユニットに向けて突撃させる。
「──ユニットでアタック。対象は、イクタのユニットだ!」
「う、うわ…!?」
剣と盾を携えた兵士が勢い良く飛び出し、疲れを見せているイクタのユニットへ肉薄した。大きく剣を振りかぶる様に慄いたイクタが、思わず目を背けてしまう。
「………あれ?」
しかし彼の予想に反して、俺のユニットの攻撃は失敗に終わった。相手ユニットの肉体に振り下ろされた剣は傷を負わせられず、どころか、その弾力に跳ね返されたことで自分を傷付けてしまい、結果的に自滅してしまう。
「ユニットとユニットが戦うことを──まんまだけど──バトルって言う。そんで、このバトルってのはそのユニットが持つ『戦力』によって勝敗が左右される」
「戦力…──あっ。この数字のこと?」
自分のユニットに書かれている情報の中から、目当ての数値を見つけたみたいで、その箇所を指さすイクタ。
「おう、さすがだなイクタ! その、3000/1ってのが、そのユニットが持つ戦力だな」
バトルをした時、そのユニットが持つ戦力──その左側の数値を参照して、勝敗が決定されるんだが、その内容は至ってシンプルだ。大きい数値の方が勝ち、低い方が負ける。
「そっか。さっき、リューガくんのユニットのパワーの方が低かったから、逆にやられちゃったんだ……!」
「そのとおり。んでもって、戦力が全く同じだった場合には──」
俺は、もう1体のユニットで再度バトルを行った。
こちらのユニットはさっきのユニットとは違い、
効果を発動したことで、体格が1回りほど大きくなった俺のユニット。果敢にイクタのユニットに突進していくと、その巨大な頭で強烈な頭突きを喰らわせる。
凄まじい衝突音。イクタのユニットが派手に吹っ飛ばされ……同時に俺のユニットも、脳震盪を起こした様にフラフラし始めて、最終的に気を失ってしまった。
「──みたいな感じで。戦力が同じだった場合は、相打ちになる」
「なるほど…! ……あれ? そう言えば戦力の、右側の数字は?」
お互いに盤面がゼロになったところでイクタが首を捻る。
俺は、この後の手札の補充プランを考えながらそれに答えた。
「戦力の右側の数字は、そのユニットがコアエネルギーにアタックした時のダメージ量だな。例えば1なら、相手に1点のダメージ、2だったら2点。それと、その部分が0になってる場合は、ユニットへの攻撃は出来るけど、相手への直接攻撃は出来ないから、注意な!」
「うう。お、覚えることがいっぱいだ……っ」
「大丈夫だって! 分からないことは俺が教えるし、今は全力で楽しめばいいんだよ!」
…さて。ここまでで、基本のひととおりを教えられた。
あとは実践をしてイクタが覚えられれば良い。習うより慣れろ、って言葉も、世の中にはあるんだし。
俺はターンを渡して、ファイトを進めていく──。
◆◀︎▲▶︎▼
「──おーう。遅くなった、授業を始め……おお?」
「おっと先生! 今は転校初日で頼れる人物が居ない状態なのにイチから交友関係を築き上げないといけないイクタの為に、リューガが気を遣ってファイトを通してその心の緊張をほぐしている最中でヤンス! 授業を始めるのはもうちょっとだけ待ってくれないでヤンスかねぇ!」
「めちゃくちゃ喋る上に、めちゃくちゃ考えてるな」
何やら背後から先生たちの声が聞こえたが、ファイトが佳境に入った俺たちの意識が、そちらに向くことはなかった。
俺は力強く、チャージゾーンに5枚目のカードを置く──!
「フルチャージ完了! ……イクタ、フルチャージが何かは、ちゃんと覚えてるか!?」
「みっ、ミステリアゾーンにある、最強のカードを呼び出せる様になる…!!」
「ああそのとおりだ! こいつらは文字どおりの切り札たち! 1枚でも出せば、それだけで勝負が決まっちまう必殺のカードたちだ!!」
俺が
それは向こうも分かってる筈だ。さあ、どうやってこの危機を乗り切る、イクタ──!!
「……盛り上がってんなぁ。ま、1限目は座学じゃなくて実技を予定してたし、このまま続けさせてやるか」
「……頼んでおいてあれなんですけど、良かったでヤンスか?」
「まー、大人の俺とやるより、同年代のやつとのファイトの方が、駆道も緊張しなくて済むだろう。……これからクラスの一員になるんだ。友達作りの切っ掛けにもなるだろうしな」
「本音は?」
「面倒くさごにょごにょ」
「きょ、教師どころか大人としてもダメダメでヤンスこの赤ジャージ!?」
何かしらの会話を背中で受け止めながら、俺は勝負を決める為にアタックを仕掛ける。
「コアエネルギーにアタック!!」
「──呪文〈銀の鉄槌〉っ!」
「!!」
予想外の一手に、俺は思わず息を呑んだ。
現れた巨大な拳が俺のユニットの攻撃を阻止したことで、イクタは敗北を免れる。それだけでなく、呪文〈銀の鉄槌〉には追加の効果で──
「え、えとっ。〈銀の鉄槌〉の追加効果! 相手のバトルゾーンにだけグレード5のユニットがいた場合、そのターンを終了させる!」
そう、追加効果でターンの強制終了がある! 終了時の効果処理なんかもまとめて省かれる、自分が使えば頼もしく、相手に使われると阿鼻叫喚の代表格って言われてるカード!
ミステリオマキアの
戦況に見合った効果の呪文を発動したこともそうだけど、それよりも、何よりも。俺はイクタが
「よ、よかった。ちゃんと呪文を使えた…!」
「やるな、イクタ! 自力で気付いたんだな!」
俺はさっき、呪文は2種類あるって説明したけど、実はあれは正確な情報じゃない。
正しくは──『コストさえ支払えば自ターン中に何度でも発動可能な呪文』と、『条件さえ揃っていれば相手のターンだろうと任意のタイミングで発動出来る呪文』の2種類がある、が正解だ。
俺が意図的に説明しなかったそれを、イクタは自分の力で把握して、使いこなして見せた。
教えられたことをそのままに扱うんじゃあなくて、それらを元に自分で考えて戦略を立てる。……目前の少年がこの短期間でファイターとして成長している事実、それが俺はとても嬉しくて、とても楽しくてならない。
「〈銀の鉄槌〉の効果で、俺のターンはこれで終了だ……だけど!」
「僕がやったみたいに、リューガくんも同じ様なことをする可能性がある……!」
「そのとおり!」
ドローをし終えたイクタの顔つきには、最初に俺たちの前に立って自己紹介をしていた時の様な、おどおどと不安に押し潰されそうになっている様子はもう見られない。
あるのは1人のファイターとしての、闘志に満ち溢れた力強い表情だ。
「──なあイクタ。ファイトは楽しいか?」
「──うん!」
へへっ、と俺たちは2人で笑い。
決着を付ける為に、動き出した。
◆◀︎▲▶︎▼
「コアエネルギーにアタック! イクタの場に『防衛』を持ったユニットは居ない、これで終わりだ!!」
「うわああぁっ!?」
イクタとの戦いは、最終的に俺の勝利で終わることになった。
せめぎ合いに次ぐせめぎ合い。手に汗握る熱いファイトはいつしか、初心者のイクタの為の講座と言う、当初の目的をすっかり忘れた全力全開の物になっていた。
クラスのみんなが飛ばしていた野次に似た指示も、その内俺たち2人への声援に切り替わっていたくらいだ。ファイトが終わった時、俺は自分が肩で息をしているのにやっと気付く。
「うう。負けちゃった…」
「いやいやいや、すげぇよお前! 本当に初心者なのか!?」
勝負の結果に落ち込むイクタだが、ショウタはそれに、思わずと言った様子で叫んでいた。だけど、それも当然のことだと思う。それだけイクタは凄かったんだ。
驚いたのは、知識の吸収速度だ。1を聞いたら10を知る……だったっけ?
イクタは、まさしくそれだ。俺やイクタ自身が使ったカードの効果を1度で覚えて、次にはそれをさも当然の様に応用しながら扱ってくる……。
「──アハハっ。リューガくん、すっごい笑顔になってるよ?」
…──横から声をかけてきたのは、桃色の髪が特徴的な女子生徒。……
ボリュームのある前髪が、まるでハートマークみたいになっている彼女は、俺の様子を見てくすくすと笑っている。
イクタの強さはホンモノだ。初心者の皮を被った経験者と言われても特に驚かないし、これで嘘じゃなく、本当に初心者だったとすれば、かなりのポテンシャルを秘めてるってことになる。
……予期せぬライバルの登場だ。これを嬉しく思わないで、どうするってんだ。
「すごいねイクタくん! これからいっぱいファイトをしたら、もしかしたらクラスで1番のファイターになっちゃうかもしれないよ!」
「ひゃ、ひゃあ! ててて、手を握……っ!?」
駆け寄ってきたユウカに手を握られたイクタは、湯気が出そうな勢いで顔を真っ赤にしている。
ユウカは男子女子でスキンシップに違いが生まれないから、耐性がないと今のイクタみたいになってしまうんだけど……こればっかりは、まぁ、うん。慣れだな。
頑張れよイクタ!
「よーし。竜胆たちのファイトも終わったところで、授業を始めるぞ。今日は実技の予定だったが、先ずは今の2人のファイトを見ての感想を、班ごとに発表していってもらうか。感想の内容はそれぞれすごいと思った点・改善点を理由を添えて──」
ファイトで気持ちの昂っていた俺は、先生のその言葉に分かりやすく項垂れて──それをユウカに笑われてしまった。
ファイターたるもの、デッキ構築やコンボの開発は、もうほとんど生き甲斐みたいなものなんだけど…、俺の場合はあれだ。そういったことが顔に直ぐ出て分かりやすくて、それが子供っぽく映ってしまっているんだろうな。
イクタとのファイトで思いついたコンボを試したい気持ちを抑えつつ、俺は授業に集中して机を運ぶ。
視線の先では、イクタが他の生徒と──まだぎこちなさは少しだけ感じられるけど──笑顔を浮かべて会話をしているのを見て、オレも自然と笑顔を浮かべた。
◆◀︎▲▶︎▼
クラスのみんなや先生、友達とするファイトに一喜一憂しながら過ごす、変わり映えの無い、けれど笑顔に包まれた日々。
これが俺の──俺たちの、変わらない日常だった。
………変わらない日常の、はずだったんだ。