片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
「──大変申し訳ありませんでした。咄嗟のことで、つい…」
「い、いや良い。俺も最近昇格したばかりだったから、情報の伝達が行き届いていなかったんだろう……ぐふぅっ」
パラボラアンテナがめり込んだ様な、或いは生えた様な。
そんな不思議なデザインをした真っ黒なヘルメットと、それと同じく黒一色の衣服に身を包んだ男性に向けて、僕は頭を下げていた。
時刻は夜半。曲がり角から突然現れたこの男は、これまでの経験や入手した情報から察するに、例のテロ集団──シャドウズだと思われる。
アンテナの部分を除けば、ドルムが作り上げたものと
彼は、先ほど驚いた僕が反射的に放ってしまった、右ストレートが突き刺さった鳩尾を抑えながら背を丸めて呻いている。
それを見て、失態を犯してしまった部下のふりをしながら謝罪をすれば、意外にもシャドウズの男性は、寛容な心で受け入れてくれた。
……アレかな。まだ昇格したてだから、器の小さい奴と思われたくないとか、そんな思惑があるのかもしれない。
『(…──われの…でざいんせんすって…)』
男性のヘルメットの形状を見て、僕の影と同化していたドルムが何かを呟いた気がした。
バレたら大変なんだから、静かにしてなさい!
「げほっ、ごほ…っ。……ふう。なんとも素晴らしい右ストレートだった」
漸く息が整った男性に向けて、お褒めに預かり……なんて返す僕。
「いや、本当に見事な身のこなしだった。…俺も幹部とは言え、やはりなったばかりだからな。君が良ければだが、どうだ。俺の部隊に所属する気はないか?」
「いえ、さっきのはたまたまというやつです。それに、割り当てられた仕事がありますので……」
下手に誘いに乗っても、面倒なことになるだけ。
リスクを避けて、当たり障りのない解答をする僕。それを聞いた男性は、「ああ、例の…」と呟きを漏らした。
……今の反応は、少し気になる。
ほとんど勘なのだが、勇気を出して僕は、踏み込んでみた。
普通だったのなら、怖気から早急に話を切り上げ、この場から離れようとするのかもしれないが──舐めてもらっては困る。
あの日の『組織』とのやりとりで、ハッタリをかけることには少しだけ自信があるのだ──!
……まあ実際のところ、仮面の下は、緊張で汗びっしょりだけど。
「例の、とは?」
「うん? 作戦内容を知らされていないのか?」
「も、申し訳ありません。末端も末端でして……」
訝しんだ男に、慌ててフォローを入れる。首を傾げた彼だったが、少しすると納得した様子を見せた。
危ない、なんとか回避出来た……。
「ここでも情報伝達が上手く行っていないのか……まあ、我々も急速な発展を遂げている組織。管理体制がまだ整っていない部分があるのは否めないからな…。色々と、上も努力はしているんだろうが」
──ごほん。
分かりやすく、咳払いを挟んでから。
「ええと……
──ぴくり、と。
黒猫の姿で物陰に隠れていたナゴラ、足元の影と同化していたドルム、そして、僕は……男の口から溢れた『博士』の単語に反応を示す。
「──それにしても、
僕たちは、男の発言の続きを待つ。
そして、
「確か、
…──大半は、意味の理解出来ないその言葉に。
背骨に氷柱が突き刺さったかの様な錯覚を覚える。
「特定の
男の言葉は最後まで続かなかった。
ごがんッ!! と。
人間を遥かに超える大きさの獣と化したナゴラによって、コンクリートの地面に力任せに叩き付けられたからだ。
コンクリートには大きく亀裂が走り、僅かにクレーターが出来てしまうほどの衝撃。大きくバウンドをした男の体は、ぐったりと四肢が投げ出され、ぴくりとも動くことはない。
『…──わしは冥界の神なれば』
ばはァ──っ、と荒々しく息を吐き出しながら、ナゴラは言う。
『命を生かすも殺すもわし次第。安心せい、死んではおらん』
こちらを振り向いた彼女の目は揃って血走り、夜闇の暗さも相まって、とても恐ろしく映った。
それを見ながら、僕は握っていた拳をゆっくり下ろす。
…ちっ。ナゴラに
「──兎に角、これで『博士』とやらが完全にクロだってことは分かったね」
『あー…。わしにはアイカの身が危ういこと以外は、よく分からんかったのじゃが。結局、其奴は何をしようとしておるのじゃ?』
「ごめん。僕も、全部を全部しっかり理解出来た訳じゃないんだけど……要は、ナゴラとドルムが僕を『別の誰か』として扱うんだ。そして、僕も『別の誰か』として振る舞う。はい、僕は僕ではなくて『別の誰か』になった」
『──
「うん。それで合ってると思う」
…特筆すべき点としては、ミステリオマキアに流用されている最新科学技術・魔法をそれに利用することで、とんでもない強制力が働いている、ということだろう。
なんとも……なんとも、クソみたいな話だ。
大切な人が死ぬのは、もちろん悲しい。再会を望むのも、当然だとは思う。
……だけど、だけれど。
今を生きている人間を否定して、別の誰かに作り替えるなんてのは、到底理解出来ないし、享受もしたくない。
──1人の少女が犠牲になろうとしている。それも、一個人のくだらない願望なんかの為に。
「──行こう2人とも。アイカちゃんを助けるんだ!」
『応!』
暗闇の中を僕たちは駆ける。
アイカちゃんを、友達を助ける為に。
◆◀︎▲▶︎▼
──因みにドルムが一切喋らないのは、ブチギレたナゴラにビビり散らかしているからである。
『(我は影、真なる影……)』
「…ヘタレ」
『(なんだとうっ!)』
「声小っさ」
影と同化したまま息を潜める相棒に、なんとも頼りなさを感じてしまう僕であった。