片頭痛カードゲーム変更前   作:広所恐怖症

16 / 24
15話(2685)

「──大変申し訳ありませんでした。咄嗟のことで、つい…」

 

「い、いや良い。俺も最近昇格したばかりだったから、情報の伝達が行き届いていなかったんだろう……ぐふぅっ」

 

 

 パラボラアンテナがめり込んだ様な、或いは生えた様な。

 そんな不思議なデザインをした真っ黒なヘルメットと、それと同じく黒一色の衣服に身を包んだ男性に向けて、僕は頭を下げていた。

 

 時刻は夜半。曲がり角から突然現れたこの男は、これまでの経験や入手した情報から察するに、例のテロ集団──シャドウズだと思われる。

 

 アンテナの部分を除けば、ドルムが作り上げたものと()()()()()()()()()黒いヘルメットを被った男性。

 彼は、先ほど驚いた僕が反射的に放ってしまった、右ストレートが突き刺さった鳩尾を抑えながら背を丸めて呻いている。

 

 それを見て、失態を犯してしまった部下のふりをしながら謝罪をすれば、意外にもシャドウズの男性は、寛容な心で受け入れてくれた。

 

 ……アレかな。まだ昇格したてだから、器の小さい奴と思われたくないとか、そんな思惑があるのかもしれない。

 

 

『(…──われの…でざいんせんすって…)』

 

 

 男性のヘルメットの形状を見て、僕の影と同化していたドルムが何かを呟いた気がした。

 バレたら大変なんだから、静かにしてなさい!

 

 

「げほっ、ごほ…っ。……ふう。なんとも素晴らしい右ストレートだった」

 

 

 漸く息が整った男性に向けて、お褒めに預かり……なんて返す僕。

 

 

「いや、本当に見事な身のこなしだった。…俺も幹部とは言え、やはりなったばかりだからな。君が良ければだが、どうだ。俺の部隊に所属する気はないか?」

 

「いえ、さっきのはたまたまというやつです。それに、割り当てられた仕事がありますので……」

 

 

 下手に誘いに乗っても、面倒なことになるだけ。

 リスクを避けて、当たり障りのない解答をする僕。それを聞いた男性は、「ああ、例の…」と呟きを漏らした。

 

 ……今の反応は、少し気になる。

 ほとんど勘なのだが、勇気を出して僕は、踏み込んでみた。

 

 普通だったのなら、怖気から早急に話を切り上げ、この場から離れようとするのかもしれないが──舐めてもらっては困る。

 あの日の『組織』とのやりとりで、ハッタリをかけることには少しだけ自信があるのだ──!

 

 ……まあ実際のところ、仮面の下は、緊張で汗びっしょりだけど。

 

 

「例の、とは?」

 

「うん? 作戦内容を知らされていないのか?」

 

「も、申し訳ありません。末端も末端でして……」

 

 

 訝しんだ男に、慌ててフォローを入れる。首を傾げた彼だったが、少しすると納得した様子を見せた。

 危ない、なんとか回避出来た……。

 

 

「ここでも情報伝達が上手く行っていないのか……まあ、我々も急速な発展を遂げている組織。管理体制がまだ整っていない部分があるのは否めないからな…。色々と、上も努力はしているんだろうが」

 

 

 ──ごほん。

 分かりやすく、咳払いを挟んでから。

 

 

「ええと……望月(もちづき) 会希(カイキ)だったか? ほら、この街でもそこそこの権力を持った、ミステリオマキアの研究で博士号を取っている……」

 

 

 ──ぴくり、と。

 黒猫の姿で物陰に隠れていたナゴラ、足元の影と同化していたドルム、そして、僕は……男の口から溢れた『博士』の単語に反応を示す。

 

 

「──それにしても、()()()()()とは。あの老人も中々大それたことをするものだ」

 

 

 僕たちは、男の発言の続きを待つ。

 そして、

 

 

「確か、()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 …──大半は、意味の理解出来ないその言葉に。

 背骨に氷柱が突き刺さったかの様な錯覚を覚える。

 

 

「特定の人格(キャラクター)を演じさせ続け、それが正しいことだと周囲(ぶたい)ごと設定する……最終目標は自身の娘夫婦と孫娘の蘇生だったか? ハッハ、イカれているなぁ。ミステリオマキアを行う為に科学の粋を集めて生み出された『魔法』を、そんな風に活用するとはな。まあ我々としては、その技術が完成したところで、それを奪」

 

 

 男の言葉は最後まで続かなかった。

 

 ごがんッ!! と。

 人間を遥かに超える大きさの獣と化したナゴラによって、コンクリートの地面に力任せに叩き付けられたからだ。

 

 コンクリートには大きく亀裂が走り、僅かにクレーターが出来てしまうほどの衝撃。大きくバウンドをした男の体は、ぐったりと四肢が投げ出され、ぴくりとも動くことはない。

 

 

『…──わしは冥界の神なれば』

 

 

 ばはァ──っ、と荒々しく息を吐き出しながら、ナゴラは言う。

 

 

『命を生かすも殺すもわし次第。安心せい、死んではおらん』

 

 

 こちらを振り向いた彼女の目は揃って血走り、夜闇の暗さも相まって、とても恐ろしく映った。

 それを見ながら、僕は握っていた拳をゆっくり下ろす。

 

 …ちっ。ナゴラに()()()()()()()()()()

 

 

「──兎に角、これで『博士』とやらが完全にクロだってことは分かったね」

 

『あー…。わしにはアイカの身が危ういこと以外は、よく分からんかったのじゃが。結局、其奴は何をしようとしておるのじゃ?』

 

「ごめん。僕も、全部を全部しっかり理解出来た訳じゃないんだけど……要は、ナゴラとドルムが僕を『別の誰か』として扱うんだ。そして、僕も『別の誰か』として振る舞う。はい、僕は僕ではなくて『別の誰か』になった」

 

『──飯事遊(ままごとあそ)びを強いている、ということか?』

 

「うん。それで合ってると思う」

 

 

 …特筆すべき点としては、ミステリオマキアに流用されている最新科学技術・魔法をそれに利用することで、とんでもない強制力が働いている、ということだろう。

 

 なんとも……なんとも、クソみたいな話だ。

 

 大切な人が死ぬのは、もちろん悲しい。再会を望むのも、当然だとは思う。

 ……だけど、だけれど。

 

 今を生きている人間を否定して、別の誰かに作り替えるなんてのは、到底理解出来ないし、享受もしたくない。

 

 ──1人の少女が犠牲になろうとしている。それも、一個人のくだらない願望なんかの為に。

 

 

「──行こう2人とも。アイカちゃんを助けるんだ!」

 

『応!』

 

 

 暗闇の中を僕たちは駆ける。

 アイカちゃんを、友達を助ける為に。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 ──因みにドルムが一切喋らないのは、ブチギレたナゴラにビビり散らかしているからである。

 

 

『(我は影、真なる影……)』

 

「…ヘタレ」

 

『(なんだとうっ!)』

 

「声小っさ」

 

 

 影と同化したまま息を潜める相棒に、なんとも頼りなさを感じてしまう僕であった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。