片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
「──らぁッ!」
俺の体当たりによって力任せに開かれる、モチヅキ研究所のドア。ばがんっ! と発せられた大きな音を背に、俺は転がる様にして研究所内に飛び込んだ。
「はぁっ、はぁ…っ」
ここに来るまで止まることなく、全力疾走を続けていた俺は、必死に肺に空気を取り込む。
いつ、何が起きてもすぐ対応出来る様に、デッキに手を掛けながら、不自然に明かりの落ちた研究所の中を進んだ。
受付を過ぎ、一般人向けの為に作られた展示物エリアを抜けて──
「──リューガくん?」
暗闇の中から名前を呼ばれたことで、俺は慌てて飛び退き、デッキを握った手を前方に突き出した。
相棒のアルマリアも、幻影の姿で俺の隣に現れ、警戒を強めてくれる。
そうして俺たちの前に現れたのは、
「イクタ、か……??」
青色の髪と、丸メガネ。
見慣れた少年の姿に、俺たちは警戒を解いて彼へと駆け寄った。
「イクタ! お前も来てたのか!」
今この街では、普段ではまず見ない人数のシャドウズたちが暗闇で蠢いている。それを察知したのだろう、イクタもイクタで、行動を取っていた様だ。
……問題なのは、イクタが望月博士のことを信じてくれるかどうかだ。
「良いかイクタ。突然だから、信じられないかもだけど……望月博士が、何かを企んでる」
「リューガくん」
「ああ、俺だってまだ信じられない。でも、その可能性がある──本人に直接会って聞かないと! ユ……
『リューガ、離れろっ!!』
──アルマリアの声に、一瞬体を固めつつも、必死にその言葉に従って距離を取る。
…天窓から降り注ぐ、僅かな月明かり以外は暗闇に支配された空間。
その中に浮かび上がるのは、掴んだデッキを突き出し、顔を俯かせているイクタだ。
何か、様子がおかしい。
そう俺が思考した瞬間。彼の後ろから、ある人物が姿を現した。
灰がかった髪、豊かな髭。簡素なスーツの上から白衣を纏ったその男性の名前は……。
「望月博士……!!」
望月 カイキ。
とある少女を中心に、この街全体を巨大な実験場に見立て、何かを成そうとしている可能性のある人物。
──信じたかった。あのシャドウズはやっぱり俺のことを騙そうとしていて。日頃シャドウズと戦う俺たちをサポートしてくれている、あの、頼もしくてなんでも知っている博士こそが、真実なんだって。
…でも。
「──いかんぞ、イクタ。リューガも既にシャドウズによって操られておる!」
「くそっ。リューガくんと戦うことになるだなんて…!!」
イクタの背後で醜悪な笑みを浮かべるその姿を見て、俺は全てを理解する。
博士は──彼は、今の今までずっと俺たちを騙していた。
街の皆を操ることで、あいつを。
アイカが苦しむことになった、全ての元凶を作り出した張本人──!!
「駄目だっ、聞いてくれイクタ! お前は騙されて──ッ」
「辛かろうが、聞く耳を持ってはいかんぞイクタ。その甘言に惑わされてしまえば、
「──っ!!」
アウェイク。
……ファイターなら、聞き慣れた開戦宣言を唱えたイクタを見て、アルマリアが叫ぶ。
『構えろリューガ。こうなったらもう、戦いは避けられない!』
「ちくしょう……!」
相棒の言葉に、俺はデッキを改めて構えた。
どう考えても、これは博士による時間稼ぎとしか考えられない。
…速攻で終わらせて、イクタも、そしてアイカも! 絶対に救い出す!!
「アウェイクッ!!」
◆◀︎▲▶︎▼
「──〈駆動機士長
『機士たちよ、我が元に集えぇーっ!!』
バトルゾーンに召喚される、イクタの切り札の〈帯・熊〉。
彼の元に集った〈駆動〉ユニットたちの効果によって、〈帯・熊〉は必殺と呼ぶべき能力と戦力を手に入れることになる。
イクタが得意とする、〈駆動〉シリーズの能力を最大限に活かした必殺のコンボ。
シャドウズの構成員を何度も返り討ちにして来たそれを前に、しかし俺もただでやられる気なんて毛頭無い。
「〈帯・熊〉でコアエネルギーにアタック──」
「呪文〈撃竜紅閃〉*1発動! イクタの場のユニット全てを破壊するッ!」
「っ!? し、しま……っ」
「──俺のターン。頼んだ、
俺のバトルゾーンに、光の剣を携えながら、純白の翼をはためかせるアルマリアが月光と共に降り立った。
彼女は除外された〈竜〉ユニットの数だけ力を増す能力を有している。これまでのプレイにより、除外されたカードは10枚以上。イクタのバトルゾーンはガラ空きな上、〈帯・熊〉の効果で手札はゼロだ。防ぐ手立ては無い!
『砕け散るが良いっ!』
「そ、そんな──うわぁあああっ!?」
放たれた剣戟が直撃したことで、イクタのコアエネルギーがゼロになる。
……俺の勝ちだ。
「う、うう…っ! まだだ! ユウカちゃんは、僕が守るんだ……!!」
ファイトに負けた衝撃から体勢を崩したイクタが、呻き声を発しながら起きあがろうとする。
「はぁっ、はぁっ。…イクタ、違うんだ。俺はシャドウズに操られてなんかいない! 本当は──」
負けられない、一瞬たりとも気の抜けなかったファイトが終わったことで、緊張から解放された俺は精一杯息を整えながら、必死にイクタへ言葉を投げかけた。
……その時。
「──ふむ。やはりイクタ、お前ではこの辺が限界の様じゃな」
ドスっ、と。
鈍い音を立てて、俺の目の前にいたイクタの背中に、何かが突き刺さった。
注射器と、コンセントプラグが融合した様な見た目の、奇妙な機械。望月博士の片手に装備されたそれは、2つある突起を深々とイクタの背中に食い込ませ、驚愕と混乱から固まるイクタの体から、『何か』を吸い出していく。
「…──は、かせ…??」
「安心するのじゃイクタ。君の犠牲は──君から奪った『エネルギー』は、儂が正しく活用してやろう!!」
どさり、と。力のこもっていない手足を投げ出し、青白い顔色となったイクタの体が床に倒れた。受け身も取れず、鈍い音を立てて倒れた友達の姿を前に、俺は怒りに身を任せて叫ぶことになる。
「望……、月ィいいいいいいっっっ!!!」
「クハハハハッ!! 良いぞリューガ!
イクタとのファイトの直後で、疲れの溜まった体を無理矢理奮い立たせ、俺はデッキを構え
「おおっと! リューガ、お前の相手はこの儂ではないぞ?」
──開戦宣言を唱える直前、博士の後ろから小さな影が飛び出し、俺に襲いかかってきた。
……桃色の髪。ボリュームのある前髪が、まるでハートマークの様になった少女。
「あ、アイカ──っ!」
「リュリュりrrryGあぁくnn!」
多種多様。俺にはその効果も目的も分からない、様々な機械を無理矢理取り付けられたアイカは、不自然なほど
「あああAaaWwうぇえkkKkeくく!!」
展開された魔法陣が、俺とアイカの2人を包み込んだ。
効果:自分のバトルゾーンにいる、火属性と光属性のグレード4以上の〈竜〉ユニットを選択し、その合計戦力値以下の相手ユニットを全て破壊する。この呪文の発動後、選択した〈竜〉ユニットは除外される。