片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
やあ、こんにちは。
僕はユーキ。極度の片頭痛に悩んでいることを除けば、これと言って特徴を持たない、どこにでも居る普通の少年だ。
『我こそは邪神。……〝
そんな僕はある日、1枚のカードと出会う。
自身を邪神と名乗る、闇属性のカードと。
その出会いは酷くコミカルだったけど──今振り返れば、それはとても素晴らしいものだったと、胸を張って、僕は言うだろう。
ドルムとの出会いを経て、僕の日常は、摩訶不思議な非日常へと変貌を遂げた。
大切な友人たちが危険な目に遭い、自分の身の安全などそっちのけで彼らの為に動けば──その先で、世界の危機と直面し。
恐怖を
世界の裏側──ユニットたちが住まう、異なる世界〝ミステリアワールド〟。
次元の崩壊に巻き込まれて辿り着いた、その先。
僕らが迷い込んだのは、そう言った場所だった。
元いた世界へと戻る為、僕とドルムは力を合わせて未知なる世界に立ち向かう。
力を合わせ、時々に衝突もして──。
『──にゃーっはっはっは! よくぞ来たな、
──そんな中で出会った、ドルムに次ぐ新たな邪神・ナゴラ。
彼女との出会いを皮切りに、僕らは様々な事態に直面していった。
現地で生きる、ユニットたちが抱えていた問題解決。その原因たる存在との対決。
…そして。自らを邪神と名乗った、ちっぽけな
色々なことを──本当に色々なことを経験した。が、それらを全て語るのは、またの機会にしようと思う。
……ええとあの、本当に色々あって、全部話すにはめちゃくちゃ時間とか必要になっちゃうと思うので…。
実に、実に様々な出会いと
やらなければいけないことは、沢山ある。帰ってきたことを、謝罪と一緒に報せること。あの日何が起きて、その後、僕が何に直面し、何を経験したのかの説明。
そしてなにより、相棒となった大切な存在たちの紹介──。
だけどそれを、世界は許しちゃくれなかった。
試練を乗り越えたことで与えられたのは、別の新たな試練だったのだ。
「──よし。それじゃあ状況をまとめよう。ドルム、頼んだ」
恐る恐ると言った体で。
頼むから否定してくれと、何かの間違いであってくれと祈りながら。
虚しく祈りを捧げながら発言した僕に、ドルムは告げる。
『もはや、間違い様が無いだろう。我らが「あちら側」に迷い込んだあの日から、2年の歳月が流れている……ッ!!』
──ふぁっくにござる!!!
◆◀︎▲▶︎▼
2年。
僕たちが、世界の裏っ側である『あちら側』から戻ってくるまでの間。
こちらの世界では、それだけの年月が経過していた。
……受け入れ難い現実を前に、打ちひしがれる。
五体を冷たいアスファルトの上に力無く投げ出している僕の目前では、頼れる邪神サマが両の人差し指をもしょもしょ絡ませて、なんとも言えない表情となっていた。
状況を確認し、自分たちが知らない内にタイムスリップを果たしていたことを知った僕たちは、取り敢えずワープした先である、僕の家から早急に立ち去ることにしていた。
……今はどことも知れない、路地裏で声をひそめて情報を整理している最中だ。
『……2年もの歳月が流れているのだ。ユーキ、貴様の住んでいた家も他者の所有物となっている可能性がある。最悪、あの場に居続ければ不法侵入者として罪に問われていた可能性も考えら』
「おぅお、ぅおあぁ……っ!」
『泣かせてしまった!!』
堪えられずに涙を流し始めた僕を、ドルムは慌てた様子で抱きしめ、頭を撫で始める。
どうして、どうしてこんなことに…!
別に、世界の危機をどうこうしたことを誰かに褒め称えて欲しいわけじゃない。ただ、元居た世界に戻って来れた喜びを享受したいだけだと言うのに、なにゆえこんな目に合わないといけないんだ…!?
ただただ、涙を流すことしか出来ない。分厚い筋肉と鱗に覆われたドルムの肉体に抱きしめられながら、僕は
『──まぁまぁ。よく分からんが、そう嘆くこともあるまいて。なることはなる様に出来ておる。ユーキよ、お
「それもそうだ。よし、切り替えていこう!」
『うわぁ!?』
急に落ち着くな!! と、ドルムが驚いた声を上げて抱擁していた僕を解放する。
ナゴラの言うとおりだ。起きたことは変えられない。だったら、なることがなる様に、なんでもいいから行動を起こした方が遥かに建設的である。
それに、だ。
よくよく考えれば、こちとら闇の組織と対立して世界を救った上、次元を超えて世界の裏っ側に迷い込み、そこでもすったもんだなあれこれを経験した身である。
今更タイムスリップしたからなんだと言うんだ。こんなもの、全然大したことは無い。
『う〜む、タフネス』
「そうと決まれば話は早い。兎に角、なんでも良いから行動を始めよう!」
流れてしまった年月。こればっかりはやはり、どうしようもない。戻ってくれと願って戻るものではないのだから、今しなくてはならないのはこれからのことだ。
……こちらの人たちからしたら、僕と言う存在は
◆◀︎▲▶︎▼
「──うん、よし。ここは警察に助けを求めよう」
相棒と呼ぶべき存在の少年の言葉を聞いたドルムは、泳ぐように宙を進み、彼の傍へと移動した。
『まあ、それが最善であろうな。早速、警察組織関連の施設に向かうとするか、ユーキよ』
「そうしよっか。…こういう時にスマホがあれば便利なんだけど、それも『向こう』で粉々になっちゃったからなあ……。その辺のことも、考えていかないと」
溜め息を1つ。──吐かれることもない。
中学1年生。
……齢で見れば十と余年、若輩などとと言う言葉で表すには、余りにも幼すぎる年齢。にも関わらず、当の少年は、理不尽な現状への嘆きを自己の意思で終わらせ、先を見据えた行動を始めていた。
同年代の少年少女ではまず考えられない、余裕を持ったその精神構造を形成するに至ったのは、間違いなくこれまでの──特に、『あちら側』での経験があったからだろう。
多くのことを知り、多くのものを得て──そして、
『で。これからどうするのじゃ?』
「そうだね、取り敢えず……街並みって数年で変わったりしてるのかな。ナゴラ、地図板…えぇっと? 壁画、いや、切り抜かれた石板……? 兎に角、僕たちが今居る場所を、詳しく絵にしたものがあると思うから、それを探そう」
『(……………)』
…瞳を持たない邪神の双眸が、独り静かに、目前の少年を見る。
──帰還を果たした世界が、既に自分たちが知る時分を、過去のものとしていたと分かった時。絶望したのは、何も少年だけではなかった。
そもそもの話。元を
少なくとも、あの日。
自身と出会った少年が、
ならば己は、それを奪った張本人と言え──
「──なんか今。めんどくさいこと考えてるでしょドルム」
と。
路地裏から踊り出て、通りを進み始めた少年が、静かに声を発した。
「どーせ。こうなった元凶が自分にあるとかなんとか考えて、1人で勝手に負い目でも感じてるんだろーけどさ」
『……貴様はいつからエスパーになったのだ?』
「ハッ。こんなの態々心を読む必要もないね」
大袈裟に肩を竦める少年。
それを見て、ドルムは僅かに目を細めた。
確かに──少年の言うとおりに、ドルム自身も彼が何を言わんとしているか、それをなんとなくだが理解することが出来る。
──気にするな、と。
結果は
きっと少年はそんな言葉を言うのだろう。
それが、他者から畏怖の対象として、邪悪な神として扱われて来たドルムは理解することが出来た。
少年と邪神。
彼らが出会ってからの日数は、1ヶ月にも満たない。
しかし彼らは、互いを
カードとそれを扱うファイター。魂とでも呼ぶべき部分で繋がった、特別な関係として。
『…──ああそうだな。すまないな、ユーキよ。…らしくない。我としたことが、予期せぬ事態に少々、ナーバスになっていたらしい』
「頼むぜ相棒。これから先、住居だとか携帯端末だとか、何かと入り用になるのは全部ドルムが頼りになるんだからさ」
『おいちょっと待て。資金調達関連の全てを我に押し付けるつもりで居るのか貴様』
「取り敢えずはこの光彩遮断装置を量産して、片頭痛に悩む人たちへの配布と企業への売り込みをするところから始めよう。ああ、タイムカードは定時で切ってね*1」
『やめろ! 割と笑えねーんだよそのブラックジョーク!!』
少年は自身が着用していた、
因みに現在、極度の片頭痛持ちである少年の視覚を保護しているのは漆黒のヘルメットではなく、飾り気の無い黒い仮面となっている。
黒曜石に似た材質のそれは、紐などを用いることなく装着者の顔面部を自動で覆い隠し、また、密着するのではなく一定の距離を保つことで通気性を確保。従来の光彩の遮断性を維持しつつ、装着者が酸欠に陥ることを防ぐ次世代型へとバージョンアップを果たしていた。
唯一の欠点としては、その見た目ゆえの、変質者扱いを免れないことだろう。
ヘルメット型から格段に携帯性能が上昇した代わりの、尊い代償であった。
『──おーい、お主ら。これはなんじゃー?』
さて。コントじみたやりとりを行う2人に声をかけたのは、ナゴラである。
今は、すっかりと日の落ちた夜半。少女の姿をした──見る者によっては幼女とすら言える──彼女が指差す先にあったのは、この地区を詳細に書き記したであろう地図板であった。
「おっ、ナイスだナゴラ。これを探してたんだよ!」
2年の内で、建造物の場所が以前とは異なっている場合もある。少年が、設置されていた地図板と睨めっこを始めると、その背によじ登った小さな冥神が、肩口から同じ様にして眺め始める。
彼女が暮らしていた『向こう側』と比べ、こちらの文明はかなりの発展を遂げている。
(…──む?)
地図板に記された現在地と交番を認め、そこまでのルートを覚えようと頭を働かせる少年と、その肩口から『あれはこれは』と質問を繰り返している両者を眺めつつ。
ドルムは、通りの向こう側から、何者かがこちらに向かって来ているのに気付いた。
服装から見るに、恐らくは警察官だろう。夜間パトロールの最中だろうか、探す手間が省けたと、邪神は少年に耳打ちした。
ドルムはその巨躯を少年の影と同化させながら、
『これは僥倖。ユーキよ、向こう側から警察官と思しき男がこちらに向かって来ている。事情を説明して、保護してもらうぞ』
「おっ、ほんと? ……よ、よく見えたねドルム。僕だと全然分かんないんだけど…」
『まあその辺は人とユニットの違いであろうな。──おい、我が同胞よ。貴様も早急に姿を変えろ。その姿だと騒ぎになる可能性がある』
おん? とナゴラは眉を顰めた。
夜──それも、もうじき深夜に差し掛かろうとしている時間帯である。そんな時に幼児同然の背格好の者が出歩いていると知られれば、あらぬ誤解をかけられる可能性が高いだろう。
その辺りの事情……こちらの世界の摂理云々を、彼女に説明している暇は無い。ドルムに急かされたナゴラは、首を傾げつつ、己の権能により姿を変貌させた。
……の、だが。
『よく分からんが──これで良いかの?』
『なんで黒豹!? 別の騒ぎになるわ! もっと小さくだ、子猫の様に小さく収まるのだ!!』
『えぇい、注文の多い! …──どうじゃ、これなら文句無かろう!!』
『翼を付けるな、角を出すな! 尾も増やさんでいい、猫だ猫! 普通のね・こ!!』
『猫とはこう言うものじゃろうが!』
地球生まれの現代育ちのドルムたちと異なり、ナゴラは世界の裏っ側たる『あちら』で生まれ育った存在である。
持つ知識も備えた常識も大きく異なっている為、齟齬が生じてしまった両者のやり取りは、次第にヒートアップしていってしまう。
『手足はもっとこう、小さく──待て待て待て、そっちまで変える必要は無い! 1つ前に戻して──…』
『んもォおーッ! 何が悪いのじゃ、何がいけないのじゃ! なんも変じゃねぇだろこれでいいじゃんかよもおォおんッッ!!!』
「あああ、ナゴラごめん。ドルムが悪かったから落ち着いて! あんまり大きい声出すと騒ぎに──っ」
冥神。──冥界の神。
荘厳たる二つ名を持ち古めかしい口調のナゴラであるが、その実、精神年齢の方は10才前後であったりする。理由も解らずしつこく訂正を繰り返され、とうとう癇癪を起こして泣き出してしまった。
少年が慰めながら懇願をするも、時既に遅し。
騒を聞き付けた警察官は、何事かと歩みを早め、彼らの元へと駆け付けてしまった。
「どうされましたか! 何やら騒ぎの、よう、で……」
警察官は見る。
夜闇に溶け込む様な、黒を基調とした服装をした上で、材質不明な黒曜石に似た仮面を付けた不審人物と。
それに抱えられた、猫なんだか犬なんだか鳥なんだかよく分からない、多種多様な生物が凝り固まった、
動きを止めていたのはほんの一瞬。
次の瞬間に彼は、洗練された素早い動作で懐から取り出した拳銃を、完璧な体勢で構えて見せた。
◆◀︎▲▶︎▼
「『……………拳銃???』」