片頭痛カードゲーム変更前   作:広所恐怖症

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21話(8544)

「──〈悪楽鬼(わるがき) リリ〉*1と〈騒孤陰魔(ざこいんま) ヘポ〉*2を召喚! それぞれの効果で、手札を2枚破壊する!」

 

『きゃっはは! リリのイタズラでボロボロにしてあげる!』

 

『おらぁ! ザコが粋がってんじゃねぇぞ!』

 

「儂の手札が!? おのれェ…!!」

 

「呪文〈愚者ノ黄金〉*3。カードを捨てて、2枚戻す。……この時に捨てた〈闇蜘蛛DASH!〉*4の効果発動! お互いのデッキからカードを墓地に送る。僕が1枚、そっちが4枚だ!」

 

「ぬ、ぐゥああァ…!!」

 

「アタックフェイズ! 〈美鬼陰魔(メロ・マドンナ) ビュティ〉でコアエネルギーにアタックだ!」

 

「〈被験体No.585〉*5でガード──」

 

「ビュティの【▶︎】効果発動! リリとヘポを破壊することで、戦力を4000/2から6000/4に上昇! 更に相手ユニット1体のコントロールを奪う!」

 

『あら可愛らしい子。こっちで一緒にタノシイコトしない?』

 

『ア、ア。びゅてぃサマ……』

 

「くそっ、くそっ。クソッタレがァ!!」

 

 

 ──攻める、攻める、攻めまくる。

 黒煙と共に吐き出される炎に照らされた研究所を背に、始められた博士とのファイト。友達を傷つけられたことで怒髪天となった僕に呼応する様に手元に集まってくるカードたちによって、博士は思うとおりのプレイングが行えず、今にも手札を地面に叩きつけそうな勢いで罵詈雑言を吐き出した。

 

 

「……何故だ。何故儂の邪魔をする! 理不尽に奪われた命を呼び戻すことの、哀れな家族にもう1度会いたいと希うことの何が悪い! 何が望みだ、貴様は神の代弁者を気取りたいだけじゃろう!! 幼稚なくだらん正義感に酔いしれたい貴様こそが悪じゃと、何故分からん──!!」

 

 

 苛立ちから頭を乱暴に掻き毟りながら、博士が僕を糾弾する。

 死んだ家族を甦らせる。愛した存在を奪われた彼にとっては、それこそが至上命題なのだろう。他の何を投げ打ってでも、他者を力任せに蹴り飛ばしてでも。

 

 きっと、家族を奪われたことで望月博士は狂気に取り憑かれているんだと思う。証拠に彼は、自分の行いは正しいと信じて疑っていない様子を見せた。

 ……確かに。大切な存在を奪われるその苦しみや悲しみは、知らないし分からないとは言え、理解は出来るつもりだ。

 

 同情はしよう。憐憫の情だって、一切待っていないわけではない。

 だけど、許さない。

 

 

「別に僕は、正義をどうこう語るつもりはないよ」

 

「ならばっ、何故!」

 

「アンタと同じだよ。アンタが自分の目的を優先する様に、僕も僕の感情を優先する」

 

 

 目前のこの男は、僕の友達を傷つけた。だから許さない、ここで倒す。

 至極単純で明快、これはそれだけの話なのだ。

 

 

「くそっ。くそっ。こんな、こんなところで敗れるわけには。儂はっ、儂の愛する家族たちをぉ……ッ!」

 

 

 今にも幼い子どもの様に泣き出してしまいそうな表情を見せる博士。その姿を冷めた調子で認めながら、僕はターン、を……??

 

 

『…なんじゃ?』

 

 

 ナゴラが訝しげに声を漏らす。

 視線の先。博士の足元に、何かが集まっているのだ。黒く暗い、粒子の様な何かが。

 僕たちの反応があったからか、博士もそれに気付いたらしく自身の足元へ視線を移す。初めは気のせいかと思えたそれは、時間が経つにつれ次第にはっきりと視認出来るレベルの濃さを持った、『塊』と化していた。

 

 

「は──はは、ぐはははっ! そ、そうか! 神はまだ儂を見放していなかったか!」

 

 

 打って変わって、博士は狂笑を浮かべて声を上げる。

 黒い塊が明確に形を持ち始めるのに合わせて、地鳴りが辺りに響き始めた。……なるほど、これは…。

 

 

『なんじゃ、あれで滅されてはおらなんだか。往生際が悪いのう』

 

「アレはユニット……で、良いのかな? まあ、だとしたら車に轢かれた程度じゃ倒せないのも納得だね。…ナゴラ。力を貸してもらってもいいかな?」

 

『言わずとも、決まっておろう? ──さあ構えよユーキ。ここが正念場じゃぞ!』

 

 

 黄金に照り輝く錫杖を振り回し、構えるナゴラ。ばっちりポーズも決めた彼女は笑顔を浮かべており、頼もしい限りだ。

 

 ……ごぎり、がぎり、と。

 鈍い音を立てながら、塊から細長い獣の腕が何本も生えてくる。もがく様に、或いは這い出る様に。

 不気味なその様子を目の当たりにしつつも、恐怖や不安といった感情は不思議と抱くことはない。頼もしい相棒の存在に、僕は改めて手札を構える。油断も慢心もない。必ず勝ってみせる!

 

 

『…──ふぅ、ふぅ。な、何とか火の手を抑えられた。げふごほっ』

 

「お疲れ様ドルム。こっちは佳境に入ってるよ」

 

『そうかそうか。……取り敢えず貴様には言いたいこととやりたいことが100個ぐらい有るんだが構わないよな?』

 

 

 若干、煤けた様な白く染まった様な──消火剤かな?──ドルムは、首や手の関節を鳴らしながら僕を睨みつけてきた。

 いやちょっ。確かに車で突っ込んで、その後の脱出と消化活動を任せっきりにしてしまったのは確かだけど、状況が状況だったんだから大目に見て欲しいんだけど…!?

 

 

『…──はぁ。まぁ、良い。それより今はどういう状況だ?』

 

「良いって言うんなら僕の頭を掴んで持ち上げるのを頭蓋が頭蓋が頭蓋がッ!!」

 

 

 僕が叫ぶと、ぽいっという感じでドルムが手を離して放り捨てられる。そのまま握りつぶされそうになっていた頭蓋骨の調子を確かめながら、博士が切り札と思しき存在を喚び出そうとしていることを、掻い摘んで話した。

 するとドルムは分かりやすく眉間に皺を寄せて首を捻る。

 

 おや? どうしたのだろう?

 

 

『うー、ん……?? …あー。ユーキ、少し良いか?』

 

「うん。最終局面が始まりそうだから手短にね」

 

 

 地鳴りは激しさを増し、高笑いを行う博士の足元では黒い靄が渦を巻き、これまた黒い稲妻と共に異形の存在が遂にその全身を露わにしようとしている最中だ。ナゴラもポーズを決めたまま意識をそちらへ向けている。

 そんな彼らを傍目に、僕はドルムに続きを促した。

 ら、

 

 

『そうだな、最終局面だ。黒幕たる存在が切り札を用い、そうして超常たる存在が顕現しようとしている……』

 

 

 一呼吸挟み、

 

 

『…──我にはどうにも既視感(デジャヴ)を感じられてならんのだが…??』

 

「………」

 

 

 …ドルムの言葉に、僕は過去の記憶を引っ張り出した。

 かつてのあの日の夜。『組織』の長と相対した時、あの青年は何を繰り出したっけ?

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「もう終わりじゃあっ!! このファイトに打ち勝った暁には貴様らの魂を供物に捧げ、愛する娘家族たちを儂は甦らせる! ……死の化身にして、冥界の王たるこの存在。

 

 

 

───魂喰冥神 ナゴラバウワフを使ってなァッ!!」

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 静寂、沈黙。

 時間が止まったと言っても過言ではない状況。誰よりも早く動いたのは、渦中の博士……ではなく。

 

 ちっちゃな冥界の神様が付けていた、頭飾りから分離した黄金のスライムだった。両手と思しき細長い触手を懸命に動かして自分の主の様子を伺ったスライムは、暫くしてから僕たちの方へ顔──と思われる──を向ける。

 びしぃっ、と両手でバツ印を作りながら。

 

 

「──ナゴラバウワフの【▲】効果ァ! ナゴラバウワフ以外のユニットを全て破壊するゥ!! そのままコアエネルギーにアタックだァ!!」

 

 

 ポーズを決めたまま固まってしまったナゴラ。アイカちゃんと少年も同じ様に固まってしまっているのを背中からの雰囲気で感じながら、僕は目前に集中する。

 いつぞやのドルムよろしく、ナゴラと同名の存在が現れたのも驚きでは有るのだが、それ以上に3ターン目で……フルチャージをしていないのにグレード5のユニットを召喚したことの方が問題だ。

 

 幾らなんでも最低限のルールは守れよ……ファイターの風上にも置けない存在である。倒さなくてはならない理由がまた1つ増えた瞬間だ。

 

 効果で盤面が一掃されてしまった為、僕はこのアタックを防ぐことが出来ない。

 とは言え、これまでのプレイングによってこちらのコアエネルギーは満タンである。戦力を見ても、一撃で全て持っていかれることはなさそうだ。ここはノーガードで──うん?

 

 

『……なんだ? 魔法陣(フィールド)が切り替わった…??』

 

 

 ドルムが怪訝な表情を見せながらこぼした言葉のとおり、ファイトを行なっていた僕たちを包み込んでいたフィールドが切り替わったのだ。薄く光り輝いていた幾何学模様が、どこか禍々しい雰囲気のそれに。

 

 

「このフィールドは……!? ──コアエネルギーで受けたらダメだ、ガードしろぉ!!」

 

「えっ」

 

 

 背後。アイカちゃんの傍に居た、〈竜〉デッキ使いの少年が叫ぶ。

 突然、何を

 

 

 

 ──音? 衝撃、

 痛、 何

 

 視界   揺れ    意識

 

 

「ナゴラバウワフは2回行動が可能だ! そして戦力は19000/5! これで沈むが良いッ!!」

 

 

 博士 何か、

 

 言って、ダメだ          倒、れ

 

 

『ガードしろユーキィッッッ!!!』

 

「──っ!!!」

 

 

 ドルムの怒号に意識を引き戻され、いつのまにか片膝を突いていた僕は手札から引き抜いたカードたちを走らせた。

 

 

「呪文〈反骨精神〉*6ッ、手札から〈害骨兵士〉をバトルゾーンに出して、防衛(ガード)!」

 

 

 地中から這い出してきた骸の兵士が、その身と引き換えに敵の攻撃を防ぐ。

 ……間一髪。片膝を突き、荒い呼吸を繰り返す僕の元へドルムが()け寄って来た。

 

 

『無事か、ユーキっ』

 

「がぁ、くそっ。ダボハゼがっ。この僕にこんなことしやがって、ただで済むと思うなよ……ッ!!」

 

『ああうん。大丈夫そうだな?』

 

 

 くっそ痛ェ……ッ! 身体の真ん中に、鉄の塊でも撃ち込まれたみたいな衝撃と激痛だ、なんなんだ今の!?

 

 

「くっははは! この魔法陣(フィールド)ではコアエネルギーの減少が、そのままファイターにフィードバックする! …──言うならばこれは命を賭けて行われる、真なるファイト! 貴様の命をナゴラバウワフに捧げ、儂は家族を取り戻すのじゃぁっ!!」

 

 

 下卑た笑いを浮かべる望月博士と、僕の傍で息を呑むドルム。

 コアエネルギーに受けるダメージが、そのままファイターに本物の痛みとして襲いかかってくる……普通ならばあり得ないそれは、しかし先ほど僕が受けた痛みが何よりもの証左になっている。コアエネルギーがゼロになった場合どうなるかは、博士の目的も合わせ、言うまでもない。

 

 ドルムに視線を向けるも、険しい表情を見せて首を横に張るばかりだ。ナゴラの方も……ポージングを取ったまま固まっており、彼女の眷属である黄金のスライムたちが、細い触手をクロスさせてこちらに向け続けている。

 

 この特殊なフィールドの解除は見込めない。

 となれば、必然的に──僕がしなければならないことは1つになる。まあ当初から変わらない、ファイトで勝つだけなんだけど。

 

 

「さあ貴様のターンだ。精々、最期の足掻きに勤しむが良いっ!!」

 

 

 ──さて状況をまとめよう。

 相手のバトルゾーンに居るナゴラバウワフ、性能としては2回行動可能な高パワーユニット。厄介なことに召喚時効果で盤面は一掃されてしまっており、博士の残りコアエネルギー的にも今の僕の手札的にも、このターンで押し切るのは難しい。

 

 

「ドロー……」

 

 

 守りを固めなければ、またあの激痛に襲われることになる。

 その事実に冷や汗をかきながら手札に加えたカードを見た僕は──

 

 

「よっしゃ勝った」

 

「な、なにぃっ!?」

 

 

 今し方引いたものを合わせ、計4枚となった手札。完璧な方程式が完成したことで勝利を確信した僕が呟けば、博士は分かりやすく表情を歪めて驚愕を露わにした。

 

 

「ばっ、馬鹿な。この状況から勝つじゃと…?? い、いいや否! 強がりだ、虚栄だ! 儂の残りのコアエネルギーを削り切るには6打点が必要になる。その上で、ナゴラバウワフの効果で低戦力のユニットはアタックを行えん! この状況で、どうやって勝つと!?」

 

 

 博士の言葉を聞き、改めて相手のナゴラバウワフの効果を確認する。……アタックしたユニットの戦力が自分より低ければ破壊するという、その効果は確かに強力だ。

 また──博士は知る由も無いが──僕の手札の内訳は、ユニットが2枚と呪文が2枚。それにそれぞれの効果重視な低スタッツユニットの為、目標である6打点には遠く及ばない。

 

 ……()()()()()。それでも勝てる、勝ててしまう。それだけ完璧な手札が揃っているのだ。博士には悪いが、勝利の女神が微笑んだのはこの僕である!

 

 

「僕はこのターンでアンタに勝つ! さあ、歯形からでしか個人を特定出来ないレベルの損壊遺体になる覚悟は出来たかテメェくそがッ!」

 

『とんでもなく恐ろしいこと言うじゃん貴様──オぉあはァ…ッ!?』

 

 

 勝利宣言を行った僕。その傍で、僕の手札を確認したドルムが喉奥から変な音を出した。かと思えば、目にも留まらない速さで移動すると、僕らの背後で勝負の行方を見守っていた、アイカちゃんと少年の前に立ち塞がる。その巨躯が、丁度壁となる様に。

 

 

「えっ。突然どうしたんだよ?」

 

『ここから先の閲覧・視聴を固く禁ずる! 貴様らの情操教育及び精神形成に何かしらの影響を及ぼす可能性が有る!』

 

「ええっ?! なになになに、ちょっとぉ!」

 

 

 掌で頭を包み込みながら丸太じみた太さの腕で抱え、2人の視覚と聴覚をドルムが剥奪したことを認めてから、僕はフェイズを進める。

 

 

「オーバーチャージ! コスト5点を発生させて──ふぅ」

 

 

 一呼吸挟み、一旦呼吸を落ち着かせてから僕は、固く固く、歯を食いしばった。

 

 

「呪文っ、〈血の契約〉*7を発ど、うぐぅあ……ッ!!」

 

 

 〈血の契約〉──アイカちゃんから譲り受けた呪文カード。

 コアエネルギーを1点、コストとして支払うことでグレード1のユニットを手札から出すか、召喚コストを軽減する効果を持つ。

 今回僕が使ったのは2つ目の効果。意識が遠のきそうになるのを死ぬ気で堪えた後。コストを1軽減して出すのは……。

 

 

「…──ぜはっ、ぶはっ。〈炎武(えんぶ)舞火女(まいひめ) フランメ〉をバトルゾーンに」

 

『あーしの踊りに見惚れちゃえ!』

 

 

 少々露出が多めな、赤いドレスを纏った女性がバトルゾーンに現れた。両手の剣をぶつけ合わせ、火花と金属音を散らしながら演舞を開始する。

 

 

「残りの2点。〈怠惰の悪魔〉を召喚!」

 

『あー、だる……』

 

 

 角に羽。真っ青な肌を持つ悪魔然とした見た目の青年が、出現と同時に地面に寝そべるとそのまま動かなくなる。ファイトの最中だと言うのに気怠げな様子を見せるそのユニットであるが、今のこの場に於いては頼もしいことこの上ない。

 

 さて、僕の手札は残り1枚。

 この1枚で、勝敗が決まるのだ。

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

(な、何をするつもりだ…??)

 

 

 少年のプレイングに、望月は首を捻る。

 先の、コアエネルギーが一息に5点も減少した一撃と比べれば、1点の減少は雲泥の差だろう。しかしそれでも、その身には意識が容易く揺れる程の激痛が襲いかかったはずだ。

 

 それを堪えてでもバトルゾーンに喚び出された2体のユニットは、だが相対する望月からすれば訳の分からない選出である。

 自分の他の火属性ユニットを強化する、古き良き火属性然とした〈炎武の舞火女〉。グレード4ということもあり戦力的には申し分ないものの、もう一方の〈怠惰の悪魔〉と合わせても、望月のコアエネルギーを削り切ることは到底──

 

 

「……───あ?」

 

 

 ふと。

 望月は、声を漏らした。

 

 何か……何か。とてもとても、恐ろしいものを視界に捉えた様な…??

 

 

「残りの1枚。呪文〈ギフト・ボックス〉を発動! 手札1枚、もしくは自分のバトルゾーンのユニット1体を相手ファイターに明け渡す! 〈炎武の舞火女〉をそっちのバトルゾーンへ!」

 

「───待っ」

 

 

 脂汗が全身から滲む。少々刺激的な装いの女性型ユニットが自分のバトルゾーンに移動するのを、阻止する手段を持たない望月は悲鳴を上げようとするが、その喉から乾いた擦過音が搾り出されるばかりだった。

 

 嘘であってくれ、見間違いであってくれ。

 ……必死に祈りながら、彼はもう一度、バトルゾーンを見た。

 

──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それぞれの場に揃っているバトルゾーンを──!

 

 

「〈仕込まれた贈り物(ギフト・ボックス)〉の追加効果──」

 

「待てェ──ッ!!?」

 

 

 叫ぶ望月は幻視する。黒曜石に似たその仮面の裏で、剃刀の様に薄い、不気味な笑みを浮かべる少年を。

 

 

「相手のコアエネルギーを1点減らす!」

 

 

 バギン! と何かが砕ける様な音が発せられる。

 

 

『あーしの癒し(チカラ)、見せたげっから!』

 

『めんどくせェ。オレの仕事を増やすな!』

 

 

 癒す舞火女と、咎める悪魔。両者によって望月のコアエネルギーが増減を激しく繰り返し続けた。

 襲いかかる激痛の群れに、絶叫すら上げること叶わずその身体が地に沈む。それに合わせ、ファイトの続行が不可能となったことで、フィールドが解除される。

 

 ……全体的に爽やかさの足りない勝利を、少年が見事に掴み取った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「……よし。僕の勝ちだ!」

 

 

 赤色が混じった泡を吐き、白目を剥きながら博士が倒れたことで──気を失ったんだろう──ファイトが続行不可能となったことをシステムが判断したらしく、フィールドが解除された。

 

 TCG・ミステリオマキアは、一部のカードの組み合わせによっては無限ループが発生してしまうことがあり、先ほどのもその類である。

 ファイトが進行不能と判断され、システムが強制的に『無かった』ことにするまで繰り返されることを逆手に取った、こちらの作戦勝ちだ。

 

 因みに〈舞火女〉と〈怠惰の悪魔〉あのコンボは、悪魔を相手に譲渡した後に自分のコアエネルギーを何らかの方法で回復し、そのターン中にコアエネルギーが減少した分戦力が上昇する、〈烈火の戦士 アカツキ〉が闇堕ちし(オルタグロっ)た〈烈牙の狂戦士 タソガレ〉でトドメを刺すのが本来想定しているコンボである。

 今回は違った運用だったが、たまたま手札に必要パーツが揃ってくれたので助かった。

 

 いやはや……この研究所に来る前。スーツの女性とのファイトでもそうだったけど、アイカちゃんから貰った〈血の契約〉には非常にお世話になった。まさか、2度も助けられることになろうとは。

 まあ、兎にも角にも。

 

 

「終わったよ、みんな!」

 

 

 全ての元凶を打ち負かしたことで、この騒動も終わりである。ここまでを見守ってくれていたアイカちゃんや少年、ドルムたちの元へと僕は駆け出した。

 因みにナゴラは未だ固まったままである。

 

 

『うす。お疲れ様っす』

 

「何だよドルムのその反応は……」

 

『うす』

 

 

 妙に低姿勢なドルムを胡乱な目で見ていると、その剛腕から抜け出した2人が、僕。そして、先ほどまで相対していた……今は尋常ならざる様子で地面に転がっている望月博士とを交互に見てから、すすす、と後退した。

 

 

「え、あ、ぅ? お、終わった…んだよ、ね?」

 

「お、おぉ。おつ、かれ……?」

 

 

 ぎこちなく言葉を吐き出す2人との間に、深く広い溝が生まれてしまった気がしてならない。

 お、おかしい。僕は悪き存在を打ち破った英雄的存在のはず。そんな悍ましい物を見る様な、恐怖に染まった視線を向けられる謂れは無いはずなのに……!!

 

 お互いに抱き合って喜びを分かち合うだとか、そんな感じの終わりを期待していただけに、普通にショックである。よそよそしい態度の2人とドルムにしょんぼりしながら、だけど僕はきちんと結末を迎えられたことに安堵のため息を吐いた。

 

 色々とあった。そして、まだやらなければならないことは確かに有る。それでも、友達を苦しめている現状を打破出来たのだ。

 大団円とまでは行かずとも、一先ず。めでたしとは言えるのだから──。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

 もぞり、と。

 醜怪な老人が、悪意を持って蠢く。

 

 

「──そいつらを殺せェ、ナゴラバウワフぅううううううッッ!!!」

*1
② 悪楽鬼 リリ

 闇属性 戦力1500/1

【△】相手の手札をランダムに1枚破壊する。

【◆】相手のユニットがアタックする時、このユニットが疲弊状態ならば対象をこのユニットに変更する。

*2
② 騒孤陰魔 ヘポ

 闇属性 戦力500/1

【◆】自分の他のユニットが居なければアタック出来ない。

【◆】自分の他のユニットが居なければこのユニットは破壊される。

【△】自分のバトルゾーンにグレード4以上のユニットが居た場合、相手の手札をランダムに1枚破壊する。

*3
条件:自分の墓地にカードが4枚以上ある。

効果:手札からカードを2枚墓地に送る。その後、墓地からカードを2枚手札に加える。

*4
条件:〈闇蜘蛛DASH!〉以外の効果でこのカードが墓地に送られた時。

効果:全てのファイターのデッキから、ファイターの人数×2+1になる様に、カードをランダムに墓地に送る。

*5
③ 被験体No.585

 [-] 戦力3500/1

【◆】防衛

*6
条件:アタックをされた時、自分のコアエネルギーが相手よりも少ない。

効果:手札からグレード3以下のユニットを1体バトルゾーンに出す。それが〈骨〉ユニットならば、更に1体バトルゾーンに出す。

*7
コスト:自分のコアエネルギー1点。

効果:次のうちどちらかを選んで発動する。

 └自分の手札からグレード1のユニットを1体バトルゾーンに出す。

 └次に召喚する自分のユニットのコストを1少なくする。(ただし、1を下回らない)

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