片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
名前も知らない公園内。夜闇の暗さと静寂を打ち破るのは、派手な演出と合わせて展開された、ファイト用の空間を形成する魔法陣だ。
夜間や適切な明るさが確保出来ない場所でも、ファイトの進行が問題無く行える様に、空間内を一定の明るさで保つ機能が魔法陣には付属していたりする。
なんて素晴らしい機能なんだ。是非とも僕の
「
──そんなことはさておき。
浅葱色の髪をした少年とのファイト。
このファイトで僕は、彼から現代社会の情勢やその他諸々の情報を教えて──それと、僕をシャドウズ? とやらと勘違いしている、彼の誤解を解くのも合わせて──もらえる様に、なんとか勝利を手にしたい所だ。
お互いに名前も知らない者同士の闘いは、様々な事情を抱えてスタートする。
先攻は、浅葱色の髪の少年から。さて、相手はどんなデッキを使ってくるんだ……??
「先ずは……オーバーチャージだ!」
『むぅ? 初手でオーバーチャージ……?』
少年の行動を訝しみ、声を発したのは、僕の傍のドルムである。
オーバーチャージ……大層な名前が付いているが、その内容自体は至極単純で、ミステリアゾーンにあるグレード5のカードをチャージゾーンに置き、最大コストである5点を発生させる行為のことだ。
…最大コスト、と言えば聞こえは良いかもしれないが。場合によっては、自分の首を締めかねない行為だったりもする。
と言うのも、ミステリオマキアに於いて、チャージゾーンは一種の『聖域』的な役割を持っているのだ。詰まるところ、カードの効果や能力によって、直接干渉が出来ない場所なのである。
今し方少年が置いたあのカードは、今後バトルゾーンに出ることは不可能になったということだ。
……通常であれば。
『(気を引き締めるのだぞ、ユーキ。現代のファイターと我らの間には、決して無視の出来ぬ年月の差が生まれている。貴様が有している常識が、通用しない可能性は大いにあるぞ…!)』
そっと、注意を促してくるドルムの言葉に、頷きを返して気を引き締める。
あくまで、僕が持っている知識は2年前までの物でしかないのだ。ドルムが言う様に、現代のそれとは大きく異なっている可能性が高い。あのオーバーチャージも、後々のリーサルの為の
「そしたら──呪文〈強襲!〉*1を発動!」
先ず、先攻の彼は呪文からスタートする。流石にこれだけではデッキコンセプト等を看破するのは難しい、今後のプレイングを注意して見ないと。
「コストを1点払って、〈獰猛な幼竜〉*2を召喚。場に出た効果でコピートークンを生成!」
『『ゲギャア──ッ!』』
現れたのは小さな恐竜だ。鋭い牙をギラつかせ、手足の爪同士をぶつけて甲高い音を鳴らす小さな竜は、ぼたり、ぼたりと涎を垂れ流しにしながら、血走った目で僕の方を睨んでいる。
…うん。普通に怖いな、あのユニット。
「ここで〈強襲!〉の効果発動! 手札から、2体目の〈獰猛な幼竜〉を召喚!」
『『ゲギャア──ッ!』』
先ほど少年が発動した呪文と、ユニットが持つ効果とが合わさり、3体目、4体目、と。同じ姿をしたユニットが立て続けにバトルゾーンへと現れた。
う…うん。ま、まぁね? グレード1の、しかも戦力500の小型ユニットが4体並んだだけだから、まぁまぁ。
「最後にコスト4点で、〈喚び笛の竜〉を召喚*3だ!」
少年側。最後のバトルゾーンの空きを埋めたのは、中々に大きな体躯を持った恐竜である。体の一部がまるで、楽器の様な特異な発達を遂げているのが特徴的だ。
………さて。これで、少年のバトルゾーンには5体のユニットが並んだ訳なのだが。
「駄目だドルム……。どうやら、僕はここまでらしい…」
『こらこらこら! 落ち着かぬか、先攻1ターン目はアタックフェイズが無いだろう。そんな早急に諦めてどうするのだ!』
僕の発言に、ドルムは慌てて「待った」をかけてくるのだが、あの数を捌き切れるとは、到底思えないのだ。
恐らく、対戦相手の少年のデッキは、ユニットを召喚し続けて相手を殴る、速度に特化した
なんだよ1ターン目で6打点も出してくるとか! そう言うのって、もとこう……盤面が揃い始めた、中盤ぐらいにやってくるもんじゃないの!?
なんてこった。最悪なことに、今の僕が扱っているデッキは、比較的動き出しの遅い
仮面の下で頭を抱える。そんな僕を知ってか知らずか、対戦相手の少年はターンを終了した。
「先攻1ターン目はアタックフェイズが無いからな、俺はこれでターンエンド。……ターン終了時に、効果で〈幼竜〉は破壊される」
『『『ギャウ……』』』
「おお…?」
その数と見た目で、あれだけ圧を放っていた少年のユニットたちだが、か細い声を放つと破壊エフェクトと共にバトルゾーンを離れてしまった。
それを見た僕は、システムに搭載された機能を使い、相手のカードの効果や能力を確認する。
…なるほど。そのターンにアタックをしていないと破壊されちゃうのか──っておい、もう1体の効果。
「そして、自分の〈竜〉ユニットが破壊されたことで、〈喚び笛の竜〉の効果発動! 合計4枚ドローするぜ!」
仲間が
それに合わせて少年のデッキからカードが手札に移動し、そこに加わる。
──手札はそのまま可能性だ。数が多ければそれだけで選択肢が増え、自分のプレイングをスムーズに進めることも、相手への妨害を重ねることも出来る。
速攻型ではない…?
……いや。あれだけ手札があるんだ、次のターンから動き始める可能性も…と、見せかけたりしているのか…??
うう、分からない……!!
『──ユーキよ。先ずは落ち着くのだ。深呼吸をしろ』
と。
ぐるぐると思考が巡り始めていた僕の意識を引き戻したのは、ドルムだった。両肩を掴んできた相棒に促され、僕は意識して深呼吸を始める。
吸って──…、吐く──…。
………よし。
「サンキュー、ドルム。助かった」
『うむ。クレバーに行くぞ、ユーキよ。慌てたところで、得るものなど何一つとして無いのだからな』
ドルムの言うとおりだ。冷静さを欠いて出来ることなんて、たかが知れている。
如何に不利であろうとも、出来ることは確かにあるはずだ。
……まったく。ドルムには、出会った頃から色々なことで助けられてばかりで、頭が上がらない。気持ちを落ち着かせた僕は、改めて、相対する少年へと向き直った。
現状、僕が不利であることは変わらない。が、しかしそれでも──負ける気は一切無い。
『フッ。…良い表情だ』
落ち着いた僕を見て、ドルムが口角を釣り上げた。
そうだ、僕には頼れる相棒が居る。それだけで、力が漲ってくるというものだ。
それに……ドルムだけではない。今の僕には、ナゴラと言う新たな相棒だってついてくれている。最早、負けることなんてありえない!
2
そして。
『──すぴぃ…』
地面に寝っ転がって寝息を立てる、ナゴラの姿を認めることになった。
こ、この。人が真剣勝負に臨んでいる時に、なんて呑気な……!!
『………、』
…──ちょっとドルムもイラッとしたんだと思う。泳ぐようにしてナゴラの側に近づいた相棒は、その両の掌で彼女を包み込むと、おにぎりを作るみたいに、その体を圧縮し始めた。
背後から発せられる、『ぎにゃァあああーッ!!』と言う悲痛な叫びを聴きながら、僕は再度改めて、少年へと向き直る。