片頭痛カードゲーム変更前   作:広所恐怖症

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7話(5413)

「…──くぁ…」

 

 

 欠伸を1つ。現在は勤務中であるが、自分以外に他に人は居ないので、小言や注意が飛んで来ることは無い。

 

 彼はしがない、コンビニアルバイトである。

 日中は大学に通いつつ、生活費を稼ぐ為に夜間にアルバイトを差し込んでいる青年は、誰もいない店内を見渡しバックヤードに引っ込もうとしたが……奏でられた入店メロディによってそれが叶うことはなかった。

 

 側から見ればその場で一回転を行った様に見えたであろう、自分の姿を客観的に考えながら、青年は入り口へと視線を運ぶ。

 

 

「らっ。……しゃせー」

 

 

 来訪者の姿を見た時、彼は僅かに言葉を詰まらせた。

 

 黒を基調と言うより、黒一色の服装。背丈は低く、恐らくは子供であろうその人物は、口元をマスクで隠し、そして馬鹿みたいに大きなサングラスをかけているという、なんとも奇天烈な出たちをしていた。

 

 オシャレを通り越して、コメディの領域にその身を食い込ませているであろうサングラス。

 それをした人物は、きょろきょろと数度周囲を見渡したその後、ハッとした様子である場所へと向かっていく。──トイレだ。

 

 少々、限界が近かったのかもしれない。心なしか急いだ様子で奇天烈な人物は駆け込み、そして暫くしてから水洗音と共に個室から出てきた。

 

 ふぅ、と。安堵の溜息でも聞こえてきそうな様子を見せてから、その子供(?)は、商品の吟味へと移り始める。

 

 菓子類を見たり、惣菜コーナーへ回ったり。

 時折、幾つかの商品をカートに入れること、暫く。数品が入ったカートを手にカウンターへと近付いて来るのを認めた青年は、サッとバーコードリーダーを構え──

 

 

「………、」

「………?」

 

 

 ──レジカウンターにカートを乗せる、その途中。ピタリと動きを止めたかと思えば、恐る恐る……そして次第に、慌てた様子で全身を弄り始める奇天烈人物。

 

 

(あちゃー)

 

 

 やる時はやってしまうよなぁ、と。分かりやすく肩を落としながら商品を1つ1つ元の場所に戻し始めるその姿を見て、青年は静かに心の中で掌を合わせた。

 

 

「ざっしたー」

 

 

 とぼとぼと言う擬音がぴったりな具合で、コンビニを後にするその小さな背中に向かい、青年は、ドントマインドの意を込めながら声を投げかけた。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「──ドルム、どんな感じだった?」

 

 

 ずるり、と。

 コンビニに備えられた駐車場を進む僕の足元に、何かが這う様な音と一緒になって、全身に形容し難い感触が走る。

 

 駐車場全体を囲う様に備えられた街灯によって、多方向に伸びる影。その内の、不自然に濃い1つに視線を向ければ、そこには通常ではあり得ない濃い赤色が2つ。

 双眸の様に細まるそれに合わせて、低い低い声が静かに発せられた。

 

 

『正直に言えば、もう少し時間が欲しかったところなのだが……致し方なしだな』

 

 

 闇を操り、闇と一体化することが出来るその特性を利用して、ドルムには先ほどのコンビニにて、情報収集に勤しんでもらっていたのである。

 

 見た目や行動で(てんいん)の目を僕に向けつつ、物陰に紛れ込みながらドルムは、新聞や雑誌からシャドウズに関するものや現代社会の情報を、可能な限りで集めて来てくれた。

 一体、シャドウズたちとはなんなのか。それが少しだけでも知ることが出来れば喜ばしいところである。

 

 

同胞(はらから)よ。あの、やったらめったら光っておる巨大な箱は一体なんだったのじゃ?』

 

『コンビニ……と言っても分からんよなぁ。うーむ、貴様には先ず、貨幣制度から覚えてもらわねばならんか』

 

 

 暫く進むと、暗がりから一匹の黒猫──一瞬では分からないが、よく見れば3つ目──が僕たちの方に近付いて来た。

 

 自身の姿形を自在に変えることが可能なナゴラ。その特性を活かして彼女にも情報収集を手伝ってもら……おうと思ったのだが、コンビニを見て光る巨大な箱と訊ねたところから分かる様に、彼女の知識は『こちら』に関しては無いに等しい。

 ナゴラには悪いが、もっと別のところで力を発揮してもらうとしよう。

 

 

「──んで。結局のところ、シャドウズってなんだったの?」

 

 

 飛び付き、懐に潜り込んで来たナゴラの体温に暖かさを覚えながら僕が訊ねれば、足元のドルムは分かりやすく唸り声を発した。

 

 ………これは、なんだか喜ばしくない情報を手に入れてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「───は? テロリスト?」

 

『ああ。間違い無い』

 

 

 さて、河原にある僕たちのとりあえずの拠点。

 そこを目指すその道中。コンビニにて仕入れた情報類を整理したドルムの口から飛び出したのは、あまりにもあんまりな結論であった。

 

 

『具体的に、どの様な被害を与えたのかは分からん。しかしながら、(くだん)のシャドウズ──()()()()()()()()()()()()()()()によって甚大な影響を受けたのが現在の日本であることは間違い無いだろう。……()()自体は壊滅したようだが、散らばった残党が未だに活動を続け、それによる被害が後を絶たん状況らしい』

 

 

 ……思わず。

 僕は天を仰ぎ、顔に手を当てがった。

 

 思い出されるのは今までのことである。

 即座に拳銃を構える警察官、同年代と思しき出立ちでありながら、覚悟を決めた表情でファイトを挑んできた昨夜の少年…。

 

 一体、誰が予想出来ようか。様子がおかしいと思っていた僕たちの方が間違っていて、彼らの方こそが正しい判断と反応であったなど。

 

 

「テロリストって……具体的に、何をしたんだ…?」

 

『悪いが、そこまでは。……だが確実に、彼奴等が犠牲者を生み出していることは確かだろう』

 

 

 もはや、溜め息すら吐き出せない。

 本当の本当にただの偶然とは言え、世を脅かしたテロリストたちと同じ格好で人前に立ってしまったのだ。知らなかったから、で済まされることではないだろう。

 

 …それにしても、テロリストか──

 

 

「──まさか、()()()の『組織』が?」

 

『その可能性は捨て切れんな。あれの下部組織がか、若しくは残った者たちが触発されてのことなのかは判別不可能であるがな。…少なくともあの日、我らが何かしらの一因に関わったことは確かであろう』

 

 

 ふと、脳裏に蘇ったのはドルムと出会い、そして共に世界の危機に立ち向かったあの日の夜の出来事だ。

 

 目的も規模も全てが不明だった『組織』。一夜の内に僕たちの手で機能停止に追い込んだのだが、今となってはあれがもしかしたら……なんてこともあり得るのかも知れない。

 その詳細を、今から知ることは出来ないが。

 

 

『取り敢えずの原因は知ることが出来たな。光彩遮断装置の改良に合わせ、どこかで今とは異なる衣服を手に入れるぞ。──装置の具合はどうだ? ユーキよ』

 

 

 現在僕は仮面ではなく、グラス部分が馬鹿みたいに大きなサングラスを掛けている。急拵えでドルムが改良を加えた代物であり、相棒のその技術力には目を(みは)るばかりだ。

 調子を訊ねたドルムに向けて、僕はサムズアップをして見せる。

 

 

「とても助かってるよドルム! お陰で閃輝暗点はまだ出てない!」

 

『駄目じゃねーか!』

 

 

 蛍光灯、レジのモニター、清潔感を表す為に全体的に白系の色で統一された室内。

 ……光彩を要因とする片頭痛持ちにとって、地獄と言っても過言ではないコンビニエンスストアに足を踏み入れた瞬間に、僕の眼球と頭は即座にノックダウンしてしまっていた。

 

 サングラス越しなら良かったんだけど、その形状ゆえに、隙間という隙間から針の様に鋭い白光(はっこう)が突き刺さってくる、あの辛さ。もう少しだけでもあの場所に居たら、最悪僕は倒れていただろう。断言出来る。

 

 うう。頭が痛いよう、気持ち悪いよう……。

 

 

『まだ小型化には早かったか…! んもー、具合が悪いのならさっさと言えば良いのにこの子は』

 

「ぜひゅう、こひゅう。うぶぷ…──だってドルムが折角作ってくれたんだし、その苦労を無駄には…」

 

『それで体調不良を引き起こしていたら意味が無いだろうっ! ……ほら大丈夫か、吐き気が強いのならば一旦出しておくか?』

 

 

 ドルムに促され、ピークに達してしまっていた僕は、それまで進んでいた道の側溝に、申し訳なさを感じつつ胃の中身を吐き出した。胃酸による喉に痛み、口の中いっぱいに酸っぱさと苦さを感じる僕にドルムが差し出してくれたのは、お馴染みとなった黒い仮面である。

 一緒に手渡されたハンカチ──ドルムが闇から作り出してくれたものであろうそれで口の周りを拭ってから、僕は仮面を装着した。

 

 

『サングラス型が駄目となると、防塵ゴーグル型が望ましいか……?』

 

「おぶふぅ。ごめんドルム、何から何まで…」

 

『気にするな。我と貴様は志を共にする同志、我に助けられたからと気負う必要は無い。いつか我が、我自身の力で解決出来ぬ事態に直面した時に力となってくれれば良いのだ』

 

 

 ──仮面を付けたことで暗闇に包まれ、心なしかそれだけで気分が良くなった様に思える。

 ここが、こここそが僕の魂の場所…!

 

 ………はぁ。ドルムはああ言ってくれたものの、僕がお荷物になってしまっていることは事実であるし、正直言って、ドルムがその力や頭脳で解決出来ない問題とか無い気がする……。

 

 自分の不甲斐なさを情けなく思い、気落ちしていると。

 僕の服、その腹部の辺りがもぞもぞと動き始めた。それまで寝息を立てていたナゴラが僕の吐瀉したせいで目を覚ましてしまったらしい。

 

 うぐう、ナゴラにまで迷惑をかけてしまった。『向こう』とこちらで発生している()()の所為で眠たいだろうに、大変申し訳ない。

 

 

「ごめんナゴラ、起こしちゃったね…」

 

『いやいや、謝るのはわしの方。……すまんな気付くのが遅れた』

 

 

 ん? と、彼女の発言に首を捻る僕とドルム。

 地面に降り立ち、黒猫から人の姿に変わったナゴラの視線を、自然と追った僕らの視線の先には──

 

 

「………」

 

 

 ──桃色の鮮やかな髪。まるでハートマークの様になった、ボリュームのある特徴的な前髪。

 

 昨夜にファイトを行った少年。

 日中に、彼と一緒に歩いていた女の子が、そこには居た。

 

 

 

 

 

 ◆◀︎▲▶︎▼

 

 

 

 

 

「だばぅ……っ!?」

 

 

 予期せぬ邂逅に奇妙な音が僕の口から飛び出す。

 

 ま、まずい! 今の僕はサングラスから仮面に戻してしまっている、シャドウズと勘違いされてもおかしくない!

 慌てて弁明をしようとして──どこか、僕の冷静な部分がストップをかける。

 

 これまでに遭遇した人々の反応から、彼らがシャドウズに対してどの様な感情を抱いているかは痛感している。警官であれば拳銃を即座に向けてくるほどの脅威であり、また、そうするだけの恐怖の対象なのだ。下手に僕の方から動けば、余計な混乱を齎しかねない。

 

 …やばい、これどうしたらいいんだ? 仮面を外そうにも下手に動けばそれだけで相手を刺激してしまうし、かと言ってこのままでも居られないのは確かだ。

 

 あれ詰んだ?

 

 

「………」

「………」

 

 

 お互いに沈黙を貫く、緊張を孕んだ張り詰めた静寂が続く。

 

 

「………」

「………」

 

 

 沈黙が続く。

 

 

「………」

「………」

 

 

 続き……、

 

 

「………」

「………??」

 

 

 んんん……? いつまで経っても反応を示さない少女に、流石に違和感を覚える。

 シャドウズと出会ってしまった──本当は違うんだけど──恐怖で固まっていたのかと思ったが、なんだか違うらしい。

 

 よくよく少女を見てみると、ええとなんかこう……言葉はアレだが、()()()といった感じにこちらを眺めているのだ。

 

 その様子に気付いたらしく、それまで警戒していたナゴラとドルムも、揃って首を捻り始める。

 僕たちが全く同じ格好で首を傾げても、相変わらず()()()としている女の子。そこから更に時間が経過した頃、漸く。

 

 

「……───しゃどうず?」

 

「……ね、眠いの?」

 

()むい…」

 

 

 なんだこの子……、と思ってしまった僕は悪くないと思う。

 

 物の見事にひらがな表記な呂律に加え、彼女からしたら推定テロリストな僕の質問に普通に答えてしまっている辺りに、危機管理能力の心配をせずにはいられない。

 

 

「あ、あー。あのですね。信じられないとは思うのですが、私この様な装いではありますけれどシャドウズ何某ではなくてですねあの」

 

『口調どうした』

 

 

 混乱を避ける為だろう、いつの間にか僕の影に潜り込んでいたドルムからツッコミが入る。

 ほっといてほしい。こちとら何の変哲もないパンピーなんだ、そんな漫画やゲームの登場人物みたく常に冷静で機転を利かせたりなんて、出来るわけがないだろう。

 

 

「………。シャドウズ、違う…」

 

「あ、はい」

 

「……。そう………」

 

「……………」

 

 

 マジでなんなんだこの子。

 

 これは危機管理能力がどうのというより、他の何かを疑われても文句は言えないんじゃないのだろうか? 少なくとも、僕はちょっと彼女の様子を怪しく思っている。

 

 

「……あー。それじゃあ、僕はこれで…」

 

 

 何故だろう、誤解を解かなければというよりも、これ以上この少女に関わりたくないという感情の方が大きくなってしまった。

 一言断りを入れてから彼女の横合いを通り抜け、僕はそそくさとその場を後にするのだった。

 

 

『──付いて来ておるぞ?』

 

 

 ゑ? とナゴラの言葉に慌てて振り返れば、そこには確かに、僕たちの後ろを歩いて来ている少女の姿が。

 

 立ち止まった僕に合わせて彼女も止まり、試しに一歩踏み出してみれば、向こうも同じく一歩踏み出す。

 

 

(──な、なんで付いてくるんだ? さっき否定したとは言え、僕がテロリストの一員である可能性は捨て切れないのに…!!)

 

 

 刹那の空白。

 

 

「…──ぅうおおおおおっ!!!」

 

 

 恐怖のあまり、叫び声を発しながら僕は走り出した。

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