片頭痛カードゲーム変更前 作:広所恐怖症
夜の帳が下りた時間帯。
眠たげで、芯の定まらない動きを取る少女に追いかけられる──。
…まさかこの様な恐怖体験を、他ならぬ自分が経験することになるなどと、誰が予想出来ようか。結局気が付けば、少女に追われていた僕は拠点のある河川敷の近くにまで訪れてしまっていた。
「ぜぇー…っ、はぁー…っ。…──な、なんて足の速さと体力なんだ、全然引き離せない…!!」
『いや、
『(しっ! 我が同志よ、しぃーっ)』
膝を折り、荒く乱れる呼吸を必死に整えながら。
背後に視線を向ければ、相変わらずぼうっとした様子で、桃色の髪の少女がそこには立っている。視線は宙に向けられており、何を思考しているのかを伺い知ることは出来ない。
…これ、どうすれば良いんだ?
結局、この子に僕がシャドウズの一員ではないことを、きちんと理解してもらえなかったかもこの様子では分からないし、それに僕たちの拠点の場所を知られてしまうのも、出来れば避けたいところである。
うーん、と。呼吸が落ち着き始めた頃。腕を組み、首を捻った僕は。
「えーと、そうだあれだ。…どうして付いてくるのかは分からないけど、こんな夜遅くに君ぐらいの子供が出歩いてたら危ないよ。ほら、分かったらお家に帰りな?」
『…凄まじくブーメランだな』
「………、あなたにも。言える……」
僕の言葉を聞いたドルムから、思わずと言った調子でツッコミが入り、件の少女からも同様の言葉が発せられた。
そんな2人なのだが……ふふん。僕にはこの女の子とは決定的な違いがある!
「僕のことなら大丈夫。なぜなら帰る家が無いからね!!」
タイムスリップしちゃった所為で──拠点こそあれど──本来の住居は他人の物になった可能性がある上に、文明の利器たるスマートフォンは破損により消失。合わせて、金銭も無ければ身分証明となる代物の、一切合切を持ち合わせていないのが今の僕なのだ──!
……………、うん。
「──ごめんドルム。自分で言っといてあれなんだけど、ちょっと慰めてもらっても良い……っ?」
『『よしよし』』
なるべく考えないようにしていた現状を再認識した結果、心が折れ曲がりそうになり助けを求める。
涙を堪えようと蹲り、膝を抱えた僕を、ドルムとナゴラが全身を使って包み込み、優しく撫でてくれた。
あったけぇ、心があったけぇよう……。
「……よし、よし…」
ついでに少女も僕の頭を撫でてくれた。
やめて優しくしないで、泣いちゃうだろ。
「ずびっ。…えーと改めて、こんな夜遅くに出歩いたり、僕みたいな不審人物──いや、違うんだけどさ──に付いて行ったりしたら危ないよ。ほら、分かったらお家に帰りなさい」
彼女の自宅がどこかは知らないが、とりあえずの方角を指差して帰宅を促す。
相変わらず、惚けた様子の少女。暫く沈黙が続き、こきりと小首を傾げた彼女は、ゆっくりと。
「…──家………、帰ら。ない…」
「なんでぇ…??」
ほ、本当にこの子のことが分からない。行動基準はもちろん、一体何を考えているのか、その全てが分からない…!!
「これが──現代っ子ってやつか」
貴様もそうだろう、とでも言いたげな気配をドルムが醸し出しているのを察知しながら、僕は頭を働かせた。
このまま拠点に戻るわけには行かないが、少女は素直に応じてくれないのも確かである。武力行使に移るつもりは毛頭無いけれど、なんとかして彼女に帰宅してもらうには、一体どうすれば良いか。
……暫く考えた結果、僕が導き出したのは。
「…よし。それじゃあ、僕とファイトしよう。僕が勝ったら大人しく帰ること。いいね?」
僕がそう言いながらデッキを取り出すと、一瞬、少女は間を置いてから……同じ様にしてデッキを取り出した。了承した、と見て良いだろう。
「(大丈夫なのかユーキ? 昨夜もそうであったが、現代のファイターとの闘いでは、我々に分があるとはとてもではないが言えないのだぞ?)」
そっと。ドルムが耳打ちしてくるが、このままにしておくわけにもいかないのだから、こうする他ないと思う。
現代とのカード性能の差から、不安は確かにあるのだが……そこはほら、僕にはドルムに加えて、ナゴラだって居るんだ。
頼りにさせてもらうぜ、相棒!
『(う〜……ん)』
「(そ、そこは大胆不敵に笑ったりしてよ!?)」
唸る邪神に思わず叫んでから、僕は改めて少女に向き直り、デッキを構えた。
「──アウェイク!」
◆◀︎▲▶︎▼
「ぐぅ…」
「ええっ、立ったまま寝てる!? おはよう、おはよーう!」
◆◀︎▲▶︎▼
直立した状態で寝息を立てる少女を慌てて起こした僕は、たまたま近場にあった空き地へと移動してファイトを開始した。
正直、あのまま放置しておいても良いような気が、いやそれは何か問題があるよなあ……と心中にて葛藤を繰り返していると、ルーレットによって先攻・後攻が決定される。
お、先攻は僕だ。
「よーし、それじゃあ──〈害骨兵士〉*1を召喚」
ドローとチャージを済ませてから、小手調べも兼ねて防衛持ちのユニットを召喚する。場に現れた骸骨の兵は、夜の暗さも合わさり酷く不気味に見えた。
「次に、呪文〈同族の呼び声〉*2。僕の場の〈害骨兵士〉を選択、3枚を墓地に送って……おっ。ラッキー、2体目の〈害骨兵士〉をバトルゾーンに出す!」
ゴボゴボと音を立てドス黒い液体が広がると、そこから2体目の骸骨兵が這い出て来る。それを見て、先に召喚されていた方が『よォ兄弟!』と気さくに挨拶をした。
墓地にカードを送りつつ、防衛持ちユニットも場に出せた。
うーん、取り敢えずの滑り出しは好調、かな? 一応、
「僕はこれでターンエンド」
「…ど、ロー……」
ターンを渡された少女は非常に眠たそうで、ちょっと見ていてドキドキした。
舟を漕いでいるけど、大丈夫かなぁ……。
「おーばぁちゃーじ…。……〈天の尖兵〉*3、効果で1軽減して…2コストで〈断罪の天使〉*4、最後に〈輪転の天使〉*5召喚…」
少女のバトルゾーンに小柄な兵士が出現した後、筋肉質な男性と、線の細い女性の姿をしたユニットが、続けて現れた。
彼女のユニットは、共通して白を基調とした服装と純白の翼を携えているのが特徴である。
「呪文──〈希望の一手〉*6。〈輪転の天使〉を破壊……合わせて、3ドロー。…それから、……〈断罪の天使〉の効果をはつど……」
『我々の仲間をよくも──光の裁きを受けよ!』
「自分で破壊しておいて相手の所為にするの、僕は理不尽だと思うんだ」
怒りを露わにしつつ、男性型ユニットが持っていた槍を天に掲げると、直後に眩い閃光が降り注ぎ〈害骨兵士〉を飲み込んでしまう。
光に焼かれるその最中、しかし、骸骨の兵士は骨の顔面を歪めてニヤリと笑った。
『ただじゃ転ばねえのがオレたちさ! 肉を切らせて、骨で断ァつ!!』
「〈害骨兵士〉の【▼】効果発動。そっちの〈断罪の天使〉を破壊するよ」
「……ん。もう一度、効果を発動して…そっちのユニット。破壊…」
「そしたらこっちももう一度効果を発動。〈天の尖兵〉を破壊だ!」
「ぅん……」
さて、これでお互い盤面がリセットされてしまったわけなのだが。
墓地の合計枚数などをトリガーとする効果や能力もある為、闇属性を扱う僕としてはそこまで痛手というわけではないし、寧ろ、墓地肥やしを進められて結果オーライとも一応言えなくはない。
の、だが……。
(しまったな、光属性使いか…)
心中にて、少々焦りを覚える。
基本的に、ミステリオマキアに於ける属性と言うのは、総じて『イタチごっこ』の様相を
トークン生成に特化した地属性と、バウンスに特化した風属性と言った感じで、だ。
光──闇と対を成すそれは、ユニットを墓地から蘇生する、リアニメイトを得意とする属性。
先ほどのターンで、ハンデスを行わなかった過去の自分の判断は間違っていなかったことを実感しつつ、今後の展開をどうしていくかに思考を巡らせる。
(それにしても──)
……昨夜の少年もそうだったが、現代ではオーバーチャージは割とポピュラーな戦法なのだろうか?
それに、全体的なデッキ構成やカードの効果対象にも差異が感じられてならない。
僕が、こう……『属性!』と言った感じなのに対し、昨日の少年や、目前の少女が使うカードは、どれも『
少なくとも、僕が持っている知識とは一致しないそれに、改めて自身が異なる時代へと存在しているのだと、実感した。
…──孤独や疎外感。それらによってネガティブな思考に陥りそうになるのを、頭を振るって払拭する。
嘆いたところで現状が変わるわけでもなし。今は、目の前のファイトに集中しよう。
「僕のターン、ドロー! コストチャージして、〈鎧骨将軍〉*7を召喚──!」
◆◀︎▲▶︎▼
「──呪文〈
「うわぁ!?」
現れた、鎧を纏った巨大な脚部によって僕の場のユニットが薙ぎ払われ、相手のアタックを許してしまう。少女のグレード5のユニットによって、僕のコアエネルギーがゼロとなってしまった。
光り輝く十字形のエネルギーが地中から発生する、ド派手な演出の後に、LOSEの4文字が僕の目の前に現れる。
ぬぐゥっ。途中までは割と良い勝負が出来ていたんだけど、最後はカードの性能差で負けてしまった。
やっぱり、2年の歳月によって大きな隔たりが出来てしまっているんだな……。
でもまあ。それはそれとして。
「よし! ファイトは終わったから、約束どおりお家に帰るんだよ?」
「そんな約束は──してな、い……」
ほぼほぼ目を閉じかけている少女だが、そんな様子でも僕の発言を正確に否定してきた。
ちくしょう、眠そうだから騙されるかと思ったのに。
『ものの見事にやられてしもうたな』
『…だから我は止めたんだぞ』
じっとりと。
少女をどうするか悩んでいる僕に向けて、ナゴラとドルムがねめつけてくる。
いやでも。あの…ほら。ミステリオマキアを愛するファイターとしては、こう……ほら、あるじゃん!
──2人に弁明したいものの、先ずは目先の少女だ。
ファイトを開始する前に、彼女が勝った場合については何も取り決めてはいなかったが、僕が提示した条件の所為で、ほぼほぼ『敗者は勝者の命令を聞く』結果になってしまっている。
け、警察は。警察は少し、勘弁願いたい…!!
「それじゃあ、こっちが勝ったから──」
身構える僕に、少女は一呼吸挟んでから。
「──また。貴方と会ったら、ファイトしてくれる?」
「………うん?」
申し出の意味が分からず、間の抜けた声を発してしまう僕。
てっきり、シャドウズの一員として身柄を差し出されたりするもんだとばかり思っていたのに、そんなことはなく。
彼女の口から出たのは、ファイトのお誘いであった。少女がどこの誰か分からず、また、僕の現状のこともあるから、また会う確率と言うのは低そうではあるが……。
まあ、うん。
意図は読めないけど、そのくらいだったら別に……かな?
「は、はぁ。それで、いいのなら…?」
「──ありがと」
どこか、ほんの少しだけ嬉しそうに少女は笑った。……様に思える。
…遭遇とも言える奇妙な出会いを経て、少女との不思議な縁を得た瞬間であった。
◆◀︎▲▶︎▼
「…──あのー。因みにだけど、もしその申し出を断った場合は……」
「今この場でこの世のものとは思えない叫びと動作でトラウマを植え付けてどんなに楽しい時だろうと悲しい時だろうとふとした瞬間に想起するレベルの
「『『ひぃっ!?』』」
突如、豹変した様に両目を限界まで開き、一息に言い放った少女の悍ましさに、僕らは揃って情けない声を発することになった。
闇属性 戦力2000/1
【◆】防衛
【▲】このユニットを破壊しても良い。
【▼】相手のグレード3以下のユニットを1体破壊する。
効果:墓地に送ったカードの中から選択したユニットと同じ属性のカードを1枚手札に加え、それが同名であった場合はバトルゾーンに出しても良い。
光属性 戦力500/1
【◀︎】そのターンに初めて召喚されたのがこのユニットで、他にユニットがいなかった場合、次に自分が召喚する〈天使〉ユニットのコストを1軽減する。(ただし、コストは1を下回らない)
光属性 戦力3000/1
【◆】自分の光属性のユニットが破壊された時、相手の戦力2000以下のユニットを1体、破壊する。
光属性 戦力2000/0
【◆】防衛
【▼】カードを1枚ドローする。
効果:破壊されたユニットのグレードと同じ枚数、ドローする。
闇属性 戦力500/2
【◆】自分のターンに、墓地から〈骨〉ユニットをコストを支払って召喚出来る。
効果:相手のユニットを1体疲弊状態にする。自分のバトルゾーンにのみグレード5のユニットがいる場合は、1体ではなく相手のユニット全てを疲弊状態にする。