私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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奇策

 ハルカがイオリに向かって駆け出す。イオリも近づかれる前に対応しようと銃を構えるがカヨコが牽制をし動きを邪魔する。至近距離まで接近したハルカが銃を放つがイオリは体を翻しそのまま蹴りを放つ。ハルカは銃身でその蹴りを防ぐ。一瞬の膠着状態の後ハルカは横に跳んだ。急に視界が開けたイオリの目にはちょうどカヨコが銃を撃つ姿が確認できる。銃弾はまっすぐとイオリのもとに向かっていくがイオリは体を後ろに倒すことで銃弾を回避する。そして倒れていく体を支えるように左手をグンと伸ばし、地面についた左腕をばねのように使いアクロバティックに一回転した。

 一方、だんだんと応援に駆けつけてきた風紀委員たちを相手に大立ち回りしているムツキ。戦場を飛び跳ね駆け回り、時には銃を、時には爆弾を、時には地雷をと様々な武器を使い風紀委員たちを翻弄する。風紀委員たちも対応しようとするが遮蔽物に身を隠したり風紀委員たちの集団の中に紛れ込んだりとなかなか手が出せずにいた。

 そんな状況を私は道路に放置されていた車に身を隠して見ていた。みんなの戦いは私には目で追うことが精いっぱいで何がどうなっているのか、今どちらが優勢かなんてのは戦闘経験が皆無な私にはわからなかった。けれどこのままだとじり貧だということは理解している。

 そんな状況を覆すのは私の横で息を殺し虎視眈々とイオリの隙を狙うアルの姿がある。今この場にいる風紀委員の最高戦力はイオリで、そんな彼女を倒せば風紀委員たちの士気が低下する。そうなった風紀委員なら真正面から戦っても勝ち目があるとカヨコは判断したんだろう。

 だからこそ私は今すぐにでもイオリの隙を作らないといけないんだけど。

 ………………ほんとうにどうしよう。

 え? 待って? なんで私あんなこと言った?

 いっちょ前に指揮官みたいなことを言って、隙を作るって。

 どうやって隙作るの?

 なんも思いついてないんだけど!?

 待って待って待って! なんでどうして!?

 いくら何でも考えなしにもほどがあるよ!

 今更できませんだとかなんも思いつきませんでしたとか許されない状況なんですけど!?

 ああぁぁぁぁぁぁーーーー!!!! バァァカじゃねえの! ホントバーカ!

 …………死のう。死ぬしかないよ。

 こんな無知蒙昧な愚物が考えた作戦なんて絵に描いた餅だよ。

 やっぱり私が『先生』なんて無理だったんだ。

 そもそもなんで私なんだ。何でこんなことになっているんだ。

 私は『先生』のような頼れる大人なんかじゃない。大した才能も力も持っていない凡人でしかない。そんな私が頼れる大人になんてなれるわけがないんだ。

 生徒たちに好かれ、頼られる『先生』に私はなれない。

 申し訳ない気持ちでアルちゃんを見る。

 そこにはさっきとまるで変わらずにイオリを狙い続けているアルの姿があった。

 ……アルだけじゃない。戦場を見ればハルカ、カヨコ、ムツキも一生懸命戦っている。その時が来るのを今か今かと待ち続けている。

 会って間もない私を、少ししか言葉を交わしていない私を、それでも信じて戦っている。

 だというのに私は何だ。無理だ出来ないだの泣き言ばっか言って。これじゃあ私の方が彼女たちよりも子供じゃないか。情けない。

 ――違う。そんなことは今考えることじゃない。今私がやらないといけないのはイオリの隙を作ること。そのための策を考えること。みんなは手が離せない。私が、私一人でできる策を。

 どうする? どうすればいい? どうすればイオリの隙を作れる?

 直接戦場に行くのは無理だ。あっという間に制圧されて終わってしまう。

 なら何かを投げて気をそらすのはどうか。そうすれば一瞬気はそれるだろう。

 なら何を投げる? 私が今持っているのはせいぜい財布とスマホ、そしてシッテムの箱のみ。こんなんじゃ気はそらせても隙を作ることなんてできない。

 そもそも隙を作るってなんだ? なにをもって隙というんだ。

 それは、相手の思考を止めること。今私がしなきゃいけないのは猫だましのような方法だ。けれど猫だましは戦いの最初に繰り出すものだ。戦いはもう始まっている。

 なら、今ここで生み出すしかない。私なりの猫だましを。

 思考を止めるといったら難しく思えてくるけど、簡単に言えば相手を驚かせればいいんだ。

 ……全然簡単じゃないよ! 意図的に人を驚かせるのって難しくない!?

 思考をそらすな! 考えろ!

 どうする? どんな行動をすればイオリを驚かせられる?

 使える道具はこの身一つだけ。この体を使ってどうやって。……どう、やって?

 ………………。

 あった。

 ……あった、けど。

 いやいや。えぇ? さすがにこれはなくない?

 いやね、驚くよ。確かに驚く。私だって唐突にこんな行動されたら思考が停止するよ。

 でもだからって。これは、ねぇ。

 ……じゃあ、ほかの案は出る?

 ……………。

 でない。

 というかこの案が強すぎてまともに思考ができなくなってきてるもん。効果実証しちゃってるもん。

 …………やるしかない、のか。

 一度深く深く深呼吸して、服のボタンに手をかけた。

 

 

 

 さすがにそろそろ厳しい。二人掛とは言えイオリを相手取るには準備も人手も足りない。

 倒すじゃなくて時間稼ぎだからこそ何とか持たせられてきたけどそれももう限界だ。ハルカも息が上がってきていて動きが鈍くなっている。

 ムツキの方も最初は爆発音が絶えずになっていたが今は銃声の方がよく響く。きっと物資が底をつきかけてきているんだろう。

 このままだと少しでもほころびが生まれたらそこから瓦解してしまう。

 先生はまだかと心の中でつぶやく。そもそもあの先生を信用していいのかという疑問さえ浮かび上がってくる。 

 ……先生が善人であることには間違いないだろう。アビドスに付きながらも私たちと仲良くしようとしてくる時点でそこは疑いようがない。けれど、柴関ラーメンでの出来事が少し引っかかる。

 先生は偶然店に来たら物騒な会話をしていたから止めたって言っていたけれど本当に偶然なのだろうか。

 本当に偶然だとしたなら反応速度が速すぎる。近くにいた私たちでさえ止められなかったのに。

 それに、なんだか私たちのことを知りすぎている気がする。社長が言えばハルカは止まるだとか、社長の扱い方がうまかったりだとか。それに私たちが戦う姿なんて見ていないはずなのに、お店を爆破しようとしたハルカはともかくムツキが爆弾を持っていることを知っていたりだとか。なんだか私たちのことを見透かしているみたいで気味が悪い。

 先生はいったい何者なのか? 考えれば考えるほど先生の姿がわからなくなる。

 そんな風に少し考え込んでしまったせいで戦況の把握が遅れた。

「くらえっ!」

「――っ!」

 イオリが放った蹴りがハルカの胴体をとらえる。

「ハルカ――っ!」

 もろに蹴りを喰らったハルカは吹き飛ばされ道路の上を転がった。

「これで終わりだ!」

 イオリの銃口がまっすぐとこっちを捉えている。回避も防御も間に合わない。イオリが指先を少し動かしただけでやられてしまう。

 万事休すか。と思ったその時だった。

「――こっちを見なさい! イオリちゃん!」

 騒がしい戦場に響き渡った先生の声。その声にイオリは気を取られ先生の方を一瞥した。そして固まった。イオリだけじゃない。ハルカも、ムツキも、様子をうかがおうとした風紀委員たちも、そして私も先生を見て動きが止まった。

 というか、止まらざるを得なかった。

 さっきまできっちりとすべてのボタンを留めていたYシャツのボタンはすべて外され、履いていた黒いタイトスカートはどこにも見当たらない。ニーソックスも右足の方だけ足首あたりまで下ろされており傷一つない白い足がさらされている。

 そしてそんな恰好だから当然というべきか、本来隠されている肌、そして下着が日の下に照らされていた。その下着は色気づいているわけではなくごくごく普通の白い下着だが、なぜだか注視してしまう。

 そんな姿の中先生は滑らかに、そして艶やかに右手を口元まで持っていき人差し指と中指を唇に当てた。そして――。

「I Love You. chu❤」

 ――リップ音を響かせイオリに向かって投げキッスをした。

「……な、なななっ。へっ、へんた――っ!?」 

 イオリが顔を真っ赤にし震える右手で先生を指さし、だれもが抱いたであろう感想を言おうとしたとき。

 一発の銃弾がすべてを引き裂き、イオリの頭に命中した。




ミニストーリーよかったですよね。
美食研究会と救護騎士団が仲良くしている姿はまさにエデン条約そのもの。
まあ、そんなものすぐに崩壊したんですが。
それにしてもやっぱ団長っておかしいですよね。
奇襲とはいえ一人で美食研究会を捕らえたり壁を破壊したり。
美食研究会だって弱くないんですよ。むしろ強いほうなんですよ。
そんな彼女らを簡単に捕まえる団長ってやっぱおかしいですよね。
しかも普通にしていればメチャクチャ可愛らしい性格でギャップの破壊力が強すぎるのもヤバいんですよね。
クッキー作って印象を変えようとかかわいいがすぎるでしょ。
やっぱ団長って最高だな。
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