あらかたの作業が落ち着いて一息ついたころ。シャーレのオフィスに腰かけて昨日までのことを思い出す。
目覚めたらキヴォトスで、リンちゃんが目の前にいて、頭の中が混乱したまま流れに身を任せているとユウカ、ハスミ、スズミ、チナツのプロローグ組に出会って、戦闘訓練どころか喧嘩すらしたことないのにプロローグ組の指揮を任され、シャーレでワカモに出会って逃げられて、リンちゃんにシッテムの箱を渡され、パスワードなんて覚えてなかったのにまるで自分の体じゃないかのように口が動いて、起動したシッテムの箱の中にいるアロナと話をして……。
いろいろあって現在に至ったわけだ。
本当になんで?
しかも不思議なことに前世の記憶? でいいのかな。それがまるっきりないんだけど?
覚えていることはブルーアーカイブのこととただの社会人だったってことだけ。どんな仕事をしていたかすら覚えてない。家族どころか自分の名前すらわからないって本当にどういうこと?
……本当にどうしよう。私、そこまでやり込んでいたわけじゃないんだよね。一応メインストーリーは最後に更新されたパヴァーヌ編の2章まで読んではいるけど……。
選択をミスったら普通に死ぬよね。特にエデン条約編。
えっ。私あれ生き残らないとなの!? 『先生』撃たれたよね!? 私もお腹に穴開けないといけないの!? 普通に嫌だけど! この歳になってもいまだに注射が嫌いなのに、撃たれるなんてぜったい嫌っ!
撃たれない方向でいこっ! と、思ったけどそういえばそこでセイアちゃんと話さないとなんだよね。……もしかして撃たれることって運命的に決まってるの? ひどくない?
そもそも私、『先生』なんて柄じゃないんですけど。責任とか負いたくないし、嫌なことからは逃げるタイプだし……覚えてないけど。確かそうだった気がする。
そんな私がブルアカの『先生』? 絶対できない。身を挺して生徒たちを守る? 無理。自分の命第一主義だし。
……本当にどうしよう。私、これからやっていけるのかな。
「――まあ、何とかなるでしょ」
どうやら私は非常に楽観主義だったみたいで、すんなりと気持ちを切り替えることができた。もしかしたらただの現実逃避ってやつかもしれないけど。そんなこと気にしててもしょうがない。とりあえず――
「……どうしよっかな、この荷物」
――目の前に山積みにされた中身パンパンの段ボールをみて途方に暮れるのだった。
「ユウカちゃんありがとぉぉぉおおおおおっ!!!!」
「ちょっ! うるさっ!? というか引っ付かないでください先生!!」
あの後、一人で少しずつ荷ほどきをしていたけど終わりが全く見えなかった私は藁にも縋る思いでプロローグ組に連絡をした。さすがに昨日の今日で信頼関係すら気づけてない状態だったけど皆来てくれて荷ほどきを手伝ってくれた。とてもやさしい。みんなだいすき。
なんてふざけて言ってみたけど軽くあしらわれてしまった。というか荷物が多すぎてそんなことにかまってられなかったのだろう。そうだと信じたい。
「ユウカちゃんたちが来てくれなかったら絶対おわんなかったよぉぉおお!!」
「確かに、あの量を先生一人でというのはさすがに無理がありましたからね」
「そもそも、あの量の荷物を先生一人に任せるなんてどうかしています。こういうのはそもそも連邦生徒会がやっておくべきことです。先生に何かあったら救護はどうするつもりだったんでしょうか」
「同感です。それに護衛どころか職員すらいないなんて。今後のパトロールはシャーレ付近も追加しないとですね」
「ハスミちゃんもチナツちゃんもスズミちゃんもありがとねぇぇええ! 今度お礼するからぁぁぁああ!!」
「せ、先生っ! わかりましたから早く離れてください!」
「――ぐぇぇ」
両手で押されユウカに無理やり引きはがされる。正直このまま生のユウカの太ももの感触を味わってみたかったけど、それはまたの機会にしよう。
「まったく、昨日お会いしたときは結構しっかりした大人だと思っていたのに……」
「そうですね。けどこのほうが親近感を覚えやすくて接しやすいと思いますよ」
そういってほほ笑んだチナツの顔はまるで花が咲いたかのように華麗で可愛いかった。改めて生徒たちの顔を見渡すけど誰もかれもが可愛く整った顔をしているのおかしくない? こんな顔面偏差値の高い所に放り込まれる一般人の気持ち考えたことある?
「それでは私は学園に帰ります。先ほど学園内で問題が起きたらしく正義実行委員会が対応しているようなので私も応援に行かなければ」
「私もご一緒してもいいですか? ハスミさん」
「えぇ。むしろこちらからお願いしようと思っていたところです」
「それじゃあ二人とも帰るんだね」
そう声をかけると二人とも姿勢を正してお別れの挨拶をしてくる。なんていい子たちなんだ。
「はい。また何かあれば遠慮せずご連絡ください」
「私もしばらくはこのあたりをパトロールするので何かあればすぐに駆け付けます」
「うん。何かあったらまた頼らせてもらうよ」
そのまま二人を見送る。
「私もゲヘナに帰ります。まだやるべき仕事が残っているので」
「そうなの!? ごめんね手伝ってもらっちゃって」
「いえ、気分転換もしたかったのでちょうどよかったです。ユウカさんはどうするんですか?」
「私はまだシャーレに残るわ。セミナーの仕事も大体はここでできるし」
「そうですか。それでは先生。失礼します」
「気を付けてねー」
そうしてシャーレに残ったのはユウカのみ。これならあのお願いができるかもしれない!
「さて、二人っきりだねユウカちゃん❤」
「変な言い方しないでください先生」
「ごめんね。それでユウカちゃんにお願いしたいことがあるんだけど……」
「な、なんですか」
「書類仕事のやり方を教えてください!!」
その場で全力で土下座する。プライド? ないねそんなの。これから先を生き延びるためには何でもしてやる!
「――――――はい?」
「私、こういった仕事やったことなくて、どうすればいいのか全くわからないんです!!」
初手みんなのメモロビ童貞を奪ったユウカ。そのメモロビ内で手腕は発揮しているしきっと優しく教えてくれるに違いない!
「……はぁ。わかりました」
「ありがとう! ユウカちゃん!」
速攻で立ち上がり両手でユウカの手をつかむ。
「ちょ! だから近いですって!」
「本当にありがと! これで初手クビは回避できる!」
「そ、そんな大ごとだったんですか!?」
「……さあ? まあ実際にクビになるかどうかはともかく書類仕事はこれから必要になってくるだろうからね。今日ユウカちゃんが来てくれて助かったよ」
「まったく、私が来なかったらどうするつもりだったんですか」
「うーん。わかんない!」
「わかんないって」
「まあでも何とかなったでしょ」
そんな楽観的な言葉にユウカはあきれた顔を浮かべる。
「わかりました。とりあえずしばらくの間はつきっきりで教えるので覚悟しておいてください」
「お願いします! 先生!」
「先生は貴女でしょうが!」
私、プロローグ組のこと結構好きなんですよね。
だからちょっと活躍させたいなって思って書いたんだけど。
ユウカ以外のプロローグ組書き分けるのむずすぎない?
みんな礼儀正しくいい子たちだからこれといったセリフの特徴がなかなかないんだけど。
自身の無力さを思い知りました。