私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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説得

 アビドスに戻り話し合いをした。カイザーが言っていた宝探しとは何なのか、どうやってお金を集めるのか。けれど日が沈みかけていたし、みんな疲れているだろうからまた明日話し合うことになり解散となった。

 セリカ、アヤネ、ノノミは先に帰り教室にはホシノとシロコ、そして私の三人だけが残った。

「先生、ちょっといい?」

 どう切り出そうかと考えていたらホシノから声をかけてきた。

「少し、話したいことがあって」

「うん、いいよ。私も話したいことがあったから」

 二人で教室を抜け出す。その時、ちらりとシロコの方を見た。シロコは期待するような目でこっちを見つめている。その思いにこたえるようにうなずいてホシノの後をついていった。

 

 

「――それで話って?」

 屋上に上がり夕日に照らされた砂にまみれたアビドスを眺めながら話を促す。

「んー、そうだなー。いろいろとあるんだけどさー」

 一度言葉を区切り、少しの沈黙が流れた。ひゅうと吹く風が砂埃を運び、少しだけアビドスの風景を変える。

「――先生って、いったい何者なの?」

 ホシノの質問はまったくもって想定外だった。私が何者か、そんなもの私自身もよくわかっていない。どういった風に答えればいいのか焦る。

「何者って言われても、私は私としか言えないかな」

 曖昧な答えだけど正直そう言うしかない。

「おじさんさ、今悪い大人に取り引きを持ち掛けられているんだよね」

 急な話題転換に頭の理解が遅れた。

「……どんな取り引きを持ち掛けられているの?」

「アビドスを退学し、あいつらの企業に所属する。そうすればアビドスが抱えている借金の半分を負担してくれるっていう。そういう取り引き」

 よく知ってる。その取り引きも、本当の狙いも。

「その取り引きを持ち掛けてきたやつは黒服っていってさ、ものすっごい怪しい奴なんだよね。なんていうか、一目見ただけで背中がゾクゾクってするような。……私もそれなりにいろんな所に行ってるけど、あんな奴は初めて見た」

 けれど、ここでぺらぺらとあいつらの狙いはこうだからなんていったって信じないだろうし、もし信じたとしてもなんでそんなことを知っているのかって話になってくるから私はホシノの話を黙って聞く。

「それでさ。……あー、ちょっと言いにくいんだけどさ。私ってあいつからしたらそれなりの価値があるみたいなんだよね。何年も前からずっと私のことを勧誘してきてるからさ」

 ほんの少しの静寂。ホシノは柵の向こうにある街並みから視線をそらし、体ごと私の方へ向き直す。

「……カイザーに伝言を託した奴って、黒服のことだよね?」

 ……驚いた。本当に驚いた。本来ならこんな話はなかった。そもそもとして私は黒服とあっているはずがないんだ。顔を合わせるのはもう少し後であんなはやくに出会うなんて思ってもみなかった。

 けれどカイザーとのやり取りで私と黒服がつながっているんだとホシノは気づいた。手を組んでいるとは思わなくても何かしらのつながりがある私を疑うのも当然だ。

 まっすぐとこっちを見つめるホシノ。その眼は私の一挙手一投足を見逃さないように反応をうかがっている。

「……そうだね。あの伝言は黒服からのものだよ」

「やっぱり、知り合いだったんだ」

「一回会っただけだけどね」

 変にごまかす必要はない。何もやましいことはないのだから正直に答えればいい。

「ねえ先生。なんであいつは先生を狙ってるの?」

 だけど、さすがにこれには答えられない。

「私の場合は借金の半額なのに先生の場合は全額を負担するっていった。キヴォトスに来て間もない先生を手に入れるために」

 そもそも答えを知らないんだから。

「先生、貴女はいったい何者なんですか?」

 こういう場合原作知識でうまいこと答えるものだけど、私は結局黒服の、ゲマトリアの目的は何一つとして知らない。知る前にここにきてしまったから。

「ごめんねホシノちゃん。私は私としか言えないんだ」

 結局さっきと同じ回答をするしかなかった。

「それになんで黒服が私のことを狙っているのか。そのことについても全くわからないんだ」

 これでホシノが納得できるかどうかわからないけど、私にはこれ以上の答えが見つからない。

「……」

 ホシノはじっと私を見つめていたが、やがてふぅと息を吐きにへらと笑った。

「そっか。先生も大変だねー。よくわからない奴に狙われて」

「それはホシノちゃんもじゃない?」

 二人で笑い合う。どうやら私のことについては納得してくれたみたいだ。

「まって、同じ奴に体を狙われる者同士、訴えたら勝てるんじゃない?」

「うへー、先生天才ー」

 まああの黒服ならこんなこと片手であしらいそうだけど。

 そんなくだらない話を少しして時間が過ぎる。

 会話がとまり、少しの静寂。聞こえてくるのは風が砂を運ぶ音と二人の息遣い。

 ホシノの話は終わった。次は私の話だ。なんとなくだけどホシノも私が話し出すのを待っている気がする。けれど、どうやって話を切り出したらいいのかに少し悩む。率直に訊ねたほうがいいのか、それとも少し回りくどく聞いたほうがいいのか、私にはわからなかった。

 だからもう何も考えずにしゃべり始めた。

「……私にはね、あこがれている『先生』がいるんだ」

 そうして出てきたのは『先生』の話だった。なんでそうなったか自分でもわからないけど、とにかくしゃべり続ける。

「……急にどうしたのさ、先生」

「その先生は子供っぽかったり、生徒にセクハラしたり、仕事を後回しにしたり」

「……本当にどうしたの先生? 憧れる要素あるのその人に?」

「でも、生徒のことを第一に考える人なんだ」

 生徒を守るため悪い大人と戦う『先生』の姿を見た。青春を過ごす生徒を優しく見守る『先生』の姿を見た。

「どんな生徒も見捨てず、生徒一人一人と向き合い、困っている生徒には力を貸すことを惜しまない、大人の責任を絶対に遂行する、そんな『先生』」

 生徒に嫌われていても、傷つけられても、拒絶されても。それでも『先生』としての責務を果たす。

「だから多くの生徒に愛され、頼られ、甘えられ、好かれていた『先生』。私はそんな『先生』の姿を見てすごいと思った。憧れた。好きになった」

 それがたとえゲームの中の登場人物だったとしても、創作物だったとしても、存在していないのだとしても。それでも私はあの『先生』のようになりたい。

「それが私が憧れている『先生』。私が成りたい姿なんだ」

 ……たとえ私じゃ力不足だとしても。

「だから信じてほしい」

「――ぇ?」

「私を信じて待っててほしいんだ。みんなと一緒に」

 懐にしまっていたホシノの名前が書かれた退学届を取り出す。

「……うへー、シロコちゃんめ。やっぱり先生にわたしてたかー」

「これは返すよ」

 退学届けを手渡されたホシノは少し呆けた顔をして受け取る。

「私は先生だから、生徒の選択に口出しはしたくない。けれど、誰かのために自分を犠牲にするなんてことはさせたくないんだ」

 ホシノの両肩に手を置き、抱き寄せる。暖かく小さな体。後輩を、アビドスを守ってきた細くて折れてしまいそうな体。みんなの前に立ち、誰よりも傷ついた体。私にその傷を治すことはできないけど、癒すための時間を作らせてほしい。

「だから信じて、任せてほしいんだ。借金とかいろんな問題を一気にかたずけられるような人間じゃないけど、目の前の生徒を守ることぐらいはできるから」

 まだ小さな女の子として学校のみんなと青春を楽しんでほしい。それは子供の当然の権利なんだから。

「……そっか、うん。わかった、信じるよ」

 ホシノは私の腕の中からするりと抜ける。そして退学届を二つに破いた。

「ホシノちゃん……」

「ここまで言われたらさすがにねー」

 いつものようにうへーと笑う。見た感じいつもの調子に戻ったみたいだ。

「そのかわり、しっかり守ってよー?」

「うん! 任せて! 頼れる大人だってこと見せてあげる!」

 安心させようと自信満々の笑顔を浮かべる。

「それじゃあ先生、さよーならー」

「また明日ね、ホシノちゃん!」

 ホシノは手をひらひらと振り去っていった。

 ……届いたのだろうか? 私の思いは。

「――先生」

 後ろから声をかけられる。

「どうだった?」

 振り返ってみてみると期待と不安が入り混じった瞳をしたシロコがそこにはいた。

「わからない。とりあえず言えることは言ったよ。あとは……ホシノちゃん次第かな」

「……そう」

「ごめんね、あまり力になれなくて」

「そんなことはない。私じゃ何を言ったらいいかわからなかったから」

 ひゅうと吹いた風の冷たさに体が震える。気がつけば日は完全に沈み、あたりは暗くなっていた。

「私たちも帰ろっか」

「ん、途中まで送る」

「ありがとね、シロコちゃん」

 一抹の不安を抱えながら学校を後にした。

 

 翌日。

 アビドスで私を迎えたのはホシノの退学届と手紙だった。




デカグラマトン編楽しかったですね!
とくにあのBGMが流れたときは大爆笑しました!
んで、おもったんですけどあのBGMがサントラに収録されないのって多分unwelcome schoolと同じ理由ですよね?
そんでもってさすがにもうデカグラマトン編では流れないでしょ?
だとしたら次かその次ぐらいの大規模なメインストーリーで流れるんじゃないですかね?
そう考えるとものすごく楽しみになりますよね!

あとアイン、ソフ、オウルちゃんとマルクトお姉さまについて少しづつわかってきたけど本当に戦わないといけないの?
あの子たちってもうあの子たちの中で世界が完成されちゃってる感じがするんですよね。だから他の人からの影響を受けづらいっていうか自分たちが正しいみたいな感じの頑固者になっているんだけど、アインちゃんがちょっとほころび始めましたね。
6thPVでもアインちゃんとソフちゃんはこっちと対峙しているシーンがなかったしワンチャンあるのでは!? と思っちゃいますよ。
ただそうなってくるとオウルちゃんが怖いわけで。
ちゃんと敵対してるシーンがあるし、草原で一人で立ってるシーンもあるわけで。
……大丈夫だよね? 逝っちゃわないよね?
信じてるぞブルーアーカイブ。
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