さっきの黒服との会話を思い返しながら真上に上った太陽に照らされた道を歩く。
お昼時だというのに歩いている道には人の気配がない。……そもそもこのあたりには誰も住んでいないのかもしれない。
目についた路地裏にそれ、建物の壁に背をつける。
「……なんなのよ、もぉ」
スゥと全身から力が抜け、崩れ落ちるように地面にしゃがみ込んだ。
「黒服おかしいって。二回しか会ってないのに何でそんなに鋭いのよ」
油断したつもりはなかった。いくら『先生大好きクラブ』と面白がっていたとはいえ黒服が得体の知れない存在なのはちゃんと理解していた。けれど……。
「……めちゃくちゃこわかった」
急にブルアカの世界に来て、『先生』を任されて、いろいろあって忘れていたけれど。
私はただブルーアーカイブというゲームをやっていただけの普通の人間だったはずだ。
「すごいなぁ、『先生』は」
私は『大人の戦い』がすごい好きだった。
不穏なBGMとともに相対する黒服と『先生』。銃火器が自由に扱える世界で、今までずっとドンパチしてきて、急に大人同士の舌戦が始まったときはそのカッコよさに心奪われた。あのシーンを見たときに私はブルーアーカイブを続けることを決意したほどだ。
だけどあのシーンはカッコよさだけじゃない。黒服という悪い大人の怖さもしっかりと描かれていた。己の利益のためにあらゆるモノを利用し、騙し、欺く。それも、ルールの中で。
そのうえ自身の隙は全く見せず、利にならないと判断したらすぐに手を引く判断力。純粋な子供では太刀打ちできないし、そもそも大人でも黒服に勝てるものはほとんどいないだろう。
だからこそ黒服相手に一歩も引かず、自身の在り方を貫いた先生に心奪われたわけだけど。
「……そういえば黒服のこと、何も知らないんだっけ」
ストーリーのことを思い出して気がついた。そもそも『先生』が黒服と直接会って戦ったのはこの一件だけ。
黒服だけじゃない。マエストロもゴルコンダもデカルコマニーもベアトリーチェも、私は何も知らない。どういった存在なのか、何を目的としているのか。
けれど私が先生である以上彼らと関わることを避けることはできない。
「『どうもしない』って絶対ウソじゃん。じゃなきゃ未来を知っているかなんて確認してくるわけないじゃん」
そもそも正確に言えば未来を知っているわけじゃない。知っているのはメインストーリーだけ。それも途中まで。アビドス1,2章。花のパヴァーヌ1,2章。エデン条約1から4章。カルバノグの兎1章。私はそこまでしか知らない。それ以上先のメインストーリーを知らない。
「……どんなメインストーリーが更新されたのかな? ……気になるなぁ」
ブルーアーカイブのことだ。きっと想像もつかないような面白いお話が見れたに違いない。
そのお話を、ストーリーを私は事前情報なしでこなさなければならない。
そもそもそこまでたどり着けるかどうかも怪しいのに。
「……こんなところでそんなこと考えていてもしょうがないよね」
ポケットからスマホを取り出しモモトークを起動してみるとホシノを除くアビドスのみんなからメッセージが届いていた。
「心配かけちゃったかな」
とりあえず一番上のアヤネに黒服から受け取った場所を送る。するとすぐに既読がつき間髪入れずに電話がかかってきた。
あまりの速さに驚きつつも通話に出る。
「もしも――」
『先生! ご無事ですか!?』
通話がつながった瞬間に耳が壊れちゃいそうなほどの大声が聞こえた。
「あ、アヤネちゃん。ちょっと声が――」
『無事なの先生!?』
『救出に行く準備はできてる』
『待っていてください先生! 必ず私たちが迎えに行きます!』
どうやらみんな一緒にいるらしい。
「落ち着いてみんな。私は無事だから」
『ほ、本当にご無事なんですね!?』
「うん、心配かけてごめんね?」
『よ、よかったぁ』
みんなが安心した声が通話越しに聞こえてくる。
『既読がついたと思ったら場所だけ送られてきて、先生の身に何かあったのかと……』
あー、確かに。ただ場所だけ送られてきたら不安にもなるよね。
『でしたらこの場所は一体……』
「それはね、ホシノちゃんの居場所」
『……はい?』
「そこにホシノちゃんがいるから救出に行くよ」
『――ちょっ!? ちょっと待ってください!? ホシノ先輩の居場所がわかったんですか!?』
「え、うん」
なんだか向こう側がすごく騒がしい。
『ほ、本当にここにホシノ先輩がいるんですか?』
「いるよ。間違いない。……ごめんね、取り戻すって約束したのに」
『いえ! 私たちじゃ場所を調べるだけでも困難でした。それなのにこんなにすぐ手がかりをつかんでくるなんて。やっぱり先生はすごいです!』
ほんとうにすごいのは『先生』なんだけどね。まぁ、今はそんなことを気にしている暇なんてないか。
『それでは先生が戻り次第すぐにでも出発の準備を――』
「あ、そのことなんだけど。救出は明日ね」
『明日、ですか?』
「うん。これから力を貸してくれそうな子に声をかけてみるから。みんなは救出のための準備を進めておいて」
『なんでよ! 場所がわかったなら今すぐにでも――!」
「焦らないでセリカちゃん、相手はカイザーPMC。戦力を整えないと返り討ちになっちゃうから」
『それは――! そうだけど……」
「大丈夫、必ず助けるよ」
失敗は許されない。ちゃんとやれるだけのことはやらないと。
『セリカちゃんったら、ホシノ先輩に会えなくて寂しいんですね♪』
『ん、セリカは寂しがりや』
『ちょっと! 誰が寂しがりやよ!』
「そうだね、寂しがり屋のセリカちゃんのためにも早くホシノちゃんを救出しよっか!」
『先生まで!?』
みんなもいつもの調子に戻って来てる。やっぱり対策員会のみんなはこうでなくちゃ。
「用事を終わらせたらそっちに行くから。みんな、あとで会おうね」
『はい!』
通話を切ると一気に静かになり、さっきまでの騒がしさが嘘のように感じた。
「最初はどこから行こうかな」
原作で手を貸してくれたのはトリニティ、ゲヘナ、便利屋の三陣営。ゲヘナは先生が直接赴いていたけどトリニティと便利屋に関してはどうやって協力を取り付けたのかがわからない。
「とりあえずトリニティから行こうかな」
見える。
私には見えるぞ!
百花繚乱の未来が!
シュロちゃんが新しく小説を書いて百花繚乱のみんながその小説を読むんだけどさ。
レンゲが「唐突すぎないか?」「もうちょっと段取りとかをさ」とアドバイスするんだけどシュロちゃんは「これだから素人は」とか言って受け流すんですよね。
けどそのあとキキョウから誤字、脱字、誤用といったところをメチャクチャ詰めてくるんですよね。
流石にそういったことにはうまく反論ができなくて涙目になりながら言葉に詰まっているとユカリが「身共は展開が予想できなくて新鮮ですわー」とかいってフォローするんだ。
でもそのあとナグサが「この前書いていた続きは書かないの?」とか言ってずれてるけど致命的な言葉を悪意なく言うんだ。
シュロちゃんの心がボロボロになりながらもそれでも気丈にふるまっているとアヤメが「普通に読みにくい」とか「もっと読者のこと考えたら?」とかストレートに言うんだ。
流石にシュロちゃんも耐えられなくなって百花繚乱のOGとして来ていたコクリコ様に泣きつくんだ。
コクリコ様は聖母のような笑顔でシュロちゃんを抱きしめて慰めるんだ。
「よう頑張ったねぇ」とか「うちは読んでいてとっても面白かったよ」とかシュロちゃんを全肯定して慰めるんだ。
シュロちゃんもコクリコ様に褒められ「やっぱりわかる人はわかる」とか「理解できない百花繚乱が悪い」とか言って調子に乗り始めるんだ。
そんな様子にレンゲとキキョウあたりが「おまえなぁ」とか言って怒るんだけどコクリコ様がなだめるんだよね。
そのあと笑顔のまま「OGとしてお前さんたちに稽古をつけてやろう」とかいうんだけど。
コクリコ様の背後にはメチャクチャ百物語が現れていて、よく見ればコクリコ様目は全く笑ってないんだよね。
そのまま合図もなくコクリコ様と百花繚乱の稽古という名の戦闘が始まるんだよね。
シュロちゃんもコクリコ様に加勢して『SAIKYOU IKKAKU RAION』も現れて百花繚乱どころか百鬼夜行全体を巻き込んじゃうんだよね。
その状況に百鬼夜行のみんなはまたかとなるし、なんだったらそれを見せモノとしてお祭り騒ぎするんだよね。
しかも出店も出てきてその中に焼き鳥屋があるとナグサが戦いをほっぽりだして焼き鳥を買いに行くんだよね。
百物語を足せるのはナグサだけだから百花繚乱が一気に不利になってキキョウとアヤメが無茶苦茶怒るんだけど「ナグサちゃんだよりなんて情けないですねぇ~」ってシュロちゃんが煽るんだ。
その煽りがアヤメにメチャクチャ効いてさらに戦闘は激化するんだ。
そんな風に激化した戦闘をニヤが先生を呼んできて止めるんだ。
そして先生はみんなのことを怒るし、ニヤは後始末に奔走する羽目になるんだ。
え? アザミちゃん?
んー。多分ニヤの下でぐちぐち文句を言いながらエビス分校の生徒会長として仕事してるよ。