「あ! 先生! こっちです!」
トリニティ総合学園につくと校門で待ってくれていたヒフミが手を振りながら駆け寄ってくれた。
「数日ぶりだね、ヒフミちゃん」
「はい、先生もお変わりないようでなによりです!」
「ちゃんとテストは受けてる? ペロロ様のライブがあるからって抜け出してない?」
「だっ、大丈夫です! 最近はペロロ様のライブもないので!」
……つまりあったら抜け出すってことだよね? まぁ、ペロロ様のライブをあきらめるほうがヒフミらしくないんけど。
「そっ、それよりもさっきお電話いただいた件の事なんですがっ」
ヒフミならナギサへのアポイントが取れるんじゃないかって連絡したんだけど、ホシノを助けるために力を貸してくれるだろうか?
「どうだった? ティーパーティーの反応は?」
「ナギサ様に話をしたところ、ナギサ様も先生とお話ししたいとのことです」
よかった。大丈夫だとは思っていたけれどもし断られたらどうしようかと。
いや、べつに力を貸してくれるって決定したわけじゃないけどさ……。
「よかった、それじゃあ案内してもらっていいかな?」
「はい!」
「ナギサ様、阿慈谷ヒフミさんとシャーレの先生がお越しになられました」
「――通してください」
ティーパーティーの生徒が開けた扉を通るとエデン条約編でよく見た背景の部屋が広がっていた。
「お待ちしておりましたヒフミさん。そして――」
私の方をむき、きれいな立ち姿のままお辞儀をするナギサをみて所作がきれいな人というのはこういう人なのかと感心してしまう。
「初めまして、先生。私はティーパーティーのホスト、桐藤ナギサと申します」
「初めましてナギサちゃん。急な訪問だったのに対応してくれてありがとう」
「いえ、私も先生とお会いしたいと思っておりました。出来る事ならゆっくりとお話ししたかったのですが、どうもそうはいかないようですね。事情はヒフミさんから聞いております。アビドス高等学校の生徒、小鳥遊ホシノさんをカイザーPMCから助け出したいと」
「うん。アビドスだけじゃカイザーPMCには太刀打ちできない。だから、お願いします。力を貸してください」
「お願いしますナギサ様! 私、アビドスのみんなに助けてもらったんです! ですからその恩返しをしたいんです!」
頭を下げてお願いするとヒフミも一緒に頭を下げてくれた。
「わかりました。微力ながらお力添えをさせていただきます」
「本当に? ありがとうナギサちゃん!」
「それに、先生には少しお願いしたいこともあるので」
「お願い……?」
「はい。とはいってももう少し先の話になってしまうので今はお気になさらずとも大丈夫です」
たぶん補習授業部の事かな。エデン条約まであとどれくらいの日数があるのかわからないけどそう遠くない気がする。
「とはいえ、大々的に動くことはできないのですが……」
指を顎に当ててうーんと考え込むナギサだったが、少しした後わざとらしく「あぁ」と声を上げた。
「そういえば牽引式榴弾砲を扱う課外授業がありましたね」
「牽引式榴弾砲……ってL118の?」
「えぇ。どこで行うか場所探しに困っていたのですが……アビドス砂漠なら広大なうえに市民への被害なども考える必要がないのでちょうどいいかもしれませんね。あとはそれを指揮する人ですが……ヒフミさんにお任せします。細かいことは私の方で」
「わっ!? 私ですか!?」
「はい。さすがに私が動くわけにはいかないので。愛は巡り巡るもの。いつの日かヒフミさんが私に愛をお返してくれる時を楽しみにしていますね。ふふっ」
「あ、あぅ……」
……いろいろネタにされてきてたけどさ、やっぱりナギサのヒフミへの思いって重い気がする。なんかほら、今の笑顔とか、私に向けられたわけじゃないのにゾクッとしたもん。
……がんばれっ、ヒフミ!
「それでは先生、また会える日を楽しみにしております」
よしっ。トリニティとはうまくいった! 次は、ゲヘナだけど……。
正直言ってちょっとワクワクしている自分がいる。
あんな趣味、なかったと思うんだけどなぁ。
「はぁ? 風紀委員長に会いたい? そんな簡単に委員長に会えるわけないだろ!」
イオリを見つけた瞬間、自分でもわからないほど気分が高揚したし、気がついたら衝動的に動いてイオリに話しかけていた。
……これが運命力ってやつなのかな。
「そこを何とか! おねがいイオリちゃん!」
両手を合わせ必死に頭を下げる。
「まぁ、どうしてもっていうなら誠意を見せてもらおうかな」
「誠意……?」
「そうだな、例えば土下座して足を舐めたりとか――」
「わかった!」
「――へ?」
そこからの行動は速かった。いや、すでに行動は終わっていた。イオリの右足を守っている靴を脱がし、靴下をはぎ、そっと両手でイオリの右素足に触れる。繊細なものに触れるように、宝物を手に入れたときのように。
そして大人がワインの香りを楽しむかのように顔を近づけ、子供がアイスクリームを舐めとるかのように舌を伸ばした。
「――ひゃん!?」
その瞬間、私の口内に広がった味はけっして形容できるものではなかった。無理やり当てはめるとするならばそれは、幸せの味なのだろう。その幸せは口内から食道、胃、肺とあらゆる内臓へと広がっていき、血液に乗って細胞一つ一つへと運ばれていく。そして幸せの味を受け取った細胞たちは歓喜に震え、波紋のように全身に伝わっていく。当然脳にも運ばれて行き、頭の中はすぐに幸せの味でいっぱいになった。
私は知った。これこそが人が到達できる最高峰の幸福なのだと。
「おっ! おまっ! なにしてるんだこの変態!」
あぁ、この罵倒も私を歓喜に震わせる刺激に過ぎないのか。
「……ありがとう、イオリちゃん。私は今、世界中の誰よりも幸せだ」
「――ッ!? 変態! 変態!! 変態!!!」
どこかで扉が開く音がし、新たな光が私の心の中を照らす。早計だった。初めて感じるぬくもりと味が混ざり合い、さらなる高みへと私を連れて行ってくれる。
「こんな変態、委員長に会わせるわけには――」
「イオリ。これは何の騒ぎかしら……?」
月明かりのような声が私を現実へと連れ戻してくれた。イオリの後ろへと視線を向ければヒナがすぐそばまで近づいてきていた。
「いっ、委員長……!?」
「自分のために膝をつき、頭を下げる人なら今まで何人も見てきた。けど、他人のためにそこまでする人は初めて」
やっばい。冷静になって考えたらやってること頭おかしいでしょ。
「教えて先生。私は何をすればいい?」
「……いや、委員長。……先生はその、足を、舐め……」
「…………?」
そういえば前会った時もこんな感じだったっけ。
「!!!!!!?????」
本編先生よりも印象悪いんじゃないの、これ……?
「こんにちは、柴大将」
便利屋のみんなを探してアビドス内を探したけれど見つからない。柴関ラーメンにならいるんじゃないかと思って来てみたけど、どうやらここにもいないみたいだ。
「お! 先生じゃねぇか」
「無事退院されたんですね! それにお店も」
「おうよ! 実はさっきオープンしたばっかでよ、先生がリニューアルした柴関ラーメンの初来客だぜ!」
「それは光栄ですね! そしたら柴関ラーメン一丁! 大盛で!」
「あいよ! 腕によりをかけて作るからちょいと待っててな!」
歩きっぱなしでちょうどお腹も減ってきていたし少し休憩していこう。
残ったスープの一滴すら飲み干し、満腹感を感じながら手を合わせる。
「――ふぅ、ごちそうさまでした」
「お粗末様でした」
「おいしかったです、大将」
「そいつぁよかった」
大将が空になった丼を回収し、洗いはじめた。
「こんなにすぐお店を再開するなんて思ってもみませんでしたよ」
「……俺もだよ」
大将の洗っている手が止まった。
「……実のところよ、あの一件を気に引退しようと思ってたんだがな……。みんなでお見舞いに来てくれた時あったろ?」
「? ありましたね?」
「あの後な、大金の入ったバックと誰かからのメッセージカードが気付かないうちにベッドのそばに置かれてたんだ。見てみると謝罪の言葉と一緒にお店が再開したらまたラーメンを食べに行くって書いてあったんだ」
そういえばあの時「用意しなきゃいけないものがある」って言ってたっけ。
「俺はよ、店が壊れてやめる良い理由ができたって思ったんだ。ラーメンを食べにくるお客さんは次第に減ってきていたし、立ち退きも要求されていた。ちょうどいい機会だなって」
……驚いた。柴大将が弱音を吐くなんて。それも、私に。
「でも、そうじゃなかったな。お金だとか大人の事情だとかそんなもんは重要じゃない。大事なのはラーメンを食べに来てくれる人だって」
そっか、柴大将もアビドスの現状に追い詰められていたんだ。それでもあきらめずにまたお店を始めた。ただ、お客さんに喜んでほしくて。
「だから俺は続けるよ。俺のラーメンが食べたいって言ってくれている誰かさんのために」
……カッコいな。やっぱりこの人も大人なんだって思い知らされる。
「……それじゃあその誰かさんが来たらこの紙を渡してもらえませんか?」
私は手帳の1ページに便利屋に向けての手紙を書き、破り取る。そして柴大将に手渡した。
柴大将が紙を受け取って内容に一瞥するとフッと笑った。
「あいよ。この紙は確かに受け取ったぜ」
トリニティ、ゲヘナ、便利屋と本編で駆けつけてくれたみんなの協力を得ることができた。
けど、一つ不安なことがある。
それは今朝の出来事。ホシノを欠いたアビドスでカイザーPMCと戦い、便利屋のみんなが助けに来てくれるというのが本来の流れだった。けれど便利屋が助けに来るどころかカイザーPMCとの戦闘すら発生していない。
つまり今のカイザーPMCは本編よりも戦力に被害がでてないどころか万全の状態だという事。
正直、変に慎重になりすぎている気がしなくもない。けど、明らかにゲーム本編とは違う出来事が発生している。もしかしたら向こうの物量に押し返されてしまうかもしれない。
だから、こっちも本編以上の戦力を用意すべきだと思った。
そして私にはもう一つ、打てる手がある。本編では出来ない、私だけの手が。
スマホを取り出し電話をかける。3回のコール音の後、通話がつながった。
『――もしもし。お久しぶりですね、先生』
「うん。久しぶり、ユイちゃん」
『それで、どんなご用件で?』
やばい。
そんなつもりなかったのに変な性癖追加されちゃった。
気がついたら筆がのっちゃってた。
マジでごめん先生。
べつにいっか!!!!