お酒は飲んでも飲まれるな
「…………買ってしまった」
冷蔵庫の中を見つめ、独りごちる。視線の先にあるのは二つの缶。衝動的に買ってしまった部分があり少し後悔しているが、正直それを上回る興味があった。
現在時刻は夜9時。生徒たちはみんなとっくに帰っていて、シャーレには誰もいない。飲むには絶好の機会だった。
私は目的の物を手に取る。冷蔵庫の中で冷やされたアルミ缶が疲れた体にしみわたって心地よ――。
「なにしてるんですか先生?」
「うひゃぁあ!!」
え!? だれ!? ユウカ!?
「びっくりしたー。ユウカちゃん、まだ帰ってなかったの?」
「いえ、忘れ物をしたので取りにもどって来たんです。先生は何をして……お酒?」
まいった。あんま生徒の前でお酒を出したくはなかったんだけど。
まあでもバレちゃったものは仕方がないかな。
「先生ってお酒をたしなむんですか?」
「いや、飲んだことないよ」
キヴォトスに来る前に飲んでいたことはあるのかもしれないけど記憶を失っている今は確かめようもない。
「この間夜道を歩いているときに居酒屋の前を通りかかったんだけど……。中で楽しそうにお酒を飲んでいる人たちを見かけたら気になってきちゃって」
それに、この間ミネとかわした会話が妙に頭に残っている。いったいどんな経緯でお酒を飲むことになったのかは知らないけど……。でも、話題になるほど私がそんなにお酒を飲んでいたってことがものすごい気になる。もしかしたら好きで飲んでいたのかも……。そう思ったときにはすでにお酒を買っていた。
「かる酔いとパワフルですか」
「そう、弱いのと強いの」
「弱いほうならまだしも、強いほうなんて飲み切れるんですか?」
「……さあ?」
「さあって」
「ダメだったら料理にでも使うよ」
そこらへんはちゃんと考えてる。お酒を使った料理くらいSNSにあるでしょ。
「それで、これから飲むつもりですか?」
「そうだね」
「せっかくだし付き合いますよ」
「え? 夜も遅いし早く帰ったほうがいいよ。送っていくから」
「いえ、大丈夫です。シャーレに泊まっていきます。明日も当番ですし」
「そう? それじゃあちょっと付き合ってもらおうかな。……あ! お酒は飲ませないよ!」
「わかってますよ。何かジュースもらいますね」
「うん。中にあるのてきとーに選んでいいよ。私はおつまみを持ってくるから」
冷蔵庫から離れお菓子がストックしてある棚に向かった。こういう時のためにいくつかスナック菓子をストックしていて助かった。
棚から一番最初に目についたスナック菓子を取り出す。お酒なんて飲んだことないし、おつまみとして最適かどうかは分からないけどとりあえずは大丈夫でしょ。
ユウカはもう飲み物を用意してソファーに座っていた。目の前のテーブルに置かれているコップにはオレンジジュースが注がれている。
「明太ポテチでもいいかな?」
「大丈夫ですよ」
ユウカの隣に腰かけ袋を開けると良いにおいが漂ってきた。
「それじゃあ先生」
持ち上げたコップをユウカが差し出してくる。それにこたえるように私も缶を開け、掲げた。お互いに向き合って合図なく突き出す。
「「かんぱーい」」
カンッ、と心地よい音が響く。そのまま口をつけコクコクと飲んでみる。
「んー?」
「どうですか、先生?」
「なんかねー、ジュース? お酒って感じがしないかな」
もう一度飲んでみるけど変わらず、おいしいジュースみたいだった。そのままおつまみとユウカとのおしゃべりを肴に飲み進めるけど変化はなく、あっという間に飲み終わってしまった。
「なんかお酒を飲んだって感じがしないし……。やっぱ強いのを飲まないとかな」
「……大丈夫ですか? なんだか少し顔が赤いような」
「そう?」
確かに初めてのお酒だしもう少し慎重になったほうがいいのかもしれないけど……。
まあでもいっか。無理そうだったらすぐにやめればいいし。それに――。
「もしダメそうならユウカちゃんが止めてくれるでしょ」
「そりゃぁ、まぁ……。先生の健康を慮るのは当然ですから」
「ありがとね、ユウカちゃん」
そっぽを向きながらぶつぶつと誰に向けてかの言い訳を続けるユウカを横目に冷蔵庫に向かった。
「それじゃあもう一本の方を、っと」
パワフルを取り出しソファーに戻る。冷えたパワフルのプルタブを開けた。するとカシュッという音とともに再び聞こえたシュワシュワとした音がさっきのより大きい気がする。
少し鼻に近づけるとかる酔いとは違い明確にアルコールのにおいがした。
「お、おぉー。これが、お酒なのか」
さっきのとはまるで違う。本物のお酒というインパクトに少しだけ気圧される。
「なにはともあれ、いただきます」
缶のふちに口をつけ少しだけ流し込む。瞬間、ガツンとするような衝撃が頭を揺らした。
「……ぷはぁ」
「大丈夫ですか、先生?」
「うん。とりあえずは平気らよ」
「……らよ?」
とりあえずもう一口。
「ちょっと! 先生!?」
「んく、んく……。ぷはぁー。へいきへいきー」
「酔ってません!? いや、酔ってますよね!?」
「そんらことないよー。だってたった数口しかのんでないもんねー」
「酔ってないってそれ、酔ってる人が言うセリフですからね!?」
「ゆーかちゃんはおおげさらなー。……んく、んく」
「これ以上飲まないでください!?」
「えっへへぇー。ゆーかちゃ~ん」
「引っ付かないでください! お酒臭いです!」
「ゆーかちゃんの体すべすべでやわらか~い」
「変なところさわらないでください!」
「よいではないか~、よいではないか~」
ふと、隣に座ってるユウカの太ももに目を奪われた。とても魅力的な太ももだ。こんな素晴らしい太ももを前に触らないなんてことがあろうか。いや、ない!
レッツゴー!
「ちょっと! 私の太ももに顔をうずめないでください!」
エデンは、ここにあったんだ!
これが私のエデン条約!
「頬ずりもやめてください!」
「ユウカちゃんの太もも気持ちぃー」
「それはぁッ! …………ありがとう、ございます」
「良いにおいもする」
「それは本当にやめてください!!」
ひらめいた。ここで思いっきり息を吐けば隠された神秘がのぞけるのでは……?
「……フゥッ!!!」
「ひゃん!!??」
太ももと太ももの谷間を這うように口をすぼめて思いっきり息を吐く。スカートがめくれ上がることはなかったが、少しだけ浮かびあがる。スカートはすぐに元の位置に戻ったが、一瞬だけあらわになった神秘を見逃すことはなかった。
「――白!」
「~~~~~~ッ!! いい加減にしてください!!!」
気がつくと仮眠室のベッドの上だった。時計を見てみると朝の8時前。ギリギリ寝坊ではなかった。昨日何があったか思い出そうといてみるけどまったく思い出せない。そんな風にぽけーとしてるとユウカが仮眠室に入ってきた。
ユウカは怒っていてお酒禁止令を出してきた。一人で飲むのも、誰かと飲むのも。
昨日私が何か粗相をしたんだろうと思い聞いてみたがユウカはかたくなに教えてくれなかった。
けどどうしても飲みたくなったら私を誘ってくださいと言ってくれた。やっぱりユウカは優しいな。
ブルアカライブミニで誰が実装されるのか。
楽しみですね。