私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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記憶の揺らめき

 補習授業部が集まった後、原作通りにストーリーは進み、テストを受け、合宿が決定した。とりあえず今日は合宿の荷物整理のためみんなは寮に戻り準備しているだろう。

 私も同じように準備を済ませるとナギサから連絡がとどいた。『今夜、ティーパーティーのテラスに来てほしい』という内容で、準備を終えた私はすぐにナギサの下へ向かった。

「――それで要件って何かな?」

 ティーパーティーのテラスにおもむいた私は質問する。とはいえ想像はついているけれど。

「補習授業部の様子についてです。……といっても状況は把握しておりますが」

「それじゃあなんで私を呼んだの?」

「先生には事情をきちんとお伝えすべきだと思いましたので」

「事情?」

「はい。私たちが先生を呼んだ本当の理由を」

 ナギサが真剣な目つきで私を見つめてくる。

「単刀直入に言います。トリニティの裏切り者を探してほしいのです」

 ……とうとう来た。

「なんだか物騒な雰囲気だね」

「えぇ、これはトリニティの、いえキヴォトス全土にかかわる問題なのです。前回のお話でエデン条約について興味を持たれていましたよね」

「そうだね」

「エデン条約というのは簡潔に説明するとトリニティとゲヘナの間で結ばれる不可侵条約です。これによりトリニティとゲヘナの中心メンバーが一堂に会する中立的な機構、『エデン条約機構(ETO)』を設立することが目的です」

「それはいったい何をするものなの?」

「ETOとはトリニティとゲヘナの間で紛争が起きたとき介入し、その紛争を解決することが目的になります。トリニティとゲヘナは長い間敵対関係にありますが、これはお互いに大きな重荷になっています。それを解決するために連邦生徒会長はエデン条約を発案しました」

「そうなんだね。でも連邦生徒会長は……」

「ええ、ご存知の通り現在行方不明になっております。そのためエデン条約も空中分解しかけましたが、それを何とかしようと私が働きかけ立て直したのです」

 それがどれほど大変だったのか私には想像もつかない。けれど、少し疲れたような表情をしているナギサを見れば私の想像以上に大変だったのだとわかる。

「ですがこれを良しとせず、妨害しようとしている者たちがいるという情報を耳にしました」

「……つまり補習授業部の中に妨害しようとしている仲間がいるということ?」

「話が早くて助かります。裏切り者が誰かまでは特定できなかったものの、あの中にいることは確実です」

「その裏切り者を見つけてほしい、てことかな」

「はい。とはいえそう気負わなくても構いません。見つからなければそのまま全員を退学処分にすればいいだけのことですから」

「……退学処分?」

「はい、疑わしきは罰する。もとより補習授業部はそのために作りましたので」

「裏切り者じゃない子だっているんだよね?」

「……そうですね。ですが、全員が裏切り者という可能性もなくはありません。まぁそれはあり得ないでしょうけど」

「決意は変わらないの?」

「ゴミを細かく選別するのが難しい時はまとめて処分してしまうというのも一つの手ではありませんか?」

 正直なところ、私にはナギサの考えが間違っているとは思えなかった。上に立つものとして当然の考え方だと思っていた。

 自分の判断一つでトリニティの、ひいてはキヴォトス全土を混乱に招きかねない。そんなプレッシャーに耐えながらも一人で決断したナギサを否定はできなかった。

「……やはり先生には受け入れられない考えですか?」

 少し寂し気に微笑むナギサをみて胸が苦しくなる。ずっと一人で戦ってきたナギサの味方をしてあげたい。よく頑張ったねって。間違ってないって。

 でも、そうしてしまったらナギサはこれからもこういった手法をとるだろう。周りを信じず、大を助け小を切り捨てる。そんなことを続ければきっとやさしいナギサの心は壊れてしまう。だからそれだけは止めないといけない。

「ナギサちゃん。私にはナギサちゃんが間違ってるなんて言えない」

「では――!」

「でも、賛同もできない」

 ナギサの期待に満ちた顔が一気に冷めていく。笑顔はうかべているが笑顔じゃない。

「ナギサちゃんが頑張ってるのはわかってる。エデン条約を進め、トリニティの自治をし、裏切り者を探す。私だったらそんなことできない。きっと途中でダメになっちゃう」

 ナギサは沈黙を貫く。私の言葉を、じっと待っている。

「周りを信用できず、独り孤独に戦い、裏切り者を四人まで絞り込んだ。何百、何千の生徒たちの前では4人なんてとても小さく感じるけど……。でも、その中の罪なき生徒を切り捨てることを良しとしなかった。だから私を呼んだよね」

 ナギサの目が少し揺らいだ。

「退学という最終手段を決断するのにも相当悩んだんだよね? 苦しんだんだよね? この選択が正しいのか、間違っているのか。プレッシャーに押しつぶされそうになりながら」

 ナギサのが手に取ったカップは微動だにしていなかったが、カップに注がれた紅茶の水面が小さく、とても小さく揺れているのを見逃すことは出来なかった。

「普通なら逃げ出してもおかしくない。……けれどナギサちゃんはやってのけた。トリニティの平和を守るために一人で。裏切り者にばれないように。その努力を私には否定できない。けど……」

 きっと私は今、ナギサを傷つけてしまっている。

「それでも私は裏切り者を探す事に協力はできない」

「それは……先生だからですか?」

「うん。私は『先生』だからね。生徒を疑う事なんてできないししたくない。『先生』はいつだって生徒の味方だから」

「その結果が悲惨なものになるとしても?」

「そうならないようにするのが私の役目だよ」

 それが『先生』という役目を与えられた私がすべきことだから。

「悩んでいる生徒がいたら相談に乗ってあげたい。困っているなら助けてあげたい。もし本当に自身の利益のためだけにエデン条約を妨害しようとしているなら……」

「……しているのなら?」

「私はその子たちみんなと話をしたい。妨害することで何を得ようとしているのか。それしか方法がないのか。ほかに方法が見つからないなら一緒に探してあげたい。人を傷つけるなんてやり方を子供にしてほしくない」

「先生のやさしさが届かず、すべてが無駄になったとしても? そのやさしさを裏切られたとしても?」

「それでも私は話をするよ。……というか私にはそれ以外の方法なんてないからね」

「先生……それは、あまりにも……」

「わかってるよ。こんなのはただの理想論。話し合うことですべてが解決するわけなんてない。それでも私はその理想を追いかけなくちゃいけないんだ――だってそれが『先生』なんだから」

 『先生』の真似事がどこまで通用するのかわからない。そもそも通用しないかもしれない。私には『先生』のような立派な志も、知性も、経験も、何もかもが足りない。

 でも、『先生』になったからにはやらなければいけない。だって、そうしなければ生徒たちの未来に希望が生まれなくなってしまう。アリスが魔王になってしまうかもしれない、アズサがアツコを殺してしまうかもしれない、ミカは魔女になり、RABBIT小隊は壊滅し、ミサキは自殺し、サオリがアツコの代わり生贄になり――待って。なにこの記憶? 知らない、わからない。いままでこんな記憶があったことなんてない……。

 本当にこれは、私の記憶なの?

「……先生? どうしました?」

「……気にしないで」

 唐突に頭に浮かんだ記憶は気になるけど、答えは出そうにない。きっと、失われた記憶の一部なんだろう。そう結論づけた。

「だから、ごめんね。私は私のやり方でこの問題に向き合わせてもらうよ」

「……わかりました」

 ナギサに背を向け、ティーパーティーのテラスを出ようとしたとき声をかけられる。

「先生。試験の内容は基本的に私たちの手のひらの上にあります。急に範囲が変わったりだとか、試験会場が変わったりだとか、難易度が変わったりだとか……そういったことが起きないことを、願っています」

「私は私のやり方でみんなを助けてみせるよ」

「……助けられる生徒たちが少し羨ましいです」

「なに言ってるの。ナギサちゃんも助ける対象だよ」

「――私が、ですか?」

「うん。ナギサちゃんが苦しい選択をしないよう助けてみせる」

 ナギサは驚き少しうれしそうな顔をしたものの、すぐにその笑顔はかげってしまう。

「期待してお待ちしております」

「うん、待っててね」

 そう言い残してティーパーティーのテラスを出た。




前回のアンケートの投票ありがとうございます。
してほしいとの声の方が多かったので上げることにします。
てか先日一話上げました。
とはいえ一気に上げるのは面倒なので毎週土曜に更新しようと思います。
ストックが切れたら月一更新になると思いますが、切れるまで半年以上はかかると思うのでこの作品と合わせ毎週のちょっとした楽しみにしてください。
感想、評価、お気に入り、ここ好き等モチベーション維持になるのでしていただけると幸いです。
というかして!
本当にうれしいから!
何かしらが増えるたびニヤニヤが止まらないから!
自己肯定感がぶちあがるから!
マジで!
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