私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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監禁

「……………ここは」

 目が覚めると私は知らない場所で、知らないベッドで横になっていた。

「いったい何が……いたた」

 体を起こそうとすると体にビリリと痛みが走り、そして思い出した。意識を失う前に誰かに襲われたことを。

 体に少しだけ残った痛みに耐えながら体を起こす。状況を確認するためあたりを見渡そうと横を向くとそこには私と同じようにベッドに寝かされているナギサの姿があった。

「――ナギサちゃん!」

 勢いよく飛びあがった私はナギサの下へ駆け寄り肩をゆする。

「ナギサちゃん! ナギサちゃん!」

「……ん、ぅん。…………ここは?」

 何度か呼びかけるとナギサがゆっくりと瞼を開く。

「……先生?」

「よかった。無事だったんだね」

「え、えぇ。ですが一体何が……」

 ナギサも自身の身に何が起きたのかはっきりわかっていない様子であたりを見渡す。

「……ここは、地下の牢獄?」

 ナギサは部屋を見渡した後にぽつりとつぶやいた。

「……牢獄?」

「はい、ここは罪人を閉じ込めておくための地下にある牢獄です」

 重々しい口ぶりでナギサは話し始める。

「罪を犯したものを逃がさないため、そして罰をあたえるために使われていたのがこの牢屋です。とは言ったもののこの牢獄が最後に使われたのは昔の話でして。今はどのような問題を起こしても等しく監獄へと送り反省を促しております」

「それじゃあ人の出入りは……?」

「月に一度清掃を行ってはいますが、つい数日前に行われていますので一か月近くは誰も近づかないかと……」

「つまり、助けは期待できないってこと?」

「……おそらく」

 手詰まりの状況に静寂が襲い掛かってくる。なにかないか、どうにかこの状況を突破できる一手はないかとあたりを見渡すが、役立ちそうなものはなかった。

(そうだ、アロナなら――!)

 頭の中でアロナに話しかけようとするけど、繋がることはなかった。どうやら電源が切れているらしい。そもそもシッテムの箱自体なくなっていることに気付き、ぽたりと冷や汗が床に垂れた。

「そういえばどうして先生がここに……?」

 ナギサに問いかけられてハッとする。そういえばまだお互いの認識をすり合わせていなかった。

「ナギサちゃんの最後の記憶は……?」

「……確かテラスで仕事をしていたはず、です」

「私と会う約束してたことは覚えてる?」

「会う? いいえ? そんな約束はしていませんが」

 ぽかんと不思議そうな顔をするナギサに、私が憶えている出来事を話した。

「……なるほど。犯人は私を眠らせ、そして私のスマホを使い先生をおびき出した。といったところでしょうか」

 話を聞いたナギサは一つ一つ情報を整理していく。

「となると問題は誰が、何のためにこのようなことをしたかですが……」

「……」

 犯人の目星は、ついている。けれど理由がわからない。アリウスの計画が速まったのなら見張りの一人や二人はいるだろう。いや、もしそうなのだとしたら私たちが生きているわけがない。これは完全に直観だけど、どうにも計画性があるようには思えなかった。

 ……犯人についてナギサに話しておくべきだろうか? ナギサが犯人を知るのも時間の問題なのだから。

 結論が出ないまま時間が過ぎていくと遠くから近づいてくる足音が聞こえ始め、ナギサとともに鉄格子から外の廊下を見る。

 薄暗い廊下だけれども、光が全くないわけじゃなかったから近づいてくる足音が誰のものなのかはすぐに分かった。

 そしてそれは向こうも同じようで、気さくに、心配そうに、明るく話しかけてきた。

「あれ? 二人とも起きたんだ! よかった!」

「――ミカ、さん?」

 鉄格子の向こうから近づいてきたのはやはりというべきかミカだった。救助に来てくれた、なんて考えはミカの口ぶりからしてあり得ないだろう。

「どうしたのナギちゃん、そんな驚いた顔しちゃって」

「なぜ、ミカさんがここに……?」

「え~、答えなんて一つじゃない?」

 困ったような、呆れたような顔をしながら一度ため息をついたミカは、自供する。

「――私が二人をここに閉じ込めた犯人だから」

「――っ!」

 ナギサの目が信じられないものを見たかのようにおおきく開かれ、瞳を揺らし、震える両手で口元を隠して、茫然自失といった表情をしている。

 やがて怒りの感情がナギサの心を追い越したのか、勢いのまま口を開く。

「どうしてですかミカさん! なぜこのようなことを! 私たちを監禁する理由は何ですか!」

「それはね、私が裏切り者だからだよ」

「――なっ!?」

 ナギサの一縷の光にかけたであろう問いかけはあっさりと裏切られ、ナギサの顔は先ほどよりもさらに曇り、絶望がにじみ出す。

「あはっ。やっぱり話してなかったんだね先生」

「どういう、ことですか……?」

 すがるような目で視線を向けてくるナギサに私はかける言葉が見つからなかった。

「先生はね、私がアリウスとつながってる裏切り者だって気が付いてたんだよ。……どうやって知ったのかはわからないけどね」

 もしナギサに話していたらどうなっていたのだろうか? ミカがこんな凶行をおこすことはなかったんじゃないか? そもそもあんな賭けに出ないほうがよかったのではないか? 

 あらゆる『たられば』が頭の中でぐるぐる回る。

「あ! あとね! それが二人を監禁した理由なんだ!」

「どういう事かな?」

「先生はさ、私が裏切り者だっていう事話さないって約束してくれたじゃん? でもさ、本当に約束を守ってくれてるかなんてわからないでしょ?」

「私は約束を守るよ」

「そうだね。先生が約束を破る人には見えなかったし、実際に破ってなかったみたいだけど……。でもやっぱり不安で、ずーっと悩んでたんだよね。このままで本当にいいのかって。約束なんてその場限りのウソなんじゃないかって……」

 ミカのその悩みは、当然のものだった。私だって同じ立場なら同じように考えてしまうだろう。そんなこと考えればすぐわかることなのに、私は自分の事ばかりでミカのことを考えられていなかった。

「だからさ、思ったんだ。話される前に二人を監禁しちゃおうって! そしたら私の悩みなんてぜーんぶ解決するじゃんって思ったんだ!」

 無邪気な子供が自身の成功を誇るかのように明るく、本当に明るく話す。

「監禁って……いったいいつまでそうするつもりなの?」

「安心してよ。今すぐには無理だけど、いずれ二人は解放するつもりだからさ」

「……それはいつ頃になるのかな?」

「え? そうだな~。アリウスと合併して、そしてゲヘナを滅ぼしてから、かな」

「そんなこと本当にできると思ってるの?」

「うん。だってそのためにアリウスと手を組んだんだもん」

 あっけらかんと言い放つミカ。

「……つまり補習授業部の中に裏切り者はいなかった、ということですか?」

 しばらくの間黙っていたナギサが問いかける。それは感情の整理が出来たから、余裕が出来たから問いかけたというわけではなさそうだった。むしろ自身の罪を自覚するための問いかけに聞こえる。

「ううん、それは違うよ。実際にあの中にも裏切り者はいるからね。どうせ先生は知ってるだろうし、そもそも隠す必要もないから言っちゃうけど白洲アズサちゃんがそうだよ」

「……なら、それ以外の皆さんは、ヒフミさんは……」

 絞り出されたナギサの声は震え、やがて力なく膝から崩れ落ちた。

「やっぱりナギちゃんってすごいね! こんなに大勢いる生徒の中から裏切り者の可能性がある生徒を4人まで絞って。そしてその中に本当に裏切り者がいるんだもん!」

 ミカの言葉からは皮肉のような感情が一切感じられない。本心からナギサを称賛しているのだろう。

「……お願いですミカさん。ヒフミさんを……関係のない皆さんを巻き込まないでください」

 がたがたになっているだろうナギサの心は、それでもティーパーティーのホストとしてあり続けようとする。

「んー、さすがにそれは無理かなー」

「!? どうしてですか!?」

「――だって近いうちに消すつもりだし」

 ミカのその言葉を聞いて頭が一瞬真っ白になった。意味を理解したときには問いかけずにはいられなかった。

「――それはどういう事かな、ミカちゃん」

「……先生ってそんな顔もできるんだね」

 昂った感情が抑えきれず顔に出てしまう。落ち着こうと息を吐くと噛みしめた歯の隙間からヒュゥと音が鳴る。

「エデン条約の調印式にね、アリウスと一緒にゲヘナを襲撃するつもりなんだ。そのためにアリウスには今補習授業部が使っている別館を拠点にして準備をしてもらおうと思って」

「結果がどうであれ3次試験が終われば補習授業部は別館を後にするんだから消す必要なんてないでしょ」

「そーでもないよ? もしかしたらあの子たちの中に先生からいろいろ聞いている子がいるかもだし。それに3次試験が終わるまで待つ必要ってないじゃん?」

「――っ!」

 その声音から嘘ではないことがわかった。

「そろそろ授業の時間だしもう行くね。お昼には何か食べ物とか持ってくるから」

 そう言い残しミカは牢獄から去っていく。

「まってくださいミカさん!」

 遠ざかっていくミカの背中にナギサが叫び呼びかける。けれどミカは振り向くどころか歩みすら緩めることはなかった。

「――ミカさん! ミカさん!」

 鉄格子をつかみ何度も何度も呼びかけるナギサの悲痛な叫び声を聞くたび心が痛くなる。

 やがて足音すら聞こえなくなるが、それでも叫び続けるナギサはまるでその事実に気が付かないようにしているように感じた。

「ミカさん! …………ミカ、さん」

 ついには叫ぶことが出来なくなり鉄格子を握っていた両手が力なく垂れ下がる。

「…………どうしてですか、ミカ」

 小さくつぶやいたその声は、私の耳には叫び声よりも大きく聞こえた。




き、キキョウ3Dだと!?
くそっ! どうして私は日本語しかできないんだ!
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