「――なるほど。そこに桐藤ナギサとシャーレの先生がいるのか」
「うん。けどその牢獄に入る扉は厳重に守られているらしい」
「問題ない。それよりも注意すべきなのは聖園ミカにばれないようにすることだ」
建物の影に隠れているサオリと今後の計画について話をするアズサ。
「アズサ、お前は二人を確保するまでの時間稼ぎとしてしばらく抵抗しろ。事が済み次第合図をする」
「……わかった」
それだけ言い残し影の向こう側へと消えてくサオリを見送った後、アズサは反対方向へと歩きだした。道中モモトークを起動し『上手くいった』と一言メッセージを送る。
(――先生とハナコの読み通りだ。別館も襲撃に備えて最大限準備してある)
これから起こる襲撃について考えるアズサ。予想外の事態はあったものの今までの準備は無駄にならずに済んだこと、ここまでは作戦通りに進んでいること、そのことに安堵する。けれどその安堵も長くは続かない。
(最初のうちはアリウスも本気で襲撃はしない。だから問題は後半。シスターフッドが二人を救出し、正義実現委員会とともに別館まで救援に訪れるまでの間。それまで持ち堪えれるかどうか……もしそれが出来なかったら)
万全の準備はしてあるもののたった四人で時間稼ぎをしなくてはならないことに内心不安を感じているアズサは最悪の想像をしてしまいブルっと全身に悪寒が走った。
今まで感じたことのない悪寒に疑問をおぼえ、納得する。
……怖いのだ。みんなの笑顔を失うことが。
コハルの自信に満ち溢れた笑顔が。
ハナコの安心できる穏やかな笑顔が。
ヒフミの爽やかで暖かな笑顔が。
先生の慈愛に満ちた笑顔が。
みんなの笑顔が自分のせいで失われることが。
『vanitas vanitatum et omnia vanitas』
教えつけられ、無意識にでも口から発せられる言葉。恐怖と不安に満ちた心を縛り付けてくる言葉。みんなの笑顔をかき消してしまう言葉。
そんな風に不安に駆られたアズサのもとにピロンとモモトークからメッセージが届いた。
『気を付けて帰ってきてくださいね』
ヒフミからのメッセージ。そして続けざまにハナコからの『私も準備完了です♡』とコハルの『意味深な言い方しないでよ!』と怒っているメッセージ。みんなのやり取りを見てアズサの心に暖かなものが広がる。
(いや、絶対に持ち堪えるんだ。みんなとの奇跡みたいな日常を過ごすために)
たとえどれほど絶望的な状況になろうともそれは諦める理由にはならない。
先ほどまで感じていた不安はもうどこにもなく、あるのは守り通そうという覚悟だけだった。
「ふふっ、コハルちゃんったら♡」
「ハ、ハナコさん。その……」
「あら? どうしましたマリーちゃん?」
映し出されたモモトークを見て微笑んでいたハナコにマリーが声をかける。
「――ありがとうございます」
「お礼を言うのは私の方だと思うのですが……?」
「お願いを聞いてくださったことです」
「……」
申し訳なさそうな顔をしたマリーに向き合うハナコ。
「サクラコ様の説得に協力する代わりに退学を撤回するだなんてお願い、正しくないとわかってはいるんです。けど……私はどうしてもハナコさんに退学してほしくありませんでした」
マリーは自身のお願いを『人の弱みに付け込み自身の願望を押し付けた』と認識し、罪のように抱えていた。悩み、苦しみ、逃げ出そうとしたハナコをさらに苦しめるのではないかと。それでもマリーは自身の願いをハナコに伝え、そしてハナコはその願いに応えてくれた。
「退学を撤回してくださったこと、ありがとうございます。そして、このような形になってしまい申し訳ありませんでした」
「マリーちゃん……」
深々と頭を下げ謝辞を述べるマリーにハナコは同じように申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「謝らなくてはいけないのは私の方です。自分勝手な理由でみんなに迷惑をかけて、心配させて。そのことに気が付いていたのになんにも思わず、むしろ迷惑に感じていました」
眉を顰め、光を失ったハナコの目には忌々しい過去が映っていた。
「私にとってこのトリニティ総合学園という場所は窮屈で、退屈で、自由に息すらできないほど苦しい場所でした。こんな場所からさっさと逃げ出したい、そう思うほどに」
今まで貯め込んだ苦しみをすべて吐き出すように口にする。
「補習授業部の目的を聞き、退学するいい口実が出来た。少しでもそう考えてしまったことは否めません。ですが……」
目を閉じることで思い起こされるのは苦しい学園生活――だけではなかった。
「――ですがヒフミちゃんと、コハルちゃんと、アズサちゃんと、先生と。補習授業部のみんなで過ごす日々はとても楽しかったんです。みんなで勉強して、遊んで、お掃除をして、食事をして。そんな普通の学園生活が本当に楽しかったんです」
再び開かれた目には光がともり、温和な笑顔を浮かべたハナコはとても大事そうに補習授業部で過ごした日々を話す。
「普通の学園生活に一生懸命なみんなを見て友達になりたいと思いました。一緒に学園生活を送りたいと思いました。そしてそのことに気付いたとき自分の愚かさに呆れはてました。自身の行動が恥ずかしくなりました」
自分の胸に手を当て、自身に問い、自分自身で見つけ出した答えを胸に抱く。
「このままでは私は胸を張ってみんなの友達にはなれない。そんなのは嫌です。私ももっとみんなと一緒に青春がしたい。バカなことをしたい。笑い合いたい。一生懸命今を足掻いている補習授業部のみんなと友達になりたい」
ハナコの瞳に覚悟が宿り、まっすぐと前を見つめる。
「だからもう逃げません。胸を張ってみんなと一緒にいるために」
自分の大切なものを守るためにハナコは前へ歩き出す。
「それに私ももう少し『足掻いてみたい』。アズサちゃんたちを見てそう思ったんです」
照れくさそうに頬を赤らめて笑うハナコを見てマリーは見惚れてしまう。何しろマリーの記憶ではこんな普通の少女のような笑顔を浮かべたハナコを見たことがなかったから。いつも気まずそうに、困ったように笑うハナコを見ていたから。
だからこんな笑顔を浮かべられるようにした補習授業部と先生に尊敬の念と、ちょっとした嫉妬が芽生える。
「ですからお願いですマリーちゃん。そのことに気が付くきっかけを与えてくれた先生を絶対に助け出してください」
ハナコは姿勢を正し、深く頭を下げる。
「お願いします、マリーちゃん」
「はい! 任せてください!」
「ヒフミ! 手榴弾の補充終わったよ!」
教室内で銃の整備、弾倉の用意など襲撃に備えていたヒフミにコハルが声をかける。
「私の方はまだ少しかかりそうです」
「だったら手伝うわ!」
「ありがとうございます、コハルちゃん!」
ヒフミのそばに座りそのままヒフミを手伝い始めるコハルだったが、少しした後コハルの手が止まる。
「どうかしましたかコハルちゃん?」
「ねぇヒフミ……本当にうまくいくのかな……?」
そう問いかけたコハルの手が少し震えているのをヒフミは見逃さなかった。
「補習授業部に配属されて、退学の危機になって、先生が攫われちゃって、アズサが実は裏切り者で、でもトリニティを守ろうとしていて、これから襲撃が起きるって……。なんだかいろんなことが一気に起きて……」
この数日間に起きた怒涛の出来事にコハルは怯えていた。
「なんでこんなことになっちゃったのかな? 私はただ、みんなと一緒に試験を合格したかっただけなのに」
そう思うのも当然だろう。何しろコハルはただ成績が悪いだけで巻き込まれた被害者なのだから。
「……私も、同じ気持ちです」
怯え、不安に満ちたコハルを見てヒフミは同調する。
「私もナギサ様から裏切り者の捜索を頼まれて、見つけられなかったら退学することになると言われてずっと悩んでいました。先生が『任せてくれ』っておっしゃってくださいましたけど、それでもずっと心の奥底では不安でいっぱいでした」
ヒフミはいつの間にか震えていた自身の右手を見つめる。
「自分にできることをしようと頑張って、みんなで勉強して、成績も上がってきてこれならなんとかなるんじゃないかって思っていました。けど先生がいなくなって、攫われたって知って、もうどうしたらいいかわからなくなっちゃいました。このまま退学になっちゃうんだと思っていました。……でも」
震えを抑えるように左手で右手を強く握る。
「――でもアズサちゃんは諦めず、私たちを信じて頼ってくれました」
先の見えなかった暗闇にアズサは光を灯してくれた。
「ハナコちゃんはその思いにこたえて先生とナギサ様を見つけ出し、作戦を考え、お二人を救出するためシスターフッドに協力を仰いでくれました」
ハナコはその明かりを頼りに進むべき道を示してくれた。
「だから今度は私たちが応える番です。アズサちゃんの信頼に応えるために全力で戦うんです」
右手の震えは止まり、ヒフミは覚悟を握りしめる。
「それに先生は今も私たちを信じて待ってくれているはずですから」
同じ不安を抱えながらも、笑顔を浮かべるヒフミ。怯えていたのは自分だけじゃないことを知ったコハルはそれでも笑顔を浮かべるヒフミを見て弱気になっていた自分を奮い立たせる。
「だから一緒に頑張りましょうコハルちゃん!」
差し出したヒフミの右手は力強くコハルに握り返された。
「――当然よ! だって私はエリートなのよ! エリートな私がいるんだから絶対に作戦は成功させて見せるんだから!」
「――もうそろそろかな」
夕飯を持ってきたミカが去ってから数時間が経った。いまだ物音ひとつしない静かな牢獄だったが、その時が近づいていることを張り詰めた空気から感じ取れる。
「……先生、一つだけ聞いてもよろしいでしょうか?」
「? どうしたの?」
どこか緊張した面持ちをしたナギサと向かい合う。
「先生はどうして、ミカさんが裏切り者だと知っていたのですか?」
……そうだよね。そのことについて疑問に思うのは当たり前だ。
「先生はキヴォトスに来てまだ短いはずです。それなのにどうしてミカさんが裏切り者だと知ったのですか? どうやって調べたのですか?」
「……そうだね」
話すべきか少し迷う。けど話すべきだと思うし、『先生』として今度は私がナギサを信じる番だとも思った。
「セイアちゃんと似たような力を持ってる、て感じかな。厳密には違うけど」
「! セイアさんの予知夢! なるほど、それで」
「詳しいことはまた今度話すよ」
牢獄に響く爆発音。それに続く無数の足音に銃撃音。
「――始まったね」
「はい」
エデン条約2章、その最後の戦いが始まった。
良かった。
今までの総力戦を振り返るPVが良すぎた。
気になって本配信見に行ってみたらほかにも最高の神PVがあってびっくりした。
というか見覚えがありすぎる絵柄のPVだった。
キサキがイズナに対抗して園児コスプレし出したのは笑った。
けど一瞬出てきたアバンギャルドミキサーに関してはなんだよアレ。
まじで思考停止したわ。
他にも見所がメチャクチャあったから皆もみよう!