(……妙だな)
別館の襲撃を開始してしばらくたったころ、後方で指揮を執っていたサオリは違和感を感じた。
(アズサは真面目で、力を抜くようなことはしないが……いくら何でも抵抗が激しすぎる)
ナギサをとらえるための時間稼ぎのためとはいえ、アズサが仕掛けた罠にかかったアリウス生徒はことごとく戦闘不能においやられている。無論作戦のことはごく一部の生徒にしか知らせていないため裏切ったと思っている生徒の攻撃が激化するのは当然ではあるし、生半可な抵抗ではすぐにとらえられてしまうのはわかる。
とはいえ、襲撃開始とともにナギサ捕獲のための別動隊が動いているのはアズサも知っているし、この別館から牢獄までの距離が離れていることも知っているはずだ。いってしまえばこの襲撃はミカを騙す演技のようなもの。ミカがこの場にいるかぎり多少早めに制圧しても何も問題はない。何しろ今ミカが真実を知ったところでここから牢獄に向かうまでの間でナギサを確保しアリウスへと誘致することなど造作もないのだから。
(……そういえば連絡がこないな)
そう不思議に思った時、ナギサを捕まえるために動いていた別動隊からの連絡が入った。
「どうした?」
『――罠です! シスターフッドがッ!? うわぁああ!!」
「!?」
爆発音とともに通信が切れる。
「おい! なにがあった!」
急いで折り返すが通信は繋がらなかった。
(なぜ急にシスターフッドが……? まさか!?)
アズサの異様な抵抗と、ごく一部しか知らないはずの別動隊への襲撃からサオリの中で繋がった。
「裏切ったな! アズサ!」
動機はわからないがアズサの裏切りによって作戦が失敗したことは明白だった。
「どうしますリーダー? 撤退しますか?」
(ナギサの確保は失敗し、自由の身になった。ならこれから起こることは――)
アリウス生徒に問われたサオリはすぐに指示を出す。
「別館の制圧を急げ! この建物で正義実現委員会とシスターフッドを向かい撃つ!」
(入念に準備をしてある。戦力だって申し分ない。それに別館にいる連中を捕らえて人質にすることだってできる。何も問題はない。だとすると残る問題は……)
「ここの指揮は任せる」
「了解しました」
サオリは少数の精鋭を連れて別館を離れていった。
数分間響いていた戦闘音が止み、そのあといくつもの足音が慌ただしく響く。そして一人の生徒が私たちの牢屋の前に立った。
「サクラコさん!」
「――お待たせいたしました、ナギサさん。そして初めまして先生。私はシスターフッドの長を務めさせていただいている歌住サクラコと申します」
「初めましてサクラコちゃん。会えてうれしいよ」
「いろいろとお話したいことはありますがまずはこの牢屋から出すことが先ですね。今ほかの子たちが牢屋の鍵を探しておりますので少々お待ちください」
「あ! 出来れば私たちの荷物も探してくれると助かるんだけど」
「ご安心ください。そちらも捜索しております」
「ほんと? 助かるよ」
「――サクラコ様! ありました!」
シスターフッドの生徒が遠くから鍵を持ち走り寄ってくるのが見える。
「今開けますね!」
牢屋の鍵を開けてもらい、ナギサとともにようやく牢屋から解放された。
「ナギサ様、先生、これを」
別のシスターフッドの生徒が私とナギサに袋を渡してくれる。中を見てみるとシッテムの箱や財布といった私物が入っていた。
「これは私の――」
「はい。向こうに保管してありました」
「ありがとうございます」
「助かったよ」
鍵を開けてくれた生徒と、私物を探し出してくれた生徒にお礼を言う。
「ナギサ様」
「わかっています」
ナギサは自身のスマホを取り出し、通話をつなげた。
「ティーパーティーホスト、桐藤ナギサが正義実現委員会に命じます。今すぐ別館へ行き補習授業部の救援に向かいなさい」
ナギサはそれだけ言うと通話を切り、スマホをしまう。
「私たちもすぐに行きましょう!」
みんなとともに急いでこの牢獄を後にした。
「――もーいい加減に諦めてくれないかな?」
別館の隣に建てられている体育館の中でミカがめんどくさそうに問いかける。その先にはボロボロになった補習授業部がいた。周りにはアリウスの生徒が大勢おり、囲まれ、追い詰められてしまっている。
「勝ち目なんてもうないんだからおとなしく投降しなよ。悪いようにはしないからさ」
「……断る」
「頑固だなぁ。まあいいや。私にとって補習授業部がどうなろうと関係ないし」
補習授業部は銃を構える。おそらく全力で抵抗しても数秒耐えるので精いっぱいだろう。それほどまでに疲弊し、相手との戦力差は大きい。そのことを全員わかっている。会話による時間稼ぎも不可能だろう。何しろ先ほど既に使いつくしてしまった。目的、動機、これからの展望。これ以上の会話による時間稼ぎは不可能だろう。
「……すまない、みんな」
アズサの謝罪にヒフミ、コハル、ハナコが耳を傾ける。
「私のせいでみんなを巻き込んでしまった。私が巻き込まなければみんなは逃げられたかもしれないのに」
「アズサちゃん。それは違います」
アズサの謝罪に真っ先に異を唱えたのはヒフミだった。
「私たちは自分の意思で巻き込まれに来たんです」
「そうよ! アズサを見捨てて逃げるなんてそんなこと、正義じゃないもの!」
「二人の言う通りです。困っている友達がいたら助けるだなんて当たり前のことです♡」
ヒフミに続くようにコハルとハナコも胸の内を口にする。
「それに絶対先生が助けにきてくれるんだから!」
「ふーん? 最後の頼りが先生ねぇ」
コハルの発言にミカが怪しくつぶやいた。
「先生は来ないよ。だって私が監禁しているから♪」
補習授業部の最後の希望を断つようにけらけらと笑いながら話す。
「……」
けれど補習授業部はミカの発言を聞いても絶望した雰囲気を出さず、ミカはそのことに違和感を覚えた。
(……なにあの自信。まるで本当に先生が助けに来てくれるって信じてるみたい。あの子たちに先生を助ける手段なんてないはずなのに)
いやな予感がミカの胸中に滲みだしてくる。背筋に冷たい汗が流れ落ち、言い表しようのない感情が背後から這い寄ってくる。ミカはそれから逃れるように決着を急いだ。
「まあべつにいっか。どうせもう終わりなんだし」
ミカが右手を上げるとアリウス生徒が補習授業部に銃口を向ける。ミカの右手が振り下ろされた瞬間アリウスによる一斉射撃が始まるのだろうと誰もが直感した。
「それじゃあね。補習授業部」
流石にもうだめかと誰もが諦め、それでもと最後のあがきをしようとした時だった。
「きゃっははぁぁぁあああああ!!!!」
奇声とともに体育館の壁が壊される。
「「「「「!?」」」」」
体育館の壁をぶち壊して侵入してきたのは正義実現委員会の委員長、剣崎ツルギだった。
彼女は侵入してきた勢いのまま体育館内を占領しているアリウス生徒を攻撃し、なぎ倒していく。突然のことに驚き、すぐに対応しようとするアリウス生たちだったが、ツルギが開けた穴からなだれ込んできた正義実現委員会に制圧されていく。
「!? なんで正義実現委員会が!? 待機命令は出していたはずなのに!」
自身の命令を無視する正義実現委員会にミカは困惑した。いったいなぜと。そしてその答えは体育館に響き渡った声で判明する。
「私が命令したからです」
正義実現委員会の中からナギサとともに姿を現す。
「ナギちゃん!? それに先生まで!? なんでここに!?」
「詳細は省きますが救出してもらったのです。シスターフッドに」
「間に合ってよかったよ」
補習授業部のほうを見ればシスターフッドと正義実現委員会によって保護されているみんなの姿が見れた。
「ティーパーティーのミカさん。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆並びに拉致監禁容疑にてあなたの身柄を拘束します」
サクラコのその言葉と共にシスターフッド、そして正義実現委員会がミカに向けて銃口を向ける。
「参ったなぁ。どうやってシスターフッドを動かしたのか、なんでナギちゃんが助け出されているのか。いろいろ思うところはあるけど……こうなったからには全面戦争ってことでいいんだよね」
ミカが困ったように、けれど余裕を含んだ声色で言う。それも当然だろう。なにしろミカはキヴォトス最強格の一人として数えられていたほどだ。半端な戦力じゃ彼女に太刀打ちはできないだろう。
「…………」
「ツルギちゃん……?」
何も言わず前に出るツルギ。
「……私がやる」
「剣崎ツルギ。『トリニティの歩く戦略兵器』ねぇ。……うん、なかなかに骨が折れそうな相手だなぁ」
同じようにミカも前に出て、ツルギと向き合う。
「…………」
「…………」
二人の間を静寂が支配し、その支配はこの体育館全体へと広がる。全身を震わせる緊張感に誰もが動けず固唾を呑み、目が離せない。
「――っ!」
最初に動いたのはミカだった。ミカはツルギとの距離を一気に詰め、思いっきりツルギをぶん殴った。ツルギは反応し両腕をクロスすることでガードする。瞬間、轟音が響く。まるで戦車の砲撃音のような轟音に体育館内にいる生徒は皆、それが二人の肉がぶつかった音だとは信じられなかった。
「――!?」
ミカの圧倒的な力によって繰り出されたパンチをツルギは受けきれずに吹き飛ばされ、壁を突き破って外へと消えてしまう。そしてミカも吹き飛ばしたツルギを追い外へと消えてしまった。
「ツルギちゃん!」
「落ち着いてください先生。ツルギならあれくらいの攻撃ではやられません。それよりも今はこちらに集中してください」
ハスミに声をかけられハッとする。見ればアリウスの面々も驚いてはいるものの、すでに戦闘態勢に入っていた。
「先生、指揮をお願いします」
ミカは吹き飛ばしたツルギを追い、運動場へと歩みをすすめる。運動場は吹き飛ばしたツルギの影響か砂埃が舞い、夜ということもあり視界が悪い。それ故にツルギの姿も見えず、奇襲されても反応できるようミカは用心深くツルギを探す。
やがて運動場の砂埃はおさまり、視界も夜に慣れていく。そしてツルギが運動場の真ん中で佇んでいることに気が付いた。ツルギのその両手には愛銃をしっかり携えていて、近づいてくるミカをしっかりと見据えている。
「あれ? 感覚的に骨くらいいってると思ったのに」
そうぼやいたミカの声は広く静かな運動場に響きわたる。
「あの程度の怪我なんてすぐに治る」
「私が言うのもなんだけど、やっぱり化物じみてるよね」
ツルギの異様な回復速度にミカはうわぁと引いた。けれど歩みは止めず、ツルギとの距離を詰める。
やがて二人の距離が10メートル程度のところでミカは立ち止まる。
「……それに、ここなら全力で戦える」
「もしかしてわざと吹き飛ばされたの? 巻き込まないために?」
ミカの問いかけに応えるようにツルギは銃を構えた。
「なるほどね。でもわかってる? それは私も同じだってこと」
ミカも同じように銃を構える。
「それじゃあ、やろっか」
「けひっ。けひゃひゃひゃっ!」
気が付けばもう十二月半ばですね。
なんだか今年の一年は今までで一番短く感じました。
何しろ平日は仕事、休みに執筆とずっと動きっぱなしでしたのでね。
これが充実した一年というやつなんでしょうか。
何はともあれこの作品は新年を迎えるとともに一周年を迎えることになります。
よくもまあ飽き性、逃げ癖、先延ばし癖を持っている私がここまでこれたと感心しております。
それもこの作品を読んでくれている皆様方のおかげというやつですね。
ありがとうございます。
これからも私と、私の作品をどうぞよろしくお願いします。
それと感想、お気に入り、評価、しおり、ここすき等をもらえると私は狂喜乱舞するので『しょうがねぇな、してやるよ!』と思った皆様方はどうぞよろしくお願いいたします!
なんだか今年最後の締めくくりみたいな感じになっちゃいましたけどあと二回は更新するので気長にお待ちください。