「あれー! 先生じゃん☆ 目が覚めたんだね♪」
檻一枚隔てた先にいるのは明るく、元気そうに話しかけてくるミカだった。
「あれ何日間眠ってたの? 4日間だったっけ?」
「5日間らしいよ」
「そんなに! こう監獄に閉じ込められてると時間間隔がくるって何日だかわからなくなっちゃうんだよねー」
「わかるよ。私もそうだったし」
「あはっ、先生もそんな皮肉言うんだね」
「え? あっいやそういうつもりで言ったわけじゃないんだけどね」
しまった。ちょっと考え無しで話しちゃった。
「ミカさん、不便なことはありませんか?」
「大丈夫だよナギちゃん。二人を閉じ込めていた牢獄なんかよりもずっとましなんだから」
明かるげに自身を卑下するミカに少し眉を顰める。
「それにしてもあの時とは真逆の立場になっちゃったね」
「……そうだね」
何を言えばいいのだろうか。何を聞けばいいのだろうか。どんな話をすればいいのだろうか。
頭の中でぐるぐるまわり、結論が出ない。
「……どうして」
「?」
「どうして、捕まったの?」
やっとの思いで出てきたのは、そんなありきたりな言葉だった。
「おかしなことを言うね先生。そんなの私の計画が失敗したからに決まってるじゃん」
「体育館が崩壊した混乱に乗じて私たちを制圧することは出来たよね。逃げることだって出来たはずだよ。でもミカちゃんは投降して捕まっている」
「あれ以上抵抗したって無駄だったからね。それにアリウスに見捨てられちゃったし」
「でもミカちゃんならなんとかなったでしょ?」
「先生、なんだか私の事過大評価してない? 確かに私強いけど、それでもさすがに力不足だよ」
「それじゃあ私たちを監禁してたことをアリウスに伝えてなかったのはなんで? もし私たち二人がアリウスに引き渡されていたらミカちゃんの作戦は失敗しなかったはずだよ」
「……」
ミカの軽口が止まる。
「ミカちゃん、どうして捕まったの?」
笑顔のまま押し黙っているミカにもう一度問いかける。
「……クーデターを企てた悪い魔女は捕まった。それでいいじゃん。今更私のことを知っても意味なんてないんじゃないかな?」
「意味はあるよ」
「へぇ、どんな?」
「ミカちゃんのことを知れる」
とにかく話をしないといけない。ミカのことをちゃんと知って、話をして……。『先生』ならそうするはずだから。
「あーもう、相変わらずだなぁ先生は」
ミカは座っていたソファーに体を預け、天井を見上げた。しばらくするとミカはそのままぽつぽつと語り始める。
「……私はね、本当はこんなことしようとは考えてなかったの。私はただ、本当にアリウスと和解をしたかっただけで」
こぼれていくミカの本音に私とナギサは静かに耳を傾けた。
「……でも向こうはそうじゃなかった。アリウスにとって私はただの都合のいいコマだった」
声色を変えず、淡々と語られていくミカの記憶。
「セイアちゃんの襲撃だってホントはちょっとしたいたずらのつもりだったの。いっつも難しい言葉ばかり使って私の話なんて何一つ聞いてくれない。だから少し痛い目を見てもらおうと思って。……でも」
言葉を続けようとしたミカの口がぴたりと止まり、一度閉じられる。
「……でも、そこから狂っていたの。止まれなくなったの。だってセイアちゃんのヘイローを壊しちゃったんだよ? 私が直接やったわけじゃないにしろそこまでの手引きをしたのは私なの。知らなかったですまされることじゃない。騙されたからって許されることじゃない」
ほんの少しの間をおいてから語られたミカの声は、少し震えていた。
「ここで止まったらセイアちゃんはなんのために死んだのかわからなくなる。無駄にするわけにはいかない、無意味にすることは許されない。セイアちゃんを殺しておいて私が逃げていいわけない」
天井を向いていた顔を戻したことでミカの顔がはっきりと見えた。その顔は悲痛に歪んでいて、痛々しい。
「私はセイアちゃんを殺した責任を、罪を背負っていかなきゃいけないの。どんな結末になろうとも最後まで」
その目は泣くことを許さず、その口は弱音を吐かせない。
「……まぁ、実際は生きていたみたいなんだけどねセイアちゃん。もうちょっと早く知っていれば結末は変わっていたかも」
先ほどまでの重々しい空気を変えるようにおどけたように話しをする。
「だからこのお話はバカな私が勘違いして暴走してみんなを不幸にして、罰が当たった、ただそれだけのお話。自業自得のつまらないお話なんだよ」
あははとぎこちなく笑うミカを、自罰的に自分を責めるミカを見て、胸が痛くなる。
「なら、どうして最後までやり切らなかったの?」
「……え?」
「ナギサちゃんから聞いたよ。瓦礫の下敷きになった私を助けようとしてくれたって」
「――ナギちゃん」
「私は事実を話しただけですよミカさん」
ここに来る道中に聞いたナギサの話では体育館が崩壊した後、ミカは降伏して救助活動をしていたらしい。
「本当に最後までやり切るならミカちゃんにとって最大の好機だったはず。けど、そうはしなかった」
誰よりも必死になって私を助けようとしていた、とも。当時はセイアが生きていることを知らず、止まることが出来なかったはずなのに……。
「どうして、私を助けたの?」
「……ひどいこと聞くね。先生って」
ミカは当時の自己矛盾した行動に思い悩み、それを心の奥底に閉じ込めているのだろう。そして何かと理由をつけて、目をそらして、自身がただの悪人だと言い聞かせている。それを無理矢理引っ張り上げて自覚させるだなんてことがどれほどミカの心を傷つけているのだろうか、私には想像もつかない。
「死なせたくなかった。もうこれ以上、私のせいで誰かを死なせるのは嫌だった。……私なんかに手を差し伸べてくれた先生を死なせたら、私は……」
その先の言葉をミカは口にすることはなく、静寂が訪れた。
「なにはどうあれ、ミカちゃんは瓦礫の下敷きになった私を助けてくれた。他人を助けることが出来る子は優しい子だよ。それが非常事態であればあるほどね」
「私が、優しい子……? そんなわけないじゃん」
「ミカちゃん、自分のやったことから目を背けないで。ミカちゃんは悪いことをしたけれど、良いことだってしたんだ。その事実から逃げないで」
「…………」
「助けてくれてありがとう」
ミカの顔がくしゃりと歪み、その瞳がにじんでいく。
「……わ、私なんか、感謝される価値なんて……」
「感謝されることに価値だとか、資格だとかは関係ないよ」
ミカは膝を抱え、顔を伏せる。
「………………今日は、もう一人にしてほしい、かな」
くぐもって聞こえたお願いを聞き、立ち上がる。
「わかった。また明日来るからね。……ナギサちゃん」
「えぇ、わかっています。ミカさん、失礼しますね」
「……」
ミカは何も答えず、私たちが部屋を出るまでじっと息を殺していた。
新年明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
それと今年なんですが。
『誘い受けギャル先生』とかいうメチャクチャ叡智なものを思いついたのでいずれ更新することを誓います。
破ったら百鬼夜行の桜の木の下に埋めてもらって構いませんよ。