目が覚めてから数日経ったころ、退院が決定した。そもそも外傷はなかったからか軽くリハビリをするだけで十分だったようだ。
補習授業部のみんなも無事に試験を合格していたのも合わせて、ちょっとしたパーティーを開いてお祝いをしてくれた。みんなでお菓子を食べて、合宿の思い出を話し合って、ささやかだけれどとても楽しいパーティーだった。もし別館が壊れてなかったらそこでパーティーを楽しめただろうから少し残念に思う。
ただ意識を失っている間、そして入院している間に仕事は溜まっており、しばらくの間は山積みにされた仕事に奔走していた。退院したばっかなのに今度は過労で倒れそうになるほどの量だったが何人かの生徒に手伝ってもらい、なんとか終わらせることが出来た。
溜まっていた仕事を片付け、余裕が出来た今日。私は二人の生徒をシャーレに呼び出していた。目的は今後について話をするため。これから起こる事件について対策を練るため。
…………なんだけど。
「……えっと、先生?」
「どういうことか聞いてもいいかしら?」
私はシャーレのオフィスでヒナとナギサに挟まれていた。それもなんだか二人の空気が重い。
「これからについて話したいことがあるから一人で来てほしいとあったので ひ と り でお伺いしたのですが?」
「私にも同じような連絡があったから来たのだけれども……。どうしてティーパーティーのホストがここにいるのかしら?」
あれ? 二人って別にお互いの学園を嫌うような子たちじゃないよね? なんでこんな機嫌悪いの?
「と、とりあえずっ! これから先の未来で起きることについて話をしたいから二人とも座ろっかっ!」
「――もしかして」
「――そういう事?」
「――それで先生、私たちを呼び出したことについて説明してくれるのよね?」
「うん。そのつもりだよ」
対面に座ってるヒナとナギサに応えるよう二人の目を見つめた。
「二人には話したけれど、私は少し先の未来について知っている」
「やっぱりですか」
「納得がいったわ」
どうしたんだろう二人とも。お互いにうなずき合って?
「気にしないでいい」
「えぇ、これは個人的な感情ですので」
「?」
ぇえ? 本当にどういうこと?
「あっ。でも一つだけ聞かせて。ほかに話をした生徒はいないのよね?」
「うん。頼りになる二人にしか話してないよ」
「――!」
「頼りに――っ!」
なんだか急に機嫌がよくなったんだけれど? わかんない。若い子たちの考えていることがわかんない!
「そ、そう。ならいいのだけれども」
「そうですね。それと余計な混乱を招かないようにほかの人には話さないほうが良いでしょう」
「そう? まあでもバタフライエフェクトとかあるし変に広めるのも確かに怖いからね」
とりあえず話を戻そう。
「けどこれから話す未来についてはあくまで参考程度に聞いてほしいんだ」
「参考程度……? どういうことですか?」
「それはね、もうすでに私が知っている未来とはかけ離れてきているからなんだ」
オフィス内の空気が変わり、ピリッと張り詰めていく。
「私が知っている未来ではミカちゃんが暴走して私たちを監禁するなんてことは起こさなかったんだ」
「そうなのですか!? ……いえ、確かにあの時の先生は動揺しておられましたし、そもそもその未来を知っていたらそれを回避しようと――! もしかして先生、もうすでに――っ」
「あはは、察しがいいねナギサちゃん。……あの監禁は私が未来を変えようと動いた結果なんだ」
今回もなんとか元のメインストーリーに軌道修正することは出来たみたいだけど、それでも本当にギリギリだったと思う。なにか一つ違えば……それこそ脱出できなければきっと結果は大きく変わっていたはず。
「アビドスでの出来事も少しばかり変わっていてね。いろいろと細部は変わっているけれど基本的には私が知っている未来通りに進んでたかな。大きく違うのはビナーが現れたことぐらいだからね。あの時は本当に焦ったよ」
「……もしかしてビナーという存在を知っていたのも?」
「うん、そうだよ」
本当は少し違うけど、さすがにここが元はゲームの世界だったなんて説明する訳にはいかないからね。
「……なるほど、納得したわ」
「ですが大きくかけ離れてはいないんですね?」
「そうだね。だからこれから話すことは起こることだと思ってもらって構わないよ」
それに起こらなかったら起こらなかっただ。むしろ起こらないほうが良いのかもしれないのだから。
「エデン条約の調印式、その日にアリウスから襲撃を受ける」
「襲撃ですか?」
「もっと正確に言うならエデン条約が締結される瞬間、巡航ミサイルがみんなが集まる古聖堂に着弾する」
「「!?」」
ヒナには前もって襲撃されることを伝えていたけれど巡航ミサイルについては想定外だったらしく目を丸くしていた。
「……それは、どこから?」
「ごめんね、さすがにそこまでは。ただトリニティの地下だったと思う」
「いえ、そこまでわかれば十分です。ミサイルの件は私が対応しましょう」
確かにトリニティの自治内ならナギサの領分だろう。けど……。
「でも、場所については変わっていると思うんだ」
「それはどうしてですか?」
「……あまり詳しくは話せないけれど、アリウスを操っている黒幕が私が未来を知っていることを知っているだろうから」
「「!?」」
黒服経由でベアトリーチェが知っていてもなんらおかしくはない。おそらく話しているはずだ。そしてそれを知ったのなら警戒心が強いベアトリーチェは必ず対策をとってくるだろう。
「その黒幕というのは一体何者なのですか?」
「……ゲマトリアというグループの一人。ベアトリーチェ」
名前を出すべきか一瞬逡巡したけれど、何も教えない方がむしろ危ない気がする。とはいえ釘はささないと。
「ただ、ベアトリーチェについて探るのは禁止ね」
「! どうして?」
「危険だから」
ゲマトリアに関しては私は本当になにも知らない。どんな対策を取ったらいいかなんてわからない。
「ベアトリーチェだけじゃない。黒服、マエストロ、ゴルコンダ、デカルコマニー。これらの名前を聞いたならすぐに逃げて。そして私に連絡して」
なにを考えているのか、なにを成そうとしているのか。それは全くわからないけれど、生徒たちに良い影響を与えないだろうということは確信が持てる。
「――彼らは、君たち生徒が相手をしていい大人じゃない」
思い起こされる黒服との出会いと戦いに思わず体が反応してしまう。体中に悪寒が走り、背中に冷汗がつたう。歯が震えカチカチとなりそうになるが、力いっぱい歯を噛み合わせることで必死に我慢する。
「ゲマトリアの相手は全部、私に任せて」
……声は、震えていなかっただろうか?
……体は、震えていないだろうか?
…………私の顔は、恐怖に歪んでいないだろうか?
「「………………」」
長い、ながい沈黙が心を焦らせる。じっと、私を見つめてくる二人から視線をそらさないよう、内心を悟られぬよう精一杯の虚勢を張り続ける。
「……そこまで言うのでしたら、わかりました」
「私も、わかったわ」
ほっと一息つき、全身の力が緩む。
「ありがとうね二人とも」
「けど、もしなにかあったのなら私たちに頼ってください」
「ゲマトリアの相手をする先生が一番危険だということは忘れないで」
「心配してくれてありがとう」
頼ることがないことを祈ってるよ。
「それじゃあ先生。これから先私たちの身に何が起きるのか。詳しく教えてちょうだい」
そうして私は覚えている限りのことを話した。巡航ミサイルが着弾した後何が起きたのか。ミサイルでヒナが重傷を負いアリウススクワッドに襲撃されたりだとか。ナギサはことが終わるまで行方不明だったことだとか。アリウスがETOを悪用してユスティナ聖徒会を生み出したこととか。そして逆にETOを使い事件をアリウスを退けたことだとか。……まあ、そのあたりは私もあまり深くわかってないんだけど。
「先生は?」
「ん?」
「先生は襲撃されたときどうなったの?」
「あーとね」
あまり詳しく話すべきではないだろう。もし撃たれて重傷を負っただなんて言ったら余計な心配をかけちゃいそうだし。
「多少の怪我は負ったけどなんとか無事だったよ。その後もヒナちゃんに助けてもらったからね」
「……そうなの?」
「うん。いま言うのはなんだか違うけどありがとうねヒナちゃん」
「それは本当にいま言う言葉じゃないわね」
よかった。なんとか興味はそらせたみたいだ。
「とりあえず今話せることはこれくらいかな」
「ではこれらの情報をもとに今後どうするか考えましょう」
「えぇ。これだけあればいろいろと対策がとれそうね」
これからについて対策を練り合っているといつの間にかかなりの時間が過ぎていて、すっかり夜になってしまっていた。いったん解散することになりヒナとナギサを見送るとシャーレに一人ポツンと取り残される。
「……やっぱりなれないな」
二人と話をしていたのはつい数分前の出来事のはずなのに寂しさをおぼえた。広いシャーレに私が起こした物音だけが響く。
この寂しさをごまかすためにシャーレを出て軽く散歩をすることにした。
その翌日、シャーレに赴いたヒナとナギサだったが、そこに先生の姿はなかった。
ブルアカフェス楽しんできました。
一人でも十分に楽しめたんですけど。
友達がいればもっと楽しめたんだろうなって。
くそう! どうして私にはブルアカやってる友達がいないんだ!
……そもそも友達が全くいないわ。
いいもーん。これからブルアカふぇす二日目たのしんでくるし!