「まず最初に話しておきたいのですが今の私は防衛室長としてではなく不知火カヤ一個人としてここにいます」
「……つまり連邦生徒会はこの件について関わっていないどころか先生失踪の事実も知らないということ?」
「えぇ。先生には申し訳ないのですが個人的な理由で監視、そして警護をしていました」
「……それ、先生は承知の上なの?」
「もちろん無許可です。あぁプライバシーについてはちゃんと配慮をしておりますのであしからず」
堂々と盗み見をしていることを白状するカヤにいろいろと文句を言いたくなった二人だが、そのおかげで手がかりを得ることが出来るのだからとぐっと我慢した。
「そもそもなぜそんなことを?」
「さすがにそこまで教える義理はありません」
二人を突き放すようにカヤは答える。部屋の温度は一気に冷え込み、静かに火花が散り始めそうになったその時、カヤがおどけたように口を開く。
「――とはいったもののこのままでは私の印象が悪いままになってしまいそうなので少しだけ弁明させてもらいますと、『キヴォトスの平和のため』この一点につきます」
やれやれといった感じで両手を広げ溜息を吐く。防衛室長としてこれ以上ない理由であり、建前として便利な理由だった。
「……そう。わかったわ」
けれど『キヴォトスの平和のため』と軽口のように言い放った言葉には確かな意思が乗っていたのを感じとった二人はこれ以上追及することはしなかった。
「ご理解いただけたようでなによりです。さて、本題に入りましょうか」
ヒナとナギサはカヤの話を一言一句聞き逃さないよう姿勢を正す。
「事は昨日私の部下が先生の動向を監視していた時に起きました。お二人が先生と別れた後、先生はそのままD.U.を散策していました。1時間経った頃でしたでしょうか。突然先生が進路を変え、人通りの少ない路地へと入っていったのです」
「理由はわからないのですか?」
「はい。どうしてそのような行動をとったのか。助けを求める生徒でもいたのかもしれませんね。とりあえず監視と警護のため先生のあとを追いかけようとした瞬間でした――突然アリウスからの襲撃に遭ったのです」
「!?」
「どうやら我々が先生の監視と警護を行っていた事を知っていたようでして……。万全な状態で奇襲を仕掛けられたため先生の監視と警護を中断せざるおえなかったのです」
「アナタの部下はどうなったの?」
「おや? 部下の心配をしていただけるとは有り難いですね。ご安心を。私の部下は精鋭ぞろいですので」
「……それもあるけど、実際に対峙した感想を聞きたいのよ。使用する武器や装備、戦術、特徴。私たちには相手の情報が必要なの」
「そうですか。それについてはあとで本人たちと話をしてください」
あっけらかんと部下と話す機会を設けてくれたカヤにヒナは少し驚いた。なにしろその部下は公的な部下ではなく私兵の可能性があり、先生の監視と警護を任せるとなるとカヤにとって重要な部下なはずだ。文字通り自身の手ゴマを明かすことになる。それなのに躊躇うそぶりすらなかった。
「……いいの?」
「かまいません」
むしろこうして許可を出さざるおえないほどの緊急事態なのだとカヤは認識している。先生の損失はキヴォトスの破滅につながりうる可能性があるのだと。
「話を戻しましょう。奇襲を仕掛けてきたアリウスでしたが少しの間交戦したのち撤退を始めました。目的は時間稼ぎでしょう。向こうが撤退したのですから当然こちらも先生の後を追いかけました。……なにか少しでも手がかりを得るために」
「手がかりは残っていたのですか?」
「一応。現場に駆け着いたとき一人の生徒が地面に倒れ伏していました。その生徒はトリニティの生徒、守月スズミさんです」
「!? 確か自警団の……?」
「どうやらシャーレ周辺の警護を自主的に行っていたようでして。こちらも何度かその姿を確認しています」
「スズミさんの様子は――!?」
「今は奥の部屋で眠っています。数日も療養したら元気になるでしょう」
「そうですか。――よかった」
「スズミさんの話を伺ったところ4人の生徒が先生を攫って行ったそうです。それぞれの特徴は大きなバッグと狙撃銃を背中に担いでいる者、黒いマスクをしロケットランチャーを携えている者、フードをかぶりガスマスクで顔を隠している者、そして黒いキャップをかぶり三人を率いている高身長の者だと」
「――その特徴からしてアリウススクワッドですね」
「アリウススクワッド?」
「アズサさんがもともと所属していたグループです。アリウスの中で指折りの特殊部隊だとか」
「……なるほど、そうでしたか。それほどまでに先生を警戒していたということですか」
カヤは少しの間考え込んだ。この先アリウスが何を企んでいるのか。アリウスの目的は何なのか。とはいえ今そのことを考えても答えは出ないと結論づけ話を進める。
「ここまでが昨日の出来事で問題はここからです。先生がアリウスに攫われたことは確定しています。次に私たちが起こす行動は先生の救出ですが……いかんせんアリウス自治区への行き方がさっぱりでして」
カヤがお手上げといったように両手を頭の上にあげる。
「その上アリウスの戦力が不透明な現状下手な手を打つわけにもいきませんし、救出作戦が向こうにばれた瞬間先生を人質にされます。そうなったら打つ手がありません」
多くの生徒から好かれている先生は銃弾一発で致命傷になってしまう。これほど人質に優れた人は他にいないだろう。
「つまり現状私が欲しているのはアリウス自治区への行き方。先生を救出するまでアリウスにばれない作戦。この2つです」
そこまで言うとカヤはナギサの目をまっすぐと見る。
「そこであなたの力を借りたいのです。ナギサさん」
「……アズサさんですか」
「はい。彼女は元アリウス生でアリウス自治区への行き方を知っているはず。それに土地勘だってあるはずです。そもそも大勢で潜入するわけにもいきませんから少数精鋭で救出作戦を行いたいと考えています」
「確かに適任ね。けれどアリウスにばれずに先生を救出するのはかなり難しいと思うのだけれども」
「厳密にいえば先生の身柄さえ確保できればアリウスにばれても構いません。そのための少数精鋭なのですから」
「あぁ、なるほど。アリウスを蹴散らしながらアリウス自治区を脱出するつもりなのね。なら先生がどこに捕らわれているか、見張りをどうかいくぐるかが問題になってくるわね」
「捕らわれている場所に関してはご安心を。いざという時のために発信機入りの物を先生に贈っておりますので近くまで行けばわかります」
盗み見だけでなく発信機まで取り付けていることに驚き追及したくなる。
「…………今はわからないの?」
「はい。アリウス自治区そのものにジャミング電波でも満ちているのか反応がないのです」
「ちょっと待って。それなら誘拐時の逃走ルートから追うことは出来なかったの?」
「そちらもだめです。アリウススクワッドがそういった類の装置でも持っていたのか追うことが出来ませんでした」
「……そう」
「とりあえずアズサさんを呼んでもらってもよいですか? 作戦を立てるのはそれからでも遅くはありません」
「そうね。侵入ルートがわからなければ作戦なんて立てられないものね」
ヒナとカヤの会話を聞きながらナギサは考えていた。
(先生ならどんな作戦を立てるのでしょうか?)
ナギサはミカに監禁されていた時のことを思い返していた。あの時も時間に余裕はなく状況は絶望的だった。けれど先生はそんな状況をひっくり返してみせた。
この場に先生がいたのならあの時と同じように一発逆転の作戦を思いついてくれるに違いない、そう思うもその先生が連れ去られてしまっている。
(……先生なら)
あの時の作戦をよく思い返す。あの作戦は自身を囮にし、奇襲を仕掛ける事で窮地を脱出した。
(…………囮?)
ナギサの頭に一つの案が浮かぶ。その案からシミュレーションし一つ一つパズルを組み合わせるように作戦の骨組みが出来ていく。
(これなら……。かなり危ない賭けにはなりますが可能性は十分に……)
「――ナギサ?」
横からヒナに声をかけられ思考の海から浮上したナギサ。
「一つ、作戦が思い浮かびました」
「!? どんな作戦ですか?」
「それを話す前に少しだけ確認すべきことがあります」
「? どうぞ」
カヤに促されナギサが話し始める。
「まずアズサさんを頼る案ですが、これはやめておいたほうが良いでしょう」
「……なぜ?」
「アズサさんが元アリウス生だからです」
「それはどういう?」
ナギサの言葉にカヤは困惑した。なぜ元アリウス生だから頼るべきではないのかと。その疑問は次にナギサから語られる説明で解消した。
「先生を攫ったのがアリウスだと判明しているなら、元アリウス生のアズサさんを伝ってアリウス自治区を探ろうとすることは向こうも警戒しているはずです。とはいえアリウス自治区の立地くらいは聞いても問題はないでしょうが」
ナギサの考えはもっともだ。今回の先生誘拐事件が黒幕の警戒心が強いことを証明している。つまりアズサからの情報をもとに作戦を立てると逆に不利になってしまう。
「……なるほど。確かにそうですね。ですが他にアリウスに精通している人はいなかったはずですが?」
とはいえカヤの疑問ももっともだ。たとえ不利に働くとしてもアリウスの情報は貴重で無視できないものだ。危険を冒してでもアズサから情報を得るべきだと。……だが。
「いいえ、一人います。それもアリウスに警戒されておらず、アリウス自治区への行き方を知っている人物が」
「それは一体――?」
カヤの問いにナギサは一度目を伏せ少しの間逡巡する。今の彼女にこんなことを頼んでいいのかと。これでは彼らと同じことをしているのではないかと。
『だから信じているんだ。みんなのことを。きっと助けてくれるって』
ふと頭に響いた先生の言葉。それを皮切りに先生との会話が次々と脳裏を駆け巡る。知り合い、言葉を交わした時間は短くてもその時間はすでにナギサにとって大切なものになっている。そしてそれはほかの生徒だって同じだろう。今目の前にいる不知火カヤも、横にいる空崎ヒナも、補習授業部も、アビドスの生徒も、他にもたくさんの生徒が同じように思っているはずだ。そしてそれは彼女もそうだろう。でなければあんな行動を起こすはずがないのだから。
ナギサは覚悟を決め、彼女の名前を口にする。
「――ミカさんです」
ネオアバンギャルド君カッコよかったですね。
いや本当にカッコいいことしないでほしい。
なんであんなクソださフォルムで戦うシーンがメチャクチャカッコいいんだよ。
最初はダバダバ走りしてたくせにUZQueenが覚醒した後の戦闘どこもカッコよすぎるんだよね。
とくにダァト君の腕振り下ろし攻撃をパンチでキャンセルさせるところとかビックリしちゃった。
本当にありがとう。こんな素晴らしいバトルを見せてくれて。