私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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大人対大人

『……どうしてここにいるのですか?』

「それは先生をあなたに殺させないためです」

『そういう意味で言っていません』

「おや? ではどういう意味でしょうか?」

 ベアトリーチェの質問にすっとぼける黒服。その態度にベアトリーチェは内心イライラが溜まっていく。

『知っているでしょう。ここは私の支配下にある領域です。この領域内であれば私は全てを感知できます。だというのに私はあなたの存在に一切気付くことが出来ませんでした。もう一度聞きます。どうしてここにいるのですか?』

「クックックッ。あなたにはあなたの、私には私の武器があるということです」

 話すつもりがないのか黒服はあいまいな答えで追及をかわす。

『――まぁいいでしょう。今重要なのはそちらではありません』

 ふぅと息をつき、ベアトリーチェは黒服をにらむ。 

『なぜ私の邪魔をするのですか?』

「……邪魔、ですか」

 黒服はちらりと後方で倒れている先生を一瞥する。その姿にかつて自分と戦った勇ましさは感じられない。けれど大人としての意地を貫き通す、その意志だけは確かにあった。

「邪魔をしているのはあなたの方ですよベアトリーチェ」

『私が一体あなたの何を邪魔しているというのですか? あなたの興味は「神秘の探求」なのでしょう?』

「えぇ、マダムの言う通り私の目的は『神秘の探求』です。そのためには先生が必要なのですよ」

『ほう?』

「より正確に言えば、先生が与える影響によって『神秘』がどのように変化、変質していくのか。そのことに興味があるといったところですか」

『……黒服、あなたはまさか先生が『色彩』に近しい力を持っているとでも?』

「そこまでは言っていませんが、その可能性もあるかもしれませんね」

 クックックッと黒服は楽しそうに笑う。

『ならばなおさらここで先生を始末しなければいけません』

「おや、それはなぜ?」

『当然でしょう。もしそうだというのならこの世界の在り方すら変えてしまうかもしれないということです。そんな存在を放置するわけにはいきません』

「……そうですか。あなたが先生を始末するというならば、私は私のすべてを使いそれを阻止しましょう」

『おかしなことを言いますね。あなたが言ったのでしょう。ゲマトリア内で仲間割れをするべきではないと』

「確かに言いました。そしてその考えはいまだに変わっていません」

『なら――』

「そしてこうも言いました。お互いの研究を邪魔するべきではないとも」

『……つまり黒服、あなたは自身の研究対象である先生に手を出すな。そう言いたいわけですね』

「ご理解いただけて助かります」

 黒服は怪しい笑顔を絶やさずベアトリーチェと話を続ける。

「もちろんタダでというわけではありません。こちらからもいくつかの技術を提供しましょう」

『取り引き、ですか』

「当然です。それにそもそも先生は今あなたの支配下にあるのです。なら別に急いで始末する必要などないでしょう?」

『えぇ、そうですね。先生などいつでも始末することが出来ます』

 

 

 

「……ぅ、うぅ」

 瓦礫の山を押しのけ立ち上がったヒナ。その服はボロボロで、額や腕、脚など様々なところから血を流していた。

(失敗した……どの程度意識を失っていた?)

 痛む体をいにかえさず次の行動のために動き出す。

(今の状況はどうなってる……? ナギサの安否も心配だけど通信機が壊れてて連絡が取れない)

 周囲を見渡しても燃え盛る崩壊した建物だけしか映らず、けれど人の気配だけはあった。いや、気配というにはあまりにもひどいものだった。

(――銃声?)

 そこら中から聞こえてくる数多の銃声。そしてその中に混じる怒号たち。

「まさか――!」

 急いで銃声のする方向へ近づいていく。足の怪我で上手く走れず、あたり一面に転がっている瓦礫に足を取られそうになる。

 何度か転びそうになりながらも銃声が響く場所にたどり着くと、そこではトリニティとゲヘナ両陣営が銃撃戦をしていた。

「トリニティを許すな!! 必ず倒せ――!!」

「私たちを嵌めたゲヘナに正義の鉄槌を!!」

 両陣営とも恨みがこもった目を相手に向け、怒りのままに銃撃を続ける。

(まずい! 早く止めないと取り返しがつかなくなる!)

「――予想はしていたがあのミサイルに直撃してまだ動けるとはな」

「!? 誰!」

 背後から聞こえてきた声に勢いよく振り返る。瓦礫の影から姿を現したのは黒いキャップをかぶり白いコートを羽織った生徒で、さらにその後ろに何人かの生徒を引き連れていた。

「……錠前、サオリね」

 事前情報から彼女がアリウススクワットのリーダーなのだと理解し銃を構える。

「空崎ヒナ。貴様にはここで死んでもらう」

 

 

 

「――待ってくださいアズサちゃん!!」

 押し寄せる人波をかき分けアズサは黒煙が立ち上る現場へと走り去っていく。ヒフミはそれを追おうとするがすぐに見失ってしまう。

「アズサちゃん!!」

「落ち着いてくださいヒフミちゃん!」

 叫び後を追おうとするヒフミをハナコが止める。

「ですがハナコちゃん!」

「状況がわからない今下手に動くとかえって危険です! それにアズサちゃんだったら自分の身ぐらい守れます!」

 ヒフミを落ち着かせようと必死に語りかける。周りにはパニックになった人々が慌てふためき、街灯ビジョンにはクロノス報道部による緊急速報が放送され様々な憶測がゆきかい、それがさらにパニックを加速させていく。

「どうしようハナコ! 先生にもつながらない!」

「そんな!?」

(……先生も巻き込まれた!? いえもしかしてあの噂は……)

 ハナコの脳裏によぎるのは古聖堂周辺の警備や調査を入念に行っていたここ二日間のナギサの行動だった。エデン条約を成功させるための準備だと考えていたがそれにしてはやけに慎重だなと思っていた。けれど今になって考えるといくら何でもそれを行うのは今更過ぎる。むしろナギサの性格を考えればそういったことはすでに終わらせていて警備に力を入れているはずだった。

 そしてもう一つ、ナギサが出した声明も気になる。エデン条約調印式までの間先生に準備を直接手伝ってもらうという言葉。あれは先生が忙しくなるからモモトークなどの連絡を控えるようにという意味をはらんでいると思っていた。実際モモトークを送った生徒は何人かいるらしく既読が付かないといっていた。そこから直前に起こったナギサと先生をミカが監禁していた事件に連想させて先生が監禁されているんじゃないかとちょっとした話題にもなっていた。

 けどもし先生が行方不明でそれを隠すための声明だったとしたら? もし古聖堂の調査が先生捜索のカモフラージュだとすれば?

「――っ! とりあえず一度トリニティに戻りましょう!」 

 ここにいては自分までもがパニックに流されてしまいそうになる、そう思ったハナコは今こんなことを考えてもどうにもならないとかぶりを振りヒフミとコハルを連れてトリニティ総合学園に戻っていく。

 

 

 

『――ですが考えは変わりません。先生は今ここで始末します』

「…………」

 黒服は何も言わずベアトリーチェの一挙手一投足を見つめている。ベアトリーチェもこのまま黒服が何もしてこないことはないだろうと考え黒服を注視する。

 息が詰まりそうなほど張り詰めた空気の中、それを破壊するアリウス自治区に響いたまるで地震のような衝撃。

『――!? 何事ですか!』

『報告します!! 聖園ミカが4人の所属不明生徒を連れアリウス自治区に侵入してきました!!』

『なんですって!?』

 アリウス生からの報告にうろたえるベアトリーチェ。なぜその存在に今まで気づけなかったのか。どうして把握できなかったのか。アリウス自治区は全て自分の支配下にあるというのに。

 そんなベアトリーチェを見て黒服は笑い、呼びかける。

「クックックッ。どうやら忙しそうなので私はこれで失礼しますね」

 声をかけてきた黒服を見て思い出した。そういえば黒服も同じだと。アリウス自治区に侵入してきても一切認識できていなかったと。

『まさか黒服! あなた私をハメましたね!?』

「言いがかりはよしてください。私はあなたと交渉をしに来ただけですよ」

 黒服はもうベアトリーチェに用がないと言わんばかりに視線を先生に移す。

 先生の意識はすでにおぼろげになっていて今すぐにでも意識を失ってしまいそうだった。 

「それでは先生。またお会いしましょう」

 そんな先生に笑いかけその場を後にする。

『待ちなさい黒服!』

 ベアトリーチェの言葉に反応することなく黒服はすでに影の中に消えてしまっていた。

 それと入れ替わるように先生が監禁されている牢獄にものすごい衝撃音が響き、コンクリートの壁が破壊された。

『壁が――!?』

「――先生!!」

 白くて大きな羽、美しくきらめく桃色の長い髪、薄暗い部屋を輝かせる彼女のヘイローは先生にとってまるで本物の天使のように見えた。

「…………み、か……ちゃん」

 悲痛な顔をして駆け寄ってくる彼女の顔を最後に先生は意識を手放した。




ベアトリーチェのガバ
その1 シッテムの箱というオーパーツに目がくらみ先生をさっさと始末しなかったこと。
その2 黒服と会話なんてせずにさっさと先生を始末しなかったこと。
その3 問答無用で先生を始末しなかたこと。
その4 先生を始末しなかったこと。

結論
獲物を前に舌なめずりする奴は悪役としても三流だという事。
これがベアおばクオリティ。


それはそれとして黒服とベアおばの大人の戦いを間近で体験することになったアリウスモブちゃんがかわいそう。
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