私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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憎悪を抱く日

 崩壊したトリニティの街並みからはそこかしこから銃撃戦の音が聞こえる。トリニティとゲヘナ、両陣営が争う銃撃戦。その様相は突如第三勢力が現れたことにより混沌へと変わっていった。

 現れた第三勢力は当然『ユスティナ聖徒会』。彼女たちは急に現れたかと思うと争い続けるトリニティとゲヘナを武力で鎮圧していく。

 無論両陣営ともただやられているわけではない。正体がわからないとはいえ攻撃してくるのならば敵として攻撃をし返す。けれど両陣営の攻撃はユスティナ聖徒会にはまるで効果がなく、その事実がさらに混沌を加速させていく

 そんな中、一際異質な戦場があった。そこは他とは違い無数の『ユスティナ聖徒会』がたった一人の生徒を取り囲んでいる戦場だった。

「――やれ」

 その掛け声とともに無数の銃撃音が響き渡る。目標は取り囲んでいる生徒、空崎ヒナ。四方八方から放たれる銃弾に死角はなく、容赦なくヒナに襲い掛かる。

 ヒナは身をひるがえし、走り回り、瓦礫を持ち上げ盾にし攻撃をかわしていく。けれどすべての銃弾をかわし切ることは出来ずその身にいくつもの銃弾を喰らってしまう。

「くっ!」

 一発一発にそこまでダメージは受けないが止むことがない銃弾は確実にヒナの体力を少しずつ削っていく。

 このままではジリ貧だと判断したヒナは多少のダメージは覚悟しその場で立ち止まり、反撃を開始する。

「喰らいなさいっ!」

 ヒナはその身に無数の銃弾を喰らいながらも愛銃を構え、『ユスティナ聖徒会』を薙ぎ払うように銃弾を発射する。

「このまま――!?」

 ヒナが放った銃弾は確かに『ユスティナ聖徒会』に届き、彼女たちはまるで煙のように消えていく。けれど消えていったそばから一人、また一人と彼女たちは現れる。 

(これが先生が言っていた『ユスティナ聖徒会』! 倒しても倒してもきりがない! なら――!)

 ヒナは射角を変え、『ユスティナ聖徒会』を操っている生徒、サオリを狙う。

「――チィ!」

 けれどヒナの放った銃弾はサオリへと届くことがなく、サオリをかばうように前に出てきた『ユスティナ聖徒会』に阻まれる。

「……末恐ろしいな。それほどの重傷でここまで抵抗できるのか」

 サオリの目に映るヒナはまさに満身創痍といった姿だった。息は荒く、体のいたるところから血を流し、怪我をした脚はプルプルと震えヒナを支えるだけで精一杯といった様相だ。だというのにヒナは走り回り、休むことなく攻撃を続けている。

「このまま削っていく予定だったが作戦を変えるとしよう」

 そう言うとサオリはヒナに背を向けこの場から離れていく。

「! 待ちなさい――!」

 ヒナは『ユスティナ聖徒会』を蹴散らしながらサオリを追いかける。けれど今のヒナの足では全力で走ることが出来ずサオリとの距離は縮まらない。その上、倒しても倒してもヒナとサオリの間に『ユスティナ聖徒会』が現れ続ける。

「邪魔!!」

 サオリとの鬼ごっこはいくつもの戦場を横切った。トリニティ生徒とゲヘナ生徒の戦場、『ユスティナ聖徒会』に鎮圧されかけている戦場。そのすべてを無視しサオリを追いかける。

(いったいどこへ誘い込むつもり?)

 追いつけず、けれど見失うことはないこの鬼ごっこに何かしらの意図があることは確かだ。けれどヒナにはそんなことを考えている余裕がなかった。

 やがてたどり着いたのはただの廃墟だった。サオリはその廃墟に身を隠すように入っていく。

(十中八九罠ね。でも――)

 ヒナは警戒しながら廃墟の中に入る。いつ仕掛けてくるのか、どんなトラップがあるのか、様々な可能性を考えながら廃墟の奥へと進んでいく。

『さすがはゲヘナの風紀委員長だな。ここまで追ってくるとは』

「――!」

 廃墟にサオリの声が響く。けれどその声は直接の声ではなく、スピーカーから出た音だった。それも様々な場所から聞こえてくる。

『やはり貴様と直接やり合うのは得策ではないらしい』

「こんなところに誘い込んでどういうつもり?」

『貴様に良いものを見せてやろうと思ってな。そこの柱を見るがいい』

「……柱?」

 疑問に思ったヒナはサオリの言う通り柱を見る。……見てしまう。

「……写真?」

 柱には一枚の写真が張り付けられていた。ヒナはその写真に写っているものを見た時、思考が止まってしまった。

「…………ぁ……え……………?」

 無論そういった可能性は考えていた。最悪の可能性だって。

 けれど……。それでも、それでも先生なら……。きっと大丈夫だと……。そう、心の奥底で思っていた。

「……………あ…………あ、ぁ…………」

 鼓動が速くなる。呼吸が荒くなる。心が乱れていく。

 全身に不快感がまとわりつく。冷汗が滝のように流れていく。

「せ、せん……っ、せい…………?」

 震える体で、制御が聞かない両手で柱に張り付いていた写真を手に取る。この写真が本物だと信じたくなくて。つくられたものだと思いたくて。だから目をそらすことなくまじまじと写真を見てしまう。

 けれど、よく見れば見るほどその写真が合成や捏造などではないことがわかってしまった。

 写真の中の先生は無機質なコンクリートの上に見るも無残な状態で倒れていてる。服はボロボロで血にまみれ、露わになっている肌には青あざか切り傷があり、額からは血が流れ出ている。あたり一面には血が飛び散った後があり、どれほど非道な扱いを受けたのか想像に難くない。

 優しかった先生の瞳は虚ろに、暖かな言葉を紡ぐ口は閉ざされ、穏やかだった顔は生気を宿していない。そして……なにより先生の左腕があらぬ方向へまがっている。ありえない方向に折れてしまっている。

「な、なんで……。せ、んせい…………うで、が…………」

「それは私がやった」

「―――――――――――は?」

 後方からサオリの声が聞こえ、はじかれたかのように勢いよく振り返ると廃墟の外にサオリは立っていた。

「先生の腕は私が折った。ほかの傷もだ」

 挑発だ。これは挑発だとヒナは何度も自分に言い聞かせる。

「何度も殴った。何度も何度も何度も」

 ……聞くな。聞くな。聞くな。

「顔を、腹を、腕を、脚を。殴っただけじゃない。蹴り飛ばしたりもした」

 聞くな聞くな聞くな聞くな聞くな聞くな聞くな!!!!!!!!!!!

「悲鳴も録音してある。聞かせてやろう」

『アアアアアァァァァァァアアア!!!!!』

 廃墟に響く先生の絶叫。

『――ォエっ! エホッ! ゲホっ!』

 先生のえずく音。

『……アァ、ウァ……』

 嗚咽する声。

『オェェェエエっ!』

 嘔吐する音。

『アガッ! ゴァ!』

 殴り飛ばされる音、壁に打ち付けられる音。

「……………まえ」 

「多くの生徒が頼りにしていると聞いていたが――」

 

 

 

「――お前たちの先生とやらは大したことがないんだな」

 

 

 

「おまえぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!」

 ヒナは駆け出した。目の前の敵を消すために。

 サオリとの距離はそれなりにあったが今のヒナなら数秒もあれば十分にたどりつける距離だった。けれどその行く道に『ユスティナ聖徒会』が現れ邪魔をする。

「どけえええええええ!!!!!!」

 力に任せて銃を振るう。けれど何度銃を振るっても何度『ユスティナ聖徒会』を倒しても、倒したそばから『ユスティナ聖徒会』は現れサオリに近づくことが出来ない。

 そして怒りに支配されたヒナはサオリが何かのスイッチを持っていることに最後まで気づけなかった。

「――チェックメイトだ」

 その言葉と共にサオリはスイッチを、『ヘイローを壊す爆弾』のスイッチを押した。




あーあ。
どうすんのこれ。
ちゃんと『責任』取ってね先生。
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