崩壊し煙が立ち上るかつて廃墟だった瓦礫の山をサオリは見つめる。そこには体の半身が瓦礫に埋もれて目が閉じられている空崎ヒナの姿があった。額から、腕から、脚からあらゆる場所から血が滴り落ち瓦礫を赤く彩っていく。
その現場はまさしく、殺人現場と呼ぶにふさわしい状況だった。
「さすがの空崎ヒナもこれで終いだな」
この作戦で最も脅威な存在であるヒナの排除が完了したことにサオリは安堵の息を吐く。
「リーダー、終わった?」
背後から声をかけられたサオリは振り返る。そこにはアリウススクワッドのメンバー、戒能ミサキ、槌永ヒヨリ、そして秤アツコの三人が揃っていた。
「こんなに傷だらけになって……痛かったですよね、苦しかったですよね。でももう、戦わなくていいんですよね…………」
同情するような、それでいて羨ましそうな声色でヒヨリがつぶやく。そんなヒヨリに向けてアツコが手話で何かを伝える。
「そ、そうですね。私たちにはまだやることが残ってます」
気を引き締めたヒヨリはリュックを背負いなおす。
「次はどうするリーダー?」
「……地下通路からトリニティ自治区の背後に回り込み、殲滅していく」
「了解」
次の作戦に移ろうとその場を後にしようとしたとき――。
「……………………ぅ………ぁ……………」
「「「「!?」」」」
――かすれた息遣いが聞こえサオリたちは瞬時に銃を構えた。その小さな息遣いはヒナから発せられたもので、それはつまりまだ彼女が生きていることを示していた。
「嘘でしょ? まだ息があるの?」
「で、でももう虫の息みたい、ですね」
とはいえヒヨリの言う通りヒナは死に体で、意識が戻ったわけでもない。本当に、かすかに生きているだけだった。このまま放置していればすぐにでも息絶えるだろう。
そのことを確認したサオリは本当のとどめをさそうとヒナに銃口を向ける
「すぐに楽にしてやる」
サオリが引き金を引こうとした時、ミサキが声を上げた。
「待ってリーダー! 何か来る!」
ミサキの声に止められ耳をすませば車の駆動音が近づいてきていることに気が付いた。目を凝らして音が聞こえる方向を見ればこちらに向かって真っすぐ突っ込んでくる車があり、その勢いはこのままサオリたちを轢き飛ばすほどだ。
「あれは――ゲヘナの救急車か!」
とっさに銃を構え迎撃しようとしたとき、助手席から何かが投げつけられる。
「なっ! 閃光弾――!?」
飛んできている物が閃光弾だと気が付いたサオリたちはすぐに目を伏せ耳をふさいだが、銃を構えていたため対応が少し遅くなり閃光弾の眩い光と耳をつんざく音が4人を襲った。
「――ぐッ!?」
身動きが取れず、周りの状況も把握できない光の中でサオリは誰かに吹き飛ばされる。お腹に響く強い衝撃と一瞬の浮遊感。そして背中に打ち付けられ擦られる地面の感触。
「クソっ!」
すぐに立ち上がり体勢を立て直す。光に犯された視界と頭に響く耳鳴りも徐々に治まり始めていた。
「いったい誰が――!?」
ぼんやりとした視界の中で誰かが銃を構えている姿が見えた。サオリがとっさにその場から飛びのいた瞬間、その場に飛んできたいくつもの銃弾。サオリはその銃撃音に心当たりがあった。
「アズサか――!」
すでに視界は元に戻っていて瓦礫の影に身を隠す。
「姫! ミサキ! ヒヨリ! 状況は!?」
通信機から3人に呼びかける。
『わ、私と姫ちゃんは平気です!』
「ミサキは!?」
『交戦中っ!』
「相手は!?」
『先生を拉致したときに戦った相手!』
(――あの時の相手か! ミサキ一人だと少し厳しいか!)
「姫! ヒヨリ! 二人はミサキの援護! 私はアズサをやる!」
『りょ、了解です!』
「セナさん! 今のうちに!」
スズミの背後には救急車が止まり、そこから救急医学部の生徒が数人出てくる。
「迅速に瓦礫を撤去し風紀委員長を救出します! 急いで!」
ヒナの悲惨な姿を見てたじろぐ救急医学部の生徒たちだったがセナの号令で気を取り直し救助を始めた。
その様子を確認したスズミはアリウススクワッドのメンバー三人と対峙する。
「あの時の借りを返させてもらいます!」
そういってスズミは救急医学部の邪魔をさせないよう誘導しながら戦闘を開始した。
「サオリ! いったい何が目的だ! なんで襲撃をした!」
瓦礫を盾にしながらサオリとアズサは銃撃戦を続ける。
「エデン条約を掌握するためだ」
「掌握? どういう意味だ!」
「この条約は『第一回公会議』の再現だ。あの時までは各派閥がそれぞれ権力をもっていたが、公会議当日にすべての派閥が統合しトリニティになった。我々アリウスを除いて」
「つまりアリウスには形式上権力が残っていると……?」
「そうだ。そしてエデン条約が締結される古聖堂を襲撃し、エデン条約の内容をほんの少し捻じ曲げた」
話をしながらもお互いに攻撃の手を止めることはなく、少しでも隙を見せればそこから付け込まれるだろうと警戒を緩めることはない。
「トリニティとゲヘナの間で紛争が起きた時『エデン条約機構』がそこに介入し、紛争を解決する。このエデン条約にアリウスが『エデン条約機構』を担う。その一文を書き添えることで我々アリウスがこのエデン条約の裁定者になった」
そういったサオリの周囲にユスティナ聖徒会が現れる
「そして『ユスティナ聖徒会』。正確にはその複製だが戒律の守護者であるこの存在は我々『エデン条約機構』を助ける存在になる」
「――!?」
いつの間にかアズサの背後にユスティナ聖徒会が現れ銃撃を受ける。
「トリニティとゲヘナの敵対行為は神聖なる戒律の違反行為だ」
「……つまり今のこの状況は『エデン条約機構』が鎮圧すべき出来事。トリニティとゲヘナの戦争行為を止めるためにトリニティとゲヘナ両校を滅ぼすつもりなのか!」
「そうだ」
「――ふざけるな!」
アズサはユスティナ聖徒会に銃弾を放つ。
「!?」
アズサの銃弾を喰らったユスティナ聖徒会はそのまま霧散してしまう。
(なぜだ? 空崎ヒナのような存在ならまだしもアズサの攻撃がユスティナ聖徒会に効くとは……そうか! トリニティではなくアリウスと判断されたのか! だからアズサの攻撃が効いているのか)
「そんなことはさせない! 私はトリニティを! 私の大切な場所を守ってみせる!」
「まだ甘い夢に囚われているのかアズサ。……いいだろう、私がその夢から覚ましてやる」
「回収完了! スズミさん! アズサさん!」
スズミがセナの声に引かれちらりと見ればセナが救急車をこちらに向かって走らせていた。
「アズサさん! 閃光弾投下します!」
「同じ手はくわん!」
サオリはすぐさま銃口をスズミに向け引き金を引く。
「させない!」
けれどアズサが邪魔をしサオリが放った銃弾はスズミに当たることはなく、閃光弾は投下され、炸裂した。サオリたちは再び眩い光と耳をつんざく音に襲われる。
「ぐっ! 逃がすか!」
サオリは閃光弾が炸裂する前の状況から逆算し銃弾を放つが、視界が元に戻ったときにはそこにアズサもスズミも救急医学部の車もなかった。
疲れた。
今話書くのマジで疲れた。
先生が出てくれないから本当に筆が進まなかった。
もっと私に先生をいじめさせてほしい。