「――――ヒナちゃんっ!!!!」
思わず声を上げて飛び起きる。
「……あれ? 私はなんでヒナちゃんのことを……?」
記憶が混濁しているのか直前の出来事を思い出せない。けれど、なにかイヤなものを見た気がする。
それにここはいったいどこなのだろうか? 私は確かベアトリーチェに捕まって牢獄にいたはずなのに……。
「……ティーパーティー、のテラス?」
「――目が覚めたようだね……というのも変な話か。何しろここは未だ夢の中なのだから」
後ろから声が聞こえて振り返るとそこには長い金色の髪を揺らし、狐耳を立て、少々幼い容姿をしながらもどこか浮世離れした雰囲気をまとっている少女の姿があった。
「……セイア、ちゃん?」
「おや、やはり私のことも承知のようだね」
「――あっ」
やらかした。思わずセイアの名前をつぶやいてしまった。私たちは初対面のはずなのに。
「そう構えることはない。むしろ自己紹介の手間が省けたと思うといい。それにおおよそだが君の事情についても予測が出来ている」
私の事情?
「――未来を知っていたのだろう?」
驚いた。素直に驚いた。
「……どうして、そう思うのかな?」
そう、訊ねてみるとセイアは語り始めてくれた。
「君も把握していると思うが私には予知夢を見ることが出来るという少し特殊な力があってね。今まで起きたこと、これから起きることについて知っていたのだよ。君がトリニティに訪れるずっと前からね。そして君がトリニティに訪れた後もどのような結末になるのかも知っていた……のだがね。私が見た予知夢と現実が急に乖離し始めたんだ。なぜ? そう思ったが結論はすぐに出た」
語りを一度止めたセイアは黄色と赤のコントラストになった瞳でまっすぐと私の方を見つめてくる。
「君だ、先生。君の行動は私が見た予知夢とは違っていた。そして君の起こした行動が私の見た予知夢とは違った今を引き起こした。正直驚いたさ。今まで私が見た予知夢が変わることなんてなかったからね。そして期待もした。君なら私が見た予知夢とは違った結末を見せてくれるのではないかと」
期待……期待か。そんな風に思ってくれていたと知れてうれしくはなるけど、やっぱり申し訳なく思えてくる。
「だから私は君を見た。見続けた。そして未来を知っていたからこそそれを防ぐために奔走していることも知った。だが……。だがそうはならなかった。いや、言葉を選ばなければより酷くなったといっても過言ではない。別に責めているつもりはないとも。むしろ賞賛している。ただ先生でもこの結末は変えることが出来ないのだと、そう実感しただけさ」
セイアの綺麗な瞳が閉じられる。まるでもう見る価値がないと言われたような気がして心が痛んだ。そんな風に考えるような子でないことも知っているからこそ余計に。
「私ばかりしゃべってしまったね、先生は何か聞きたいことはないのかい?」
聞きたいことか。わからないことばかりだけど、とりあえず最初に聞くことは決まっている。
「私はどうなったの?」
「ふむ、抽象的な問いだね。とはいえ先生の立場を考えればそうなるのも理解できるが。とりあえずは生きているよ」
「……そうなんだ」
「アリウスに囚われていた君は拷問を受け生死の境をさまよっていた。そしていざ殺されそうになった時、ミカが君を助けた」
「……ミカちゃんが?」
そっか。またミカに助けられたんだ。感謝してもし足りないや。
「あぁ。詳しいことはわからないがナギサとゲヘナの風紀委員長、そして連邦生徒会の防衛室長が協力して作戦を立て、ミカと防衛室長の部下であるFOX小隊がアリウスへ侵入したんだ」
ナギサとヒナはわかる。けど、防衛室長? たぶんカヤの事、なんだろうけどどうして彼女が私のことを?
……まあ、いいか。
「それで今は?」
「今君はミカに背負われてトリニティ総合学園に向かっている。周りには護衛としてFOX小隊もいる」
とりあえず私のことはこの程度で十分だろう。
「ナギサちゃんやヒナちゃんは?」
「……ナギサは未だ行方が知れないがゲヘナの風紀委員長はアリウススクワットのサオリと衝突し『ヘイローを壊す爆弾』の爆発を喰らい重傷を負った。辛うじて息はあったがサオリに始末されそうになった時、ゲヘナの救急医学部、そしてアズサとスズミによって救出され今はトリニティ総合学園で治療を受けている」
あぁ、思い出した。私はさっきそれを見ていたんだ。それを、見ていた……はずなのに。
どうしてだろう。どうして私は今、普通にしていられるのだろう。
傷ついていないわけじゃない。申し訳ない気持ちでいっぱいだし、自分のせいでこんなことになったって自分自身に腹を立てているはずなのに。
「……一種の防衛反応だろう」
そんな私の内心を見透かしたかのようにセイアが言う。
「未来を知るが故のプレッシャーにそれを防げなかった自身への叱責、その上アリウスにうけた拷問はとてもひどいものだった。君の心はすでに限界を迎えている。精神が壊れていないのは奇跡といってもいい」
そう、なのだろうか? 確かに何か違和感はあるけれど、でもそれだけ……な気がする。
「君は今――諦観しているんだ」
諦観といわれてすっと納得がいった。
しょうがなかった。自分に出来ることはやった。それでもダメだった。私に『先生』は務まらなかった。その事実に安堵しようとしている自分がいる事に気が付いた。
なんて無責任な大人なのだろうか。なんて愚かな大人なんだろうか。なんてダメな大人なのだろうか。そう思っているのに自身に対する不快感が全く湧いてこない。
「先生、このお話はそういうものだったんだ。陰鬱で、憂鬱で、不愉快で、誰も幸せになれない。そんな後味の悪いお話だ。君が気に病むことはない」
「気遣ってくれてありがとうセイアちゃん。でも大丈夫だよ。どうやら私はそんな大人じゃなかったみたいだからね」
「…………ここには君を傷つけるものはいない。共にこの場で最期の時を待とうではないか」
セイアが優しく私の隣に寄り添ってくれる。ここは夢の中で感触も体温も何もかも感じられないのにどこかあたたかかった。
ここですべてを投げ出しても誰も文句は言わない。言っても届くことはない。ただあたたかなまどろみの中でその瞬間を迎えるんだろう。
夢の中で眠る、とは変な表現だがこのまま意識を手放そうと目をつむろうとしたとき、視界の端で何かが光った気がした。
「……ん?」
気になって視線を向けるがそこには外とを区切るテラスの柵しかない。視界の端で何かが光ったのは気のせいだとそう思った。けれどなんだかその柵が妙に気になり近づいて手で触れようとした瞬間、セイアに声をかけられる。
「先生、それに触れてはいけない」
「どうして?」
「その柵の外にはロクなものがないからだ。君も嫌なものは見たくないだろう」
どういう意味なのかと思ったが、そうか。この柵の外は外の世界に繋がっているのか。
「やめたほうが良い。この物語にハッピーエンドはないんだ。見続けても先生が傷つくだけだ」
確かにそうかもしれない。『先生』と違うことをしたせいで『先生』の方法を使ってどうにかできる出来事ではなくなっているし、じゃあほかの方法でハッピーエンドにたどり着けるのかと問えば答えることが出来ない。
でもどうしてか私は私を止めることが出来ず、柵の外へと触れてしまった。
セイアちゃんの口調むずすぎない?
もっとわかりやすくしゃべってほしい。
それはそれとして皆さん『超かぐや姫!』見ましたか?
私は先日ようやく見ることが出来ました。
最高のハッピーエンドでしたね。
この作品もあんな風にハッピーエンドを迎えたいものです。
そのためには先生にもっと頑張ってもらわないとですね。