シスターフッドの会議室、そこでは様々な情報が集まり、まとめ、そして指示を出しているハナコの姿があった。
「正義実現委員会のツルギ委員長が重傷! ハスミ副委員長は重体とのことです! ほか正義実現委員も重傷者、重体者多数!」
「ツルギ委員長たちが守っていた防衛線が突破され『ユスティナ聖徒会』が多数押し寄せてきています!」
「防衛線を下げ戦力を集中! それと下がる道中建物を壊し少しでも足止めを!」
多少の時間稼ぎにしかならないがそれでも直接戦うよりはだいぶましになるだろう。なにしろこちらの攻撃がほとんど効いていないのだから。
「ゲヘナに宣戦布告をしようとする集団が現れた模様!」
「! すぐに取り押さえてください! そんなことをすればこの戦争が本当に止められなくなります!」
「サクラコ様が意識不明の重体で発見されました!」
「そ、そんな……っ!?」
ハナコのそばで仕えていたマリーがよろよろと座り込んでしまう。けれどそれも当然だ。なにしろこれほどの混乱の中で自身が所属している部の長が重体で発見されたとの報告を受けてショックを受けないほうがおかしい。現に周りのシスターフッドの面々も動揺し絶望がにじみ出てきてしまっている。
「マリーちゃん! しっかりしてください!」
「で、ですがハナコさん……」
「別に死んだと決まったわけではありません! 皆さんもです! 今ここで我々が諦めてしまってはそれこそサクラコさんにあわせる顔がありませんよ!」
「!? そ、そうですね!」
ハナコの発破により会議室内にいる面々の士気が少し上がる。
(サクラコさんの所在もつかめた。あとは……)
「ナギサさんの行方は?」
「まだ捜索中とのことです!」
「っ!」
正義実現委員会、シスターフッド、ティーパーティーとトリニティにおける主要組織のトップが軒並みかけてしまった状態にハナコは歯噛みをする。救護騎士団のミネ団長もずっとセイアと共に姿を消しているため戦場で指揮をとれる人物が一人もいない。
(こうなったらツルギ委員長を無理矢理前線に――っ! いえ、ツルギ委員長の再生能力を考えれば全回復してから前線に出したほうが――っ)
トリニティに侵攻してきている『ユスティナ聖徒会』を食い止める事、トリニティ内で起きている混乱を抑制する事。この二つの問題のどちらかが解決しない限り救助活動に力を入れることは出来ない。
せめて未だ行方が分からないナギサが見つかり、かつ全体の指揮を執ってくれればトリニティ内の混乱は抑えられるというのに。
「――報告します! たった今ゲヘナの救急医学部により風紀委員長である空崎ヒナが重体で治療室に運び込まれたとのことです!」
「!? あの風紀委員長が!?」
(ゲヘナに戻るのではなくトリニティに運んでくる。それもこの状況で。それほどまでに深刻な状況だという事ですか……! ……そういえば飛行船が落ちる直前にヒナさんがミサイルを撃ち落としたという情報があったはず。もしそれが本当ならこの事態を予測していた? ……いえ、今はそんなことよりも!)
「運び込まれるときに暴動等は起きませんでしたか!?」
「報告によりますと起きたようですが同乗していた方々が鎮圧したとのことです!」
「鎮圧したメンバーは!?」
「詳しくはわかりませんがトリニティ生徒とのこと」
予想通り暴動は起きていたがトリニティ生徒が暴動を鎮圧したのは幸いだった。もしこれがゲヘナの生徒だったらさらなる混乱が起きていただろう。
「トリニティ生徒に知られないよう厳重な隠蔽を!」
「わかりました!」
とはいえトリニティだけではなくゲヘナまでも主要人物が倒れてしまっている状況にハナコは焦りを募らせていく。
次々と舞い込んでくる各地の混乱に的確に指示を出し、少しでも事態の鎮静化を願うハナコの思いとは裏腹に混乱はさらに広がっていく。
どんどんと打てる手がなくなりつつあることに苦悩していると、会議室のドアが開かれた。
「――ハナコ、話がある」
会議室のドアを開けて入ってきたのはアズサだった。
「アズサちゃん! 良かった! 無事だったんですね!」
友達の無事を喜ぶハナコだったが、アズサはどこか深刻そうな表情を浮かべていてすぐに気持ちを切り替える。
「情報共有をしましょうアズサちゃん」
「あぁ」
アズサから簡潔に『ユスティナ聖徒会』の正体、アリウス側の狙いを聞いたハナコは今まで集めた情報を精査する。
「トリニティもゲヘナもトップを失い統制が出来ない状況では両者間の衝突はもう避けられない。そしてそれをいさめるエデン条約機構がアリウススクワッドの手に渡った……」
アズサからもたらされた情報と今の現状を掛け合わせこれからのことを予測したハナコはたどり着いた結論を口にしてしまう。
「――もしそうなら、この戦争はもう止められない……?」
「は、ハナコ、さん? それはいったいどういう……」
ハナコが震える声で絞り出した一言を聞いたマリーは問いかけるが、ハナコは聞こえていないのかブツブツとつぶやく。
「『ユスティナ聖徒会』に対抗する手段がない以上このまま戦い続けたら限界が来る。他校の協力を求めてもこの状況で力を貸してくれる学校なんて。そもそも距離が離れているから間に合わない」
この状況を打開するためにいくつもの方法を考え出すが、一つ、また一つ不可能だと思うたびハナコの顔が伏せられていく。残った策はすでになく、新たに方法を探すが思いつかなかった。
「私たちはこのまま、滅びるしか……」
「……いや、まだ方法はある」
「え?」
アズサの言葉にハナコは顔をガバッと上げる。
「この戦場を混沌にしているのは『ユスティナ聖徒会』だ。それをどうにかできれば戦争を止めるとっかかりにはなるはずだ」
アズサの言うことは正しい。『ユスティナ聖徒会』がいなくなればそちらに割いていた戦力を使い救助活動に力を入れることが出来る、そしてもしナギサが見つかり、かつ指揮が執れる状態であればこの状況は好転するだろう。
(だけど、『ユスティナ聖徒会』を止める方法も、戦力も、何も残って――)
「――『ユスティナ聖徒会』は私に任せてほしい」
アズサのその一言でハナコは思い至ってしまった。これからアズサが何を言おうとしているのかを。なにをしようとしているのかを。
「今『ユスティナ聖徒会』の指揮権を持っているのはアリウススクワッドだ。だから――」
その先を言わせたくなかった。友達にそんなことを言ってほしくなかった。けれどハナコは動くことが出来なかった。
「――私がアリウススクワッドを、サオリのヘイローを壊しに行く」
「っ!」
なぜならそこにいたのは今まで一緒に過ごしてきた白洲アズサではなかったからだ。目が、言葉が、表情が、雰囲気が、白洲アズサのすべてがハナコが知らない何かに変わっていた。
(……違う、変わったんじゃない。これが、もともとのアズサちゃんの……)
アズサはアリウスで育った人殺し集団の一員だった。人を傷つける方法、壊す方法、殺す方法。そのすべてをアズサは叩き込まれている。本人の善性によりそれが表に出ることはなかったがその善性がトリニティを、友達を守りたいという思いと覚悟に悪い方向で作用してしまう。
そしてその言葉を聞いたのはハナコたちだけではなかった。
「……アズサ、ちゃん?」
会議室の扉を開け今まさに中に入ってこようとしているヒフミの姿があった。
「ヒフミ!? どうしてここに?」
「アズサちゃんがこの部屋に入っていく姿を見かけて、追いかけてきたんです。そしたらアズサちゃんの声が聞こえて……」
最悪のタイミングだとハナコは一人思う。なにしろヒフミはアズサと一番仲が良かったから。
「聞き……間違い、ですよね。アズサちゃんが、そんな……ことを……」
「私はこれからサオリのヘイローを壊す」
「っ!」
友達たちが、優しい友達たちがすれ違っていく。離れ離れになっていく。
「この戦争は私のせいだ。私がいたからこんなことになってしまった」
「そ、そんなことありません! この戦争がアズサちゃんのせいだなんて!」
「すべての始まりは私がセイアを昏睡状態にしてしまったからだ。私がこの戦争の引き金を引いたんだ」
ハナコにとって大切な世界が壊れていく。
「正義実現委員会、シスターフッド、ティーパーティー、このトリニティに住むすべての人たち、そしてゲヘナの生徒たち。こんなにたくさんの人が不幸になってしまった。そしてこの戦争が続けばもっとたくさんの人が不幸になってしまう。それを止めるためには私が『人殺し』になるしかないんだ」
そんなことはないと声に出して言いたい。アズサがそんなことをする必要はないと。けれど、それ以外に方法がないとハナコの頭は冷静に考えてしまっている。そうすればなんとか出来るかもしれないと。『ユスティナ聖徒会』さえどうにかできればと。
「まだ、まだなんとかなるはずです! 先生ならきっと――!」
「その先生も、いまだ行方が知れない」
「――っ!」
「この世界にハッピーエンドなんて訪れないんだ」
……私は結局、胸を張ってみんなの友達になれなかったのだと悟り、ハナコの心は急速に冷えていった。
「ま、待ってください、アズサちゃんっ」
「近寄らないで!!」
「!!」
アズサに近づこうとしたヒフミをアズサは拒絶する。
「ヒフミみたいな善良な子が私みたいな『人殺し』に近づいちゃいけない。私のいる世界に入っちゃいけないんだ」
話は終わったといわんばかりにアズサはヒフミを避けるように大回りで会議室の扉まで歩いていく。
「ヒフミ。私と友達になってくれてありがとう」
そう言い残しアズサは会議室から出て行ってしまう。
ヒフミは呼び止めようと思った。追いかけようと思った。
けれど足を動かすことも、声を出すことも、手を伸ばすことすらできなかった。
制服アカネの実装が決まりましたね。
やったね!
でも石がないので引けません。
かなしいね。