「……すぅ……すぅ」
「…………」
静かな部屋に先生の寝息が響く。顔はとても穏やかで、だからこそ先生の体の痛々しさが私の心を締め付ける。
先生が寝静まってどれだけの時間が経ったのだろうか。少なくとも一時間以上は経っていると思う。
「……」
先生の寝息しか聞こえない。少し前まではもう一人の寝息が聞こえていたのに。
「……ねえ、おきてる?」
「…………それは、私に向けての事かしら」
カーテンの向こうから聞こえてくる声はとても弱々しかった。直接会うどころか関わったことすらないけれど、カーテンの向こうで寝ている彼女が、あのゲヘナ風紀委員長があんなにもか弱な生徒に見えるなんて。
ゲヘナは嫌いだ。嫌いだけど、あんな風にボロボロになっている人にまで悪感情を向けるほど毛嫌いしているわけじゃない。
それに先生の態度からして先生にとって彼女がとても大切な存在なのはわかるし、私から見ても彼女が悪い人には見えない。嫌いになるような人柄ではない。……だけど仲良くなれるわけでもないだろう、なんて考えてしまう自分がイヤになる。私は彼女のことを何も知らないのに。
「あの……ごめんなさい」
「どうしてあなたが謝るの?」
「私が、すべての元凶だから。私がアリウスと手を結んだのが始まりだった……。先生が手を差し伸べてくれたのに、私はそれを振り払った」
こんな風に謝ったところで何も解決しない。何の意味もない。だけど、そうしなければいけないとなぜだか思った。
「私はゲヘナを滅ぼそうとした。嫌いだからって理由で。その理由だって止まれないための言い訳でしかなかった」
「嫌っていたのは事実なんでしょ」
「そうだけど、そうじゃなくて」
あれ、私は何を言いたいんだろう。なんだか頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
この事件のせいで彼女は傷ついて、発端は私のせいで……ちがう、こうじゃない。
私は、私は……。
『あなたはその人の何を知っているの?』
『そもそも本当に目の前にいる相手はあなたにとって嫌いな相手なの?』
……そっか。わかった。私が言いたいこと。
「あなたたちのことを勝手に嫌ってごめんなさい」
「…………別にいいわよ」
あぁ、なんて優しい声なんだろうか。先生が信頼するわけだ。見ず知らずの相手のこんな一方的な謝罪を受け入れてくれるなんて。
先生の言った通り私は彼女たちについてあまりにも無知だ。どんな生徒がいるのか、どんな性格をしているのか、なにを思っているのかまるで知らない。
話をしよう。先生が言っていたように。
……とはいったものの、なにを話せばいいのだろか。こんな状況で好きなものだとか、趣味だとかはとても聞きづらい。なにかないだろうか。なにか……。
……あ。気になることがあった。
「さっきの会話の事なんだけど…………」
「会話?」
これは少し方向性が違うかもしれないけれど、聞いていいことかすらわからないけど。
それでも、聞いてみよう。
「先生が、未来を知っているみたいなことを言っていたけど……本当?」
息をのむ音が聞こえた。
何かを言おうとして、やめた気配がする。
なにを言ったらいいのか悩んでいるのか、少しの間だけ唸り声をだし、答えてくれた。
「先生があなたに直接話していないなら私から言えることは何もないわ」
当然だろう。先生が話していない秘密を勝手にしゃべるわけにはいかない。
「一つ言えるのは、あなたの近くにはそういった能力を持っている人もいるでしょう」
それはつまり、先生がそういった力を持っていてもおかしくないってことだろう。
それにしてもほかに知っている人はいるのだろうか? もしかしたらナギちゃんは知っているかもしれない。
「もう一つ聞いてもいい?」
「えぇ」
「……先生の傷って」
「サオリから直接聞いたわ。ご丁寧に音声付きで」
「っ!」
「……先生の、あんな声は初めて聞いたわ。…………聞きたく、なかった」
カーテン越しにも彼女が苦しそうにしているのがわかる。悔しそうに泣きそうになっているのがわかる。
「あなたは……許せるの?」
初めて、返事が止まった。話す言葉を悩んでいるわけでも、選んでいるわけでもなく。ただ押し黙った。
数分間の沈黙。答えが返ってくることはないだろうと思った時。
「…………許せるわけ、ないじゃない」
そう、小さなつぶやきがかすかに耳に届いた。
「…………そう、だよね」
当然だろう。だって先生は誰よりも私たちのことを考えてくれている。それは当然サオリたちのことも。先ほどの会話からして間違いない。そんな先生をあんな風にして、傷つけて、腕を折って……。
それでも先生はサオリたちのことを恨んでなんかいなかった。
どうしてそんな風に強く在れるのだろうか。
私にサオリを裁く権利なんてないし、怒る資格だってない。先生の手を振り払った私に。
……でも、こんな私にも手を差し伸べてくれる先生を傷つけたことにどうしようもない怒りがこみ上げてくる。
私は、サオリのことを許せないと思ってしまっている。
わかっている。彼女たちと同じように私はサオリたちのことを、アリウスのことを知らない。なにがあったのか、どんな思いを抱いているのか、どんな生活をしてきたのか、何も知らない。
だから、知らなきゃ。知って、知って……知っ、て……いかなきゃ、いけない。
いけないのに、私は――。
『――そうだよ。許しちゃいけないよ』
私の中に、また私の声が響いた。
『いくら先生が許しても、サオリは許しちゃいけないことをしたんだから』
私の声が私の中に侵食してくる。
『サオリのことを知ったところでサオリの罪が消えるわけじゃない』
私の怒りを肯定してくる。
『どんな理由があろうとも、先生を傷つけたんだから。その報いを受けないと』
私を突き動かそうと私の心を揺さぶってくる。
『その役目は彼女に任せちゃいけない。先生が信頼する彼女に』
私に進むべき道を示してくる。
『サオリを裁けるのは、手を汚していいのは――』
「――どうかしたの?」
「――!?」
ヒナに声をかけられ意識が現実に戻される。
「……なんでもないよ」
気が付くとあの声はもう聞こえなくなっていた。
マジか。
エリカ実装マジか。
マジで予想外すぎる。
引きてぇ。
エリカお迎えしてぇ。
でも無理だ。
石がないし、課金だって出来ねぇ。
なにしろ来週はブルアカみゅーじっくに行くからね。
しかもブルアカDJツアーの名古屋と東京が当選したし。
ちょっとお金に余裕がなさすぎる。
まぁでも、実装おめでとうエリカ。