私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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決して消えない光

 目を覚ました私はナギサたちのもとを訪れ現状を把握するために話を聞いた。

 あの放送からトリニティとゲヘナの戦いが少しずつ沈静化していき、いつの間にかトリニティとゲヘナという立場を越え、お互いにお互いの救助活動を進め始めたらしい。

 それは誰かに指示されたとかではなく、自然にいつの間にかそうなっていたとナギサは言った。

 その影響かユスティナ聖徒会の動きが少しずつ悪くなり、攻撃も次第に効くようになったみたいだ。これによって最小限の人数でユスティナ聖徒会と戦うことができ、さらには押し返し始めているらしい。

 どうやらエデン条約機構を取り返すことが出来たんだ。私なんかの言葉で、と信じることが出来なかったが事実そうなっているのだからそうなのだろう。

 救助活動も大幅に進み、このままというところでコハルが部屋に駆け込んできた。

 どうやらヒフミが学園の外へと飛び出していったらしい。

 ヒフミが向かう場所は決まっている。

 アズサの所だ。

 私はコハルとハナコを連れヒフミを追いかけるため学園を飛び出した。

 ナギサたちもドローンを飛ばして探してくたおかげで居場所はすぐに突き止めることが出来た。急いでその場に向かうと――。

「ふ、フハハ! さ、さあ行きなさい我が仲間たちよっ!」

「おー、リーダーからの指示だー。みんな行くよー」

「ん、全員倒す」

「ファウストちゃんの期待に応えましょう♧」

「私たちを敵に回したこと、後悔させてあげる!」

「覆面水着団、出撃です!」

 そこにいたのは紙袋を被り、妙なテンションで覆面を被った五人の生徒を率いてサオリたちに対峙しているヒフミの姿と、ヒフミの後ろでぽかんとしているアズサの姿だった。

 

 

 

 少しずつ晴れかけた曇り空の下で銃撃音、爆発音、倒壊音、格闘音など様々な戦闘音を鳴らし続けている戦場があった。

 その戦闘は数時間も続いており、周りに大きな被害を出し続けている。

「――く!」

 銃弾の中を一人の生徒、アズサが駆け抜ける。建物の影に隠れ、瓦礫を盾にし、トラップを仕掛け、牽制をしながら襲ってくる4人の攻撃をかわし続けたアズサだったが、とうとう限界が来たのか狙撃を喰らってしまう。

「――ぐぁっ!」

 その場に倒れすぐに立ち上がろうとするが、その背中に容赦なく銃弾が浴びせられる。

「いい加減に諦めろ、アズサ。お前では私に勝てない」

 そう言いながら一人の生徒、サオリがアズサへと近づいていく。

「お前も知っているはずだ。この世界の真実を」

 サオリの後ろからアツコが姿を現す。

「だというのになぜだ? なぜそこまで足掻く? それになんの意味がある?」

 ミサキとヒヨリも同じように姿を現した。

「忘れているわけではないだろう。すべては虚しい、ただ虚しいだけだ」

 アリウススクワッドが、全員そろった。

(……先生ならきっと、ヒフミたちの世界を守ってくれる。あの明るい世界を守ってくれる。あたたかい世界を守ってくれる!)

 アズサは先生とヒフミ、ハナコ、コハル、そして関りを持った人たちに思いを馳せ、覚悟を決める。

(だから私がやるんだ。私がこの暗い世界に、ヒフミたちを脅かす私たちの世界に引導を渡すんだ!)

 アズサが倒れている瓦礫のその下、そこにアズサはあらかじめスイッチを隠しておいた。

 そのスイッチは、ヘイローを壊す爆弾の起爆スイッチ。そしてそれと連動するようにいくつもの爆弾を周囲に仕掛けてある。

 そのスイッチを押せばこのあたり一帯を吹き飛ばすことが出来るだろう。

 そうすればサオリたちのヘイローを、壊せる。……アズサ自身と共に。

「たとえどんなに虚しくても、足掻くと決めた!」

 スイッチを押そうと瓦礫の下に手を伸ばした。

 しかし――。

「…………?」

 手を伸ばした先には、何もなかった。

 場所を間違えた――訳がない。

 置いておいたスイッチがズレたわけもない。

 ここにあるはずなんだと、もう一度手を伸ばし探る。

 けれど見つからなかった。

「これか?」

「っ!?」

 サオリが取り出したものに驚愕する。

「お前の考えなど手に取るようにわかる」

 それはアズサが隠しておいたはずの起爆スイッチだった。

「なん、で……」

「お前では私に敵わない。そのことはおまえ自身もよく知っているだろう。ならどうやって私たちを倒す?」

「それは……」

「自爆だ。私たちを誘導し、自分もろともヘイローを壊す爆弾で自爆する。これ以外にお前が私たちに勝てる手などないからな」

 自身の作戦が見破られていた事実に視界が暗くなる。これ以上打つ手なんてなかった。

「――っ! それ、でもっ!」

 けれどアズサは諦めない。大切な人たちのために。

「無駄だアズサ」

 抵抗しようと銃に手を伸ばすが、アズサの銃はサオリに蹴飛ばされてしまう。

「もう一度その身に教えてやろう。この世界の真実を」

 サオリが銃を構えた。無機質な銃口がアズサを捕らえる。

 アズサは這いずりながらも飛ばされた銃を手に取ろうと進む。

 どれ程惨めであろうとも、みっともなくとも。

 そんな姿をサオリはどうしてそこまでと疑問が浮かんだ。

(いや、その答えを知ったところで意味なんてない。すべては虚しいのだから)

 サオリが引き金を引こうとした――その時だった。

「ペロロ様! おねがいします!!」

 サオリたちとアズサの間に円盤状の妙なものが投げ込まれた。手榴弾の類かと思い身を守ろうとサオリは攻撃を中断するが、次の瞬間起きた現象にサオリたちは頭が真っ白になった。

 その円盤は陽気な音楽を奏でながら巨大な白い塊を投映した。

「………………は?」

 投映した謎の白い塊は数秒もした後に消え去った。

「……今のは、いったい?」

「……さぁ?」

「どこかで、見たことがある気がするんですが……どこででしょう?」

(スッ、ススス、スゥー)

「ど、どうしましたか姫ちゃん?」

(スッ)

 アツコがアズサがいたほうを指差し、目を向ければ誰かがアズサを抱きしめていた。

「!? 誰だ!」

 声に反応しその誰かが振り返る。

 ローツインテールの黄色い髪、トリニティの制服、奇妙な白いバックを背負った彼女は守るようにアズサの前に立ちサオリたちに向き合う。

「初めまして、あなたがサオリさんですね。私は阿慈谷ヒフミ、アズサちゃんの友達です」

 ヒフミはまっすぐサオリを見つめる。

「……アズサの友達だと? お前が一体アズサの何を知っている?」

「アズサちゃんは可愛いものが好きです」

「なに?」

「ほかには優しいところがあったり、真面目なところだってあります。目的に向かって一生懸命頑張れることだって知っています。甘いものだって好きです。ほかにも掃除が得意なところだとか。それ以外にもいっぱいあります!」

 臆することなくヒフミはアズサのことを話す。今まで見てきたアズサのことを、知ってきたアズサのことを。

「ですけど、知らないことだってあります。アズサちゃんがこれまでどんな生活をしてきたのか。ほかにもいっぱい知らないことがあります」

「そうだ、アズサはお前たちのような――」

「ですがそんなことは関係ありません! それはこれから知っていけばいいだけなんですから!」

 その言葉にサオリは苛立ちを覚える。この苛立ちは少し前にも感じたもの。それは放送でシャーレの先生が言っていた言葉に感じたものだった。

 綺麗事ばかり並べて、耳障りのいいことばかり言って、子供を騙し、真実を歪める大人の言葉。嘘の言葉。意味のない言葉。

(だというのに……なぜ。なぜ私はこんなにも――っ)

「そしてそれは私たちだってそうです!」

「私、たち?」

「そうです! サオリさん、私はあなたたちのことも知りたいです!」

「っ!?」

「ですから自己紹介をします。私は阿慈谷ヒフミ、トリニティ総合学園の二年生で16歳。誕生日は11月27日!」

 唐突に自己紹介を始めたヒフミにアリウススクワッドたちは面を食らってしまう。

「そして私には好きなものがあります!」

 そう言ってヒフミが取り出したのは一つのぬいぐるみだった。白く、大きく、目は虚ろ、舌をだらしなくたらんと出している鳥のような様相をしていたそれは先ほどサオリたちの目の前に投映されたモノと同じだった。

「……は?」

「これはペロロ様といってモモフレンズに出てくるキャラクターです! どうですか! 可愛いくないですか!? 可愛いですよね!!」

 そのままヒフミはペロロについて熱く語っていく。ペロロのどういったところが可愛いか、どんな魅力があるか。その圧倒的な熱量に思わずサオリたちも言葉を失い、どう反応したらいいのか困惑してしまう。

「――そう! つまりペロロ様はこのキヴォトスにおいて最高に可愛いキャラクターなんです!!」

「…………」

 ペロロについて語っているヒフミは隙だらけだった。サオリたちならその隙をついて難なく制圧することが出来た。けれど出来なかった。出来なかったのだ。慈悲をかけたわけでも、慢心していたわけでもない。ただヒフミの勢いにサオリたちはついていくことが出来ず呆然とするしかなかった。

「……そして私にはもう一つ、好きなものがあります」

「……なんだそれは?」

「それは、ハッピーエンドです!」

「……ハッピーエンド、だと?」

 ハッピーエンドという言葉にサオリは反応する。

「そうです! 友情で苦難を乗り越え、努力がきちんと報われて、辛いことは慰めて、お友達と慰め合ってっ!」

 曇り空が完全に晴れていく。光がヒフミと一つになっていく。

「苦しいことがあっても、誰もが最後は笑顔になれるような――そんなハッピーエンドが好きなんです!」

 ヒフミは叫ぶ。友情と覚悟を抱いて。

「ふざけるな! そんなものはまやかしだ! ただの幻想にすぎない!」

 サオリは吠える。怒りと憎しみをもって。

「そんなことはありません! まやかしなんかじゃありません! ハッピーエンドは私たちが作り上げます! 辛いことも! 悲しいことも! たとえこれからどんなことがあろうとも! だってこの世界はこんなにもきれいなんですから!」

 ヒフミは貫く。己の理想を。

「綺麗だと!? 陽のあたる世界しか知らないくせに勝手なことを言うな! この世界は残酷だ! 貴様のいる世界はただの甘い嘘に過ぎない!」

 サオリは振りかざす。自身の真実を。

「それは違います! 嘘なんかじゃありません! 私たちのいる世界は私たちが描いて決めていくんです!」

 希望に満ちた言葉は曇ることはない。

「この世界は殺意と憎しみに満ちた世界だ! 友情も! 努力も! すべてが等しく虚しいものだ! それがこの世界の真実だ!」

 絶望に満たされた心に光が無理やり差し込もうとしていく。

「違います! 楽しいこと、辛いこと、嬉しいこと、悲しいこと。私たちが感じるこの感情すべてがこの世界なんです! 世界は虚しくなんかありません! 私がいる世界も! あなたがいる世界もです!」

 ヒフミは一本の指を天に掲げる。それはただの指だ。けれど、誰もがその指から目が離せなくなっていく。まるでそれが光り輝いているようで。まるでここがこの世界の中心だと主張しているようで。

 今この場では彼女こそこの世界の真実なのだと、そう思わされてしまう。

「――っ! そんな夢物語など私が終わらせてやる!」

 そんなわけないとサオリはかぶりを振る。

「いいえ! 終わりになんかさせません! まだまだ続いていくんです! 私たちの物語を!」

 ヒフミは止まらない。止まるわけがない。ヒフミは進み続ける。友達と一緒にこれから先の未来へ。

「私たちの――青春の物語(ブルーアーカイブ)を!」

 その言葉にサオリも、ミサキも、ヒヨリも、アツコも、アズサも、誰もが惹かれてしまう。魅入ってしまう。聞き惚れてしまう。

 サオリの心の中に暖かなものが生まれる。それは今までに経験したことがないもので、そしてすぐに別のものに変わってしまう。

 

『許せない』

 

 サオリの心はその感情で満たされ、その思いに振り回される。その思いの源泉になにがあるのか気付かずに。

「貴様一人に何が出来る!」

「一人ではありません!」

「なんだと!?」

 ヒフミは一度深呼吸をし、覚悟を決めて告白する。

「アズサちゃん。騙していてごめんなさい。私はアズサちゃんが思っているようないい子じゃないんです」

「ヒフ、ミ……?」

「今こそ私の正体を明かします! それは――!」

 ヒフミはいつの間にか紙袋を手にしていた。その紙袋には二つの穴があり、『5』と書かれている、それ以外はなんの変哲もない紙袋だった。ヒフミはそれを、頭にかぶった。

「――覆面水着団のリーダー! ファウストです!」

 妙な行動、妙な肩書を名乗ったヒフミに全員が唖然としてしまう。

「どうですかこの姿! 恐ろしいでしょう! 不気味でしょう! 怖いでしょう!」

 芝居がかった声としぐさでヒフミは自身の悪辣さを表現しようとしている。

「かつて私は覆面水着団のリーダーとして仲間とともにブラックマーケットの銀行だって襲っているんです!」

「ふざけているのか阿慈谷ヒフミ! そんな嘘で――!」

「――なーにが嘘だって」

「!?」

 唐突に響いた声。それはヒフミでも、アズサでも、もちろんサオリたちの声でもない。新たな声。

 いつの間に現れたのかヒフミの背後には五人の生徒が立っていた。

「まったく、私たちを知らないなんてこの先この世界で生きていけないよー?」

 一人は『1』と書かれたピンク色の覆面を被り盾とショットガンを片手ずつに持ち。

「ん、しょうがない。それだけ相手が未熟者ってこと」

 一人は『2』と書かれた青色の覆面を被りアサルトライフルを構え。

「これを機会に憶えて帰ってもらいましょう♧」

 一人は『3』と書かれた緑色の覆面を被りマシンガンを抱き。

「ちょっと! なんでそんな喧嘩腰なのよ!」

 一人は『4』と書かれた赤色の覆面を被りアサルトライフルを携え。

「あはは、まあいいんじゃないでしょうか」

 一人は『0』と書かれた肌色の覆面を被り周囲に複数のドローンを展開し。

 その五人はヒフミを立てるように横に並んだ。

「お前たちは一体……?」

 サオリの問いかけに応えるように五人の生徒たちは話し始める。

「目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く……」

「ん、それが私たちのモットー」

「普段はアイドルとして活動していますが、夜になると悪人を倒す副業をしているグループなんです♧」

「別にそれ私たちのモットーじゃないから!? それと変な設定付け足さないで!」

「私たちのリーダーであるファウストさんのご命令で、集合いたしました!」

 

「「「「「私たちは――覆面水着団!」」」」」

 

「来てくださってありがとうございます皆さん!」

「当然でしょ、だってリーダーからのお願いだからね」

「ん、暴れるいい機会」

「この間助けてくれたお礼もしたかったですし」

「仲間のピンチに駆け付けるのは当然でしょ!」

「頼ってくださってとっても嬉しかったです!」

 ヒフミの感謝の言葉に誰もが笑顔で答え、それにヒフミも笑顔で返した。

「アズサちゃん、私はアズサちゃんに守ってもらうだけの存在にはなりたくありません」

 振り返りヒフミはアズサと向き合う。

「私はアズサちゃんと、助け、助けられる。助け合う友達でありたいです!」

 紙袋に空いた穴からヒフミの力強い瞳がのぞき、その瞳にアズサは釘付けになる。

「見ていてくださいアズサちゃん! アズサちゃんが私を守ろうとしてくれたように、今度は私がアズサちゃんを守ります!」




光の化身であるヒフミ
闇の帝王であるファウスト

もしかしてキヴォトスで最も敵に回していけないのはヒナやホシノなんかじゃなくヒフミさんなのでは?
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