アリウススクワッドと覆面水着団の決着は意外とすぐについた。
連戦で物資も体力も削れていたアリウススクワッドと準備万端な覆面水着団でありキヴォトスでトップクラスの戦闘力を誇るアビドスメンバー。結果は火を見るより明らかだった。
「――くそっ!」
「ふざけた名前と格好のくせにっ」
「ま、負けてしまいました」
「……」
ボロボロになったアリウススクワッドのメンバーの前にホシノが立つ。
「うへー。君たちが万全の状態ならわからなかったかなー」
なんて言いながら無傷のホシノがのほほんと言い放つ。けれどその瞳はしっかりとアリウススクワッドを捉えていた。
「というかいつまでこの覆面かぶってるつもりよ!」
「素性を隠すのにはうってつけですけれど……私もさすがにこのままでは」
「二人とも恥ずかしがり屋さんですね♧」
「ん、私はべつにこのままでいい」
「……あはは」
ヒフミも我に返ったのか恥ずかしそうに紙袋を取った。
「――ヒフミ!」
そんなヒフミに向かってアズサが一目散に駆け寄る。
「うわっぷ! アズサちゃん!?」
勢いそのままヒフミを抱きしめるアズサ。
「そうだ! 手当てしないと! アズサちゃん怪我して――あれ? もう手当されて、ある?」
「はい❤ しっかりと体の隅々までちゃーんとしてありますよ❤」
「ちょっと! 変な言い方しないでよ!」
「ハナコちゃん!? それにコハルちゃんも!?」
「私もいるよ」
「先生まで!?」
私たちの存在に気が付いたヒフミは驚き、安心し、そして訝しむように顔を歪めた。
「と、ということは先ほどまでの光景を……っ!」
「「…………」」
「あ、ああぁぁぁぁぁっ!」
顔を真っ赤に染めてヒフミがその場にしゃがみ込んでしまう。
「だ、大丈夫よヒフミ! ここで見たことは誰にも言わないから!」
「えぇ。ヒフミちゃんが水着姿で犯罪行為をしたことがあるなんて言いませんよ」
「別に水着姿ではありませんでしたけど!?」
「そうなのですか? それではこれをきっかけに一緒に水着姿で――」
「ちょっと! なにを言おうとしてるわけ! エッチなのは駄目! 死刑!」
「あらあら❤」
「うぅ、先生……。私もう生きていけません……」
どうしよう。二人に見られただけでこのダメージになるとは。
「あのね、ヒフミちゃん。ちょっと言いづらいんだけど……」
「? な、なんでしょうか?」
「そのーね、ヒフミちゃんを探すのにナギサちゃんにも協力してもらってて。ナギサちゃんがドローンでヒフミちゃんの居場所を探し出してくれたから私たちもここまで来れたわけなんだよね」
「…………?」
地面に落ちてしまっている物を持ち上げる。それは私たちを案内してくれたナギサのドローンだ。
『…………』
「……さっきの全部、ナギサちゃんも聞いてたの」
「………………!?」
『ひ、ヒフミさんが……犯罪組織の、リーダー……』
「な!? ナギサ様! これは違うんです! 私はべつに悪いことをしているわけでは――!」
「でも実際ブラックマーケットの銀行を襲った実績はあるからねー」
「ちょ!? ホシノさん!?」
「ん、ヒフミの手際の良さはすごかった。初めてとは思えないくらい」
「ファウストちゃんの知識があったからこそマーケットガードから難なく逃げることも出来ました♧」
「それにカイザーPMCの兵隊も砲弾で吹っ飛ばしちゃったし!」
「私たちがこうしていられるのも全部ヒフミさんのおかげといっても過言ではありません」
「過言ですよ!?」
こんな風に仲睦まじくしてる姿を見てナギサは大丈夫なんだろうか?
『…………あばばばば』
大丈夫じゃなかった。せっかく「お友達ごっこ」イベントが発生しなかったのに。もしかしてこれ本編よりもひどい目に遭ってない?
「誤解なんです! 銀行強盗だって理由があって! そもそも私はなし崩し的にリーダーになっちゃっただけで!」
『……ブクブク』
白目むいちゃってない? それはアルのお家芸だよ? なんて言ってる場合じゃないか。
「落ち着いてナギサちゃん。ヒフミちゃんは悪事に手を染めたわけじゃないから」
『…………本当ですか先生?』
「うん、私もその場にいたからね」
『……その場に…………もしかして先生もその犯罪組織の一員……?』
「!? ちょっと待って! 本当に落ち着いて! 経緯とかは後でちゃんと話すから!」
あーもう収拾がつかなくなってきた!
「はい! この話はおしまい! いいね!」
強制的に話を終わらせ、スクワッドの方を、サオリと顔を合わせた。
なんて声をかければいいのか、悩んでいるとアズサが口を開く。
「サオリ、もう終わりにしよう」
「アズサ……」
「これ以上戦ってもサオリたちが傷つくだけだ」
「それは出来ない。私は任務をやり遂げにといけない」
「だがこれ以上抵抗する術なんて――」
「――あるさ。まだな」
サオリが取り出したのはなにかのスイッチ。
「それは!? ヘイローを壊す爆弾の起爆スイッチ!」
『「!?」』
その存在を知るハナコとナギサに緊張が走る。ほかの皆もその名前からどういったものか理解し焦り始める。
「まずい! そのスイッチを押されたら――っ! みんなが! 先生が!」
「やめなさいサオリさん! それを使えばあなたたちだって――!」
「そんなこと承知の上だ! ここで先生ともども貴様らを巻き込めばまだ――!」
サオリがスイッチに手をかける。サオリの指先が少し動くだけでこの場所の未来が凄惨なものに変わるのだとみんなが理解している。
けれど、そんなことには絶対ならない。
「君にそのボタンは押せないよサオリちゃん」
サオリに歩み寄りながら私はそう言いきる。
「何故そう言い切れる!」
「ここにアツコちゃんがいるから」
「――っ!?」
「アツコちゃんがいるかぎりサオリちゃんにそのスイッチは押せないよ」
「…………チッ」
スイッチを持っていた手が力なくたれ、サオリの手からスイッチが地面に落ちる。
「サオリちゃん、もうやめよう。あとのことは私がどうにかするから」
「どうにか……? どうにかだと……!?」
怒りに顔を歪めたサオリが私の服を勢いよく掴みかかってきた。
「――先生!」
心配そうに寄ってこようとしてくれている生徒たちに向け右手を挙げて大丈夫だと安心させる。
「貴様になにができる! 私たちの何を知っている!」
激高したサオリは感情のまま言葉をつむいでくれた。
「外から来たくせになにをわかったようなことを――っ!」
心の内を話してくれた。
「任務を失敗した私たちにはもう、未来なんて……ないんだ」
服をつかんでいる手から力が抜けていき、離される。ふらふらとした足取りで後ろに下がっていき、距離ができてしまう。
「そんなことはないよ。子供たちの未来は無限に広がっているんだ」
「なぜ私に歩み寄ろうとする。忘れたのか? その傷をつけたのは私なんだぞ!」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
恨みがましい目で私をにらんでくるサオリ。
「腕を折った! 拷問もした! 貴様の体を散々痛めつけた!! 恨んでいるだろう! 怒っているだろう! 憎んでいるだろう! なのになぜ私に手を差し伸べることが出来る!!」
「――それが『先生』だから」
「――な!?」
本編でも『先生』はサオリに撃たれても許していた。なら今『先生』の役目を負っている私がサオリを許さないなんてことはしてはいけない。
「生徒のちょっとしたやんちゃくらい『先生』は気にしないよ」
それに私は知っている。サオリたちの過去を。境遇を。なにがあったのかを。どんな風に育ってきたのかを。少しだけだけど、私は知っている。
そしてこのエデン条約の後、罪を受け入れ、世界を知り、成長しようとするサオリたちを。
その機会を奪ってはいけない。なにがあろうと、絶対に。
「サオリちゃん。君はなにがしたい?」
「なにが、したい……?」
「うん。食べてみたいものとかはある? 行ってみたい場所は? やってみたいことは?」
「私に、したいことなんて…………」
「――ご歓談中失礼する」
木が軋む音が聞こえた。
「っ!?」
「なんで、ここに……っ!」
「……」
「ひ、姫ちゃん……っ」
アリウススクワッドの、その向こうから一人の人影が姿を現した。いや、それを人影と言っていいものか。黒いタキシードに身を包んでいるがその頭は双頭。その上それは人の頭ではなく、木でできたただの塊。しかも片方の頭には一つ目を、もう片方の頭には口を模した模様が描かれていている。
そんな存在がぎこちなく、気味の悪い音をたてながらゆっくりと近づいてきている。
「なに、あれ……?」
「コハルちゃん、私の後ろに」
「あ、アズサちゃんっ」
「…………っ」
補習授業部のみんながおびえている。
「なんなのよアイツっ」
「まるで木偶人形のような……」
「二人とも、落ち着いて」
「ほ、ホシノ先輩……」
「…………黒服と、同じ……っ」
対策委員会のみんながいつでも動けるよう警戒している。
「――みんな、下がってて」
生徒たちを守るために彼と向き合う。。
『先生、まさかアレが……』
ナギサが語りかけてくる。けれど今の私に言葉を返す余裕はなかった。
「お初にお目にかかる、先生。黒服の言う通りなら自己紹介など不要だろうがそれでも名乗らせてもらおう」
私の目の前で立ち止まった彼はうやうやしくお辞儀をする。
「――ゲマトリアの一員、マエストロ。お会いできて光栄だ」
さて、と。
ヒエロニムス戦、どうしよっかな。