私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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顕現

「まずはそなたの活躍に敬意を表しよう。ベアトリーチェの策謀に打ち勝ち、こうして言葉を交わせるとは思ってもいなかった」

 耳障りな声だった。マエストロから発せられる言葉は声とは呼べない音なのになぜか聞き取れてしまう。

「……気にくわないね。この結末は子供たちが頑張った結果だよ。勝ち負けだなんてくだらないものに落とし込めないでほしい」

「気に障ったのなら謝罪しよう。だが私は今この瞬間、そなたと相まみえることが出来た奇跡を歓迎している」

 マエストロが本心から言っているのがわかるほど彼の言葉が浮ついて聞こえる。

「それで、要件はなに? ただ祝福しに来たわけじゃないでしょ」

「嗚呼、当然だとも」

 ギィと木を軋ませる音を響かせながら芝居がかった動きをし、マエストロは虚空に手を掲げた。

「そなたが守護してきた礼儀と信念、身に付けてきた知性と品格、そして培ってきた経験と知恵。そなたならば――私の崇高を理解してくれるに違いないだろう!」

 マエストロが声を上げた瞬間、世界は支配された。

 大地は揺れ、空間は歪み、空が狂っていく。

 その場で立っていることすら難しく、頭の中に何か鐘のような音が響き渡ってきた。

 すべての異変の中心、マエストロが手を掲げた虚空、そこから世界を裂くように光が溢れ出て、霞のようなナニかが集まり形作られていく。

『先生!? これは一体――っ!?』

 形作られたのは巨人だった。聖職者のような白い服装で身を包み、白いフードから覗くのは真っ暗な虚無。背後には豪華な装飾が施された黄金の輪が浮遊していて、その形はまるで光が彼の者を祝福するかのようだった。

 聖者を真似ているのか四本あるうちの二つの手は祈るように合わせ、残った左右の手はそれぞれ金色の杖を携えている。

「ひぃっ! は、ハナコっ」

「落ち着いてくださいコハルちゃん!」

 コハルは恐怖に震えハナコの背中にギュッと抱き着く。ハナコも冷静さを保とうとしているがコハルの恐怖が移ったのか体の震えが止まらない。

「……だめだ。これは、だめだ」

 アズサがその場から後ずさろうとする。けれど虚無に見つめられ足を動かすことが出来ない。

「だ、大丈夫……です、アズサちゃん」

 アズサを励まそうとするヒフミ。けれどその声は怯えていて、誰かの心に響く力は残っていなかった。

「嘘でしょ!? なにあれ!?」

「アビドス砂漠に現れた存在とは系統は違いますが……これは」

「ちょっと、大きすぎますね」

「アレが何だろうが関係ない。戦って勝てばいいだけ」

「……これはおじさんも、本気を出さないといけないかもね」

 アビドスのみんなはビナーを見ているからか補習授業部ほど怯えていなかったが、それでもヒエロニムスに最大限の警戒を向けている。

 恐怖に怯え震える生徒たち、守るべき愛しい生徒たち、そんな彼女たちの状態に気が付かないほど私は目の前の光景に動揺していた。

「……うそ、でしょ……? 白い、外套……?」

 思い起こされるのはゲームでの総力戦。最高難易度のinsane。何度も挑戦してもついぞ勝てなかったボス。

 ゲマトリアが作り上げた人口天使『ヒエロニムス』が降誕した。

「未完成の、はずじゃ……?」

 ストーリー上では完成されていなかったはずのヒエロニムスがこうして完全体の姿で君臨していることに驚きを隠せない。なぜ? どうして? なにが作用して? どんな因果で?

 頭の中で疑問が暴れ回り、不安を掻き立てる。恐怖が騒ぎ始める。こんな存在に勝てるのかと。

「その通りだとも。アレはもともと未完成のはずだった。完成させるにはまだ少し時間が足りなかったはずなのだ」

「どういう事……?」

「申し訳ないがその疑問の確たる答えを私は持ち合わせていない」

 マエストロも想定外のことだという事実にますます混乱する。

「だが不確定な推察であれば披露させていただこう。決して辿り着くことの叶わない神秘と戻ることの叶わない不可逆な恐怖。崇高とはこの二つが共にありながらも決して両立することはないもの。たとえるならば空に投げられたコインの裏表のようなものだ。我々はそれを理解しようとし、失敗した。神秘には手が届かず、恐怖は不完全なミメシスという形でしか近づくことが出来なかった」

 嬉々として自身の考えを披露するマエストロ。

「ならばと我々は別の方法を試すことにした。そこで目を付けたのがトリニティの地下に封印された太古の教義だ。崇高とは違うものの、そこに秘められたものは神秘と恐怖に近しい部分があったからだ。ゆえに教義を実現させ証明しようとしていた。……証明の途中だったのだ。だというのに教義は受肉し、意思は天と地によって結実した。我々の手を離れて」

 崇高がどうとか、神秘が恐怖がだとか、そんなものに興味はなかった。けれどヒエロニムスがこうして完成されている理由は興味がある。

「なぜ? その疑問の回答は難儀なものだった。いくつもの答えを用意してもそのどれにも当てはまらなかった。不可解だった。理解の及ばぬ出来事に振り回されていた。そんな時のことだ。黒服からそなたのことを聞いたのは」

 は? どうしてそこで私が関係する? 黒服だって私が未来を知っている事ぐらいしか知りえないはずだ。なのになんで?

「そなたは知っていたのだろう。完成された姿を」

「!?」

「教義はすでに証明されていたのだ。他ならぬ先生、そなたの手によって」

 それはつまり私がそれを知っていたからこそヒエロニムスは本編より早く完成されてしまった、私が完成させてしまったと? 

「と語ったはよいものの、最初に言ったようにこれは私の稚拙な推論だ。ヒエロニムスが完成したのは先生のおかげだというつもりはない。己の手で完成に至らなかったのは口惜しいが、不完全なものを披露するよりはマシだと考えることとしよう」

 知るか。

 ふざけるな。

 そもそも披露しに来るな。

 そんな思いを抱え、抑え込み、ヒエロニムスと対峙する。

 ビナーの時とは違う恐怖と圧倒的な存在感。本能ではなく理性が初めに警鐘を鳴らす。

 怪獣ではなく、怪物でもなく、人智の及ばない化物。

 人の手に余るその化物に対抗する手段を私は持っているんだ。

 ならここで足をすくませている場合じゃない。

 恐怖に怯え、不安に体を支配されている場合じゃないんだと、私は私を奮い立たせる。

 いつの間にか淡く光りはじめていたソレを、大人のカードを手に取り掲げる。

「おぉ! それが黒服の言っていた大人のカードか!」

 体が心地よく温まっていく。心が軽くなっていく。

「さあ先生! 見せてくれ! そなたの芸術を!」

 相手はヒエロニムス。しかも本編とは違い完成され、さらにはinsane。最高難易度ときたものだ。

 挑戦したことはある。何度かそれなりの所まで行ったことはある。けれど最終的にクリアすることは出来なかった。勝てなかった。諦めた。

 そんな相手が今目の前にいる。

 なら、ここでリベンジさせてもらおう。子供たちの未来を守るために。『先生』としての責務を果たすために。

 だから――。

「お願いみんな、力を貸して!」

「お任せください主殿!」

 目の前に光が現れた。あたたかく、やさしい光。そんな光の中から一人の生徒が現れる。狐の耳がぴょこぴょこと動き、ノースリーブのセーラー服で身を包み、右足にはクナイを携え、フカフカな尻尾を左右に揺らしている彼女の名前を私は思わず呼んだ。

「イズナちゃん」

「はい! 主殿の忠実な忍者であるイズナ、呼びかけに応じてただいま参上しました!」

 私の呼びかけに答えるようにイズナはうれしそうにニンニンと微笑んだ。

「それにほかの頼れる方々も一緒です!」

 光の中から新たに4人の生徒が姿を現した。

「おうおう! コイツはなかなかの獲物じゃねぇか! 面白れぇ!」

「いやいや面白くなんてないですよ! なんですかあれ! 普通に考えて戦っていい相手じゃないですよね!?」 

「大丈夫だよココナちゃん。ネル先輩はすっごく強いから」

「別にそれ安心できる要素ありませんからね! 私とかただの看板娘なんですから!」

 メイド服を着崩したオレンジ色の髪をした生徒、幼い体躯でありながら背伸びしたかのような大人っぽい服を着ている生徒、頭にゴーグルを身に着け迫撃砲を携えた生徒、可愛らしい和服メイド衣装を着こなし桜の模様が描かれたショットガンを構える生徒。

「ネルちゃん、ココナちゃん、ヒビキちゃん、シズコちゃん」

 和気あいあいとした雰囲気でありながらも彼女たちは自身の武器を手にし、いつでも動けるようヒエロニムスを見据えている。

「――大丈夫だ。ここには私たちと、先生がいる」

 その言葉と共に光の中から姿を現したのは黒いキャップを被り、長い黒髪をたなびかせ、白いコートを羽織ったすらりとしながらも引き締まった体を持った生徒だった。彼女はみんなを先導するように前に立ち、臆することなくヒエロニムスとにらみ合う。

 そしてその生徒と肩を並べるように笑みを浮かべたネルが前に出た。

「先走んなよ――サオリ」

「フッ――当然だ、ネル」

 軽口をたたきながら笑い合う二人。その間には確かな信頼関係があり、長い時をかけて絆を築き上げてきたことがわかる。そのことがどうしようもなく私の心を温めてくれる。

 どうやって二人が仲良くなったのか興味があるし、今すぐにでもみんなの話を聞きたい気持ちもある。けれどそれは後の楽しみに取っておこう。

「それじゃあみんな、準備はいい?」

「当然だろ?」

「無論だ」

「バッチリです!」

「教官としての実力見せてあげます!」

「装填完了、いつでもいいよ」

「あーもうっ! やってやりますよ! 百夜堂看板娘の力甘く見ないで下さい!」

 戦闘態勢に入った生徒たち。それに応えるかのようにヒエロニムスの周囲に現れ始めるユスティナ聖徒会のミメシス。

「作戦開始だ。先生、指示を頼む」

 今の私にはシッテムの箱がない。だからこれは純粋な私の指揮能力にかかっている戦いになる。

 怖い。うまく出来るのか自信がない。

 それでも私の思いに答えてくれた生徒たちの信頼を裏切りたくない。

 だから――戦う。

「目標ヒエロニムス! 勝つよみんな!」




マエストロ君さ、もうちょっとわかりやすくしゃべってくんないかな?
君の言葉遣いとかマジで扱いづらいんだけど?
もう二度と出てこないでほしい。


んでどうすんだよヒエロニムス戦。
ツボとかの回復描写どうやって表現すんだよ。
ココナちゃんがツボにハンコ押したら緑の光がぷわーってヒエロニムスに向かっていくの?
ギャグかよ。
ギャグですらねえよ。
どうすんだよマジで。
なんで完成させてんだよ。
先生が苦しむ姿見たかったからだよ!
なんで先にこっちが苦しむ羽目になってんだよ!
因果応報だよクソが!
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