私に先生は荷が重すぎます!   作:朱汰清家

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VSヒエロニムス

「周辺のミメシスは私とシズコ先輩に任せて」

「私もですか!? いやまあアレを相手するよりはマシですけど!」

「わかった! そっちはお願いね!」

「任せて先生!」

「皆さんの邪魔はさせません!」

 周囲に現れているミメシスをヒビキとシズコに任せヒエロニムスと対峙すると、ヒエロニムスの左右前方に二つの壺が現れる。ヒエロニムスから見て右側には紫の光を閉じ込めている壺、左側には緑色の光を閉じ込めている壺。

 ヒエロニムスの足元からはどす黒いオーラを発しており見るだけで身の毛がよだち、その圧倒的な威圧感から体が震えた。

「攻撃開始!」

 号令と共にネル、サオリ、イズナ、ココナ、四人は縦横無尽に駆け回りながらヒエロニムスに向かって攻撃を開始する。

 響き渡る無数の銃撃音、あたりに漂う硝煙の臭い。戦闘を開始して数秒もたたないうちにここは戦場へと様変わりした。

 そんな銃弾を無数に受けたヒエロニムス。けれどその体には傷一つついていなかった。

「? あぁん?」

「なんで全然効いていないんですか!?」

 まるで何事もなかったかのようにそこ場に佇むヒエロニムス。その事実に驚愕、困惑する生徒たち。サオリが改めて発砲するがそれでも攻撃が効いている気配がない。イズナが銃弾がダメならクナイならとヒエロニムスに向かって投げつける。まっすぐと飛んでいったクナイはそのままヒエロニムスに当たる――直前に勢いが減速したのを目で捉えることが出来た。

「どういう事でしょうか!?」

「見えない何かが我々の攻撃を阻んでいるようだ」

 私はヒエロニムスの左右前方に現れた二つの壺を見る。

 ゲーム通りなら紫の壺は壊すとヒエロニムスの防御力を下げて生徒たちの攻撃力を上げる、そんな効果だったはず。そして緑の壺はHPを最大まで回復させるとヒエロニムスのダメージ量を一定時間増やす効果だった。

 ここで問題なのはHPを回復させるという事。ゲームではなんの疑問もなくやっていた行為だけど、ここはゲームじゃない。傷ついた体力を一瞬でなかったことにできるわけがない。

「ココナちゃんってみんなの傷を治すこととが出来る?」

「こんな時に応急手当なんてできませんよ!」

 一応確認だけしたけれど、これでは緑の壺に手を出すことが出来ない。

 だから出来るのは紫の壺を壊すこと。だけど、確か壊すことによってデメリットともあったはず。それによって生徒たちにどんな影響が出るのかまるで分らない。

 壊すべきか、それともこのまま続けるべきか、そう悩んでいるとヒエロニムスが初めて行動を起こした。ヒエロニムスが左手の杖を持ち上げた瞬間、どす黒い瘴気が杖を包む。そしてその杖を地面に突いた瞬間、ネルの足元から同じどす黒い瘴気が飛び出してくる。

「!? チィ!」

 とっさにその場から飛びのいたネルは瘴気に当たることはなかったものの、頬をかすめた。それだけでネルの頬に一筋の切り傷が生まれ血が噴き出す。

「ネルちゃん!」

「心配すんな先生! かすり傷だ!」

 気丈にふるまうネル。実際ネルは傷を気にすることなく攻撃を開始しているしそれは他の皆も同様だった。

 とはいえこのままではジリ貧だ。これではヒエロニムスを倒し切る前にこちらがやられてしまう。

 なら、怖気づいている場合じゃない!

「サオリちゃん! 紫の壺を壊して!」

「了解した!」

 サオリは銃口をヒエロニムスから紫の壺へ移し、そのまま発砲する。一発、カンッと音が鳴る。二発、ビシっとひびが入る。三発、ひびが全体に広がる。四発、壺に穴が出来る。そして五発目で紫の壺はバリンと割れ地面に残骸を広げた。その瞬間、中に閉じ込められていた紫の光も霧散する。

「これは!? なんだか力が湧いてきます!」

 イズナが声を上げる。ほかの皆も同じなのか困惑したかのような表情を浮かべ、すぐにヒエロニムスに向けて発砲する。再び飛んでいく無数の銃弾は、そのままヒエロニムスに直撃した。瞬間、ヒエロニムスが身じろぎをする。それはまるで煩わしいと言わんばかりに。

「は! どういう理屈か知らねえがこっちの攻撃が通るようになったなぁ!」

「そのまま攻撃を続けて!」

 ネルが攻撃を仕掛ける。休むことなく、途切れることなく。三人もネルに続くように発砲する。紫の壺を破壊したのは正解だったようで先ほどとは明確に違い攻撃が効いていた。

 とはいえヒエロニムスもやられっぱなしではない。今度は右手の杖を持ち上げると杖が金色に光り輝き始めた。それと同時にイズナが立っている地面も光り輝き始める。

「避けて! イズナちゃん!」

「――ッ!」

 地面から質量をもった光が放出され、イズナを吹き飛ばす。

「イズナちゃん――ッ!!」

 空高く打ち上げられたイズナの体はゆっくりと地面に向かって落ちてきている。

 イズナが地面にたたきつけられた瞬間、ボンッとイズナを包むように煙が広がる。そして煙はすぐに晴れ、そこにはイズナではなくイズナを模したぬいぐるみが倒れていた。

「――緊急回避です!」

「!? イズナちゃん!」

 いつの間にか私の横にイズナが佇んでいて、見たところその体には大した傷はなかった。

「良かった! 無事だったんだね!」

「主殿のおかげです!」

 イズナは駆け出し戦場に戻っていく。

 今のところこっちの被害はほとんどないし、攻撃も通るようになった。けれど、それだけでは勝てないとなぜだかわかる。緑の壺のギミック発動条件をどうにかして見つけ出さないと倒せない、そう確信できる。

 回復という手段じゃない。ならなんだ?  時間経過? それとも逆に攻撃を当てる? この戦場に何かが散らばってそれを集める? 他には……神秘を込めるとか?

 わからない。どうすればいいのか思いつかない。

 そんな風に頭を悩ませていると緑色の光がヒエロニムスに向かって飛んでいった。

「――え?」

 なぜ? どうして? なんで? 頭の中で無数の推測が溢れかえってくる。けれど、それを考えるのは今じゃない。

「――っ! 総攻撃!!」

 唐突の指示にみんなが反応し、総攻撃を仕掛ける。急な指示だというのにみんなが私を信じてくれている。

 四人の銃弾がヒエロニムスに向かって飛んでいき、当たる。

「! へぇ、なるほどなぁ!」

 今までとは違い、確かなダメージがヒエロニムスに入っている。服が裂け、腕には傷が出来、真っ暗な虚無が揺れ動く。

 なぜギミックが発動したのか、理由を考える。けれど突然の事だったからまるで情報がない。なにが原因なのか。やはり時間経過か? それともほかに何か可能性があるのか?

 そう考えているとヒエロニムスがまた左の杖を持ち上げていた。先ほどと同じように杖はどす黒い瘴気をまとうが、先ほどとは違いヒエロニムスの足元にはまるで魔法陣のような紋章が浮かび上がる。そして杖を突くとサオリの足元からどす黒い瘴気がまとわりつくように噴き出してきた。

「ぐっ! これは!?」

 どす黒い瘴気はそのままサオリの中に吸い込まれるように侵入していき、サオリが顔を歪めて膝をつく。

「おいどうしたサオリ! 立てるか!?」

「く……ッ! ガァ……!」

 ネルの呼びかけに反応することなくサオリはうめき声をあげるだけだった。

「サオリさん!」

 サオリの額には大量の汗が浮かび、顔色が真っ青に変わっていく。

 これはおそらく十秒以内にHPを全快させないと解呪できない呪いのギミック。そしてここはゲームじゃない。ならどうやって解呪する? どうする? どうすればいい……っ?

「ココナちゃん! サオリちゃんを連れて離脱!」

「はい!」

 とりあえず一度サオリを引かせないと。このままだと絶対にろくなことにならないっ。

「二人はヒエロニムスの気を引いて!」

「任せな!」

「お任せください!」

 ヒエロニムスの相手を二人に任せサオリの下へ駆け寄る。

「サオリちゃん!」

「ぐ…………っ。はぁ……すま、ない……先生」

「あやまらないで!」

 サオリの様子は見るからに普通ではない。

「だめ、だ……っ! はなれ、てくれ……! このままでは、なにか……っ!」

 時間の猶予は全くない。ゲーム通りならこの後、周囲を巻き込む瘴気の爆発が起きるはず。そして今の私にはシッテムの箱がない。そんな状態で爆発を喰らったらただでは済まないことはわかっている。

 それでも私は衝動的にサオリを抱きしめずにはいられなかった。

「大丈夫。大丈夫だから」

 赤子をあやすようにサオリの背中をポンポンとたたく。

「はぁ……はぁ……」

 サオリの呼吸が落ち着いていくのと並行してサオリの体からどす黒い瘴気が抜けていく。

「…………もう大丈夫だ。ありがとう先生」

「本当? それならよかった」

 サオリとココナが戦場へ戻っていくのを見て安心するのと同時に不思議に思う。

 なぜ治まったのだろう……? どうして呪いが解呪されたのだろう? ……理由はわからないけれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 またあの呪いが発動する前にせめて壺のギミックだけでも。そう思い何かないかと周囲を見渡していると、ヒビキの迫撃砲の爆発がミメシスを吹き飛ばした瞬間、緑の壺が光り輝くのを目にした。

「……まさかそういう事!?」

 私が声をかけるまでもなく総攻撃を仕掛けている四人とその攻撃に苦しそうに悶えているヒエロニムス。その様子からして十分にダメージを与えられているのがわかる。

「もし予想があっているなら……いける!」

 勝ち筋を見出すことが出来た瞬間、ヒエロニムスの雰囲気が変わった。

 先ほどまで感じていた威圧感が強くなり、まるでさらに巨大になったかのようにヒエロニムスの存在感が膨れ上がる。

 これはきっと、後半戦だ。なら、時間をかけすぎるとアレが来る。その前に倒し切らないと。

「様子が変わったが、それはこっちだって同じだ。なぁ先生?」

 ネルが勝気な笑顔を浮かべ私を見る。

「何か気付いたんだろ?」

「……確信はないけどね」

「それで十分さ!」

 それだけ言うとネルはまたヒエロニムスに向かって攻撃を開始する。

「イズナちゃん! シズコちゃんとヒビキちゃんと一緒にミメシスを!」

「! 承知しました!」

 後方支援の二人にイズナが加わったことでミメシスを倒す速度が速くなり、三回目のギミックが発動した。

「やっぱり! このまま押し切るよ!」

 四回目、五回目とギミックが発動し、ヒエロニムスに着実にダメージを与えていく。

 五回ギミックを発動したことで壺は消えてなくなってしまったが、ヒエロニムス撃破まであと一息のところまで追いつめることが出来た。

 このままの勢いで、そう思っていた時再びヒエロニムスが右の杖を持ち上げる。けれど先ほどとは様子が違った。先ほどは杖全体が金色に輝き始めていたが、今は金色の光が杖の周りをまわりながら上部から下部に向けて光り輝いていく。足元に広がる魔法陣も、どこか少し形が違っている。

「確かあれは…………っ!?」

 思い出し思わず上を見ると光がゆっくりと落ちてきているのが見えた。

「光から距離を取って!」

 そう急いで指示したものの、すでに光は地面に落ちてきてしまっていてそのまま光は弾けた。 

 光の衝撃波があたり一面を吹き飛ばし、三人を飲み込む。ネルとサオリはなんとか反応できたのか防御態勢をとって吹き飛ばされたが、ココナは思いっきり吹き飛ばされ瓦礫の山に叩き付けられる。

「ココナちゃん!」

 呼びかけるが反応はなく、心に焦りが生じ始める。

「イズナちゃん! ココナちゃんを――ッ!?」

 イズナにココナの救援を頼もうとしたとき、ヒエロニムスが両杖を手放すのを見て目を見開いてしまう。

 手放された杖は倒れることなく浮遊し始め、右の杖は金色に輝き、左の杖はどす黒い瘴気をまとい始める。そしてヒエロニムスが自由になった両腕を胸の前でクロスさせると世界が暗くなっていく。

「マズい――!?」

 まるで神の裁きを受け入れるかのように両腕を広げるとヒエロニムスの背後から暗闇を照らす光が差し込む。けれどその光は明るいものではなく、むしろすべてを破滅させる光だ。防ぐ手段はなく、避けることもできない。

「先生――!」

 いつの間に召還したのか百夜堂の出店車を引いたシズコが私の前に立ちふさがった。けれどその光は全てを飲み込み、吹き飛ばし、破壊していく。

 目を開けていられない。世界が崩壊するかのような音が耳の中に入り込んでくる。体に伝わる衝撃がこれが終焉の一撃だと伝えてきている。

 訪れる静寂に目を開けると、そこには何もなかった。生徒たちも、ミメシスも。この戦場に立っているのは私と、ヒエロニムスだけだった。

 ヒエロニムスにとっても最後のあがきだったのかその身にはもう圧倒的な威圧感も、身の毛がよだつような恐怖も感じない。

 ヒエロニムスはもう満身創痍で、あと一手こっちの攻撃が通れば勝てる。そう確信できる。

 けれどヒエロニムスの前に立っているのは私以外誰もいない。全員、遥か後方へ吹き飛ばされてしまった。

 虚無が私を見つめてくる。表情は見えないがまるで勝利を誇っているかのように、またはこれから訪れる私の未来に憐憫を抱いているかのように。

 ヒエロニムスが左の杖を持ち上げるとどす黒い瘴気が私の足元からにじみ出てくる。

 一瞬の間、確かに私はヒエロニムスと見つめ合った。

 そして、杖が地面を突いた。

「――主殿!」

 地面からあふれ出した瘴気は空中に飛んだ私に届くことはなかった。正確にはイズナが私を抱え上げ空中へと飛んだことで私はヒエロニムスの攻撃から免れることが出来た。

「ご無事ですか主殿!?」

「ありがとうイズナちゃん!」

 イズナの髪は乱れ、服はボロボロ、腕や足、額からも血を流しヒエロニムス同様満身創痍といった様子だった。

「まだ、終わってません!」

 ヒエロニムスが金色に光り輝いている右の杖を持ち上げている。私たちの真下の地面も光り輝き始め、このまま着地すればヒエロニムスの攻撃をもろに喰らってしまう。

「――させません!」

「――邪魔させてもらいますよ!」

 イズナ同様ボロボロになったココナとシズコがヒエロニムスに向かって発砲する。二人の銃撃を喰らったヒエロニムスはふらついてしまい杖を突き立てることが出来なかった。

「先生を傷つけることは――許さない」

 どこからか飛んできた迫撃砲がヒエロニムスの足元に着弾し、激しい音をたて地面に倒れ伏してしまう。

 立ち上がろうとヒエロニムスが顔を上げるとそこには二人の生徒が立っていた。 

「――残念だったな!」

「――私たちの勝ちだ」

 そんな声と共に二発の銃弾がヒエロニムスの頭部に打ち込まれた。

 瞬間ヒエロニムスの体は霞み、黄金の輪は崩壊し、地面に倒れた杖は塵になって霧散する。

 ヒエロニムスが立っていた場所にはもう、何も残っていなかった。




最初はココナちゃんが満点の回答用紙を壺に叩き付けることでギミックが発動するようにしようかと考えました。
すぐに没にしました。
ほかにもいろいろ考えた結果、周囲に現れるミメシスを一定数倒すことでギミックが発動するようにしました。
この世界のヒエロニムスはクソギミック持ちでクソボスの名を冠することになりました。
最悪だね。
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