「任務完了」
「まっ、あたしらにかかればこんもんだな」
「やりましたね皆さん!」
「……疲れた」
「大丈夫ですかシズコ殿?」
「うぅ、ただ働きはもう勘弁ですよー」
サオリ、ネル、ココナ、ヒビキ、イズナ、シズコ。私の思いに応えてくれた生徒たちが笑っている。ボロボロになっていても、疲れていても、それでも彼女たちは煌びやかな笑顔を浮かべている。その姿を見ていると何故だか目が潤んできてしまう。
ふと、ビナーと戦った時のことを思い出した。ミネ、エイミ、マキ、カリン、カズサ、セリナ。初めて私が大人のカードを使い助けに来てくれた子たちのことを。本編で絡みのなかった生徒たちの仲睦まじい姿のことを。
なぜだろう、どうして思い出したのだろう。
……そっか、同じなんだ。ミネたちとサオリたち、彼女たちが纏う雰囲気とでもいうべきものが。
確証はない。けれど、彼女たちは同じ世界で生きてきた生徒たちなんだと確信できる。
「みんな、お疲れ様。ありがとうね」
生徒たちのもとに駆け寄り、感謝をつたえる。
「――先生」
サオリがいち早く私に気付き向きあう。どこか嬉しそうな、それでいて悲しそうな顔をしたサオリは手を伸ばしかけて、止まった。サオリの視線は私の左腕を見つめている。
「……っ」
サオリは静かに、それでいて激しく顔を歪め、一度目を閉じた。そして睨むように目を開き、私の後方へと視線を向ける。その視線の先を追ってみればそこにはアリウススクワッドのみんなが遠目に見えた。
「落ち着け、サオリ」
「――すまない」
「気にすんな。気持ちはわからんでもないからな」
ネルに肩を叩かれ、大きく息を吐いたサオリはまた私と視線を合わせる。
「久しぶりだな、先生」
「……えっと」
その呼びかけにどう答えたらいいのだろうかと頭を悩ませる。
「難しく考えなくていいって先生。あたしらは生徒であんたは先生。そんだけだ」
「ネルちゃん。……うん、そうだね」
こういう時はネルのこのさっぱりした性格が救いになる。
「久しぶりだねみんな」
「おう!」
「あぁ」
「はい! 主殿!」
「お久しぶりです先生!」
「うん、久しぶり」
「再会ついでに百夜堂の新商品いかがですか?」
ネル、サオリ、イズナ、ココナ、ヒビキ、シズコ、みんなと言葉を交わす。
……不思議だ。話していると本当に懐かしい気持ちが溢れてくる。
他愛ない話ですら心が踊るのを感じた。
「…………何度も思ったことがある。もし、あの時に戻れたなら……と」
「うん」
「けれど、不思議だな。いざこうしてここにいると、なにをしたらいいのかわからなくなった」
困ったようにサオリが笑った。
「……それに、先生にもう一度会えるなんて考えてもいなかったからな」
「それは……」
ミネも、似たようなことを言っていた気がする。
「すまない先生。私たちは、間違えた」
「――え?」
「いつも私たちを助けてくれた先生を、私たちは助けることが出来なかった」
突然の告白に頭がついていかない。
「私たちは最善の選択をし、最悪の結果をもたらした……それを、承知の上で」
「正直、それ以外に方法はなかったからな」
ネルも、悔しそうに吐き捨てる。
「なにが、あったの……?」
「申し訳ありません主殿。話すことは、できません」
「それに、同じことが起きるとは限らないからね」
「言えることは私たちは最後まであきらめなかった、ただそれだけです」
「そしてそれは先生も同じでした」
みんなが口惜しむように話す。その様子からただならぬことが起きたことだけはわかる。それに多分、私は……。
「先生、一つだけお願いがある」
「なにかな?」
「どうか、どうか……」
サオリの体が透け始めていく。いや、サオリだけでなくネル、イズナ、ココナ、シズコ、ヒビキ、みんなの体が消えかかっていた。
「……先生が私たちのことを大切に思っているように、私たちも先生のことを大切に思っている。そのことを……忘れないでくれ」
そう言い残し、サオリたちは消えてしまった。
大切に思っている、か。自分で認めるのは少々気恥ずかしいけど確かに多くの生徒に好かれている自覚はある。けれど彼女たちにそこまで好かれていいのだろうか、なんて思いもある。
なにしろ私は『先生』ではないのだから。
こうしてここまで走り抜けて改めて思う。『先生』はすごいなと。正直に言えば、私はもう逃げ出したいと思い始めてしまっている。辛いことも、苦しいことも、痛いことも、悲しいことも、もうたくさんだと。
でも、ここで私が逃げ出してしまえば生徒たちの明るい未来が消えてしまう。まぶしい笑顔が消えてしまう。それだけは絶対に訪れてはいけない未来だ。『先生』の立場を得てしまった私がしてはいけない選択なんだ。
だから『先生』として彼女たちに恥じないよう生きていこう、そう強く思いなおす。
どれ程の間感慨にふけていたのだろうか。あたりを見渡すと、マエストロはすでにいなくなっていた。それに、アリウススクワッドも。
『……先生』
いつの間にかドローンが私のそばにいて、通信機越しにナギサが私を呼んでいた。
『今のは……いったい?』
何と答えたらいいのだろうか。正直私自身もよくわかっていない力だ。
「そうだね……。大人の力、ってことにしておいてくれる?」
『……わかりました。先生がそう望むなら』
「ありがとう」
きっと私の不可思議な力について聞きたいことがたくさんあるんだろう。でも、それを飲み込んでくれたナギサに感謝を伝え、振り返る。
そこには補習授業部と、アビドスのみんなが揃って私を待っていた。
「さて! マエストロはいなくなったしミメシスも消えた。アリウス分校の子たちもみんな撤退した」
明るく振る舞うが何人かの生徒は少し釈然としない表情を浮かべている。まぁそれも当然だろう。なにしろ急に現れた怪しい大人も、今回の事件の元凶ともいえるアリウスもどこかへ消えてしまったのだから。
「思うことはいろいろあるかもしれないけど、今は丸く収まったことを喜ぼう」
それに、私の体もすでに限界だった。出来れば今すぐにでも休みたい。
「帰ろっか。私たちの居場所に」
近い未来、またベアトリーチェと対峙することになるだろう。
アリウススクワッドの皆、そして奪われたシッテムの箱。
残った問題はその時にすべて解決することになる。
その時が来るまで平和な時間を過ごしたい。
……少しでも、長く。
なんか意味深な伏線残していったけどなんも考えてないです。
一体未来で何が起きたんですか?