「おや、目が覚めましたか」
「……はえ?」
気が付くと私はベッドの上だった。見覚えのない天井かと思ったが、ここ最近何かとお世話になっているトリニティの病室だった。
とりあえず体を起こそうとしてみるが、全身がまるで石像にでもなったかのように硬く、力も入らない。
「そのまま安静にしていてください」
声をかけられ、そっちに視線を向けると一人の生徒が近寄ってきている。
「初めまして先生。私は救護騎士団の団長を務めている蒼森ミネと申します」
「――初めまして。よろしくミネちゃん」
当然のことだけどなんだかやっぱり寂しいと思ってしまう。ビナーと戦った時の彼女と今の彼女は別の存在なんだなと。
「ところでミネちゃん、いろいろと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「もちろんです」
ミネからいろいろと話を聞いているうちに思い出してきた。
あの日、すべてが終わりトリニティ総合学園に帰った私たちはボロボロになったトリニティ自治区の復興のため尽力している子たちに出会い、補習授業部のみんなとアビドスのみんなは復興の手伝いを始めたんだった。
私はというと学園に戻った瞬間セリナが現れ、持ち上げられ、病室のベッドへと運び込まれてしまった。とっくに限界を迎えていた私の体はベッドに横になるとすぐ眠ってしまい、どうやら二週間近くは眠っていたらしい。
「体の傷は多少の傷跡は残るかもしれませんが数日もすれば完治するでしょう」
どうやらこの二週間でトリニティ自治区の復興は完璧に終わり、今はもういつも通りの日常に戻っているらしい。とはいえナギサは未だ後始末に追われているみたいだけど。まぁセイアも目を覚ましナギサをサポートしているらしいから大丈夫だろう。
「腕の骨折も安静にしていればあと一か月ちょっともすれば治るはずです」
「そうなんだ、それじゃあ退院はいつごろになりそう?」
「…………」
退院という言葉を聞いた瞬間ミネが押し黙った。
「ミネちゃん?」
「先生……できればこのまま入院を続けてください」
「……え?」
一体どういうことなのだろう。怪我とは別に何か問題があるのだろうか。
「なにか、病気とか見つかったの?」
「……いいえ」
病気じゃないのならいったいどんな問題なのだろうか。
「これを」
ミネが一枚の紙を差し出してきた。それを受け取ってみると……。
「健康診断の紙?」
「はい」
それは私のことを事細かに記してある健康診断書だった。
「許可を取らずこのようなことをしてしまい申し訳ありません」
「いや、別にいいんだけど……どうして?」
「体重の欄をご覧ください」
「うん…………え?」
そこに書かれてあった数値を見て目を丸くした。
「……35㎏?」
「はい」
「本当に?」
信じられず紙からミネへ視線を移すが、ミネの目は真剣な眼差しで私をまっすぐと見つめ返すだけだった。
もう一度紙に視線を落とすがそこには相変わらず異常に軽い体重が記載されている。
「先生の身長と体型的にあり得ない数値なんです。本来であれば50㎏程度、軽めに見積もってもせいぜい45㎏ぐらいのはずなんです」
そういえばキヴォトスに来てから体重なんて量ったことなかったけれど、それでもこれが本来の体重だとは到底思えない。
「ほかの数値はいたって正常です。なにも異常はありません。体にも異常は見受けられませんでした。どう見ても健康体です」
いままで過ごしてきても、なにか体に変化が起きたとは思ったことはなかった。特に問題なんてなかった。
「だからこそ体重だけが異様なんです。原因もわからず、対策も打てません。先生はなにか心当たりとかはありませんか?」
「…………」
心当たりは、ある。
『大人のカード』
詳しいことはわからないけどアレはなにかを代償に奇跡を起こすものだと私は解釈している。
おそらく本来の私の体重はもっとあったはずだ。けれど『大人のカード』を使うことでどういう訳か私の体重が消えてしまっているのだろう。
なぜ体重なのかという疑問はとりあえず置いておくとして、このことはあまり生徒たちには知られたくない。
「先生……?」
「ミネちゃん、このことは他の子たちには黙っててくれる?」
「……なぜですか?」
「みんなに心配はかけたくないんだ」
私はこれからも『大人のカード』を使うだろう。そしてまた体重が大きく減ることになるはずだ。今度使ったら20㎏台まで落ちる気がする。
そうなったら『大人のカード』が原因だと何人かの生徒は察しがついてしまうだろう。それに今回はアビドスのみんなと補習授業部のみんな、そしてナギサに『大人のカード』を使う瞬間を見られてしまっている。それにアリウススクワッドの皆にも。
私が『大人のカード』を使うたびに生徒たちに心配はかけたくない。
「心当たりがあるのですね先生」
「うん」
「なら今すぐ教えてください! そうすれば対処法が――!」
「気持ちはうれしいんだけどごめんね。これは治すとか治せないとか、たぶんそういった次元の話じゃないんだ」
「……どういう事ですか?」
「正直なところ、私自身もよくわかってない。でも……こればっかりは本当にどうしようもないことだから」
ミネは納得できなさそうに顔を歪めている。
「とりあえずはこれ以上悪化しないように気を付けることは出来るから。それで納得してくれないかな?」
「……わかりました」
しぶしぶといった様子だが一応納得はしてくれた。新しく開催されていたクリスマスイベントでは結構人の話を聞かずに突っ走っちゃう子なのかと思ってたけれど、よかった。
「このことを知っている子は他にもいるの?」
「……セリナは知っています」
「あぁそっか。運んでくれたんだからそりゃ知ってるよね」
となると今後は生徒に触れること自体気を付ける必要があるかもしれない。どんなことからバレるかわからないし。なるべく生徒たちと距離を取った方が……。
やっぱりそれは駄目かな。『先生』は生徒から距離を取るなんてことしないし、しちゃいけない。
とりあえずはなるべく『大人のカード』を使わないようにしよう。
いざという時に使えないと困ってしまうから。
こいついっつも病室で目覚めてるな。