「…………ここまでくればひとまずは安心だろう」
細い道を通り、上に行ったり下に行ったり、複雑な道順を経てたどり着いたのは教会のような広い建物の内部だった。
「ここは……?」
「訓練場、ですね。もともとは遺跡だったらしいのですが、内戦の影響で誰も近寄らなくなってしまい、訓練場として使われていました」
「……内戦」
「二つに分かれていたアリウス自治区の10年前まで起きていた戦争の事。あんまり楽しい話じゃないよ……それよりも」
そういってミサキは先生の後ろに控えるように立つ人物に目を向けた。
「私としてはその人について聞きたいかな」
警戒しているのか鋭い目つきと冷たい声で話しかけるミサキ。それを堂々と受け止めるかのようにミネはミサキと向き合いながら自己紹介を始めた。
「それでは改めて自己紹介を。私は救護騎士団の団長を務めております蒼森ミネと申します」
「……名前ぐらい知ってる。私が聞きたいのはどうしてここにいるのかってこと」
「それについては『先生』も知りたいかな」
「……? ええ、もちろんです」
ミネはどこか不思議そうに先生の方をちらりと見て、そのまま話し始める。
「とはいったものの理由としては単純です。ナギサ様から先生の護衛の任務を承ったからです」
「ナギサちゃんが……?」
「はい」
シッテムの箱がない以上正直に言えばありがたいと思うが、それ以上に先生はミネがこの場にいることに頭を悩ませていた。
なにしろミネがいる前では先生は大人のカードが使えない。使ってしまえば大人のカードの代償を知られてしまい使用を禁止されてしまうだろうから。
とはいえミカが暴走してここに突っ込んできていないからそもそも使わなくて済みそうだとも思うが、なにがあるかわからない。
「……そっか、ありがとうミネちゃん」
「当然のことをしたまでです。それで先生、これは一体どういう状況なのですか?」
先生はミネに現状を話した。アツコがベアトリーチェに生贄として囚われてしまったこと。それを助けるためにサオリが頼ってきてくれた事。
「――なるほど、そういうことでしたか。であれば私も協力いたしましょう」
話を聞き終えたミネは開口一番そう申し出た。悩むそぶりもなく即答したミネにサオリ、ミサキ、ヒヨリは驚き、ミサキは疑うようにミネに尋ねる。
「どうして? アナタに私たちを助ける理由なんてないでしょ?」
「救護を必要としている者がいる。理由などそれだけで十分です」
胸に手を当て、瞼を閉じ、噛みしめるように言葉をつむぐ。
「救護が必要な場に救護を。それが我々救護騎士団の信念ですので」
優しくも力強く、穏やかでありながらも激しいその覚悟がこもったその言葉に三人は気圧されてしまう。
「大丈夫、ミネちゃんは信用できるよ」
「先生が言うなら大丈夫ですね」
「そもそも私たちだけでは戦力が少し心もとなかったからな」
「……変なことはしないでよ」
サオリとヒヨリは快くミネを受け入れたが、ミサキだけはミネを警戒している。とはいえそれも仕方がないのだろう。今まで憎んでいた相手をいきなり信用しろというほうが無理な話だ。むしろ誰よりもトリニティを憎んでいたはずのサオリがこうして受け入れている方が驚きだった。
「それでここはしばらくの間は安全なのですね?」
「? あぁ。おそらくは」
ミネが確認するようにサオリに尋ね、それに少し困惑しながらもサオリは答える。
「そうですか」
そういうとミネはあたりをきょろきょろと見渡したかと思えばサオリの手を引き少し開けた場所へ連れていく。
「――ちょっと! いったい何の真似!?」
ミサキが抗議の声を上げるがミネは聞く耳を持たずポーチから薬と飲み物を取り出しサオリは抵抗する間もなくそれを呑まされた。
「――んくっ、ぷはっ!」
「なに呑ませたの!?」
「解熱剤です」
「解熱剤……? リーダー、ちょっといい?」
ミサキがサオリのおでこに手を当てるとミサキの顔がみるみるうちにしかめっ面に変わっていく
「――すごい熱」
「熱ですか!?」
「へいきだ、このてい、ど……」
言い切る前にサオリはふらつき、倒れてしまいそうになる。それをミネが支え、そのままサオリを横にする。
「サオリさん、今は無理せず休んでください」
「だが……」
立ち上がろうとするサオリをミネが片手で制止する。その手は優しく穏やかではあるものの逆らうことのできない圧があった。
「このままではアツコさんを助け出すどころか全員を危険にさらしてしまいますよ」
ミネのその言葉に何も言い返せずサオリは押し黙ってしまう。それはサオリ自身も気づいてはいるからなのだろうか。
「……わかった、少し休息を取ろう」
「それがよろしいかと」
サオリは立ち上がろうとすることをやめ、全身の力を抜いて横になる。普通であればこんな硬い地面で休むことは至難の業だろうが、サオリたちにとっては日常であり、当たり前の環境だったからか、それともそれほどまでに体が限界を迎えていたからなのかすぐに目を閉じてしまう。
そんなサオリを見てミネはサオリの頭部を優しく持ち上げ、空いた隙間に自身の膝を滑りこませその場に座る。そしてゆっくりとサオリの頭部を自身の足の上に置いた。
「ないよりはマシでしょう」
「ひ、膝枕……!?」
「…………リーダーが起きたらなんていうかな」
苦し気に呻きながら寝息を立てるサオリの頭をサオリが優しくなでる。その姿に聖母のような温かさをおぼえ、先生はどこか妙な感情を抱いてしまう。
「サオリさんの看病は任せてください」
「そ、それじゃあ私は見張りですか?」
「……いや、最初は私がやるよ。ヒヨリと先生は先に休んでいて」
「わ、わかりました」
「ありがとうミサキちゃん」
「別に……」
照れくさそうにミサキはここから少し離れた場所に移動していった。
「ま、待ってくださいミサキさんっ」
それを追いかけるようにヒヨリもここから移動していき、この場所には先生とミネ、そして眠っているサオリだけが残った。
「大丈夫ミネちゃん?」
「問題ありません」
眠っているサオリをおこさないようお互いに小さな声で話をする。
「ごめんね巻き込んじゃって」
「いいえ、私は私の意思でここにいます。先生が謝る必要なんてありません」
「そっか、そうだね」
「それよりも先生」
「ん?」
「無茶はしないでください」
「……うん、わかった。気を付けるね」
「…………」
「そうだ、言い忘れてた。さっきは助けてくれてありがとう」
「間に合ってよかったです」
「それじゃあ私もちょっと休むね」
「えぇ、ゆっくりお休みなさってください」
うーん、ゲヘナのメインストーリーやばすぎ。
あんな引きで一週間待たされるこっちの身にもなってほしい。