サオリに先導されながら先生たちはアリウス自治区を息を潜めながら進んでいく。
「……妙だ」
その道中、サオリがぽつりとつぶやいた。
「どうしたの?」
「……人の気配が全くない」
「そうだね。あれだけ入り口を警戒していたのに中はほとんどもぬけの殻。怪しさしか感じない」
「それに、街の様子もおかしいです。なんだか見たことのないものが増えているような……」
きょろきょろとあたりを見渡すヒヨリたち。先生がみんなの視線を追いあたりを見渡せば、確かによくわからないものがそこら辺に散らばっていた。
銃や戦車、ミサイル、爆弾らしきもの、ドローン、それ以外に名前のわからない武器や兵器らしきものが多数。そのどれもこれもが戦争に使えそうなものばかり。
けれど先生はそんなものよりも別のものを探していた。
それはミメシス。本編で街中を闊歩していたはずのユスティナ聖徒会。ベアトリーチェはミメシスを確保し自由に使えるはず。それなのにアリウス自治区に入ってから一度たりとも見かけていない。
「ここから旧校舎まではどのくらいあるのですか?」
「あと数分もすれば着くはずだ」
「どうするリーダー? この様子なら直接バシリカに向かうのも一つの手かもしれない」
「ですが罠という可能性も……」
当初の予定では旧校舎にある地下回廊からバシリカへと赴くはずだった。けれどこうも人気がなく、ベアトリーチェが何も行動を起こさないことに妙な違和感を覚える。
「……予定は変更しない。このまま旧校舎へと向かうぞ」
アリウス分校の旧校舎に向けて走り出す。人気のない街では先生たちの足音が良く響きわたる。装備が揺れ動く音も、服の衣擦れも、人の息遣いも。
それでもその音に反応する者はいなかった。
やがて旧校舎にたどり着いた先生たちは旧校舎とバシリカをつなぐ地下回廊を探し出し、様子を窺った。
そこは広く、静かで、小さな物音でも反響してしまうほどの静寂だ。けれど、それは向こうも同じはずで、もしこの回廊で待ち伏せをしているのなら何かしらの物音がするはず。それでもなにも物音がしないのであればこの地下回廊で襲われることはないだろう。そう結論づけて地下回廊を進んでいく。
「――先生、お体は大丈夫ですか?」
「心配してくれてありがとうミネちゃん。大丈夫だよ」
「病み上がりなのですから無理はしないでください」
「うん、気をつけるね」
地下回廊は思った以上に長く、体力も回復しきっていない先生は疲れがたまり息切れが少し目立ってきてしまっている。
心配せてしまったことに少し心苦しさを感じながらも、ここが正念場なのだからと先生は気合を入れなおした。
「見えてきたぞ!」
「――!?」
足が重く、体も熱くなり限界が近づいていた時、サオリの声に導かれ先を見れば地下回廊の出口が見えた。
勢いのまま地下回廊を出てすぐさまあたりを警戒し周りを見渡す。
「――ここが、バシリカ?」
ここは古く、崩れ、ステンドグラスもひび割れてしまっているほどに荒れていまっている。手入れなんてされておらず、床には割れたガラスの破片や倒れた柱が放置されていた。だというのにどこからか神聖さを感じてしまう。
広大な空間に充満する冷たい空気に重々しい雰囲気。どこからともなく見られているような感覚。こちらの動きすべてを精査し判断するかのような様はまるで裁判所を彷彿とさせる。
「……ここにも誰もいない?」
電灯、電球、ランタンといった明かりは何一つなく、天井の崩れた部分から差し込む月明かりだけがこのバシリカを照らしている。
「場所を間違えてしまった……とかではありませんよね?」
「間違いないよ。ここが目的地のバシリカ」
「どこかに身を潜めている敵がいるかもしれない。警戒は怠るな」
「先生。私のそばを離れないでください」
全員で固まりながらバシリカの奥、至聖所の方へと進んでいく。一歩進むごとに冷汗が流れ落ちる。一歩進むごとに鼓動が早くなる。一歩進むごとに口から吐き出される息が荒く熱くなっていく。
目的地はすぐ目の前。夜闇に隠された至聖所の最奥。そこにベアトリーチェとアツコが捕らわれている。
道中の戦闘はアリウス自治区に入るときの一戦のみ。ミメシスも、アリウス生徒も、ミカも。誰とも戦っていない。サオリ、ミサキ、ヒヨリは現状万全の状態。それに加えミネがいる。戦力は十分だ。
「――お待ちしておりました先生」
「!?」
至聖所に響いた声に一同が反応し銃を構えた。
やがて薄暗い至聖所の最奥がゆっくりと月明かりで照らされ、彼女の姿があらわになる。
赤い肌、白いドレス、黒い髪、そして頭部を覆うかのようないくつかの白い羽一つ一つにギロリとこちらを見据える赤い瞳たち。
その姿を見て先生は悪寒が走る。ガタガタと体が震えそうになる。激しく息が乱れそうになる。それらすべてを飲み込み、ゆっくりと深く息を吐いて彼女の名前を呼んだ。
「……ベアトリーチェ」
ぐっと握られた両手のひらからつぅと赤い血が流れ落ち、床を汚す。
「始めましょうか先生。私たちの最後の戦いを」
「……ここは?」
目覚めたセイアが目にしたのは見覚えのない部屋だった。いや、部屋といっていいのかすら怪しい場所だった。
四方に壁はなく障子のみで囲われ、その先に見える光景からここは山々に囲まれた場所であることがわかる。その上その山々すら見下せてしまうほどこの場所が高く、ここが普通の場所でないことがわかってしまう。
「……蜃気楼? いや、百鬼夜行自治区か?」
まるで見覚えのない景色に困惑しながらもセイアは自身の身に起きたことについて考える。
「私の意識はベアトリーチェに捕らえられたはず。だというのにこれは……?」
「――ふぅむ、お客様かの?」
「!?」
背後からかけられた声に驚きセイアは振り返った。
「ここに妾以外が足を踏み入れるとは……初めての事じゃのう」
その声の持ち主はセイアと同じくらいの背丈をした少女だった。真っ白な肌にほんのりと桜がかった色をした白髪。頭部に狐の耳を生やし、鋭いながらも優しげな眼を持つ。はだけたでは言い表せないほどに和服を着崩し、二つの尻尾をゆらゆらと揺らしている。薄く細い身体でありながらも圧倒的な存在感を醸し出し、右手で持ったキセルを遊ばせながら彼女はセイアへと近づいてきていた。
「いかにしてこのような白昼夢にまみたのじゃ?」
「貴女は……だれだ? 私を、認識できるのか?」
「ふぅむ?」
不思議そうにセイアの問いを聞いた彼女はじっとセイアを見つめ、そして一度目を伏せた。
「なにやら込み入った事情がありそうじゃのう」
再び彼女が目を開けると、その瞳は爛々と輝いていた。
私事で申し訳ないのですがしばらくの間忙しくなるので更新できないと思います。
その代わりシルバーウィークに更新できなかった分を更新するつもりなので許してください何でもしますから。